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『STEINS;GATE ELITE(シュタインズ・ゲート エリート)』で体験する決断の重さ&注目のファミコン版

『STEINS;GATE ELITE(シュタインズ・ゲート エリート)』で体験する決断の重さ&注目のファミコン版

自称マッドサイエンティストの大学生がメールを送ることによって過去に干渉することができる機械、すなわちタイムマシンを偶然にも手に入れ、その結果発生した大切な仲間の死という悲劇を解決しようとあがき続ける物語を描いた『STEINS;GATE』。その物語をアドベンチャーゲーム定番の背景にキャラクターの立ち絵というスタイルではなく、全編をアニメーション化したのが『STEINS;GATE ELITE(シュタインズ・ゲート エリート)』だ。

本稿では、アニメをプレイするという独特の体験をもたらすアニメーション表現、シンプルでありながらプレイヤーに決断の重さを感じさせる分岐システムといった、ゲームとしての『STEINS;GATE ELITE』を形作るポイントから本作の魅力を追っていく。Nintendo Switch™版の初回特典としてダウンロードできる、レトロテイスト満載な『ファミコレADV シュタインズ・ゲート』にも要注目だ。

文 / 村田征二朗


アニメーションという手法が生み出す感情

狂気のマッドサイエンティストを自称する厨二病な大学生・岡部倫太郎がくり広げる、時空を越えた物語。前回の記事では『STEINS;GATE』という物語自体の面白さ、そしてそれを彩る個性的なキャラクター、そこに命を吹き込む声優の名演について触れましたが、本稿では『STEINS;GATE ELITE』という作品が持つゲームとしての魅力について考えていきたいと思います。オリジナル版の『STEINS;GATE』と比べた場合、本作最大の特徴は何と言っても全場面をアニメーションで描いているところにあります。

▲テキストが表示されるウィンドウも主張せず、まるでアニメを字幕付きで見ているかのようです。オートモードではセリフの字幕が消え、さらにアニメらしくなります(設定を変えればオートモード中も字幕は表示できます)

立ち絵形式からアニメーションになって何が変わったかと言えば、やはりキャラクターたちの表情や仕草、その多彩さと細かさです。もちろん立ち絵も絵のパターンを切り替えて喜怒哀楽を表現できますが、用意できる表情パターンやポージングにも限度があり、身をかがめる、高い位置にあるものを取ろうとつま先立ちになる、などの動きは絵で見せるのではなくプレイヤーの想像に任せることとなります(その動きを自由に想像できるというメリットがあるとも言えますが)。

一方で本作は、ほぼすべての動作をそのままアニメで描いているので、各シーンにおけるキャラクターの立ち位置、距離感、微妙な表情といった細かな情報を、テキストだけでなく絵として見ることができます。キャラクターたちはより一層活き活きと描かれ、そのぶんプレイヤーの感情移入も強くなると言えるでしょう。

▲ワンシーンで細かく視点が切り替わるのもアニメーションならではです。アドベンチャーゲームながら、画面の変化が多いというのも本作の特徴と言えます

『STEINS;GATE』という作品を知らない人に本作をプレイしていただきたいのはもちろんですが、すでにオリジナル版をプレイした、あるいはアニメ版を見た、という人たちにも……むしろそんな人たちにこそオススメできるポイントがあります。それは、いわゆる個別ルートで新規に描き起こされたアニメーションです。

分岐方法についてはあとで触れますが、本作には複数のエンディングが用意されており、その多くは主人公・岡部倫太郎が特定のキャラクターと結ばれるものとなっています。本作ではアニメ版で描かれなかったルートがアニメーション化されており、オリジナル版をプレイした人はそのアニメーションを、アニメ版を見た人はまだ見たことのない物語を楽しむことができるのです。この個別ルートこそ、本作をプレイする最大の理由のひとつだと言っても過言ではないでしょう!

▲アニメ版だけでしか本作の物語を知らない人にとって、個別ルートはとくに新鮮でしょう。どのルートもその結末が幸せかそうでないかを考えさせられる、印象的な内容となっています

ゲームというメディアが物語を体験させる

『STEINS;GATE ELITE』という作品は、アニメーションを取り入れているとはいえアニメではなく、また小説でもなく、ゲームです。ゲームというメディアがほかのメディアと大きく異なるのは、プレイヤーが操作や選択によって物語に介入するという能動性を持っている点でしょう。

アドベンチャーゲームでは会話中の返答や移動先を選択していくのが一般的ですが、本作に会話中の選択肢といったものは存在しません。本作の物語を左右する場面で登場するのは、劇中でも重要アイテムとなる携帯電話です(2010年が舞台の話なので、作中にスマートフォンは登場しません)。プレイヤーは岡部の物語を観測しつつ、“未来ガジェット研究所”の仲間たちからときおり届くメールのどの話題に返信するか、あるいはそもそも返信しないかを選択します。一部のルートについては、このメールでのやりとりが重要になってくるのです。

▲色の付いた話題を選択し、そのひとつだけに返信を行います。プレイヤーが着信を確認する必要のあったオリジナル版や他機種への移植版とは違い、メールが届くと自動で携帯を開くという親切設計になっています

そして、ルート分岐の大きなポイントとなるのが、ある程度物語を読み進めると訪れる決断の場面です。物語中盤、タイムマシンを使って過去を変えたせいで起きた悲劇を回避するために岡部は同じ時間をくり返し、やがて解決の糸口を見つけます。しかしそこで、彼は“未来ガジェット研究所”の仲間を救うために他の仲間の人生、あるいは仲間にとって大切な人の生死にかかわる決断を迫られることになります。未来を変えるには岡部があるメールを送るだけなのですが、その送信ボタンを押す際に岡部は仲間の命と別の仲間の幸せとを天秤にかけることとなり、大きな葛藤に悩むことになるのです。

プレイヤーの操作としては未来を決断するシーンに特定のボタンを押すだけ、というシンプルなものですが、この操作はゲーム性というよりも演出面において、本作の物語を印象的にしている重要な要素です。

▲オリジナル版では初回プレイだとメールを送る操作に気づきにくい仕様でしたが、本作では最初から操作のタイミングがわかるようになっています

分岐点が訪れるまでに、岡部は過去改変によって起きた仲間の死を受け入れることで、別の仲間が確かな幸せを手にしている場面を見ることになります。過去改変をなくして世界を元に戻すということは、すなわちその幸せを奪い去ってしまうこととなるのです。幸せな場面が感動的に描かれているからこそ、「本当にこの現実を奪ってしまっていいのか」という岡部の抱える葛藤はプレイヤー自身の葛藤と重なり、メールの送信ボタンを押すという単純な行為の重さが、そのままプレイヤーにとって分岐のボタンを押すという行為にのしかかってくるのです。

この分岐点での選択は、アニメで岡部の決断を見届けるだけでもかなり心にくるものがありますが、ゲームで最終的に決断を下すのはプレイヤー自身です。プレイヤーが読み手、物語の傍観者という立場から、未来を決めるという責任を負うことになるのです。ボタンひとつでキャラクターの未来が大きく変わってしまうという選択の重さを体験するのは、ゲームならではでしょう。

▲プレイヤーの選択によって世界は大きく変わり、その変化量を示す“世界線変動率(ダイバージェンス)”が揺れ動いていきます。岡部はこの数値を一定以上にするべく奔走し、さまざまな世界を体験していくのですが、プレイヤーが選択をして確認するからこそ、各展開における不安や後悔、あるいは安堵といった感情も強くなります

先述の通り、岡部は避けられない悲劇を回避するために、同じ時間を何度も何度もやり直すことになります。そのなかで、ほかのキャラクターたちは同じやり取り、同じ会話を繰り返していくわけですが、すでに見た会話やテキストを読み進める際には少なからず、「変化がある場面まで読み進めるのは大変だな」という気持ちが湧いてきます。しかしつぎの瞬間、“同じことを繰り返すことの大変さ”というのはまさに岡部が物語のなかで何回、何十回と味わっていることではないか、とハッとするのです。

▲正解を探すために同じこと繰り返す大変さと岡部のループ体験がリンクする感覚は、そのまま戦慄に変わります

ループする世界を疑似体験することで改めて岡部の置かれている状況の辛さに気づかされたとき、プレイヤーは岡部に寄り添った、あるいは自身が岡部になったかのような気分になり、より強く感情移入することができると言えるでしょう。アニメ『シュタインズ・ゲート』の主題歌『Hacking to the Gate』の歌詞を借りるなら、プレイヤーはもうひとりの“孤独の観測者”となるのです。アニメはアニメで非常にニクい演出が豊富ですが、ゲームというメディアで描かれた『STEINS;GATE』は、また違った形で物語を魅せてくれるのです。

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