Interview

奥田民生 セルフ・カバー11曲のアルバム『カンタンカンタビレ』発売。宅録スタイルのDIYレコーディングに込められたミュージシャンシップを訊く。 

奥田民生 セルフ・カバー11曲のアルバム『カンタンカンタビレ』発売。宅録スタイルのDIYレコーディングに込められたミュージシャンシップを訊く。 

奥田民生が、最新作『カンタンカンタビレ』をリリースした。これは、昨年秋にスタートした、宅録スタイルのDIYレコーディング・プロジェクト《カンタンカンタビレ》で制作されたセルフ・カバー11曲をまとめ、アルバム用にミックス&マスタリングをほどこした作品だ。このプロジェクトでは、アナログ時代に宅録ミュージシャンに人気だった8トラック・オープンリール・テープレコーダー「TEAC 33-8」など、今では入手困難な機材を駆使したアナログ・レコーディングを行いつつ、その過程を解説する動画をYouTubeで公開することでも話題となった。そんな、見る側・聴く側にとって実に楽しい企画であるが、その裏側に込められた奥田民生の想いは、一体どのようなものだったのだろうか。そこにあったのは、彼ならではの一流のユーモアと、ミュージシャン・シップであった。

取材・文 / 布施雄一郎

今、あえてアナログでやったのは、「昔はこうだったんですよ」という部分を見せたいという気持ちがあって。

まだまだ継続して進行中のDIYアナログ・レコーディング企画《カンタンカンタビレ》ですが、ひとまずアルバムが完成した今、改めて《カンタンカンタビレ》というプロジェクトを振り返っていただけますか?

奥田 いやぁ、アナログ・レコーディングって、面倒くさいなってことですかね(笑)。

いきなりそこですか(笑)。

奥田 企画をスタートさせた当初は、テープ・レコーダーだとか、昔のアナログ機材の使い方に慣れなくて。久しぶりだから、音がどうなるか予想ができないんですよ。特に今回のように、プロ用ではないチープな機材だと、できあがりの音が大きく変わるので。もちろん、これでデモを作っていた当時は予想できていたんですけどね、さすがに忘れていて、最初の3曲くらいは、「こんな音になるんかい!」って驚いて(笑)。あと、ピンポン(・ダビング)するタイミングを逸して、まだ録りたいパートがあるのに録音トラックがすべて埋まってしまったり、本当に「アナログは面倒くさい」っていう感想です(笑)。今はどんだけ便利なんだ、っていう。

ただ、その面倒くささを肯定的に楽しんでいましたよね。

奥田 そうそう。結局、「それがいいところだ」っていうのが、企画のスタートだったんで。たとえば、テープに録ると音が変わっちゃうところも分かりやすく聴かせた方が面白いだろうと、それでマスター音源をカセットテープに録ったりして。カセットまでいけば、誰が聴いても、音の変化具合が分かりやすいですから。それで、クロームではなく、ノーマル・テープを使って。

レコーディングの過程を見せるというアプローチとしては、2010年にレコーディング・ライブツアー《ひとりカンタビレ》も開催されていますが、それと今回との違いは?

奥田 どちらも単純に、「レコーディングを見せる」ということをやってみたかったんです。音がひとつひとつ増えていって、それが音楽になるっていう面白さ。《ひとりカンタビレ》の時は、それをライブでやれないかなと考えて、無謀ではあったんですけど、ツアー形式にしたんです。あれはあれで、やり甲斐がありましたし、今回も、見せたいものは同じと言えば同じなんですが、今はYouTubeでもっと簡単にみんなに見てもらえる時代になったので、見せ方をちょっと変えて。

ミュージシャン仲間からも、いろんな反応があったのでは?

奥田 「面白いです」ってと言ってくれる人もいましたよ。やっぱり、自分でもこういうDIY的な宅録をやっている人は、プロアマ問わず、この企画を楽しんでくれたでしょうね。動画で喋っている内容や編集の仕方も、実際に宅録をやっている人や、興味を持っている人に向けて作りましたから。だから、そんなにマニアックなものでもないんだけど、それでも、かなり偏った内容ですよね。「宅録マニュアル」みたいなもので。

いつも僕は、こういうことを考えていて、こういうことをやっていますというアピールですから(笑)。

でもそれを「レコーディング教室」的な見せ方ではなく、一般リスナーでも楽しめるエンタテインメントに仕上げているあたりは、さすが奥田民生さんだな、と。

奥田 やるからには、その場で頭の浮かんだアイデアをどんどん取り入れていこうと。それで、ボーカル・ブースがどんどん大きくなったりしてね(注:企画スタート時は、布団を被ってボーカルを録っていたが、次第にいろんな形のボーカル・ブースがDIYで作られた)。

一方で、まったく楽器経験のないリスナーには、どういう部分を見てもらいたいと考えたのですか?

奥田 「自分もやってみたいな」と思ってくれたら嬉しいなっていう気持ちはもちろんありましたけど、すべての人を喜ばす動画を作るには、もっと細かな説明が必要になって、それはさすがに無理だから、そこはある程度、割り切って。だから、それほど易しい内容ではないと思いますけど、だからこその企画だし、いつも僕は、こういうことを考えていて、こういうことをやっていますというアピールですから(笑)。

そうした「レコーディングを見せる」という企画で、あえて懐かしいアナログ機材を使った宅録スタイルで行った理由は? 音程もタイミングも何でも修正できる、現代のデジタル・レコーディングに対するアンチテーゼなのかな、とも感じたのですが。

奥田 今、あえてアナログでやったのは、「昔はこうだったんですよ」という部分を見せたいという気持ちがあって。やり直しが面倒だったり、ピンポンを繰り返していくと音が劣化していくことだったり。それと、(録音トラック数などの)制限がある中で、どう音楽を作っていくかという部分も見せたかったんです。それこそビートルズは、今みたいに何トラックも録れるような環境ではなかったのに、あれだけの音楽を作り上げたんだっていう。ビートルズも、プロ用機材ではあるけれども、8トラックのテープ・レコーダーとアナログ・ミキサーでレコーディングしていたわけで、同じような機材で作っていたんですよ。そうした状況で、ピンポンしまくっていろんな音を重ねたり、テープを切ってつなげたり、テープの再生スピードを変えて聴いたことのない音を作ったり。それであんな名盤を作り上げたということに僕らは驚いたし、本当にすごいなと思っているので、そういったスタジオワークのさわりだけでも、「こういう感じなんです」って見せられたらいいなと思って。

「前の演奏が消える」っていう心意気が、音楽に活きてくるんですよ。

アナログ時代は当たり前だったパンチ・インも、今ではレコーディング・スタジオでも死語に近い用語になってしまいましたからね。

奥田 そうですよ。パンチ・インをやったら前の演奏は消えちゃうんですから。それって今の人からしたら、信じられないですよね。デジタルだと、何テイクでも残しておけるから。でも、「前の演奏が消える」っていう心意気が、音楽に活きてくるんですよ。しかも間違えられないから、ギターも上達するし、ライブも上手くなりますよ(笑)。

(笑)。それだけレコーディングの手法が変わると、音楽の作り方自体も、かなりの影響を受けるのでは?

奥田 うん、もちろん。まず曲のアレンジが変わりますよね。今のデジタル・レコーディングだと、アマチュアでも、たくさんのマイクでドラムを録って、リズム・ギターを入れて、ギターを何本も重ねて音楽を作っていくでしょうけど、今回って8トラックしか使えないわけだから、まずそうしたアレンジは無理ですよね。制限がある中で、アレンジを考えながら録っていかないといけなくて、そうすると、ある意味ではライブ・アレンジに近づいていきますよね。

そうしたアレンジの方向性って、まさにMTR&Yのサウンドに近いものですよね。シンプルな編成で、いかにカッコいいバンド・サウンドを鳴らすかっていう。

奥田 そうですね。バンドでやる時も、なるべく音数を増やさないで、それぞれのプレイヤーが何を弾いているのか、それがよく聴こえるように曲を作っていってます。そうなっていったのは、MTR&Yの4人のアンサンブルだとか、曲を表現する力は、昔よりは絶対に上達しているはずだから、それを聴いてもらおうとすると、必然的に、少ない音で表現できた方がいいと考えるようになったからなんじゃないですかね。そんな気がします。

自分がプロになってからも、研究というか、「こういう風に録っていたんだ」と知ることは多くて

そういうお話を伺うと、奥田さんって、やっぱり生粋のバンドマンであり、ギタリストなんだなと強く感じますし、《カンタンカンタビレ》を続ける原動力も、ひょっとしたら最初にギターを手にした時に感じた衝動にあるのかなって思いました。

奥田 そうですね。ビートルズがライブをやらなくなって、レコーディングに集中し始めた頃の作品には、「どうやって録ったんだろう?」と思うようなアイデアがたくさん詰まっていて。自分がプロになってからも、研究というか、「こういう風に録っていたんだ」と知ることは多くて、それをいつか試したいとずっと考えているんです。僕は普段からそういった精神を持っているし、特に今回のように、機材まで含めてビートルズの頃と同じような手法でレコーディングするとなると、単純に、自然とミーハー心も出てきますよね。

そのうえで、聴き手に「DIYレコーディングって楽しそうだな、自分でもやってみたいなと」思わせてくれると同時に、でもやっぱり奥田さんのスキルと経験があってこそ生み出せる音楽なんだって強く感じました。

奥田 もちろん、誰がやってもこうなるわけではないよっていう部分もありますけど、今回使ったようなアマチュア向けの古い機材でも、やり方次第で十分に音楽は作れるんだよというアピールもあれば、レコーディングってもっと簡単なものなんだよっていうことも言いたいですし、いろんな見方ができる企画だと思うんです。《カンタンカンタビレ》って。

《カンタンカンタビレ》は、自分の修行のためでもあるんです。

その中で、自分自身へのフィードバックは、どういったものがありましたか?

奥田 プレイに関して言えば、家で一人で演奏するなら上手くできるのに、レコーディング・スタジオやライブの現場だと緊張して失敗してしまうことって、よくあるじゃないですか。それは僕らにもあることで、自分だって、いまだに本番は緊張しますからね。それを克服したいという気持ちもあるんですよ。こうやって、レコーディングの様子を、さも簡単そうに人に見せるには、まず自分がちゃんと演奏できないといけないし、何度もやり直すわけにはいかない。そういう足枷の中でレコーディングを行うことで、緊張感に打ち勝つ心も鍛えられるんです。だから《カンタンカンタビレ》は、自分の修行のためでもあるんです。《ひとりカンタビレ》の時も、レコーディングってこういうことなんだよって見せるだけでなく、自分自身が人前でどれだけやれるのかっていう実験でもありました。だから実は、どちらかというと、半分以上は自分のためにやっている企画でもあるんです。

奥田さんは、以前に「ミストーンも、その時点での自分の日記だ」と発言されていたことがありましたね。後から振り返った時に、当時の自分を見つけることができる、と。

奥田 音楽の内容にもよるし、絶対に間違えちゃいけないフレーズもありますけど、たとえ明らかな間違いであっても、それが音楽を台無しにしていなければ、僕は別にいいと思っているんですよ。もちろん、誰しもが感動して泣くような曲で、「何でここで間違うの!?」っていうのは、さすがにダメですよ(笑)。でも、そうじゃないところでの些細なミスやリズムのズレなら、むしろそれがあることで音楽が平坦なものではなくなるんです。僕は、その方がいいと思っていて。機械的な打ち込み音楽のグルーヴも好きだけど、自分自身がやっている音楽はそうじゃないから、そこでドラムマシンを目指して叩いても仕方ないし、逆にちょっとズレるくらいの方が、僕はいいと思っているくらいで。だけど最近のデジタル・レコーディングだと、そうしたズレも直せちゃうじゃないですか。「直せる」っていうことは、「直しちゃう」わけですよ。「こいつ間違ったな」って思われるのが嫌だから。

しかも今は、音が“波形”で見えてしまうので、耳で聴いて気が付かないズレでも、目で「ズレている」と分かってしまいますからね。

奥田 それを直していくことで、結果、平坦な音楽が増えていっている気がするんです。ミスや遅れ、ズレって、そのプレイヤーのキャラクターというか、特長だと思うので、それは直しちゃいかんと思うんですよ。

自分なりの基準があるんですよ。

YouTubeの解説動画では、奥田さんがどのように演奏のOK、あるいはNGを判断しているのか、その様子も垣間見られて、とても興味深かったです。

奥田 自分なりの基準があるんですよ。たとえ間違えても、音楽全体の流れがよければOKだし、上手く弾けても、ただサーッと流れるだけで面白くないプレイはダメだし。歌だって、音程が合っているからOKというわけじゃないですし。僕が人の曲を聴く時って、この曲で、なぜこういうドラムを叩いているんだろう、どうしてこういうベースを弾いているんだろうって考えるんです。だからその演奏が、よく耳にするような音で、ツルッとしたものだったら、「つまんない曲だな」って思ってしまうんです。演奏している人の顔が想像できなければ面白くない。逆に、「この人はこんな音を出すんだ」とか、「自分とは違うな」って感じると、すごく興味が湧いてくる。その違いって、歌が一番分かりやすいですよね。人によって、声や発声が違うから。でも、それが楽器となると、その差が分からない人や、「ギターはギターでしょ?」と興味がない人も多いと思うんですよ。だけど作る側の僕は、そうやってギターもベースもドラムも聴いているし、だからこそ自分が音楽を作る時は、そこにプレイヤーの特長が出ていないと面白くないし、顔が浮かぶような音楽にしたいと思っているんです。

気に入った曲があったら解説動画を見てもらって、「こうやって録ったのか」って謎を紐解いていく、そういうワクワク感を体験してもらいたいですね

そう考えると、アルバム『カンタンカンタビレ』は、ミュージシャンとしての奥田民生さんが、これ以上ないほど濃密に収められていますね。

奥田 これまでは、先に解説動画をYouTubeで公開して、完成した曲を配信リリースしてきましたけど、それとは逆に、このアルバムを聴いて、気に入った曲があったら解説動画を見てもらって、「こうやって録ったのか」って謎を紐解いていく、そういうワクワク感を体験してもらいたいですね。もちろん、これから楽器を始めるんだっていう若い人にも、ぜひ見てもらいたいです。こうしたことって、今までそんなに世にはアピールしていなかった部分ではありますけど、僕自身、ずっとやってきたことでしたから、それをひとつの作品にもできて、このプロジェクトをやってよかったなって思っています。

その他の奥田民生の作品はこちらへ

ライブ情報

奥田民生「MTRY LIVE AT BUDOKAN」
10月13日(土)  東京都 日本武道館

奥田民生「ひとり股旅スペシャル@日本武道館」
10月14日(日)  東京都 日本武道館

◆奥田民生日本武道館公演
特設サイトhttp://okudatamio.jp/special/budokan2018/

奥田民生

1965年広島生まれ。1987年に、ユニコーンでメジャーデビュー。
1994年にシングル『愛のために』でソロ活動を本格的にスタート。『イージュー★ライダー』『さすらい』などヒットを飛ばし、井上陽水とのコラボレーションや、プロデューサーとしてもPUFFY、木村カエラを手掛けるなど、その才能をいかんなく発揮。弾き語りスタイルの「ひとり股旅」、ひとりレコーディングライヴ「ひとりカンタビレ」など活動形態は様々。世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらとの「The Verbs」、近年は岸田繁(くるり)、伊藤大地と結成したスリーピースバンド「サンフジンズ」としても活動している。
2015年にレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を立ち上げ、2017年にディズニー/ピクサー映画『カーズ/クロスロード』の日本版エンドソング「エンジン」も収録された4年ぶりのオリジナルアルバム「サボテンミュージアム」を遂にリリースした。
現在は宅録スタイルのDIYレコーディングの模様を映像で公開し、出来上がった音源を即配信するプロジェクト”カンタンカンタビレ”を実行中。

オフィシャルサイト
http://okudatamio.jp
ラーメンカレーミュージックレコード
http://rcmr.jp