Interview

『沈まぬ太陽』主人公・恩地元役 上川隆也インタビュー

『沈まぬ太陽』主人公・恩地元役 上川隆也インタビュー

「恩地という男は僕なんかでは及びもつかない。」

『沈まぬ太陽』がついにテレビドラマ化。己の意志をつらぬく主人公・恩地元(おんちはじめ)を演じた上川隆也に作品にかけた想いを聞いた。

人生の節目に『沈まぬ太陽』のオファーが来た

まずは本作のオファーを受けたときの感想をお願いします。

上川 僕がこうして映像作品に参加させていただけるようになった大きなきっかけになったのが、ドラマ『大地の子』なんですが、昨年で20周年だったんですよ。

『沈まぬ太陽』と同じく、山崎豊子さんの小説が原作ですね。

上川 今回のオファーはその20周年と時を重ねていただくような形になりました。それから、これは個人的な話なんですが、僕も昨年、齢50を数えまして。節目と思えるタイミングが重なって、しかも山崎さんの小説を原作とした『沈まぬ太陽』であるということに何かご縁のようなものにも感じました。個人的にも嬉しかったです。

やはり『大地の子』は上川さんにとっても重要な作品なんですね。

上川 去年の冬に同窓会的な集まりがあり、『大地の子』のスタッフみんなが揃いまして、ゼネラルプロデューサーだった岡崎栄さんに『沈まぬ太陽』主演のことをご報告させていただいたところ、相好を崩して本当に喜んでくださいました。そうしたことも含めて今回のオファーを受けさせていただいたことは意味のあることだったように思います。

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渡辺謙さん主演の2009年の映画版『沈まぬ太陽』にも、上川さんは出演なさっています。

上川 ちょろっとですね(笑)。本当にカメオと言っていいぐらいですが。あのときは、山崎さんサイドから何らかの形で関わってほしいというようなお声をいただいていたみたいです。今回のドラマ版の主演については、残念ながら山崎さんに直接ご報告申し上げることは叶わなくなってしまいましたが(山崎豊子さんは2013年ご逝去)、撮影が全部終わって完成形を見たときに、何らかの形でご報告したいです。そのときに晴れやかな心持ちでいられたらと思っています。

 

主人公とライバルはタップダンサーとバレエダンサーのような関係

今回、主演するにあたって、あらためて『沈まぬ太陽』はどういう作品だと思われましたか?

上川 山崎さんの作品はどの作品も一側面的なテーマで描かれているとは思えないんですね。どこかに警鐘的な要素を含みつつも、一方で自戒もある。『大地の子』を書き上げ、赴かれたアフリカで『沈まぬ太陽』の題材を得られたとうかがっていますが、描かれている目線に似たような色合いを感じるんですよ。

【沈まぬ太陽】場面写真A

演じた恩地元という人物と上川さんに共通点はありますか?

上川 恩地のやったことに関しては、「自分にはできない」がほぼほぼすべてですね(笑)。彼の正義感や強さは、たとえ胸の内に秘める事はできても、それを人に示し実行するのはやはり大きなハードルを伴うと思うんです。それをやれてしまう恩地という男は、やはり僕なんかでは及びもつかないですね。

そうした恩地を演じることは難しいですか?

上川 けっして演じやすいとは思わないです。でも、演じることに躊躇もないですね。僕自身では抵抗が感じられるような行動や言動もてらいなくやってのける。ある種の人にとってはうとましいでしょうけど、それは強く憧れる要素でもあると思いますし、そうした行動をやってのける彼を演じることは楽しいです。演じがいもあります。彼の強さや男としてのリーダー像をどう形にしていこうかと思いを馳せるのは、とても楽しい作業ですね。

恩地を語る上では、その強さがいちばん重要ですか?

上川 いえ、喜怒哀楽にとぼしい男ではないので、悲しいときは涙も流しますし、苦しいときは懊悩もします。でも、それでも恩地は帰ってくるんですよね。転んでも、そのたびに立ってみせるんです。その立ち上がる姿にこそ、人は憧れるし、敬意にもつながっていくのかなと。しかし強さだけでなく、そこにどうしようもない弱さやもろさが同時にあるから、恩地も憧れられる対象になるんじゃないでしょうか。

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労働争議も激しかった60年代も舞台となります。そうした時代背景は役作りにどういう影響を与えたのでしょうか?

上川 ちょうど、そのころに僕自身生まれました(上川さんは1965年生まれ)、そこはうまく利用したいと思ってます。自分と切り離された世界ではないので、自分の中での記憶や肌感覚、60年代を5年間だけでも過ごした自分って言うんですか。まだ舗装されてなかった家の近所、そんなに多くなかった街灯、木製の電信柱、白黒のテレビといった実際に自分で体験したことのあるディティールは、間違いなく僕を助けてくれるはずなんです。だから65年に生まれたことは幸いだったと思いますね。

本作は恩地とライバル行天四郎の物語でもあると思います。ふたりの関係をどうご覧になっていますか?

上川 『ホワイトナイツ』という映画(1985年のアメリカ映画)があって、主人公はそれぞれダンサーで、片やタップダンサー、片やバレエダンサーなんです。ふたりは奇妙な経緯の末に出会うんですが、とあるシーンで二人は同じ振り付けで1曲踊るんです。恩地と行天はそんな関係な気がするんですよ。会社に対して団交を行っていたときは同じ振り付けで踊っていて、そこにそれぞれの特色があると我々には映ります。その後、二人が袂を分かつと、同じ曲が流れなくなった。でも、たぶんバレエダンサーはタップダンサーの技量などに敬意を持っていたでしょうし、その逆もまたしかりだと思うんです。ふたりはそんな関係だと僕は思ってます。

行天を演じた渡部篤郎さんとの共演はいかがですか?

上川 仲良くやってます、とても(笑)。共演は初めてなんですが、僕は以前から渡部さんの作品はよく拝見してますし、一緒にいて楽しい方ですね。さきほどの話に通じるのかもしれませんけど、それこそバレエダンサーとタップダンサーぐらいに、物の見方が僕とは違うんですよ。だから、日々新鮮ですし、渡部さんのおっしゃることや物の感じ方がとても楽しいです。

象との撮影は危機一髪のシチュエーションだった!?

【沈まぬ太陽】追加場面写真

アフリカや中東などの海外ロケも話題となっています。アフリカと言えば恩地が猟銃を撃つシーンが印象的です。

上川 銃は本物の実際に使われている銃を携え、そして本物の象と相対してきました。ただ、弾は入っていなかった(笑)。

実際に撃たないとはいえ、本物の象と向かい合ったんですね。

上川 撮影の後で現地のレンジャーの方にうかがったら、「お前、死ぬとこだったぞ」と言われましたね。

えっ!?

上川 映像としては収められてないかもしれないんですが、象が威嚇行動をとっていたそうなんです。次の瞬間には襲ってきてもおかしくない状況だったらしいです。

猟銃を向けた上川さんに対して威嚇したわけですね。

上川 構えているときは、そのつもりで猟銃を向けているわけですよ。殺すつもりで。弾はゼロですから、本来の機能は果たしてくれないんですが(笑)。

その殺気が象に伝わったんでしょうか。

上川 象が思いとどまってくれて、よかったなと。象に理性があってよかったと思ってます(笑)。

恩地はアフリカに行って、強い孤独感にさいなまれます。そんな彼にとってアフリカの大自然が心の支えになったんでしょうか?

上川 彼自身の強さや家族の存在も支えになってたと思うんですけれど、これはとてもうがった見方ですが、あのとき恩地は他の命の上に立つことで自分を保っていたようにも思うんです。ハンティングは生命を奪う行為ですけど、そうしたわかりやすいヒエラルキーが彼を支えていたんじゃないかなと思うんですね。だからこそ彼はハンティングに熱中していったんじゃないかなと。食物連鎖にもつながるのかもしれませんけど、そうすることで自分のいる意味、立ち位置を再確認したんじゃないかと思います。

大自然で心が癒されたというような単純な話ではない、と。

上川 生殺与奪がもたらす、原始的な快感や達成感はあったでしょう。きっとそれは形を変えて会社の中でも行われていたことなんでしょうね。と、僕は邪推してます。

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本作は、全20話という放送枠であるWOWOWの「連続ドラマW」において過去最大のスケールで描かれます。

上川 ぜいたくに時間を使わせていただくことによって、文字媒体である『沈まぬ太陽』が映像化されるにあたって、原作の持っているエッセンスを極力薄めたり曲げたりすることなく、お届けすることができるんじゃないかと思うんです。まだ撮影は終わってませんので、僕自身が期待していると言っていいかもしれませんが、向き合う角度に変化をつけず、真っ向からひとつひとつ映像化できたらと思っています。

上川さんは、主演作の『祖国』『震度0』『ルパンの消息』『マークスの山』『レディ・ジョーカー』など、WOWOWの「ドラマW」にたびたび出演なさっています。「ドラマW」には意欲的な作品を放送する枠というイメージがありますが、上川さんご自身はいかがですか?

上川 もし、意欲的と評価していただけるとしたら、それは間違いなく、青木さん(青木泰憲プロデューサー)の功績だと思います。僕はそこに運良く関わることができた一役者にすぎません。「他のメディアが表現できないこともWOWOWさんでなら」という期待を抱かせてくれるのも、これまでの積み重ねがあるからでしょうね。幾度となく関わらせていただいてますけれども、出演者としても高まるものがあります。これは個人的な願いでもありますけど、今後もWOWOWが作り出す作品がそういうものであってほしいと思います。

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