横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 9

Column

煌めく水面に映し出された、青春の輝きと痛み【舞台「DIVE!!」The STAGE!!】

煌めく水面に映し出された、青春の輝きと痛み【舞台「DIVE!!」The STAGE!!】
今月の1本 舞台『DIVE!! The STAGE!!』

ライター・横川良明がふれた作品の中から、気になる1本をチョイス。独断と偏見に基づき、作品の魅力を解説するこのコーナー。今月は、舞台「DIVE!!」The STAGE!!をピックアップ。スポーツの躍動感だけでなく、その複雑な心理模様までしっかりと表現した本作の魅力を語り尽くします。

文 / 横川良明

何かを得ようとすることは、何かを失うこと。痛みを知り、知季はアスリートとなる

青春は、残酷だ。

よく映画や小説では、あの10代特有の季節をキラキラとしたものとして描くけれど、それはノスタルジーのカーテンがかけられているだけで、薄布を1枚剥がせば、ヒリヒリするような痛みだとか、自分で自分が嫌になるようなおぞましい感情だとか、いろんなものがないまぜになって、まるで水の中で溺れたみたいに息苦しい、そんな時間だったと記憶している。

森絵都の小説を原作とする「DIVE!!」の素晴らしいところは、もちろん表面は陽の光を射返すプールのようにキラキラしているんだけど、その水面を突き破り、深くダイブしてみれば、青春期ならではの嫉妬や焦燥、苛立ち、脆さまでをビビットに描き出している点だ。

舞台版も、その本質は変わらない。舞台「DIVE!!」The STAGE!!は、赤字経営が続くミズキスイミングクラブ(MDC)に突如新任コーチ・麻木夏陽子(名塚佳織)が現れたことから始まる、オリンピックを目指す少年たちの青春劇だ。

最初に波紋を起こすのが、主人公・坂井知季(納谷健)のクラブメイトである大広陵(杉江大志)。競技人口の少ない飛び込みにおいて、知季と陵は貴重な同い年。ずっと仲良くやってきた。けれど、新任コーチの夏陽子が注目したのは、知季の方だった。一緒に肩を並べてきた仲間が、どんどん遠くに行ってしまう悔しさ。自分にもきっと何か輝ける原石はあるはずで、いつか誰かが見つけてくれると信じていたのに、どうしたって自分は“選ばれない”。知季に辛く当たる陵は、物語序盤におけるわかりやすいヒール役。でも彼がヒールに見えないのは、多くの観客が“選ばれない”歯がゆさを知っているから。

ふたりの友情は決裂したまま、陵はMDCを去る。オリンピックを目指すことさえしなければ、ずっと仲良しでいられたかもしれないのに。何かを得ようとすることは、何かを失うことなのだ、ということを本作は最初に提示する。

知季が失ったのは、友達だけじゃない。競技に熱中していくうちに、付き合っていた野村未羽(大島涼花)との関係も崩壊する。そもそもオリンピックで活躍するアスリートたちを、私たちはいつも“選ばれた”特別な人のように見ているけれど、“選ばれた”人間には、“選ばれた”人間の苦悩がある。夢の大舞台に辿り着くまでの間に彼ら彼女らが一体どれだけの犠牲を払ってきたのか。普通に遊びに行ったり、普通に恋をしたり、私たちが当たり前のようにしてきたことをまるで通らずに来た選手も多いだろう。その寂しさや欠落感は”選ばれなかった”側には想像したってしきれない

特に負けん気が強いわけでもなく、まるで欲のない顔をしていた知季。だが、ひとつずつ大切なものを失っていくたびに顔つきが変わっていく。競技にすべてを賭ける男の目になっていく。その様子に、観ている方が胸を締めつけられそうになる。熱く昂ぶるのとはまた違う。気がつけば、祈るような気持ちで、知季の夢を一緒に追いかけていた。

要一と飛沫。ふたりの天才が挑んだ、自分のプライドとの勝負

さらに知季を取り巻く他のキャラクターの描写も瑞々しい。代表的なのが、元飛び込み選手の両親を持つサラブレッド・富士谷要一(牧島輝)と、幻のダイバー・沖津白波の孫である沖津飛沫(財木琢磨)だ。どちらも生まれからして“選ばれた”側の人。しかし、彼らもまたそれぞれの苦悩と直面する。

オリンピック代表権を目指し、切磋琢磨するMDCの仲間たち。だが、要一は、中学3連覇の実力を評価され日水連から優遇措置を受ける。納得がいかない要一は、日水連の会長のもとまで直談判に向かう。それが自分にとって不利益でしかないとわかっていながらも。

また、腰の故障が発覚した飛沫は、事実上、代表レースから脱落となる。もともと自己流で飛び込みをしていた飛沫にとって、オリンピックはそれほど執着する対象でないように見えた。このまま故郷の青森で悠然と生きる姿も、飛沫らしい気がした。だが、ある出来事をきっかけに飛沫は再びMDCへ戻る決意をする。

このふたりから見えるのは、スポーツは他者との戦いであると同時に、自分との戦いでもあるということだ。どんなにスコアを離されても、どんなに勝機が薄くても、それでも彼らがあの高い飛び込み台——“通称コンクリートドラゴン”を上り続けるのは、何より自分に負けたくないから。ちょっとでも言い訳したくなる気持ちが顔を出したら、あのコンクリートドラゴンにあっという間に飲み込まれてしまう。そうならないように、要一も、飛沫も、強くプライドを持って挑み続ける。決して知季だけが主人公ではない。知季、要一、飛沫と3人それぞれの内面を限られた尺の中でバランス良く描き切っているところが、「DIVE!!」The STAGE!!の魅力だ。

あなたの好きなものは何ですか。知季の答えに、青春の輝きが弾ける

圧巻なのは、オリンピック代表選考の最終演技。風邪をひいた要一は、もう満足に飛び込み台を上る力さえない。指定の時間までに演技を始めなければ、その時点で失格になる。ボロボロになった要一を、コンクリートドラゴンの頂上まで登らせたのは、誰か。その意外な相手との胸熱くなるやりとりに、スポーツの美しさを見た気がした。また、そんな息子のために、ずっとコーチとして接し続けてきた敬介(唐橋充)が思わず父親の顔を見せるところも涙腺が緩む。

続く飛沫の結末もドラマティックだ。腰に爆弾を抱える飛沫に、高難度の技はできない。最後に賭けたのは、難度が低いが、それゆえに真の美しさを問われる必殺技・スワンダイブ。10点満点を出さなければ、飛沫が“選ばれる”ことはない。それでも、飛沫は飛ぶ。クライマックスにかけて、次々と訪れる名場面に、劇場中の熱気が高まっていくのを感じた。

そして最後を飾った知季の演技も清々しかった。知季が挑むのは、超難度の大技・4回転半。大事なオリンピックがかかった大一番に、こんな成功確率の低い技で勝負するなんて、ギャンブルにも程がある。それでも、知季は譲らない。もう彼は、勝つ喜びも負ける悔しさも知らなかった少年ではないのだ。すべてが終わったエンディング、いちばん最後の知季の台詞に、このドラマのすべてがつまっていた。

全12話のエピソードを巧みに構成。観る人を選ばない良質な秀作

こうした正統派の青春スポーツドラマを舞台で体現したのが、若き俳優たちの努力だ。注目の飛び込みシーンは、実際に俳優が生身の肉体で挑戦。飛び込み台から、回転しながら飛び降りるなど、もちろん実際の競技と高さは違うものの、極めて忠実に再現した。

近年、アクロバティックなパフォーマンスを取り入れた舞台は増えているが、本作は飛び込みという性質上、競技中の衣装はブーメンパンツのみ。ちょっとしたミスが、怪我を招く恐れがある。きっと最初は俳優自身も恐怖心があっただろう。それを本番までにきちんと観客を魅了するだけのレベルに仕上げてきた健闘に、まずは拍手を送りたい。

さらに、“もうひとりの登場人物”というべき存在感を放っていたのが、舞台に設置された飛び込み台だ。選手たちは、階段を上ってコンクリートドラゴンの頂点を目指す。その背中が、そのまま競技者として頂上を目指すんだという強い意志を語っていて、言葉以上の説得力があった。構成も、アニメ全12話分のエピソードをテンポよくつないでおり、そのスピード感が芝居全体の推進力を押し上げていた。

ピンキー山田(安達勇人)をはじめとした個性豊かなライバル勢も、適度に観客を和ませるいい緩和剤に。何よりMDCのメンバーの中でやや印象が薄く見えた丸山レイジ(高橋健介)の最後の見せ場も省略されることなく描かれていて、アニメの「DIVE!!」を観て来場した観客にとっても納得の仕上がりだったと思う。製作陣がすべての役柄に愛情を惜しみなく注いでいるように見え、そんな作品愛が気持ちの良い余韻を生む要因のひとつとなっていた。

青春は、残酷だ。

それでも私たちが青春にどうしようもなく眩さを感じてしまうのは、そんな残酷な現実にも逃げることなく、好きなことに挑戦する姿が輝いて見えるから。できっこないと笑われても、才能がなくても、諦めない想いが不可能を可能に変えていく。「DIVE!!」The STAGE!!は、そんな爽快な勇気を観る人に与えてくれる作品だった。

舞台『DIVE!! The STAGE!!』

東京公演:9月20日(木)~30日(日)@シアター1010
大阪公演:10月6日(土)・7日(日)@森ノ宮ピロティホール

原作:森絵都『DIVE!!』(角川文庫刊)
協力:アニメ「DIVE!!」製作委員会
脚本・演出:伊勢直弘
出演:納谷健 牧島輝 財木琢磨/杉江大志 高橋健介/名塚佳織 唐橋充
安達勇人 宮城紘大 瀬戸祐介 西野太盛/廣野凌大 大島涼花 藤岡沙也香 光宣

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@DIVE_TheSTAGE)

原作本『DIVE!!』
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