Interview

東 啓介が“初”会話劇に挑む。三島由紀夫のユーモラスかつシリアスな『命売ります』で観客に伝えたい役者としての新境地とは?

東 啓介が“初”会話劇に挑む。三島由紀夫のユーモラスかつシリアスな『命売ります』で観客に伝えたい役者としての新境地とは?

三島由紀夫原作の舞台『命売ります』が、11月24日(土)から、サンシャイン劇場にて上演される。 生きる意味を失った山田羽仁男という男が、自殺を試みたもののうまくいかず、それでも死ぬことに執着し、最後の手段として自分の命を売りに出したところ、とんでもない出来事に巻き込まれるという、ユーモアに溢れながら、三島らしいハードボイルドなストーリー。脚本・演出は、劇団はえぎわ主宰のノゾエ征爾。上村海成、市川しんぺー、不破万作、温水洋一と若手からベテランまで、個性派の俳優が脇を固める。
その舞台で、若干23歳の座長として山田羽仁男を演じる東 啓介にインタビュー。今作への意気込みから、自身の三島由紀夫観、役者人生が変わった舞台まで、様々な角度から『命売ります』の魅力を紐解いた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 岩田えり


今作に巡り合えたのは役者人生にとって大きな財産

原作の『命売ります』は、三島由紀夫作品の中でも読者が入り込みやすい作品だと思いますが、原作をお読みになられた感想を聞かせてください。

中学から高校にかけて三島由紀夫を知っていくのですが、とても難解で、しっかりと読み込んだことはありませんでした。今回出演させていただくことになって、初めて『命売ります』を読んだら、半日もかからずに読み終えてしまいました。内容もわかりやすく、ストーリーはドラマチックで、早く羽仁男を演じたくなって(笑)。原作がある作品では、僕が今まで演じてきたキャラクターとはタイプが違うので、演じることにやりがいを感じましたし、今作に巡り合えたのは役者人生にとって大きな財産になると思います。

主人公の山田羽仁男は、自殺をしたけれどうまくいかず、挙句に自分の命を売るというユニークな商売に身をやつすのですが、結局、何をしても空回ってしまう人物です。

職業はコピーライターをしていたわけですから、普通の人だと思うんです。それが、とあるきっかけで、ふと死にたくなって自殺未遂をした。漠然と“生”に対する不安を抱えることは、普通の人だからこそ生まれる感情だから、決して間違ってはいないので、誰しもが共感できるキャラクターだと思います。人生のルーティーンにどこか疲れ果て、生きることが欠落した結果、自殺するのではなくて誰かのために死ぬという選択肢を選ぶのに、周りのキャラクターに影響されて生き延びてしまうという不思議な設定ですね。本人は死にたいと思っているのに、逆に生きてしまう……生きることの難しさ、そして死ぬことの難しさも感じさせる人間味溢れるキャラクターだと思います。

羽仁男は僕が演じてきた役とは真逆の設定

今までの役柄と違うということですが、どういったところが違うのでしょうか。

これまでの役は、クライマックスにかけてテンションを上げていく役が多かったんです。「自分はこうなりたい」という意志が強くなり、「この人を守りたい」といった決意や覚悟を新たにしていく。いわゆる成長を遂げるわけですが、羽仁男は「死にたい。死にます」から始まるので、最初からクライマックスの状態です。そこから徐々に抜け殻になっていくので、僕が演じてきた役とは真逆の設定なんです。

三島といえば、今作もそうですが“ピストル”や“吸血鬼”といったどこかゴシックなものをモチーフにしているし、欧米の雰囲気も漂っています。今の段階でどのように演じていこうと思いますか。

おっしゃったように三島作品に対するイメージはたくさんありますが、脚本・演出のノゾエ征爾さんから「最初から演技プランを固めていかず、稽古で起こった化学反応でつくり上げていこう」とおっしゃっていただいたので、ありがたいですね。羽仁男という役は、周りに人がいなかったら何もできない役柄なので。ですから、三島の登場人物らしい真っ白ではない少しグレーな雑味を心にしまって現場に入りたいと思います。

プロットを拝見させていただいて、はえぎわのノゾエ征爾さんらしい、なんとも言えない脱力感があり、ユーモアが爆発したようで、心に残るものがありました。

僕もとても面白かったです。プロットを読んでいるというより、会話に聞き耳を立てている気がして、一気にのめり込みました。僕が演じる役なのに、羽仁男という役を俯瞰してしまうほど、自然と全体の映像が浮かんできましたね。

生きる活力を与える舞台にしたい

三島の永遠のテーマである“生と死”をモチーフにしている作品ですが、23歳の東さんにとってはどのようにお感じになられたのでしょう。

どんな人もいずれ死ぬかもしれませんが、同時に多くの新たな命が地球に生まれます。僕の大好きなバンドのRADWIMPSの「祈跡」という曲の歌詞に、“一秒間に何千万という命が生まれ、同時に一秒間に何千万の命が亡くなっていく”といったことが書かれていて共感した記憶があります。その歌詞が今作のテーマに通じていて、シリアの難民や南アフリカの子供たちが何もできずに死んでいく悲しい時代でありながら、同時に多くの尊い命がこの世界に生まれている。生きることも死ぬことも実は等価値のような気がします。この作品でも、なんとなく死んでしまいたいと思っている方に、生きる活力を与えられるようにしたいと思います。

1968年に週刊誌『週刊プレイボーイ』に連載された作品で。今でもそうですが、どちらかといえば、現代の若者、特に20代の男性にターゲットを絞った雑誌なので、その若者に合わせた原作だとも感じたのですが、20代の東さんは共感するところはありますか。

たしかに、若い人向けにピンポイントで書かれた作品だと思います。ただ、僕はもっと幅広い層、男性だけではなく女性でも共感できると思いますし、ちょっとしたユーモアだけでなくシリアスなシーンでも惹きつける部分があるから、どんな人でも楽しめる印象を受けました。冒頭から難しい単語が散りばめられていたり、専門用語があるわけではないし。しかも、NETFLIXの海外ドラマの第1話のように驚きの連続から始まる物語なので、ついつい引き込まれてしまうと思います。

今年は、同じくパルコの『豊饒の海』が上演され、老舗の新派でも三島作品がよく取り上げられていますし、“三島YEAR”なのかなと個人的に感じているのですが。

(笑)。三島の特徴である少しシュールな世界観、言葉選びが、改めて現代の人に受け入れられている気がします。言い回しや比喩がとても現代的なのではないでしょうか。例えば、いろいろな作品に出てくる血を吸う“ドラキュラ”というモチーフは、近年、流行の兆しがある結核のような病気の比喩だったりするかもしれないし、いろいろな解釈ができるので、今まで三島作品を知らなかった若い読者を巻き込みながら、再び注目されているのだと思います。

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