Interview

東出昌大&宮沢氷魚が三島由紀夫絶筆の原作『豊饒の海』舞台化に挑み、“役者”としてさらに飛翔する

東出昌大&宮沢氷魚が三島由紀夫絶筆の原作『豊饒の海』舞台化に挑み、“役者”としてさらに飛翔する

三島由紀夫の『豊饒の海』は、第一部「春の雪」、第二部「奔馬」、第三部「暁の寺」、第四部「天人五衰」の全4作からなる長編小説。古典『浜松中納言物語』を下敷きに“夢”と“転生”を描いた壮大な物語で、三島が目指した“究極の小説”の完成形とも言える。この大著をひとつの舞台として創作する試みが、てがみ座主宰の長田育恵を脚本に迎え、中谷美紀・神野三鈴主演の『メアリー・ステュアート』(15)の演出を手がけたマックス・ウェブスターをロンドンから招聘し11月に行われる。
主演の松枝清顕 役には3年ぶり2作目の舞台出演を果たす東出昌大が挑み、彼が転生する飯沼勲 役をつい先だって初舞台を踏んだばかりの宮沢氷魚が演じる。
いったいどんな舞台になるのか興味は尽きず、東出昌大と宮沢氷魚にインタビュー。彼らからどんな言葉が紡ぎ出されるのか注目して欲しい。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望

役者として築き上げたキャリアが壊れてしまうような畏怖を感じる

原作の『豊饒の海』は、三島由紀夫が執筆に約6年もの歳月を費やした、4冊からなる大著です。それをこの秋、舞台化されますが、ご出演が決まったときの感想から聞かせてください。

東出昌大 最初に出演オファーをいただいたときは、もし失敗すれば、役者として築き上げたキャリアが壊れてしまうような怖さを感じました。原作ファンなので、果たして舞台化できるのか、そんな疑問も浮かびましたし、とてつもないスケールになるだろうから、「いったいどんな舞台になるんだろう」と正直戸惑いました。ただ、演出のマックス・ウェブスターとワークショップをしたときに、彼は「僕はみんなよりも有利な部分がある。というのも、“ミシマ”を神格化して畏れおののいている人が多いけれど、僕はその“ミシマ”を知らずに原作を読んだから、必ず舞台化できると思っているし、作品の人間ドラマを描くことだけに力を注ぎたい」と力強くおっしゃったので、心配は吹き飛びました。映像化にしろ舞台化にしろ、原作に勝つことはなかなかできないと思います。なぜなら、原作のファンは想像力で完成された世界をしっかり作っていると思うんです。ただ、血の通った人間ドラマを描く舞台となれば話は別で、原作では感じられなかった『豊饒の海』になるはずなので、まずは稽古を頑張りたいと思います。

東出昌大

宮沢氷魚 僕も初めてお話をいただいたときは、4冊のうちのどの作品を舞台化するのだろうと思っていたら、すべてを舞台にされると聞いて、ワークショップが始まるまでどんな作品になるのか不安は拭えませんでした。それでもみんなで集まって、長田育恵さんの脚本を読み進めていくうちに、原作に基づいているのに新しい観点があって、原作とは違った良さのある作品に生まれ変わったようにさえ思いました。長田さんが4作の素晴らしいところを汲み取ってひとつの作品にしてくれましたし、新しい試みの一員として参加できることがとても楽しみです。だからこそ、責任感は日々募っていますが、変なプレッシャーを感じずに自分の積み上げてきたことを信じて演じたいです。

宮沢氷魚

東出さんは三島作品がお好きだそうですが、原作の魅力はどこにありますか。

東出 三島はひととおり読みました。ファンです(笑)。『禁色』、『午後の曳航』、『潮騒』、挙げだしたらキリがなくて……小説ではなく、東京大学の全共闘の学生との対話集『美と共同体と東大闘争』も読みました。それはノンフィクションなので、さすがに時代が違いすぎてついていけなかったのが悔しくて(笑)。『金閣寺』も10代の後半に初めて触れて、最初は背伸びをして読んでいたので意味がわからない部分が多かったのですが、数年に一度のペースで改めて読み進めてみると、だんだん意味がわかってくるのが快感で。『豊饒の海』も、僕の年齢ですべてをわかったとは言えないのですが、僕が演じる松枝清顕は今しかできないと思ってもいて。若さと無知ゆえの奔放なところが彼の美しさだと思いますし、全部わかりきることができないからこその魅力があると思います。

宮沢 原作は、読み進めては何回もページを戻るほど難しいですね。ただ、僕は今24歳ですが、開き直ってこれでいいんだと思っています。というのも、東出さんがおっしゃったように、今の僕の人生で理解できるところまででいいと原作が語りかけてくれているみたいで。三島由紀夫はアーカイブされた映像を観ていると、三島由紀夫という人間を誰かが演じているのではないかと錯覚するほど遠い人のように思ってしまうんです。それでも、これから稽古に入ればどんどんその認識も変わって、三島をよりリアルに感じられるだろうし、この作品とどうやって向き合えばいいのかクリアになってくると思います。今はまだ準備段階ですが、深く考えすぎずに、原作を読み返しながら自然体で臨みたいです。

舞台上のすべての人物が全員に少しずつ干渉し合っている物語

先ほども少しお話が出ましたが、東出さんは松枝清顕を、宮沢さんは松枝が転生した勲(いさお)を演じます。どのような人物だと思いますか。

東出 松枝は、物語の出発点となる人物です。そして、長きにわたる友人の本多繁邦からも「松枝は魅力的だった」と描写があるように、カリスマ性があり、三島の美の象徴として屹立しています。しかし、松枝の本当のことはすべてを読んでもわからないんです。そのわからなさを多分に秘めたキャラクターだと思います。何者にも染まらない、何にも影響を受けない、それが本多にとって輝いて映っていた。そんな松枝が本多の手助けで恋愛をすると果たしてどうなるのか……。稽古に入るのが楽しみです。あと、本多やそれ以外の登場人物との関係性も考えると、マックスが「舞台上のすべての人物が全員に少しずつ干渉し合っている物語にしたい」とおっしゃっていたことは、この舞台をつくるにあたって大切になってくるんだろうな、と思います。とにかく、稽古をしながらお互いの解釈をすり合わせて、カンパニーでいい関係を築き上げたいと思います。

宮沢 勲は10代ですが、人生に対してある覚悟を持っていて、大きな決断をするのですが、あの若さでそんな行動を取れるのかと思うとびっくりします。時代の影響もあると思いますが、現代にはなかなかいない人物であり、若い青年から大人になる変化を遂げるアドレッセンスの時期を演じるので、若さゆえに揺らぎながらも凛とした決意を表現したいです。勲の覚悟の強さも刮目すべきですが、とてもピュアだし、彼の芯の強さを大事にしたいと思います。松枝とどのような関係性を築いていくのかは、正直、稽古が始まらないとわからないのですが、当然、松枝は勲の中に生きているわけですから、彼に対してわざとらしくすると気持ち悪いですし、稽古をして自然と生まれてくる感情を大切に、焦らずに勲に向き合っていきたいと思います。

演出のマックス・ウェブスターは、距離感の近い方

マックス・ウェブスターさんとのワークショップはいかがでしたか。

宮沢 直接、脚本を持ってシーンを演じるのではなく、体の動きをチェックしたり、体を動かすエクササイズをしていました。それが前半で、後半は脚本を読んで、それぞれどう思うのかディスカッションしました。

東出 マックスが試したのは、あるテンションを7段階に分けて、ゼロから徐々に上げて演技をすることでした。寝ているのがゼロとして、7段階になると『リア王』の最後のように悲しみに暮れて、体が固まってしまうほどテンションを高める。テンションをそれぞれのレベルに分けて、行き当たりばったりの役の設定でエチュード(即興)をする。ひとつのシークエンスで、それぞれのテンションをそのまま見せるだけではつまらないなと、この作業でみんな理解しました。テンションは段階を経て上げていくものだから、脚本を読み込んで、どこでテンションを上げていくのかタイミングを掴んで“演劇”らしい感情の流れをつくっていく作業だったように思います。

とても理知的な作業をされたんですね。実際にお会いになったマックスさんの印象はいかがですか。

宮沢 僕は、演出家は役者と距離があって、デスクに座って指示をするというイメージがあるのですが、役者と一緒にエクササイズに参加されたり、仲間意識が強い方で嬉しいです。稽古をしていけば、お互いの意見が食い違うことも当然出てくると思いますが、その隙間をうまく詰めていける距離感の近い方なので、相談しやすいし、なんでも思ったことを言い合える懐の広い方です。エクササイズも、本人が楽しんでいらっしゃるから、役者も自然と楽しめる雰囲気が出来上がっているし、とにかく本稽古が待ち遠しくなりました。

東出 僕の初舞台はカズオ・イシグロさん原作の『夜想曲集』(15)で、演出が敬愛してやまない小川絵梨子さんでした。小川さんもニューヨークで演技の勉強をされていた方で、「演技にNOはない。人が生きて動いているから、こうしたほうがいいということはいっさいない」とおっしゃっていたのが印象的で、マックスも同じことをおっしゃっていたんです。根底にあるメソッドは欧米の感覚だと思いますし、宮沢くんも言っていたけれど、とてもオープンで距離の近い方なので、生きている人間をダイレクトに演出してくださる方だと思います。

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