モリコメンド 一本釣り  vol. 84

Column

思い出野郎Aチーム 8人組ソウルバンドが放つ音楽のポジティブなパワーで、人生が今より楽しくなるはず

思い出野郎Aチーム 8人組ソウルバンドが放つ音楽のポジティブなパワーで、人生が今より楽しくなるはず

ものすごく悲しいことや悲惨なことがあったわけではないが“なんだか冴えないな”とか“最近パッとしない”みたいなことは日常茶飯事なわけで(みなさんもそうですよね?)、そんなときの対処法はといえば、ベタだけど音楽(とお酒)ということになる。当然“何を聴くか”が問題になるわけだが、個人的に“これを聴けば絶対に気分が良くなる”2大バンドは、クレイジーケンバンドと今回紹介する思い出野郎Aチームだ。両者に共通しているのは、楽曲のなかにソウルミュージックがたっぷり含まれていること、そして、音楽のポジティブなパワーを信じていることだろう。

思い出野郎Aチームは2009年の夏、多摩美術大学のジャズ研究会のメンバーを中心に結成された8人組のソウルバンド。当初はライブの予定もない状態でスタジオに入る日々が続いていたが、2011年のフジロックフェスティバル「ROOKIE A GO-GO」(オーディションで選出される、新人バンド枠)に出演したことをきっかけに徐々に活動が本格化。自主企画イベント「ソウルピクニック」をスタートさせる一方、さまざまなイベント、フェスなどに参加することで知名度を上げ、2015年にmabanua(Chara、藤原さくら、SKY-HIなどの作品を手がけるクリエイター)のプロデュースによる1stアルバム『WEEKEND SOUL BAND』を発表。さらに2017年には星野源、ceroなどを輩出した音楽レーベル・カクバリズムに移籍し、2ndアルバム『夜のすべて』をリリース。ソウル、ファンク、ディスコなどを軸に置いたダンサブルなバンドサウンド、そして、高橋一(トランペット/ボーカル)のペンによる“週末の夜から朝までのストーリー”を映し出す歌詞によって、さらに幅広い層のリスナーを獲得した。なかでも“どんなに散々な日でも、我々にはダンスがある”というメッセージを含んだミディアムナンバー「ダンスに間に合う」は、このバンドの特徴をわかりやすく示すアンセムとして大きな注目を集めた。

思い出野郎Aチームの最大の魅力は、ソウル、ファンク、ジャズ、ディスコなどのルーツミュージックが持っているパワーを知識としてではなく、生々しい肉体性とともに再構築できるところだと思う。リズムのアレンジ、楽器のフレーズ、ボーカルのメロディ、コード進行などを引用するだけでは、“この感じ”は絶対に出せない。イカした音楽が聴こえてきた瞬間の、モヤモヤした感情がどこかに消え、ちょっとずつ気分がよくなる感じ——古き良き音楽が持っていたそんなパワー(英語でいうと“vibe”とか”aura”みたいな)を、このバンドは確かに受け継いでいるのだ。

前作『夜のすべて』のリリース以降、ツアーやイベント、さらにVIDEOTAPEMUSIC、chelmico、G.Rinaといったアーティストのライブサポートとレコーディングへの参加、Negicco、lyrical school、NHKの子供番組「シャキーン!」への楽曲提供、それぞれがDJ 活動など活動の幅を大きく広げてきた彼ら。2018年9月にリリースされた1st EP「楽しく暮らそう」を聴けば、アレンジ、歌詞を含めて、思い出野郎Aチームの音楽世界がさらに深みを増していることを感じてもらえるはずだ。

まず紹介したいのはタイトルトラックの「楽しく暮らそう」。70年代のシカゴ・ソウルと90年代のアシッドジャズを自然につなげたバンドサウンド、エモーショナルなボーカルとともに放たれるのは、「楽しく 暮らそう/時々踊って/絶えない悲しみを/笑い飛ばそう」というライン。SNSの影響なのか何なのかわからないが、他者を糾弾し、蔑み、分断しようとする言動が飛び交う現在の社会のなかで、「楽しく暮らそう」という楽曲がもたらすナチュラルなポジティブ感は、多くのリスナーの心を捉え、揺さぶることになるだろう。

1曲1曲のキャラクターがしっかり際立っているのも本作の魅力。1950年代後半あたりのR&B/ソウルとパンキッシュな勢いが混ざり合った「去った!」、夏の終わりの切ない雰囲気が伝わるグルーヴ・チューン「サマーカセット」、チープシックなリズムマシーンと生のバンドサウンドが心地よく絡み合うメロウ・ミッド・ナンバー「僕らのソウルミュージック」。ルーツミュージックに対する自由な解釈と斬新なサウンドアレンジがバランスよく組み合わさった楽曲からは、このバンドのオリジナリティがしっかりと確立されつつあることが感じられる。

レゲエとディスコとロックンロールが融合した「無許可のパーティー」では、世の中にはびこるヘイト的な言動、そして、クラブが規制される社会に向けた疑問がストレートに語られている。そのときに起きていることをダイレクトに歌うこともまた、ソウルミュージックのマナー。そう、この曲はまさに“What’s going on?”(マーヴィン・ゲイ)そのものである。
生きづらさ、息苦しさみたいなものを見据えながら、そこから少しでも自由になろうとする意志を楽曲に込める。思い出野郎Aチームの音楽があれば、人生は今よりもちょっとだけ楽しくなるはずだ。

文 / 森朋之

その他の思い出野郎Aチームの作品はこちらへ

オフィシャルサイトhttp://oyat.jp

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