Interview

「結論としては、村田修一を呼べ、っていうことだと思います(笑)」読むとプロ野球が超面白くなる! モンスターブロガー・中溝康隆の『プロ野球死亡遊戯』

「結論としては、村田修一を呼べ、っていうことだと思います(笑)」読むとプロ野球が超面白くなる! モンスターブロガー・中溝康隆の『プロ野球死亡遊戯』

「プロ野球死亡遊戯」。これを聞いてピンと来る人は、熱いプロ野球ファン、もしくは巨人ファンだろう。これはプロ野球界では有名な超人気ブログのタイトルであり、著者の代名詞とも言えるものだ。

本書は、著者が2010~2018年まで書いていたブログやWebメディアに掲載されたコラムから、厳選してまとめたベスト版。巨人を中心に、現役選手から、レジェンド級の選手、助っ人外国人選手まで、数々の人物をピックアップ。現在はプロのライターとして活躍している著者だが、ファンとしてのユニークかつマニアックな視点で展開されるエピソードは、球場で見てきた試合について、居酒屋でわいわい語っているような気楽さと痛快さがある。

2018年のプロ野球ペナントレースも終盤、元巨人でBCリーグ栃木の村田修一が引退し、巨人の杉内俊哉、横浜の後藤武敏も今季限りでの引退を発表。いわゆる“松坂世代”の選手が相次いで球界を去ることになり、世代交代の大きな波が押し寄せている今のプロ野球について、さまざまに語ってもらった。

取材・文 / 四戸咲子
撮影 / エンタメステーション編集部

記者席じゃなくて、客席だからこそ見える景色がある。

プロ野球を好きになったのはいつからですか?

僕は1979年生まれで、テレビをつけたら巨人戦をやってる世代だったんです。地元のテレビ埼玉をつけたら西武戦もやっていて、西武も強かったんですけど、“巨人=キラキラした東京”というか、埼玉県人特有の憧れみたいなものがありましたね。

特に好きな選手はいたんですか?

やっぱり原辰徳ですね。4つ上の兄が中畑清ファンで、担当を分けるみたいな(笑)。今よりも日常にプロ野球があふれていて、日本シリーズも巨人と西武が戦えば視聴率が40%超えというレベルだったので、プロ野球が一番輝いていた最後の時代を見ることができたのかもしれませんね。

ブログを書き始めた経緯は?

ずっとプロ野球は大好きだったけど、Jリーグが始まり、サッカー日本代表にドハマりして、さらに就職したのがサッカー関係のデザインの会社だったんです。それでプロ野球とちょっと距離を取って客観的に見たときに、当時の巨人の立ち位置とかが、なんか古いなって思ったんですよ。

しかも、2004年ぐらいに、巨人が“悪の元凶”みたいに言われてた時代があって、野球ファン内でも巨人ファンっていうと肩身が狭い感じがあったんです。大好きだった球団なので、さみしいのもありましたし、メディアももうちょっと報道の仕方があるんじゃないかなって思っていて。

その後、転職したんですが、前は残業ばかりで終電で帰っていたのが、18時に帰れるようになった。そうなると、野球観戦にちょうどいいわけです。それでもう一度観に行くようになると、やっぱり野球っておもしろいな、自分でも何か発信できればな、と思って、2010年からブログ「プロ野球死亡遊戯」を始めました。

ブログで何かを発信し続けるって大変なことだと思いますし、おもしろくなければ読者もつかない。中溝さんのブログは、データもきちんとしていながら、軽妙でテンポがいいし、何より表現が豊かで、「ジャパネットたはら(田原誠次)」とか「セペダとはまゆゆである」とか、お笑い芸人さんの“例えツッコミ”並みに絶妙というか(笑)。

それは……喜んでいいんですかね(笑)。ありがとうございます。

鋭くツッコミながらも、ちゃんと愛があって。そういった視点というのは、どのように培われたのでしょうか。

野球界に何のしがらみもなく、めちゃくちゃ好きに書ける立場だったんです。要は“ファン”なので、野球を見ながら友達と話してて、これ面白いなと思った内容をそのまま文章に書いちゃうみたいな感じで。たぶん素人だからできたことだと思います。

でも、僕のブログが支持されたのって、実は運やタイミングも大きいと思うんです。ちょうど2010年代の初頭から今に至るまで、巨人が一番変わってきた時期で、そこに巨人に対して今までと違う書き方をする人間が出てきた。それこそ、始めた当初は、オールドファンの方が超怒ってコメントを書いてくることもあって(笑)。

巨人をバカにするな、みたいな。

そうです。そもそも、巨人に限らず野球系の記事ってガチンコが多いんですよ。本人に取材もするし失礼にならないように、って書く人が多いので。でも僕は、プロ野球もオネーチャンも漫画もゲームも、そのへんを全部並列に書きたかったんです。だって、観る人にとってはそうじゃないですか。

たしかに、全部エンタメですものね。「もしも道端で倒れている巨乳グラビアアイドルと巨人村田修一のどちらか一人しか助けられないとしたら、俺は迷いなく村田さんを助けるだろう」とか、最高に面白いですけど、さすがに記者では書けない(笑)。

そりゃあそうですよね。だから、そのへんもまさにファンならではの強みで。記者席じゃなくて、客席だからこそ見える景色がある。例えば、近くの席で喧嘩してるカップルが、坂本(勇人)がホームランを打つと、思わずハイタッチするみたいな(笑)。そういうのをちゃんと見て、書きたいなというのはありましたね。

やっぱりプロ野球ファンって選手と何かを共有したいんですよ。

さきほどの「巨人が変わってきた」という話ですが、どう変わりましたか?

単純に、勝てなくなりましたからね。巨人ファンは、ちょっと前まで負けると皆、怒り狂ってたんですけど(笑)、最近は、「負けたけど岡本(和真)がホームラン打ったね」とか「菅野(智之)がタイトル獲ったね」とか、負けた試合でも救いをどこかに作り出してるんですよ。だから書く方もそこをきちんと拾っていくという。

勝てなくなったことで、書くことに広がりが出てきた。

そうですね。プロスポーツって、勝ちすぎちゃうと、それに慣れてきて観客動員も落ちるらしいんです。それでも、今の巨人は語り甲斐があるし、逆にV9時代より全然おもしろいんじゃないかなって。

ちなみに本書では、村田選手について、1章丸々使っていますよね。そんな思い入れのある村田選手がついに引退してしまいました。

引退試合の日、栃木の球場に行って来たんですけど、6000人入ったんですよ。超満員で入場規制がかかるぐらいで。変な話ですけど、村田さんって昨季巨人を自由契約になってから、さらにファンが増えたなって思いますよね。

たしかに村田選手の去就についてメディアもファンも注目していたと思いますが、それはなぜだと思いますか?

そこがプロ野球の面白いところで、やっぱりファンって選手と何かを共有したいんですよ。村田さんみたいに、頑張ってるけど評価されない、というようなことって一般の会社員の方も持っている気持ちだし、僕も会社員時代にすごく感じたことなので、それを体現して、でも負けずに頑張ってる村田さんの姿に、いつの間にか自分を重ねている。しかも、横浜から巨人に移籍してきた当初は、なかなかファンに受け入れてもらえない時期もあったりして。

移籍は転職に置き換えられますもんね。

はい。横浜時代は、好き勝手やって、でも結果は出すよ、みたいなタイプだったのが、巨人に来た村田さんは、すごく居心地の悪い転校生みたいな感じで(笑)。でも、巨人特有のプレッシャーに苦戦する選手が多い中、逃げずに頑張って、結局最初の3年間ぐらいは、ほぼフル出場してるんです。野球も会社と同じで、転職組より生え抜きのほうが立場が強いですからね。そういう姿って、「なんか会社かったるいけど、でも行こうか」みたいな感じとすごく似てるのかな、と。

テレビの前で野球をみながら野次っていたおじさんはどこへ消えた?

プロ野球が一番輝いていた時代を経て、今や地上波でのテレビ中継も激減していますが、プロ野球はどんな時代になってきたと思いますか?

エンタメとして完成されつつあると思います。人気が落ちていると思われがちですが、観客動員も伸びているんです。要はテレビで見るものから球場で見るものに変わってきている。でも同時に、テレビの前で好き勝手に野次ってたおじさんたちは、若干寂しいところもあると思います。特に巨人なんて80年代の平均視聴率が20%を超えていたので、その人たちは今をどこで何してるんだ、と。

今も皆さん、何らかの方法で野球は見ているんでしょうかね。

甲子園が人気なのはそこだと思うんですよね。期間は限定されますが、テレビをつけたらNHKとかでずっとやってるから、誰でも見ることができる。あれは大きいですよね。それこそ今、プロ野球をきちんと見ようと思ったら、動画配信サービスと契約して、月々2000円弱払って……って、すごくハードルが高い。浅く広く見るには大変な時代だなって感じますよね。今、少年野球をやっている子も少ないらしくて。

たしかに、サッカーのほうが人気があるイメージかもしれない。

やめないように、すごく大事にされるらしいです(笑)。ただ、それ聞いた時に、そういう中からいい選手が生まれるのかなと心配になって。10年、20年後の野球のプレーレベルってどうなっているんだろう、と。…って、僕はどの立場で話しているんだっていう(笑)。

でも、客観的にも見ているからこそ、そう思うわけですよね。

時代の流れに適応してやっていくしかないのは分かっているんですが、やっぱりテレビのゴールデンタイムで巨人戦を見ていた世代からすると、どこか原辰徳を求めちゃう、みたいな(笑)。やっぱり原さんや、松井(秀喜)さんやイチロー選手ぐらいのスーパースターが必要なんじゃないか、って。例えば今年だったら、岡本が3割30本打っていて、20年前だったら、テレビや CMにバンバン出まくってるレベルだと思うんですよ。それが、僕が一般紙でコラムを書く時に、「一般読者はあまり岡本のことを知らないので、阿部(慎之助)にしてください」とか言われますから。

スターが誕生しにくい環境になってしまった。

そうだと思います。今、“甲子園の人気者”がそのままプロ野球でも話題になるっていう流れなんですね。だからプロ野球発のスターをどう作るか、というのは難しいと思うし、メディアの課題でもあるのかなと思っていて。僕らが子供の頃って、クラスの男子が全員、なぜか巨人のスタメンを知っている、みたいなことがあったんだけど、今はそういうのはないでしょうね。日本国民の野球偏差値がすごく高かった。

「FAで広島の丸(佳浩)獲るでしょ」ぐらいのデタラメさっていうのが、巨人の魅力だった

当時、巨人のグッズみたいなものってすごく出回っていましたよね。なぜかどの家にも一つぐらいはある、という(笑)。

ありましたよね。今、巨人のファンなんか、ものすごく謙虚になっていますから。最近だと、甲子園で注目された金足農業高校の吉田(輝星)くんが、「巨人ファンです」とコメントしたんですが、昔だったら「当然でしょ」っていう感じだったのが、今は「え、マジで? 広島とかじゃなくていいんだ」みたいな(笑)。しょうがないなと思う半面、“謙虚な巨人ファン”はやめた方がいいんじゃないか、という思いもあって。「FAで広島の丸(佳浩)獲るでしょ」ぐらいのデタラメさっていうのが、巨人の魅力だったと思うから、それは捨ててほしくないなっていうのは感じますよね。ただ今、例えばネットとかで 「FA丸獲ろう」って書いたら炎上しますから(笑)。そのへんが野球コラムの難しいところです。

野球ライターとして、今後こうしていきたい、というのはありますか?

やっぱり、今のプロ野球は魅力的だよっていうのをすごく上手くプレゼンできたらいいですよね。こうして文庫本になることで、熱狂的野球ファンじゃない人も手に取ってくれると思うので、プロ野球見てみようかなって思ってもらいたいな、っていうのはすごく意識しました。

プロ野球が輝いていた時代からの変化を見てきた世代として、過去と未来のかけはし的な立場でもありますよね。

僕は今39歳なんですが、40歳前後って、会社でも上と下のつなぎ役じゃないですか。何なら今の自分の役割的には、多分そこなんだろうな、と。20代の子にも50代の方にもどっちも分かってもらえたらすごくうれしい。過去に寄せすぎると、“昔はよかった”になっちゃうので、うまい具合に今と過去をミックスして書いていきたいですね。

“カープ女子”のように女性ファンも増えてきて、ファンの幅もずいぶん広がってきています。

そうですね。でも一方で、オールドファンが切り捨てられちゃってる部分も否めないので、もうちょっと過去も大事にしてもらいたいな、って思うんですよね。

なかなか難しいですよね。老若男女が共存できて、皆で盛り上がるにはどうしたらいいのか。

結論としては、村田修一を呼べ、っていうことだと思います(笑)。

中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。東京ドームを中心に年間約40試合球場観戦をするライター兼デザイナー。2010年10月より開設したブログ『プロ野球死亡遊戯』は現役選手の間でも話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人担当として初代日本一に輝いた。ベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)が好評発売中!

Twitter
@shibouyuugi

Facebook
@proyakyu.shibouyuugi

Number Web 連載コラム「ぶら野球」
https://number.bunshun.jp/category/burabaseball

書籍情報

『プロ野球死亡遊戯』

中溝康隆(著)
文春文庫

糸井重里さんも絶賛。「おもしろいから読め。評論家よりOBより俺たちの声。」今最もホットなモンスターブロガーによる痛快野球エッセイ!誰が言ったか、プロ野球人気の凋落。たしかに、地上波のテレビ局もバックレた。時の流れは残酷だ。俺たちのプロ野球、終わっちゃったのかなあ……。バカヤローまだ始まっちゃいねえよ。プロ野球は永久に終わらない連続ドラマだ。ブログを始めた当初は化粧品会社デザイナーで野球界に何のコネもない素人。それが人気ブロガーとなり、野球コラム企画で日本一に。糸井重里×入江眞子×中溝康隆の座談会と、えのきどいちろうのコラムも収録。