Interview

堀込泰行が今見ている、新しい世界。キャリアを積み重ねるなかで得た変化を楽しむ気持ち。そこから生まれた『What A Wonderful World』

堀込泰行が今見ている、新しい世界。キャリアを積み重ねるなかで得た変化を楽しむ気持ち。そこから生まれた『What A Wonderful World』

昨年、キリンジ時代の名曲「エイリアンズ」が時代を超えて脚光を浴びるなか、新進気鋭のアーティストとのコラボレーションEP『GOOD VIBRATIONS』をリリースした堀込泰行。その豊かな音楽世界に新たな血を通わせることで、大きな一歩を踏み出した彼が前作アルバム『One』から2年ぶりとなる新作『What A Wonderful World』を完成させた。この作品には、セルフプロデュース曲に加え、agehaspringsの蔦谷好位置プロデュース曲とGENTOUKIの田中潤を共同プロデューサーに迎えた楽曲を収録。グルーヴを際立たせたアレンジによって現代的な意匠を凝らしながら、歌詞の面では客観的な視点から物語を紡ぐことで、シンガーソングライターアルバムであった前作『One』から洗練されたポップミュージックの豊かさを謳歌する作風へとスムースなシフトチェンジを果たしている。キャリアを重ねながら、その時々の経験や変化を作品に反映している堀込泰行の成長の軌跡はいかに?

取材・文 / 小野田雄 撮影 / 冨田望

コンテンポラリーな音作りを施してくれる人を入れることで、自分が作るポップスがどう変化するのか

堀込泰行名義のソロ活動をスタートして以来、“大きいポップス”を意図した2016年のアルバム『One』と、コラボレーションによって今までと異なるアングルのポップスを試行錯誤した2017年のEP『GOOD VIBRATIONS』がこれまでにリリースされています。まずはこの2作品を振り返っていただけますか?

『One』はセルフプロデュースで頑張って作ったアルバムなんですけど、『GOOD VIBRATIONS』でいろんな人とコラボして、人の手が加わったことで自分の曲に広がりが出たというか、自分ひとりではできないものになったので、今回、2ndアルバムを作るにあたってはセルフプロデュースだけでなく、プロデューサーを入れて作ってもいいだろうなと思ったんです。そこで蔦谷(好位置)さんプロデュースが2曲、GENTOUKIの田中(潤)くんに共同プロデュースで3曲お願いして、残り4曲をセルフプロデュースで作品を制作しよう、と。

その時点で曲は揃っていたんですか?

揃ってはいました。ただ、その中には「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」のように歌い出しの4小節しかできていない曲もあって、スタッフから「この歌い出しがいいから、この曲をリードトラックにできないか」と提案があったり、未完のものを含めて13〜14曲かな。なぜか3拍子の曲が何曲もあったので、3拍子の曲ばかりのアルバムになるのは変だろうということで削ったりもして、最終的には全9曲に落ち着きました。

堀込さんから見て、蔦谷好位置さんはどんなプロデューサーなんでしょうか?

蔦谷さんに関しては、聴く人を楽しませるということにポイントを置いている方ですね。彼が手がけたSuperflyの曲は知っていましたし、以前、番組で一緒になったときにキリンジの作品を聴いてくれていたということも聞いていたので、プロデュースをお願いするなら、何らかの接点がある方がいいだろう、と思っていました。

GENOTUKIの田中潤さんは?

彼はもともと友人で、作る音楽も好きだったんです。GENTOUKI自体はしばらく活動していなかったんですけど、2016年に9年ぶりに出したアルバム『誕生日』は以前よりアレンジが現代的になっていて、内容も素晴らしかったので、今回のアルバムを作るにあたって、手助けをして欲しかったんです。

かつてのGENTOUKIはキリンジにも通ずるウェルメイドなポップスを作るグループでしたが、久しぶりの復活作は打ち込みを用いたり、モダンに進化していますよね。

そうですね。アレンジの仕事をやっているうちに彼自身の中でも変化があって、より現代的な音のアプローチに対して敏感になっていったんじゃないかな。だから、一緒にやるのは面白いな、と。今回、プロデュースを依頼するにあたって、共通する部分もありつつ、新たなテイストも加味してくれることを期待して、彼にお願いしました。

今回のプロデューサーはおふたりともサウンドの現代性という部分で共通しているというか、堀込さん自身、そういう音作りを指向されたということなんでしょうか?

そうですね。求めたのはそういうところです。自分ひとりでやると、『One』の反省点を生かした、その延長線上にある作品になるとは思うんですけど、『GOOD VIBRATIONS』で若手のミュージシャンと組んで面白い作品が出来たので、コンテンポラリーな音作りを施してくれる人を入れることで、自分が作るポップスがどう変化するのか、それを自分でも楽しんでみたかったんです。

そして、今回の作品における第三のプロデューサーであるご自分はどのような立ち位置だったと思いますか?

お願いしたふたりは、当然、アレンジャーとしての力量もあるので、ポップスの整合性として、セルフプロデュースの曲がふたりとやった曲になるべく劣らないようにということを意識しました。それから、例えば、今のアンサンブルにおけるベースの役割は10年前とは全然違うんですけど、僕自身はコンテンポラリーな音楽をつねにチェックしているわけではないし、むしろ、そういう音の時流にとらわれずに音楽を作っているので、自分は自分のやり方でふたりにはない曲を作っていければいいなと思いましたね。

自分が素で作ったものに新しい洋服を着せてもらった感じ

蔦谷さんが手がけた2曲「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」と「スクランブルのふたり」はどちらもグルーヴが立ったアレンジが施されていますね。

そうですね。蔦谷さんは今のノリをすごく意識していますし、「スクランブルのふたり」は自分でプロデュースしたら、ちょっとソウルっぽいニュアンスを出しつつも、落ち着いた渋い感じになって、ここまでグルーヴィーにはならなかったと思いますね。レコーディングの打ち合わせでいろんな参考音源を蔦谷さんのスタジオで聴いたりしたんですけど、「今はこういう感じが流行ってるんですよね」っていうプロとしての聴き方をしっかりされてて、すごい勉強になりましたし、蔦谷さんの2曲に関しては、自分に足りないものを補ってもらったというか、自分が素で作ったものに新しい洋服を着せてもらった感じですかね。自分が今まで着なかったタイプの服を着せてもらって、「ああ、こういう感じも似合うのか」っていうような、新鮮な発見がありました。

そして、GENTOUKIの田中さんとの作業は、ご友人ということもあって、密にやり取りされたと思うんですが、「home sweet home」だったらフルート、「砂漠に咲く花」だったらクロマチックハープ、「足跡」だったらバイオリンだったり、一曲の中で特定の楽器が印象的な鳴り方をするアレンジが施されていますね。

そうしたアレンジは田中くんと話し合いながら決めていったんですけど、「home sweet home」のフルートは彼が上げてきたデモにも入っていたかな。ただ、「砂漠に咲く花」のクロマチックハープ、「足跡」のバイオリンは一緒にアレンジを考えていくなかで思いついたアイデアだったりして。この3曲に関しては、彼のスタジオに足繁く通って、ああじゃないこうじゃないと詰めていったので、いろんなアイデアが詰め込まれています。「砂漠に咲く花」だったら、ディスコっぽい感じで始まって、そこからだんだんサンバっぽくなっていくのは彼のアイデアだったりして、そこにスティーヴィー・ワンダーみたいなハープを入れたら面白いんじゃないかって提案したり、そういうやり取りをしてました。

堀込さんの曲は、個人的な印象として、根底にブルース感覚が流れていて、それを現代的なアップデートをしようと試みたのが、今回の作品であるように思いました。

たしかにそれもあるかもしれないですね。WONKのリズム隊に参加してもらった「Destiny」は、僕が作ったデモの時点ではもっとオールドファッションだったんですけど、そこに新たな血を入れるにあたって、ヒップホップ以降の感覚を持ったジャズ寄りの若手プレイヤーに参加してもらいたくて、『GOOD VIBRATIONS』で共演しているWONKのふたりにコンテンポラリーで尖った曲にしてもらいたいと思ったんです。この生々しいドラムの録り音に関してはドラムの荒田(洸)くんのリクエストに負う部分が大きくて、デモを渡したあとに「イメージする録り音やミックスがあるので、レコーディング前のリハーサルにレコーディングエンジニアも呼んで欲しい」という要望があったんですよね。だから、この曲はただバンドっぽく録りましたというものではなく、絶妙なさじ加減が利いたものになっていると思います。

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