Interview

「実は“どストレートな恋の物語”なんです」─劇場版アニメ『フリクリ プログレ』福山潤が読み解く、破天荒すぎる『フリクリ』ワールドの核心

「実は“どストレートな恋の物語”なんです」─劇場版アニメ『フリクリ プログレ』福山潤が読み解く、破天荒すぎる『フリクリ』ワールドの核心

伝説のOVA『フリクリ』の登場から、じつに18年の時を経て世に放たれるシリーズ完全新作『フリクリ プログレ』。2018年9月7日に公開された劇場版『フリクリ オルタナ』に続き、本作は9月28日から全国で封切られる。OVA『フリクリ』や『フリクリ オルタナ』とは登場人物が一新された本作は、いかなる作品として仕上がっているのか。主人公・雲雀弄(ひばじり)ヒドミに思いを寄せる男子中学生・井出交を演じる福山潤に、その魅力を聞いた。

取材・文 / 福西輝明 撮影 / 松浦文生


付け焼き刃の知識では「フリクリイズム」は継承できないと思った

<『フリクリ プログレ』あらすじ>
母親と2人でカフェを営みながら、その日その日をなんとなく過ごしているヒドミは、クラスメイトたちの喧騒とは隔絶した孤独の中にいた。そんなある時、グラサンを身に着けた謎の美女・ジンユの車に彼女が轢かれた夜、クラスメイトの少年・井出の額から、巨大なロボットが出現して――!?

『フリクリ プログレ』(以下『プログレ』)の収録に参加されて、この独特な作品性に触れた印象はどのようなものでしたか?

福山潤 『プログレ』の収録にあたって、前作の用語や世界観などが記された結構なボリュームの設定資料集をいただきまして。それらにすべて目を通したうえで『プログレ』のシナリオを読んでみたんですが、その印象は「Don’t think! Feel. 」(考えるな、感じるんだ)というものでした。

ジンユの車が猛スピードで突っ込んできてヒドミをはね飛ばしたり、ヒドミや井出の頭からメカが出てきたりと、奇想天外な出来事が次々に起こるのに、それらに対する説明が一切ない(笑)。さまざまな出来事の裏には、いろいろと込み入った事情や、『フリクリ』を観ていないとわからない設定、観ていてもよくわからない設定などが渦巻いているんですが、それらを知らずに頭を空っぽにして観ても、お話の筋は不思議とわかるんですよね。つまるところ、多感な時期の少年少女が、次々に巻き起こる奇想天外な事件を通して何を感じ、触れ合っていくのかを描いた「ボーイミーツガール」作品なんです。観ているこちらが照れてしまうくらい、どストレートな恋の物語だと感じました。

『プログレ』の収録にあたって設定資料などに目を通されたとのことですが、前作『フリクリ』はご覧になりましたか?

福山 じつは、『プログレ』が完成するまでは、あえて前作を観ないようにしていたんです。ストーリーが前作から連続している作品ならば、絶対に前作を観たうえで、物語や設定まわりの情報を頭に入れておくべきだと思うんですが、本作はそうではないと伺ったので。

ただ(『フリクリ』を)チラ見程度には観ていて、その印象としては……とにかくあらゆる方向に突き抜けていて、僕がこれまで参加してきた作品の作り方とはあまりにも方向性が違うと感じたんです。付け焼き刃の知識を仕入れて、「前作はこうだったから、今回はこう演じてみよう」と頭で考えてバランスを取ろうとしても、「フリクリイズム」は継承できません。むしろ余計な知識は、この作品においては演技を縛る足かせになりかねない。井出を思い切り演じるのなら、観ない方がいい。現場で体当たりで演じてみて、感じるものがあったのなら、そこに突っ込んでいくしかないなと。先日、完成した『プログレ』を頭から通して観たので、皆さんがこの記事を読んでいる頃には、僕も『フリクリ』を観ていると思いますよ。

言葉はなくても、気持ちは伝わる。そんなヒドミと井出の関係が清々しかった

今回、福山さんが演じた井出は、どんなキャラクターだと感じたでしょうか。

福山 最初に井出の絵を見せていただいたんですが、おでこが広く、眉毛が太いメガネキャラというビジュアルからは、生真面目でお堅い人という印象がありました。でも、シナリオを読んでみたら、友達とバカ話をして盛り上がるなど、意外と遊びのあるヤツであることがわかったんです。実際に演じてみたら、お堅そうな外見に反して、予想以上にバイタリティあふれる、熱いヤツであるとも感じました。

両親がおらず、労働条件が最悪のジャンク屋で働き、貧乏の極致を極めながら学校に通っているのに、まったく悲壮感がない。それどころか、友達とおちゃらけたことをしたり、女性に対して思春期の少年らしいリビドーを爆発させるところも含めて、どこか「古き良き昭和時代の少年」という印象を受けました。

とても中学生とは思えないほど、ハードな人生を送っていますよね。

福山 そうなんですよね。僕も頭では井出が中学生であることはわかっていたんですが、演じている時はまったくそれを意識していませんでした。ただ、会話の内容が完全に中学生男子のものだったので、中学生らしさを前面に押し出さなくても、お客さんにはきっと伝わっているのではないかなと。

監督や音響監督からは、どういったディレクションがあったのでしょうか?

福山 水瀬いのりさん演じるヒドミや、林原めぐみさん演じるラハル、沢城みゆきさん演じるジンユは、裏に様々な事情を抱えつつも表にはあまりそれを出さないという、難しい役どころです。そのため、各人がとても丁寧にキャラクターを作り、演技プランを練っているなという印象を受けましたね。

一方、井出をはじめとする脇を固めるキャラクターたちは、『フリクリ』独特の突き抜けた世界観やテイストを、いかにキャラクターの演技に乗せるかに終始していました。井出に関しては、ジャンク屋で働いているなどの表から見える落差などは考えず、彼が内に抱えた思いをストレートに出していく方向で演じました。井出は見た目の印象と内面に大きなギャップがあったんですが、実際に演じてみたらあまり違和感がなく、回を増すごとにどんどんなじんでいった感じがしました。

本作の主人公であるヒドミは、福山さんから見てどんなキャラクターだと感じたでしょうか?

福山 見た目は今風の大変かわいらしい女の子なのに、彼女が見る夢は大変殺伐としていてグロテスクなんですよね。全6話構成のエピソードの冒頭に、それぞれヒドミの夢が挿入されるんですが、最初はあれが何なのかよくわからないんです。でも、お話が進むにつれて、あの夢はヒドミの心情を推し量るうえでとても大切なことを描いていたことが伝わってくるんですよ。

普段のヒドミは、口数が少なくて感情表現に乏しいですが、その分、夢の中でのナレーションで、かなり序盤からいろいろと大事なことを語っています。母親と2人でカフェを切り盛りしながら、帰ってこない父親を待つという家庭環境の中で、ヒドミは何を感じて生活しているのか。彼女にとっての悩みとは、そして大事なものとは何なのか。様々なものを抱えたヒドミの内面は、意外とシンプルだったりするんです。複雑な立場や背景を持った子ではありますが、物語を最後まで通して観てみたら、じつは意外と普通の女の子だったんだな、と感じました。

本作は、ヒドミと井出の心の交流を描く側面が強い作品だと思います。2人の関係について、福山さんはどのようにとらえていらっしゃいますか?

福山 よくよく考えると、『プログレ』の中ではヒドミと井出はあまり言葉を交わしていないんです。危ないところを助けたり一緒に逃げたりなど、行動を共にする場面は多いけれど、お互いのことはほとんど話していない。それなのに、2人がお互いのことをどう思っていて、どのように心が触れ合っていくのかという過程は、大変ていねいに描かれているように感じるんです。井出は窮地に陥っているヒドミに「雲雀弄!」と呼びかけながら懸命に追いかけ、ヒドミも「井出くん!」と叫びながら懸命に手を差し伸べるシーンが、何度も出てきます。

高所から落下している最中などの土壇場では、言葉を尽くして自分の気持ちを説明している暇などなく、お互いの名前を呼び合うくらいしかできません。しかし、それだけでもヒドミと井出の気持ちは伝わってくるんです。「一緒にいたいという感情」と、「相手のために何かしてあげたい」という行動力だけで、想い合う2人の関係性を結実させているところは、観ていてとても清々しさを覚えました。彼らには言葉なんか必要ないんです。

言葉に頼ることなく、心がつながっている。それこそ「ボーイミーツガール」の王道ではないかと。

福山 物語の根っこは、とてもわかりやすい作品なんですよね。『プログレ』収録に臨む前に、“難解だけどクセになる。何度も観たくなる作品”……と書いてある『フリクリ』のレビュー記事なんかを見て、「なんだか難しそうな作品だな?」と思ってちょっと構えていたんです。たしかに、作品の面白さを説明したり分析したりするのは難しいけれど、ドラマの線としてはシンプルかつ王道。青臭くてがむしゃらな少年少女の恋物語なんです。

では、『フリクリ』のメインキャラだったハルハラ・ハル子から分かたれた2人の人物、ラハルとジンユについてはいかがでしょうか?

福山 ラハルとジンユは、どう表現していいかわからない、奇想天外なキャラクターですね。ジンユはいきなりヒドミを車ではね飛ばすという、わけのわからない登場の仕方をしましたし。また、ラハルは、謎の演説で生徒たちを洗脳し始めるという……。そこに何の説明もないままお話が進んでいくので、もはやこの2人に関しては、考えるだけ無駄だろうなと(笑)。

もう、理屈やら何やらが通用しない人たちなんだと思うほかない。でも、その「おいてけぼり感」が妙に心地いいんです。ジンユの「硬」とラハルの「柔」、そこに内に何らかの思いを押し込めているヒドミが絡むという三者三様のあり方は、『プログレ』のキモとなってくる部分ではないかと。

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