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Mr.Children ニュー・アルバム『重力と呼吸』。大切だけど、普段は意識していないことに気づこうとする姿勢 <前編>

Mr.Children ニュー・アルバム『重力と呼吸』。大切だけど、普段は意識していないことに気づこうとする姿勢 <前編>

10月3日にリリースされた『重力と呼吸』。今はこうして記事を書いているが、ひとりの音楽ファンとして、長く聴き続ける作品集になりそうだ。彼らは変わった。そのことで、新たな刺激を受けた。そして彼らは変わらない。そこに育まれる信頼も大きい。何より彼ら自身が、ますますMr.Childrenに自信を持てたことが分かる。そこから伝わる説得力が、このアルバムに溢れている。

文 / 小貫信昭


『重力と呼吸』というタイトルには、どんな意味があるのだろう。こんな解釈はどうだろうか。世の中には、かけがえのない大切なものがある。でも、それを普段、意識してはいないことも多い。今、私達が地面を踏みしめて歩けるのは「重力」のおかげだ。生きていられるのは「呼吸」しているからなのだ。でも、毎分毎秒、「重力」や「呼吸」のことを特別なものとして感じているわけではない。このように、大切だけど、普段は意識していない大切なことに気づこうとするのが、このアルバムだろう。

彼ら自身にとって、その大切なものとは何だろう? バンドかもしれない。ティーンの頃に出会い、デビューして四半世紀の時を経た今となれば、お互いを空気のように感じていても不思議じゃない。それは悪い事ではない。でも、彼らが改めて、バンドへの慈しみを深めつつ、今回のアルバム制作に没頭したということは想像できる。そして誕生した正真正銘の“バンド作品”がこのアルバムなのかもしれない。

実際、ファンクラブの会報「FATHER&MOTHER」9月号(No.79)において、桜井和寿は「今回は歌を聴いてもらいたいというよりも、バンドの音を聴いてもらいたいっていう欲求が強かった」と語っている。もちろん、歌は聴かなくてもいい、というわけではないだろう。届けたいのは今も昔も「作品」であることは変わらないはずだし、Mr.Childrenの作品は、当然ながらボーカル・ミュージックの範疇にもある。でも今回は、“特にバンドの音には自信ありますよ!”、ということなのではなかろうか。

1曲目は既にMVでも耳にしている「Your Song」だ。ドラムの鈴木英哉が“ワーン、ツー!!”と、力強い声でカウントし、さらにイントロで、いきなり桜井がシャウトする。ロック魂が剥き出しだ。しかし、ただ音圧にモノを言わせるのではない。しなやかで強い。この感覚は、若手のバンドには出せないものかもしれない。

「Your Song」といえば、エルトン・ジョンの名作と同じタイトルだ。較べるわけじゃないが、Mr.Children版での“Your”が、誰を指すのかが気になる。すると、“君じゃなきゃ”という、印象的な歌詞が届いてくる。この歌の主人公にとって、“君”の存在こそが“重力”であり“呼吸”かもしれない。もちろんこの歌は、これまでバンドを支えてきてくれた、すべてのファンに対しての「Your Song」でもある。

2曲目は「海にて、心は裸になりたがる」。ちょっと哲学的な響きだ。色んな立場、色んな性格の“あなた”に呼び掛けていく歌である。もう、漏らさず丹念に呼び掛けるあたり、民主主義の精神にも通じる(きっと貴方のことも歌われている)。そして皆の心を裸にしていく。演奏は、“♪ディアガガディガガ”と屈託なく、かつてのビート・パンクっぽい雰囲気である。ライブで演奏するのが楽しそうだ。

次はテレビ朝日系 木曜ドラマ『ハゲタカ』主題歌の「SINGLES」だ。“僕が僕で”、“君が君で”あるために、どうすべきかを歌う。恋の始まりの歌なのか、はたまた終わりの歌なのか、どちらにも受取ることが可能だ。聴く人の心理状態で、どちらにも聞こえる。

この作品については長めに書く。バンドのサウンドが、録音方法を含め、興味深い。ドラム・ベース・ギター・キーボードの定位が、実に自由なのだ。鈴木のドラムの音は、右(R)側と左(L)側にまたがっていて、しかも左右だけじゃなく、おのおのの上下からも臨機応変に響く。

中川敬輔のベースは中央で生命力豊かにうねり続ける。桜井のボーカルは当然中央から聞こえるので、ふたつが密接に感じられる。ベースが歌の主メロに裏メロのように絡むかのような瞬間もある。これが意識的なのか無意識なのか判別出来ないあたりも、演奏のリアリティを高めるのだ。

左(L)には田原健一のギタ−が音の色彩を放ち、ワン・コーラス目はスタッカートぎみのアクセント、さらに桜井の歌にオブリを入れつつ、サビへとフレーズも雄弁に育てていく。しかしツー・コーラス目は滲んだニュアンスのフレーズを優先し、変化のある演奏を試みている。

この曲はさらにその先に、いっそう緊張感が増す全員一丸の間奏も用意される。パーカッシヴに変貌したピアノや、桜井が弾いてると思われるハード・エッジなギターも切れ込んでくる。最後のサビは、ぶ厚い雲を抜けたあとのように音数少ない見晴らしの良い雰囲気で歌われ、そしてカット・アウトで終わる(ただ、ここに書き切れなかった音が、もっと聞こえてくる。みなさんもぜひ、自分の耳で確かめて欲しい) 

「here comes my love」については以前も書いたが、つくづくメロディというものは、上がったら下がり、下がったら上がる宿命であり、そこに芽生える機微が、聴くものの心の琴線に、いかに触れるのかが勝負なのだろう(特にバラードは)。この歌を聴いていると、予めメロディの全貌を知っている桜井が、聴き手の我々を失望させることなく、次の展開への気配も適宜その声に忍ばせつつ、降りそそぐ愛の世界へ誘っていく。

ピアノは歌を支えるというより一心同体な雰囲気。“巨大な鯨”(歌詞より)と歌うと、まさに海面からクジラが浮上するように田原のギターが頭をもたげ、写実的だ。盛り上がりに盛り上がり、溜めて溜めて桜井のギター・ソロが入るあたりの、目の前がパッと開けるあたりの感覚は、往年のブリティッシュ・ロック・グループ、クイーンのようでもある。

後編はこちら
Mr.Children ニュー・アルバム『重力と呼吸』。大切だけど、普段は意識していないことに気づこうとする姿勢 <後編>

Mr.Children ニュー・アルバム『重力と呼吸』。大切だけど、普段は意識していないことに気づこうとする姿勢 <後編>

2018.10.04

ライブ情報

Mr.Children Tour 2018-19
重力と呼吸

<2018年>
10月6日- 10月7日 広島 広島グリーンアリーナ
10月13日- 10月14日 宮城 宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ
10月20日- 10月21日 和歌山 和歌山ビッグホエール
10月27日- 10月28日 北海道 函館アリーナ
11月3日- 11月4日 北海道 北海道立総合体育センター 北海きたえーる
11月10日- 11月11日 福井 サンドーム福井
11月17日- 11月18日 埼玉 さいたまスーパーアリーナ
11月23日- 11月24日 大分 別府ビーコンプラザ
11月28日- 11月29日 神奈川 横浜アリーナ
12月5日- 12月6日 愛知 日本ガイシホール
12月15日- 12月16日 福岡 マリンメッセ福岡
12月22 日- 12月23日 大阪 大阪城ホール

<2019年>
2月2日 台湾 台北アリーナ

Mr.Children

1992年ミニアルバム「EVERYTHING」でデビュー。1994年シングル「innocent world」で第36回日本レコード大賞、2004年シングル「Sign」で第46回日本レコード大賞を受賞。「Tomorrow never knows」「名もなき詩」「終わりなき旅」「しるし」「足音 ~Be Strong」など数々の大ヒット・シングルを世に送り出す。これまでに37枚のシングル、18枚のオリジナルアルバム、4枚のベストアルバムをリリース。

オフィシャルサイト
http://www.mrchildren.jp