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川栄李奈が泣きじゃくれば、廣瀬智紀がそっと抱き。“胸キュン!!”炸裂のラブファンタジー舞台『カレフォン』上演中

川栄李奈が泣きじゃくれば、廣瀬智紀がそっと抱き。“胸キュン!!”炸裂のラブファンタジー舞台『カレフォン』上演中

10月4日(木)からオルタナティブシアターにて、舞台『カレフォン』が上演中だ。川栄李奈演じる結城 茜という声優志望の女性の亡くなった“カレ”(廣瀬智紀)が、昔のスマホを通して彼女を応援するというファンタジー作品。そのゲネプロと初日前挨拶が行われた。

取材・文・撮影 / 竹下力

川栄李奈が“泣き”の演技で観客を魅了する

光陰矢の如しで、あっという間におっさんになった私だが、もし、これが夢なら醒めないで欲しいと思った出来事は何個かある。例えば、西東京市の田無にある児童公園で告白したとき。断られたときの言い訳を200個ぐらい考えていた。それでも、隣りに寝ている彼女の寝顔。そっと頬に覆いかぶさっている髪の毛とその匂い。起こしたくないなって思った。けれど、ふたりで同棲していた田無駅すぐ側のアパートの6畳の小さな部屋のさらに小さな白い机の上に合鍵を置かれてしまったこと。ひとりぼっちになったこと。そういう日に限ってやたらに冷たい雨が降っていたこと。そういうことなら夢であって欲しいと思う。ちなみに、これらはすべて本当の話。現実でも夢でも、いつだって、恋をするのは難しい。

恋をしようがしまいが、どっちにしたって、悲惨な現実は否応なく押し寄せてくる。夢見ることに疲れ、現実に負けた人たちはたくさんいる。幼い頃に見ていた果てない夢は、いつか手の届かないところに行ってしまう。そうしてあくせく日々を生活しなくちゃいけない。現実は過酷だ。でも、この舞台はこうポジティブに勇気づけてくれる。「そんな人生なんてまっぴらごめんだと心の底から言ってしまおう」と。

大塚 愛の「Dear,you」のエモーショナルな曲が流れるなか、舞台中央に小柄な川栄李奈がやってくると物語は始まる。結城 茜(川栄李奈)が、がらんどうとした部屋でとある夢を見ている。彼女は2年前に亡くなった“カレ”、藤原 駿(廣瀬智紀)と出会っている。今でも彼女は彼のことが忘れられないままだ。

茜の夢は、大好きな“カレ”と一緒にいること、それから声優になることだった。特に声優は幼い頃からの夢。“カレ”が亡くなって2年経っても、その夢だけは諦めきれずに、働きながら実現させようと決意している。そんな彼女が勤める先は、御曹司の桐生 陸(戸塚純貴)が2代目になる予定の鞄会社のクレーム係だ。

同僚には、奥さんと離婚し、クレーム係に飛ばされて2度と出世できないと思い込み、日々SNSに悪口を書くことに生き甲斐を見出す、パワハラ上司こと玉木健一(山崎樹範)や、モデル事務所に入っているものの、モデルの仕事ではさっぱり稼げない花田裕美(柳 美稀)がいる。そこから、茜の回想、過去と現実のシーンがテンポよくクルクル回っていく。

藤原 駿(廣瀬智紀)が登場する。どうやら彼の高校生のときの話らしい。彼は高校生のとき野球部のエースピッチャーだった。しかし、地方大会の最中に肩を壊してしまい、プロ野球選手になる夢を諦めてしまう。そして、今まで「天才だ、天才だ」とちやほやしてきた人間にいきなりそっぽを向かれた経験から人間不信に陥って、「夢を描くなんてただの戯言」と思ってしまう。

そこから数年後、とある居酒屋で働いている駿の元に茜がバイトとして入ってくる。茜は声優のオーディションを受けては落ちてを繰り返し、それでも夢を諦めきれない、根性の座った女の子だった。しかし、駿は残酷にもこんなふうに言い放つ──「夢を見たって無駄に終わるから諦めろよ」。茜は夢を諦めるなら死んだほうがマシだと言わんばかりの表情で頑なに駿の言葉を受けつけない。「だったら居酒屋の外の池に飛び込んでみろ」と駿にハッパをかけられ、茜は勢いよく池に飛び込むと、そこは立ち入り禁止の皇居のお堀の池だった。警察に囲まれ、注意される茜。あっけにとられた駿の固く閉ざされた心の壁にヒビが入る。駿は次第に茜に惹かれていくのだった。

そうして、クリスマスイブの日に居酒屋に飾るツリーのデコレーションを一緒にしたりするなかでふたりの距離はどんどん近づいていく。お互い付き合っている人もいない。「さあ、さあ」と運命の神様が急き立てる。クリスマスプレゼントを交換しあったし、邪魔するものは何もない、どちらかが告ったらもうカップル成立です、という雰囲気になる。

数日後、駿は居酒屋の草野球チームに急遽スケットを頼まれ、久しぶりに大好きだった野球をプレーすることになる。初めはイヤイヤだったけれど、茜のおかげもあって改めて野球の楽しさを知る。茜への想いが溢れ出た駿は応援しにきた茜にとうとう告白。彼女を抱きしめる。茜もしっかりと駿の存在を受け止める。そうして恋は始まる。ふたりの未来は順風満帆かに見えた。

しかし2年後、駿の胃にスキルス性のガンが見つかる。ステージは4。つまり、死期は間近だということだった。茜は現実を受け入れられない。彼が亡くなる直前には病院にお見舞いにも行けず、お葬式にさえ参列できないほど深く心に傷を負ってしまう。

そして現在に戻る。クレームは続く。嫌味は続く。夢は破け続ける。しまいには、陸がクレーム係に転属され、課内は次第に険悪なムードになっていく。夢も希望も見出せない日常に疲れ果てた茜は部屋に帰り、せめてもの慰めにと駿との思い出が詰まった昔のスマホを取り出してメールや着信履歴を眺め始める。すると、突然電話のベルが鳴る。相手は、駿だった……。

まず、茜が本当によく泣く(実際は川栄が泣いている)。それだけで胸がキュンとなる。遠巻きに観ているおっさんの私でも、抱きしめたくなる。絶対、丸坊主の中学生だった頃の私だってそう思ってしまう。だって親に女の子は泣かせちゃいけないと言われたもの。でもどうしようもない。当然だけど、茜が求めているのは私みたいなおっさんではなく、駿なのだ。

なんだか舞台上(茜と駿)と客席で、恋の三角関係ができるほどの濃密な劇空間が生まれている。舞台挨拶で、作・演出の鈴木おさむが「女性が胸キュンできる」と言っていたけれど、男の子だって胸キュンできるほど感情移入できる。だってあの川栄李奈が本当に涙を流して泣いているんだもの。放っておけない。実に鈴木おさむはうまい。手練れだ。現実の客席と舞台で茜になりきっている川栄を巧みに操って駆け引きをしている。いや、ズルい。本当に恋のようだ。茜を演じている川栄を、本当の“川栄李奈”だと錯覚して好きになってしまう男子が殺到するではないか。それは、ズルい。とりあえず、女の子ってズルい。でも仕方がない。だって恋ってふたりの天秤が傾くから成立するじゃないか。

藤原 駿を演じる廣瀬智紀の、すれっからしの心が、やがて茜に癒されて、今度は茜を助けようと奔走する演技が目を引く。ほとんど川栄との会話で成立しているキャラクターで、ほぼ二人芝居になるからこそ、その一途な想い、やがて死後の世界から彼女を見つめる目線の優しさが、純粋に、彼女をひたすら愛していることを教えてくれる。そんな芝居を見せられたら客席の男子はもう勝てない。降参だ。そんな気持ちにさえなるほど、彼の演技は圧倒的な慈愛に満ちていた。1カ月もの間稽古をしたとのことで、川栄と濃密な人間関係を築き上げていた証拠だろう。

花田裕美 役の柳 美稀は、今作が初舞台だそうだけれど、台詞に淀みがないし、抜群の体躯の美しさが目をみはる。舞台女優にぴったりという印象だった。売れないモデルで、しかも望みもしないクレーマー係という仕事に身をやつし、ひっきりなしにスルメを食べてストレスを発散したりと、どこか枯れた演技が健気だった。モデルやクレーマー係以外にも影のある仕事もしているのだが、どこからどう見てもモデルといった佇まいなので、やさぐれた感じに見えない。美しさは罪とは誰かが言っていたが、それを地でいく、なんとも業が深くて悲しい女性を体現しているように見えた。次にどんな舞台に登場してくれるのか楽しみだ。

玉木健一 役の山崎樹範は今作の名バイプレーヤーだ。回想シーンでは、居酒屋の店長、野球部の顧問を自在にこなし、現実の時代では一癖も二癖もある嫌味な上司を演じて、アドリブも飛ばせば、逆ギレもかまして、一部の隙がない演技を見せる。これぞ舞台役者といわんばかりの存在感が芝居の醍醐味を教えてくれる。花田と玉木は本作では共に、現実に打ちひしがれた、いわば“負け組”として、茜の前にたちはだかる大きな壁になっていた。

桐生 陸を演じる戸塚純貴は圧巻のひと言。簡単に言えば、周りの空気が読めない、ポジティブシンキングが得意な、いわゆる“イタい”役なのだけれど、天才という言葉ではもったいないほど、彼の一挙手一投足からは目が離せなかった。彼が喋れば笑いが起きるし、彼が動けば笑いが起きる。以前も福田雄一演出舞台『スマートモテリーマン講座』(17)で、脳内にズシンとくる衝撃のキャラクターを演じて、その存在感は何カ月も忘れられなかったけれど、それを上回るような濃さだった。今年は名役者の訃報が多いなかで、これからの舞台の歴史を紡いでくれるネクストジェネレーションの役者のひとりになることを予感させてくれる。

結城 茜を演じ切った川栄李奈は、小柄な体躯なのに、存在感が半端ではないのは、なぜだろう? 感情の振れ幅がジェットコースター級だからだろうか。泣いては笑って、笑っては泣いてを緩急自在に操る。映画でも舞台(私が観たのは初舞台『あずみ~戦国篇』)でも、舞台を覆い尽くすような“川栄オーラ”がある。大竹しのぶを例に出すまでもなく、小柄な女優が体格というハンデをぶっとばそうと、役になりきってやろうというやけっぱち感が、観客を虜にするのかもしれない。とにかく、本作で彼女は泣く。泣きまくる。泣きじゃくる。そんなに泣いたら、男の子は困る、おじさんも困る、お父さんも困る、というぐらいに泣く。とにかく、誰がなんと言おうと“泣く”。それが自分の存在意義のような、決意を滲ませた一本気な演技がとても清々しかった。

作・演出の鈴木おさむは、先に言ったように、とてつもなく手練れで、シンプルな舞台装置にも関わらず、役者の演技のテンポと見せ方だけで、観客を泣かせてしまう。感情を抑えるところはとことん抑えて、川栄の泣きを際立たせれば、果ては、恋する女の子の視点で現代社会まで切ってみせてしまう手腕に溜飲が下がる。伏線の散りばめ方も見事で、約2時間の舞台ですべてがきちんと回収されるので、最後まで見飽きることはなかった。

この舞台でわかることは、人間は実に奥が深い生き物だということだ。それを恋という誰しもが味わう普遍的な体験を通して理解させる鈴木おさむ、そして役者陣の演技に頭が上がらない。女の子を泣かせる男の子は許されないけれど、今作に関しては許していただければと関係のない私でも頭を下げてお願いしてしまう。やっぱり恋をしたいものね。恋をしなくちゃ、生きている意味なんてあるのだろうか?

そういえば、田無で同棲していた女の子はどこに行っちゃったんだろう? 私は女々しい男の子なので、昔の携帯(ガラケーだけど)を取り出して、メールや着信履歴をもう一度見てしまう今日この頃である。今度、電話をかけてみようかな。電話番号が変わってなければいいけど。

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