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6人の監督が作り上げた超異質の劇場アニメ。『フリクリ プログレ』その全貌─18年を経て、伝説の作品から受け継がれた精神とは?

6人の監督が作り上げた超異質の劇場アニメ。『フリクリ プログレ』その全貌─18年を経て、伝説の作品から受け継がれた精神とは?

2000年から全6巻のOVAとして発売されるや否や、奇想天外でカッ飛んだ内容、そして独特すぎる世界観で多くのアニメファンを虜にした『フリクリ』。その人気は国内のみに留まらず、海外のジャパニメーションファンにまで波及していき、今なおカルト的人気を博している。そして、もはや「伝説」と化している『フリクリ』が、新たな伝説をここに生み出した。OVA第1巻の発売から18年の時を経て、完全新作の劇場アニメが2本制作されたのだ。

『フリクリ オルタナ』と『フリクリ プログレ』と冠された2作品は、同じ『フリクリ』シリーズでありながらも、登場人物やキャスト陣だけでなく、制作スタジオや監督まで異なっている。この一風変わった制作体制から生まれた『フリクリ プログレ』(以下『プログレ』)について、制作に携わっている6人の監督のひとりである海谷敏久への取材をもとに紐解いていく。

取材・文 / 福西輝明


『フリクリ』――思春期に差し掛かる少年と破天荒極まる自称「宇宙人」という未知との遭遇

本題に入る前に、まずは前作の『フリクリ』についておさらいしておこう。地方都市・疎瀬(まばせ)で暮らす小学5年生のナンダバ・ナオ太は、兄の元恋人である女子高生・サメジマ・マミ美から、誘惑じみたちょっかいを出される日々を送っていた。当たり前すぎる日常に辟易しながらも、諦観にも似た心持ちで受け入れていたナオ太に、突如として異常事態が降りかかる。自称「宇宙人」のハルハラ・ハル子が乗ったベスパにはね飛ばされ、愛用のベースで殴られたナオ太の額に角が生え、さらにそこから謎の人型ロボット「カンチ」が出現したのだ。さらに、傍若無人で破天荒なハル子が住み込みの家政婦としてやってきたことで、ナオ太の平凡な日常は崩されていく。

……と、ストーリーのあらすじを読んでも、未見の人にはおそらく何が何やらわからないかもしれない。じつは、この裏には緻密なSF設定や伏線があったりするのだが、そんなものを気にしている余裕などないほどの勢いで物語は進行していく。ケレン味あふれる演出とジェットコースターのような勢いこそが『フリクリ』の真骨頂。「Don’t think ! Feel.」(考えるな、感じるんだ)を地で行く、ポップでクレイジーな作品なのである。

『フリクリ プログレ』――あふれそうなモヤモヤを抱えた少女と自称「宇宙捜査官」×2という未知との遭遇

新作映画である『プログレ』は、『フリクリ』の設定を一部受け継ぎつつも、異なる登場人物たちのドラマを描いた作品となっている。寡黙な女子中学生である雲雀弄(ひばじり)ヒドミは、他人とあまり関わりをもたずに過ごしている。母親とカフェを営みながら、戻ってこない父の帰りを待つ日々を送るヒドミの日常は、「宇宙捜査官」を名乗る謎の女性・ジンユとの出会いで崩壊する。『フリクリ』のナオ太と同じく、額から様々なメカが出現するようになってしまったのだ。さらにそこへ、もうひとりの「宇宙捜査官」であるラハルが、己の野望を達成するためヒドミに接触を図ってくる。そして、「ハルハラ・ハル子」から分かたれた2つの存在であるラハルとジンユは、ヒドミを巡って激しい攻防を繰り広げていくことになる。

6人の監督によって受け継がれた「フリクリイズム」

全6話のエピソードを1本の劇場用アニメとしてまとめた『プログレ』は、荒井和人、海谷敏久、小川優樹、井端義秀、末澤慧、博史池畠という6人が、それぞれのエピソードの監督を務めている。「狂信的な『フリクリ』愛を持つクリエイターたちが手掛けた」と銘打たれた本作を制作するにあたって、第2話の監督を務めた海谷は次のように語っている。

海谷「初めて『フリクリ』を見た時は、毎話ごとにスタッフが楽しみながら作っている感じがとても印象的でした。ケレン味あふれるハジケた作画も、非常にインパクトがあって魅力的でした。そんな『フリクリ』の新作を作ることになった際、どんな方向性でいくのかのミーティングがあったんです。『フリクリ』から何を受け継ぐべきなのか。何を盛り込み、何を踏襲すべきなのかと。でも、それらに囚われすぎては、逆に『フリクリ』ではなくなってしまう。「盛り込むべき、踏襲すべき要素」からはみ出すくらいでないと、新たな道は切り開けない。「主人公の頭からメカが出る」「毎話派手なアクションがある」「the pillowsの音楽がある」このあたりの「お約束」さえ守っておけば大丈夫。……というくらいの気持ちで、自由にやらせていただきました」

各エピソードを手掛ける監督ごとに異なる「色」

本作は総監督に本広克行、そして『フリクリ』の監督を務めた鶴巻和哉がスーパーバイザーとしてクレジットされている。しかし、各エピソードの制作は6人の監督それぞれの裁量に委ねられていたという。

海谷「最初、監督6人で何度かミーティングを開いて、アイディアを出し合ったりしました。そこで出たものを使わせていただいたり、逆に使っていただいたりといったことはありましたが、「各話、自由に作ってよし!」ということでしたので、以降は基本的に自分が担当する話数の作業に集中し、お互いに干渉することはほとんどありませんでした。そのため、エピソードごとに各監督の個性が強烈に押し出されるという、『プログレ』独特の作風につながったのだと思います。

僕が監督を務めた第2話は、まだまだ物語の序盤なので、ヒドミや井出は突如現れたラハルに引っ掻き回されて、ワケが分からない状態であることを念頭に置いて作りました。彼らをイキイキと描くために、キャラクターの内面の深いところを描くのは前後の話数に任せて、僕の担当話数は「ドタバタ回」として純粋にお客さんに楽しんでいただければいいかなと。ちなみに、最近のアニメはスケジュールなどの都合から、大人数のスタッフで作画するのが通例となっています。でも、じつは『プログレ』第2話は、ほぼひとりで作画しているんです。これは、かなりすごいことですよ」

突拍子もない、投げっぱなしのギャグが盛り込まれる話数があったり、水彩画のような色使いで描かれる話数があるなど、『プログレ』は話数ごとに監督の個性が際立っている。下手をすると、それは統一感のなさにつながりかねない。しかし、本作の場合はそれが良い方向に作用している。次の話数では何が飛び出してくるのかわからない。破天荒すぎる物語展開も相まって、びっくり箱的な楽しみがあるのだ。

ヒドミの深層心理の発露である「夢」

各エピソードの冒頭は、ヒドミの夢のシーンから幕を開ける。その内容は、登場人物たちがゾンビになって共食いし始めたり、ヒドミが崩壊した世界をさまようなど、破滅的でグロテスクなものばかり。常識的に考えればそれは悪夢でしかないのだが、ヒドミ自身はそれらの夢に心地よさと解放感さえ感じているようにも見える。じつは、それらはヒドミの深層心理の発露であり、夢を構成する要素ひとつひとつに、口数が少なく内面が見えにくい彼女の「本音」が隠されているのである。海谷監督は「特に気合を入れて作ったのは、冒頭の夢のシーンです。他の話数の夢のシーンも、じつに個性的で楽しかったです」と語ってくれたが、本作の主人公であるヒドミというキャラクターを描くうえでは、非常に重要なシーンだったと言えるだろう。

かつて筆者が『フリクリ』を見た時、「これほど破天荒な作品は、もう出てこないだろう」と感じた。あまりにも自由で、猛スピードで突っ走る作風は、まさに「暴走特急」。しかし、観ながら感じる突き抜けた爽快感は、他に代えがたいものがあった。だからこそ、『フリクリ』の新作が作られると聞いた時は、正直それほど期待していなかった。あれほどのインパクトを持つ作品には、もう出会えないと思っていたからだ。だが、『プログレ』はまぎれもなく『フリクリ』だった。6人の監督が、それぞれの「フリクリイズム」を映像にぶちまけていることが、如実に伝わってくるのだ。『フリクリ』に囚われすぎず、新たな道を行く。それこそが、道なき道の先駆者となった『フリクリ』から受け継いだ精神だったのではないだろうか。

劇場版『フリクリ プログレ』

絶賛公開中

ありとあらゆる命題に明確な答えを用意せず、生理的欲動の充足のみをシコシコ満喫しその日暮らすような説得力ゼロ青少年たち。
その中でなんてことない日常を過ごすヘッドフォンの少女ヒドミ。
彼女が轢かれた夜、クラスメイトの少年・井出の額から巨大ロボットが出現した!
ハル子から分裂したラハルとジンユと出会い、〝特別なことなんてない日常〟が終わりを告げる―!!!!!

■スタッフ
監督:荒井和人/海谷敏久/小川優樹/井端義秀/末澤慧/博史池畠
脚本:岩井秀人
キャラクター原案:貞本義行
キャラクターデザイン:久保田誓
サブキャラクターデザイン:米山舞
メカデザイン:押山清高(スタジオドリアン)
プロップデザイン:村山章子/久原陽子
美術監督:荒井和浩
色彩設計:有澤法子
CGディレクター:高柳陽
撮影監督:田中宏侍
編集:濱宇津妙子
音楽監督・音楽:R・O・N
音響監督:なかのとおる
主題歌:the pillows「Spiky Seeds」
スーパーバイザー:鶴巻和哉
総監督:本広克行
アニメーション制作:Production I.G
配給:東宝映像事業部
製作:劇場版フリクリ製作委員会

■キャスト 
ハルハ・ラハル:林原めぐみ
ジンユ:沢城みゆき
雲雀弄ヒドミ:水瀬いのり
井出 交:福山 潤
森 吾郎:村中 知
マルコ野方:中澤まさとも
アイコ:黒沢ともよ
雲雀弄ヒナエ:井上喜久子
マスラオ:大倉孝二
アイパッチ:菅生隆之
屯吉:浦山 迅
花枝タミ:鈴木れい子

劇場版『フリクリ』オフィシャルサイト

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