Interview

「食べることが欲望に向き合える身近なこと」映画『食べる女』原作著者・筒井ともみに訊いた作品に込めた想い

「食べることが欲望に向き合える身近なこと」映画『食べる女』原作著者・筒井ともみに訊いた作品に込めた想い

小泉今日子、鈴木京香、沢尻エリカ、前田敦子など、豪華女優の夢の競演作として話題を呼んでいる映画『食べる女』。その原作小説の著者で、映画の企画・プロデュースも手掛けているのが作家の筒井ともみ。
1970年代から脚本家として活動を始め、ドラマ『家族ゲーム』や映画『失楽園』をはじめ、数々のヒット作を世に送り出す一方、作家・エッセイストとしても活躍。『食べる女』『着る女』『うつくしい私のからだ』といった著作を通じて、時代を超越した「女の欲望と幸せ」を見つめ続けてきた彼女が今回の映画に込めた思い、現代に生きる女たちに向けたメッセージを語ってもらった。

取材・文 / 井口啓子 撮影 / 増永彩子

私は食べることから女たちのささやかなレボリューションをやりたかったんです

まず、本作の原作となった小説はどのようなアイデアから生まれたものなのでしょう?

もともとはね、『東京カレンダー』という雑誌からレストランを舞台にした男女のラブアフェアを書いてくれという依頼があったんですよ。でも、私そういうのは嫌いだから嫌ですって断ったの。私がテレビドラマの脚本を書いていた最期の頃は、いわゆるトレンディドラマの時代でしたけど、もともと上等なレストランには興味がないし、そういうのは一本も書いたことがなくて。洒落ているのが嫌ってわけではないけど、本当に美味しいものが好きだし、もっとみんなが食べたことがある実直な料理がモチーフで、タイトルは『食べる女』がいいって。編集部の女性に意見を聞いてもらったら企画が通ったんですね。

筒井ともみ

原作の発売が2004年で、そこから14年を経ての映画化となったわけですが、企画自体はいつ頃から動き始めたのでしょう?

小説を書いてすぐくらいですね。某制作会社と作り始めていたのですが。当時は『セックス・アンド・ザ・シティ』が流行っていて。ああいうわかりやすいものが求められていた。でも人生ってそんなにわかりやすくないじゃない? 女が都会で自由に生きていて、でも最終的にはお金持ちと結婚してハッピーエンドみたいなのって、やっぱり違うじゃないですか。そんなこんなで時間は掛かったけど、ようやくやりたいテイストで実現したという感じですね。

映画化に際して特にこだわられた部分はありますか?

短編を一本の映画にするのって難しくて。どうしようかと思っていたときに子供たちが道路に耳をつけているシーンが思い浮かんで。あれ私も昔やってたんですよ。地面の下に幻の水が流れていて、表層は違ってもすべてはテラ(地球)が抱く水、命とか鼓動のようなもので繋がってる…みたいなイメージがあって、それが小泉さん演じるトン子の家の井戸に繋がっている。だからトン子の住む家はサンクチュアリみたいな不思議な場所で、彼女自身は気付いてないけど、いろんなものを繋いでいく役割になってる。

© 2018「食べる女」倶楽部

古い一軒家で猫と一緒に暮らしながら古本屋を営みつつ、エッセイを書いているトン子は、まさに小泉今日子さんにぴったりです!

トン子は企画の最初の段階から小泉さんでと考えていて、彼女が三十半ばぐらいの『空中庭園』をやった頃から声を掛けてたんだけど、本当にチャーミングな存在感の女優さんですよね。『食べる女』の書評をどこかで書いて下さってたりもして。彼女は歌手の頃からずっと人気者や上手な女優になりたいわけではなく、新しい存在の女になりたいってずっと言っていたから、ぴったりだなあって。

小泉さんはじめ、他の女優さんも役にぴったりの方たちばかりですよね。

(沢尻)エリカちゃんとか広瀬(アリス)さんとか、すごくよかったですよね。役を愛してくれて。うれしかった。これだけの女優さんが集まると普通、現場では何かしらのことがあるらしいけど、今回はごちゃごちゃした人がひとりもいなかったから現場の雰囲気もすっごくよくて。小泉さんがリーダーで年もいちばん上なんだけど、女優女優してないから、そこもよかったんでしょうね。

© 2018「食べる女」倶楽部

ここに出てくる女たちは、それぞれいろんなものを抱えながらもおいしいごはんを食べることで自分に本当に必要なものを見つめ直し、一歩前に進んでゆきます。筒井さんの中で「食べること」は、やはり生きることと直結した重要なテーマとしてあるのでしょうか?

もちろん大事ですよね。自分は今なに食べたいかな?ってことがわかるって、とっても大事なことだと思うんですよ。お洒落な店でなくても、今どうしても親子丼が食べたい!って思って、何でもないお蕎麦屋さんの親子丼を食べるのでもいいじゃない。そういう生き方の方が手触りがあっていいと思うし、どんなものが食べたいかわかる元気な細胞になるには、やっぱり食べないとダメ。どんな洋服が着たいか?どんな恋愛がしたいのか?っていうのも同じで、突き詰めてゆくと自分はどんな世界を望むか?ということに繋がっていくと思うんですね。それを政治やジャーナルの世界でやる人も表現者としてやる人もいると思うけれど、私は食べることから女たちのささやかなレボリューションをやりたかったんですよ。男性スタッフにはなかなか伝わらなかったけど、女優たちはすぐわかってくれましたね。

まさにいちばん身近で、いちばん自分に直結したレボリューションですものね。

そうそう、自分の体に取り込むものだからいちばん近いし、それでいうとセックスも近いですよね。どういうセックスがしたいか?と言うと、体位の話だと思うオトコたちもいるけど(笑)。すごく優しいのがいいときもあれば、そうじゃないのがいいときもあるだろうし、それを自分の体と心で判断して生きていくって本当に大事。ただ、セックスは相手が要るから思い立ってできることじゃないし、その点、食べることはひとりで今すぐできる(笑)。

確かに(笑)。すごくシンプルなことではあるんですが、自分の欲望とかそのときに必要なものを見極めることって、いろんな情報が氾濫している現代ではなかなか難しいことでもある気がします。

本当に今なにが食べたいか言える人って、なかなかいないのよね。あの店が流行ってるから行ってみようとか、どうしても流されちゃう。書店で平積みになってる料理書があるじゃない? あれも女の子から料理力を奪っている気がする。上手に使えばいいけど、パスタを何十種類も作れる必要なんてないじゃないですか? 本当に気に入ったものを2、3種類とか、じゃがいもの季節が来たら、じゃがいもの料理を何品か毎年作り続けるとか、そういうくり返すことが大事だと思う。やたら自然派志向みたいなことも私はどうでもいいと思うの。ジャンクなものが食べたい気分の時もあるだろうし、今すっごくキュウリが食べたいって思って、キュウリをそのままポリポリ食べる女はすごくセクシーだと思うんですよね。

© 2018「食べる女」倶楽部

そうやって、その時々で自分の欲望に忠実に生きてる女性はカッコイイですよね。どうすればそうなれるんでしょうか?

最終的にはやさしさが大事なんじゃないかな。人の言う事をなんでもきくっていう意味じゃなくて、他者をどれだけ受け入れられるか、その優しさとタフさが大事だと思う。

食べたいものをちゃんと食べて、細胞で感じたことによって生きていくということ

本作に登場する女たちも優しいし、タフですよね。小泉さんも鈴木京香さんも、あと山田優さんの役も、ちゃんとひとりで立ってるんだけど、他人を受け入れる懐の広さもあって、いわゆる恋愛が成就してハッピーエンドみたいな役ではないけれど、自分でちゃんとこうしたいって決めて生きてるのが清々しい。

いわゆる「幸せ」になってる人がひとりもいないのがいいでしょ。そりゃ恋人ができたり、結婚できたらそれはそれでいいけど、それだけが女の幸せではないし、まあいいっかってね。私の座右の銘は「まあ、いいか」なんですよ。何事にも執着がない。映画の中の女たちもそうですよね。食べて喋ってはいるんだけど、自分の悩みなんかを必要以上にグチャグチャは言わない。

確かに、わきあいあいとはしているけれどベタベタはしてないし、先ほど話に出た『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいな、あけすけな女子トークとも違いますよね。

私、女子トークって生まれてこのかたしたことがないんです。親友はいるけど、よくある女同士の噂話とか悪口とか、悩みを相談して共感しあうみたいなこともまったくなくて、そんなことよりも他に話すことがいっぱいあるから(笑)。もちろん人の悩みは何でも聞くんだけど、自分が話すのは照れるし、そういうことじゃない共同体というかね。

そういう意味では、今まであまり描かれたことのない女の連帯の物語かもしれませんね。

 

そうそう、私たちの世代って個であることを夢見てつまらない連帯を生きちゃった世代だと思うのね。私自身はそういうセンチメンタルな連帯に加わったことはないんだけど、本当にいい連帯を夢見るためには個を生きなきゃいけない。そういう時はひとりで闘って、嬉しいことがあったときはみんなで喜ぶ。そのためにも自分が今何を食べたいのかちゃんと感じて食べるってすごく大事だと思う。

© 2018「食べる女」倶楽部

女たちが逞しくて楽しそうなのに対して、この映画に出てくる男たちはどこか弱くて所在なさげでもあるのがおもしろいです。

そう? いわゆる自信に満ちた人気者の男性ではなく、ちょっと弱い部分もあるのがセクシーな感じでね。キョンキョンが今回は男のキャスティングがいいって言ってくれたんだけど、これは私ともうひとり女性のプロデューサーの好みで選んだの。いかにも女がキャスティングした男という感じでしょ?

ユースケ・サンタマリアさんとか、勝地涼さんとか、とってもツボでした(笑)。完成した作品を見て筒井さんが感じられた映画ならではの魅力はどこでしょう?

(食べることを通した女たちのレボリューションを)よりフィジカルに伝えられたことかな。生きていることの手触りも。あとは原作にはなかったサンクチュアリ(女たちが集うトン子の家)を作れたこと。枯れていた井戸が水で満たされて、月が玉子となって奇跡をはこんできて…というラストシーンも映像ならではの表現ができてよかったなと思いましたね。

女たちが本当においしそうにごはんを食べる姿に元気をもらえるし、出てくる料理がどれもこれも美味しそうで、ちゃんと美味しいものを食べたくなる映画です。

今どこの国もなんだかおかしな感じになってるけど、他者をアテにするより自分自身の心と体の声に耳をすませて、食べたいものをちゃんと食べて、自分の細胞で感じたことによって生きていけば変なことにはならないんじゃないかな。どんな人でもどんな状況でも、すぐにできるのは食べることなので、そこからささやかなレボリューションを試してみて欲しいですね。

筒井ともみ

 

東京都出身。成城大学卒業後、スタジオミュージシャン(ヴァイオリン)を経て、脚本家となる。テレビドラマ「響子」(96/TBS)「小石川の家」(96/TX)で第14回向田邦子賞を受賞。映画『それから』でキネマ旬報脚本賞。『失楽園』で日本アカデミー賞優秀脚本賞。デミー賞優秀脚本賞、『阿修羅のごとく』(03)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。『ベロニカは死ぬことにした』(05)では脚本の他プロデュースも務める。その他映画脚本担当作に『微熱少年』(87)、『華の乱』(88)、『風の又三郎 ガラスのマント』(89)、『119』(94)、『不機嫌な果実』(97)、『嗤う伊右衛門』『海猫』(04)がある。また作家としては、小説『食べる女』『続・食べる女』『月影の市』『女優』『うつくしい私のからだ』『旅する女』、エッセイ『舌の記憶』『着る女』『おいしい庭』などの作品がある。07年には東京芸術大学・大学院映像研究科教授に就任するなど、幅広い分野で精力的な創作活動を行っている。エッセイと食のレシピとエッセイ本『いとしい人と、おいしい食卓。「食べる女」のレシピ46』(講談社)を発売中、児童書『いいね!』(ヨシタケ・シンスケ画/あすなろ書房より11月下旬刊行)の発売を控える。

映画『食べる女』

9月21日(金)全国公開

【STORY】
とある東京の古びた日本家屋の一軒家、通称”モチの家”。家の主は雑文筆家である、古書店を営む・敦子(トン子)。女主人はおいしい料理を作って、迷える女たちを迎え入れる。男をよせつけない書籍編集者、いけない魅力をふりまくごはんやの女将、2児の母であり夫と別居中のパーツモデル、ぬるい彼に物足りないドラマ制作会社AP、求められると断れない古着セレクトショップ店員、料理ができないあまり夫に逃げられた主婦、BARの手伝いをしながら愛をつらぬくタフな女……。今日も、人生に貪欲で食欲旺盛な女たちの心と体を満たす、おいしくて、楽しい宴が始まる。

キャスト:小泉今日子、前田敦子、広瀬アリス、山田 優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、ユースケ・サンタマリア、池内博之、勝地 涼、小池徹平、笠原秀幸、間宮祥太朗、遠藤史也、RYO(ORANGE RANGE)、PANTA(頭脳警察)、眞木蔵人
監督:生野慈朗
原作・脚本:筒井ともみ『食べる女  決定版』(新潮文庫)
音楽:富貴晴美
PG12
© 2018「食べる女」倶楽部

オフィシャルサイト
http://www.taberuonna.jp/

関連本

いとしい人と、おいしい食卓 「食べる女」のレシピ46

筒井ともみ
講談社

「おいしい食事は細胞を元気にし、五感をくっきりさせてくれる。愛情やセックスについて、自分が何を求めているかもはっきりさせてくれる」――食べることへのプリミティブな希求と、料理についての自由な精神が詰まったエッセイは、食が心も体も、人生も開放し、豊かにすることを教えてくれます。女優たちにもその味にファンの多い筒井さんによる料理レシピも紹介。ササッとつくれてしみじみおいしい恋愛が深まるごはんです。