Interview

『ストII』のコンポーザーが、アニメ『ハイスコアガール』の音楽を手がけた奇跡。90年代格ゲーブームを経て現代へ─下村陽子に聞く“ゲーム音楽らしさ”

『ストII』のコンポーザーが、アニメ『ハイスコアガール』の音楽を手がけた奇跡。90年代格ゲーブームを経て現代へ─下村陽子に聞く“ゲーム音楽らしさ”

様々なゲームタイトル、主人公・矢口春雄とヒロインである大野 晶、日高小春のふたりが繰り広げる格ゲー対戦、その先にある恋模様を盛り上げる『ハイスコアガール』。数あるタイトルの中でも旗手として作中を賑わせるのが『ストリートファイターⅡ』だが、そのVGM(Video Game Music)を手がけた下村陽子が、アニメ『ハイスコアガール』では劇伴音楽を担当している。

アニメ作品においても、『DAN DOH!!』や『極上生徒会』、『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』といった作品で劇伴に携わっている下村ではあるが、やはりゲームとの関係は深く、『ストリートファイターⅡ』シリーズ以外にも、『ライブ・ア・ライブ』 (SFC)、『フロントミッション』(SFC)、『聖剣伝説~Legend of MANA~』(PS)、『キングダムハーツ』シリーズ、『マリオ&ルイージRPG』シリーズなど、錚々たるタイトルで音楽を生み出してきた。

様々なゲーム音が鳴り響く作品の中で、下村陽子はどのような点に留意して『ハイスコアガール』の音楽世界を構築したのか。まず話題は、作品を音楽で表現するというところから始まった。

取材・文 / 清水耕司(セブンデイズウォー)


劇中のゲーム音楽とぶつからないようにアコースティックに

© OSAMU NAKAMURA

『ハイスコアガール』の劇伴に対してどのような楽曲をお願いされたのでしょうか?

「こういう音楽を」というお話はなくて、(『ストⅡ』の)元の曲を作った人が作曲したという何かがあるといい、とは伺いました。ただ、ゲームに関しては原曲を使えるという話で、あくまでアニメの劇伴としての音楽というお仕事でしたので、フラットな気持ちで臨みました。『ストⅡ』の映像はあるけれども、音楽は使えないのでその映像に合わせた曲を……という話だったらどうしようかと思っていましたが。

なので、いつものように、作品の世界観や雰囲気をできるだけ体に染み込ませることで、自分からアウトプットされる音楽を作品に合ったものにする、という感覚でした。特に、ゲーム音楽と変える意識もありませんでした。ただ、作中で実際のゲーム音楽が流れるのであまりごちゃっとしないように、現実のシーンに戻ったら基本的にはアコースティックな曲を流すことにして、差別化は図りました。

メニュー出しはどういった形で行われましたか?

音響監督さんから基本的にメールでいただきました。それから、監督さんが描かれた1話の絵コンテとPVも観させていただきました。

作品の世界観を理解する際、シナリオやコンテからイメージを膨らませたのでしょうか?

どちらかというと原作の漫画ですね。そこから世界観やキャラの心情といったものを想像しました。

『ハイスコアガール』に関してはどういう世界観や雰囲気を感じとりましたか?

実はスクエニ(スクウェア・エニックス)にお仕事で行ったとき、「『ハイスコアガール』っていう漫画があって『ストⅡ』が出てくるんですよ」という話はやっぱりされていて。でも、「漫画だから音出ないしね」という話を冗談でするくらいで手を出さずにいたんです。少女漫画は結構読むんですが、少年漫画系はあまり読まないので。でも、じっくり読んでみたらラブコメで少女漫画っぽいというか、「ちょっと胸がキュンキュンしちゃうわ」みたいな(笑)。6巻まで出ている段階で今回のお話をいただいたんですが、7巻以降は自分で買っています。

ジャンルとしてはスポ根にも近くて、いわゆるゲム根?(笑)。ただ、根性ものではないんですが、ゲームが人間の成長過程における重要なアイテムのひとつになっていますよね。私、漫画を読むときは最初さらさらーっと読んでしまい、目から入る絵の情報ばかりを追ってしまうので、昔を懐かしむ人に訴える漫画のような第一印象だったんですが、2回目に読んだら心情描写やラブコメ要素しか目に入らなくなりました。だから今、すごく続きが気になっているんです。「最後はどうなるのどうなるの」「大野〜〜!」という感じで感情移入しながら読んでいました(笑)。

なぜゲーム音楽らしさが出るのか自分でも教えてほしいくらい

仰られたように『ハイスコアガール』の本質はラブコメだと思います。一方、下村陽子さんはメインがゲームということもあって壮大な音楽を生み出されるイメージもあるのですが、音楽を手がけるうえでのヒントはどのあたりから?

ヒントと言いますか、今回、作曲した45曲中19曲が日常の曲なんですが、日常を描くシーン、つまり、「リアル」であればあるほど、実は音楽を必要としないと思うんです。私たちが普段話しているとき、音楽は流れていませんよね。『ハイスコアガール』も「どこかで、もしかしたらあったかもしれない話」ですし、登場人物にとっては当たり前の日常に対して曲が必要なのかと考えると、とにかく「フラット」。あってもなくてもいい、毒にも薬にもならない、「鳴っていることに気づかなかった」くらいの薄い曲がいいと思いました。「空気」のような曲ですね。

だから私としては、自分では下村らしさというものが正直わからないんですが、そういうのが「出ないように」という気持ちではいました。ただ、どうしても濃い方に向かうのか、「日常」の曲を書いたのに「心情」の「優しさ」に振られてしまい、そのメニュー曲ばかり増えてしまいました。かと思うと、ついコミカルな曲を7曲も作ってしまって、「どんだけコミカルな人生を送ってるの!」みたいになるとか(笑)。本当に「空気、空気、空気!」って思いながら作っていたんですが、どうしても、「なんとなくゲーム音楽っぽさを感じる」と言われるので、何が原因なのか私にその理由を教えてほしいと思っていました。今も考えていますよ(笑)。

第2話の冒頭、プール掃除をするハルオたちの後ろで流れる音楽を聴いたとき、私もゲーム音楽っぽいと思いました。3拍子のリズムにゆったりしたループのメロディが重なるという二層構造だからでしょうか。さらにそのメロディがRPGを感じさせました。

あぁ。ちょっと研究してみます。私としては違う人が書いたと言っても通じる曲を作ったつもりですが、やっぱり匂いがあるのかもしれませんね。次はそう思われないように頑張ります(笑)。

(笑)。フラットさという点は楽器面でも工夫されましたか?

私にとっていちばん身近なピアノ、それからふわっとしたものを作るときにいちばん好きな弦を主体にしています。だから、あくまでも私の中での「日常」に近い感覚ですね。といっても、私の日常でピアノと弦がいつも鳴っているわけではないですが(笑)。

ピアノ出身である下村さんとしては、もっともニュートラルなイメージで捉えられる楽器ということでしょうか?

そうですね。自分の気持ちとして「身近」なので。そこに木管やいろいろリズムを散りばめるイメージで、あえてシンセ系の音は避けています。なので「アコースティック」ですよね。制作段階で、シンセをもう少し増やしてはどうかという意見も出ましたが、どうしてもシンセというと電子音=ゲームの音ということになるので、そこはすみ分けようと考えました。

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