Interview

雑多で猥雑なカルチャーを再び吉祥寺から! 浅井隆(アップリンク社長)が挑む 2500万クラウドファンディングの高き壁

雑多で猥雑なカルチャーを再び吉祥寺から! 浅井隆(アップリンク社長)が挑む 2500万クラウドファンディングの高き壁

国民一人が映画を観る回数は年間2回未満、と言われながらも、いま「映画館」が熱いのをご存知だろうか?
昨年は日比谷にTOHOシネマズがオープン、来年には池袋に首都圏最大のシネマコンプレックスが出現する。
『カメラを止めるな!』の例を持ち出すまでもなく、低予算でもマイナーでも、面白い映画には人が集まり、異例のヒットを飛ばすのも珍しくないこの頃、奥渋谷に大人のカルチャーを生み出してきたアップリンク渋谷が、なんと吉祥寺に進出するという。
吉祥寺PARCOの地下に全部で5つのスクリーン。
え? あの小さな映画館、そんなに儲かってるの?……と思いきや、さにあらず。
10月末までに2500万を目指すクラウドファンディングが達成できないときは、「うーん、そのときは……借金か?」と深刻な表情のアップリンク社長・浅井隆氏。
その情熱と執念の源は、いったいどこに……?

取材・文 / 村崎文香
撮影 / エンタメステーション編集部
(一部)アップリンク提供

大阪商人の血が流れているはずなのでなんとかとかします!

9月5日から始まったクラウドファンディング、いま達成率が48%ですが。(10月5日現在)

そうなんだよ。いやぁ、高過ぎたかな。何度も試算したんだけど。

なぜ、達成できなければ“ゼロ”の、All or Nothing方式を採用したんでしょう?

やっぱり危機感がないとね。やるからには。うーん、でも正直、心配です(苦笑)。失敗したらどうすんだ。ドキドキドキ。

でも、達成しなくても12月にオープンすることは決まっています。

現在600人以上の人に応援をしてもらってすごくうれしい。コメントを書く欄があるので全部読んでるけど、期待されているなという責任と、一人一人の応援のコメントに正直涙が出て来る。でも、PARCOと組むんだから、とか、オープンが決まってるから大丈夫でしょ、なんて思ってる人も多いのかな、資金調達心配してますなんて、あんまり大きな声で言うと関係者が心配すると困るけどね、まあそこは大阪商人の血が流れているはずなのでなんとかしますよ。最後は、親類縁者に声をかけて個人的に借金してでも、って思っています。

アップリンク吉祥寺パルコのレイアウトがわかる模型。POP、RAINBOW、RED、WOOD、STRIPEの5つの個性的なコンセプトがある5スクリーンの劇場

なぜ、そこまでして、いま、吉祥寺に第2のアップリンクをつくりたいと?

もともと配給会社としてやってきたわけだけど、上映したい作品って、それこそたっくさんあって。十年前から映画はデジタルの時代に突入して、単純につくる人も映画も増えてるし。お客さんの中にはハリウッドみたいなメジャー映画とインディーズの区別はなくて、面白かったら、話題だったら、興味があったら、観に行くわけでしょ。
でも、いまの日本の映画館はどうしてもビジネス優先。ある程度お客さんが入らないと採算がとれないから、インディーズの作品はどうしても上映しにくい。『カメラを止めるな!』みたいな作品を別として。
だから、新しい映画館をつくる、というよりは、小さいキャパシティの映画館を新しくつくる、って言ったほうが正しいと思ってる。
渋谷がいま3スクリーンあって、それぞれキャパシティが41、45、58。吉祥寺には小さいところで29から大きいところで98まで全部で5つスクリーンをつくる。小さい映画館なら、ある程度観てくれるお客さんがいてくれたら成立するから。キャパが100以上になると、いっぱいにするのは大変だけど、29だったら、20人入ればけっこう埋まるわけじゃない。かつてバンドをライヴハウスが育てたみたいに、「育てる」って大事だと思うんだよ。

猥雑さこそが都市の面白さ

PARCOと組むのは?

いま公園通りのPARCOは建て替え中だけど、一時、ごちゃ混ぜカルチャーの発信基地だったんだよね、PARCOは。インターネット以前、つまり90年代までは、場所も劇場も街もごちゃ混ぜだった。シネクイントになる前のパルコ・スペース・パート3は、あるときはライヴハウスだったり、芝居小屋だったり、あるときは映画を上映していたり。
原体験として刻まれているのは、天井桟敷の舞台監督をやっていた18歳から10年間の、アムステルダム、ニューヨーク、ロンドンの猥雑さ。70年代から80年代、90年代初頭までのクロス・カルチャーを2018年、2019年にもう一度出現させたい想いはある。
思い返すと、街自体が猥雑だった。都市計画で街をクリーンにしていく“ジェントリフィケーション”って言葉があるけれど、いつかはゴールデン街やのんべえ横丁もなくなるだろう。でも、猥雑さこそが都市の面白さだと思う。行政がコントロールできないところに生まれてくるのが文化。小さいところでダンスするな、とか、もう、何言ってんだ!って感じ。
シネコンって、ある種のジェントリフィケーションだと思うんだよね。だから、吉祥寺PARCOの地下に、もう一度猥雑な場所を出現させられないかって画策してる。

雑多で、猥雑なスペースを日常に。時代の波にあえて抗って。

放っておくと、抗い難い力が働く時代。それは政治の話だけじゃなくて、うっかりするとAIとかアルゴリズム、ビッグ・データの世界にハマってしまって「均質化」されてしまう。音楽も、勝手にレコメンドされて、選ばされているのに、自分では選んでるって勘違いする。ファッションの世界も「おまかせ便」なんてのが出てきたけど、それに乗っかることって、お洒落を放棄することでしょ。規定された世界で遊ばされるって、どうなの。偶然の出逢いのほうが、ずっとクリエイティヴなのに。
PARCOからは「アップリンクのセンスでやってくれ」って言われています。ある意味、そこを期待されていると思ってる。

椅子と音には徹底的にこだわっています

椅子へのこだわりもハンパないそうですが。

映画館でいちばん大事なのは、まず前の人と重ならないで字幕までしっかり画が見えることでしょ。その次に椅子。だって、観てる間ずーっとからだに触れてるわけだから。映画館の椅子って全部発注。だったら、座り心地はもちろん、色や素材にこだわろうと。スクリーンによってストライプだったり七色だったり赤だったり。全部変えてます。キネット社っていうフランスの会社で、いまは日本資本のメーカー。決してお尻が痛くはなりません(笑)。

キネット社にて、ごだわりの椅子をセレクト

さらに、音へのこだわりが凄い。

映画って、いまDCP(デジタルシネマパッケージ)で規格が統一されていて、プロジェクターも決まっている。ところが音に関しては決まりがない。アンプ、スピーカーはカスタマイズできる余地があるわけ。音の進化はハイレゾをはじめ凄まじいけれど、もともと映画館の音はハイレゾ音源。アンプ、スピーカーをどうチューニングするかは自在にできる。
最近「爆音」上映流行りだけど、アップリンク吉祥寺はそんなに大きくないから、爆音を出してもうるさいだけ。だったら、“ピュア・オーディオ”、音質にこだわろうと決めました。
アンプはイタリアのパワーソフト(POWERSOFT)社製。スウェーデンのラブ・グルッペン(LAB.GRUPPEN)と聴き比べてみたら、圧倒的にこちらがよかった。スピーカーは新木場にある田口音響研究所の平面スピーカーを導入。タグチさんのスピーカーはBlue Note Tokyoや国立劇場、表参道ヒルズに導入されていて、音にこだわる人なら誰でもそのクオリティを知っている。そこの平面スピーカー。飛んでくる音は速くて真っ直ぐで「粒立ち」が細かい。POWERSOFTのアンプにTaguchiのスピーカーを繋いだ映画館って、世界で初めてだと思う。

田口音響研究所の田口和典氏

パワーソフト社のR&Dディレクター、クラウディオ・ラストゥルッチ氏と浅井氏

それは、ワクワクしますね。

やっぱり映画の新しい体験をしてほしいから。昔観た映画でもここでもう一回観てもらうと違って見えると思う。普通の映画館って、音を吸音するようにつくっている。つまり、音が響かない。でも、今回せっかく5館あるから、ハコの響きを変えようかな、と。同じ映画でも響きでどう変わるか。ちょっとオーディオ、PAがわかる人は面白いと思うし、わからなくても、ウチのスタッフがテストの時その組み合わせで初めてマライア・キャリーを聴いて泣いたように(笑)感動すると思う。俺もイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」聴いて鳥肌立ったもん。

男性器が映ってて何が悪い!

さて、クラウドファンディングの締め切りが10月末に迫っていますが、リターンの品揃えにアップリンクらしさが溢れていますね。ロバート・メイプルソープの写真集。これはいわくつきの品ですね。

これはね、話すと長いんだけど、もともとは映画からボカシをなくしたいという強い思いがあって。1987年、第2回東京国際映画祭でデレク・ジャーマンの『ラスト・オブ・イングランド』が出品されたとき、男性器がちょっと映ってたけど、そのまま上映されたわけ。ところが、いざ映画館で上映するとなると、ボカシを指示された。当時は35mmフィルムだから修正に100万くらいかかるわけ。なんてことだ、って。それで、ずっと考えていた。
この写真集は、1994年にアップリンクが輸入して日本版を普通に販売していたんだけど、男性器が写っているんだよね。で、ある日ひらめいた。これは裁判起こせば勝てるんじゃないか、って。
99年にあえて海外に持ち出して、入国するとき、わざわざ申告した。こういうものを持ち込みますよ、って。そうしたら、東京税関で案の定引っかかった。ダメです、と。それで、国と東京税関を相手どって行政訴訟を起こしたわけ。自分が猥せつで訴えられたわけじゃなく、訴えを起こす側。だからちょっと強気(笑)。地裁で勝って、高裁で負けて、最終的に最高裁で勝訴。結審したのは2008年だった。もちろん、それですべてが解禁されたわけじゃない。でも、突破口にはなったかな、と。

写真集『メイプルソープ』:最高裁で勝訴したロバート・メープルソープの作品集

古き慣習にいつまでも縛り付けられていてはいけない。誰かが風穴を開けないと。

「猥せつとは何か」は、時代とともに変わっていくもの。だから常に誰かが裁判を起こして、アップデートしていかなくちゃいけないものだと思う。自分がやってきたことの中で、これは俺が死んでも残るたぶん唯一のものなんじゃないかな。

渋谷のアップリンク外観

映画館のあり方も、アップデートする。

そう。映画館に行くことが楽しくなるような映画館。昔のミニシアターって、中で食べたり飲んだりできなかった。アート系の映画って、すっごく敷居が高かった。アップリンク吉祥寺では美味しい食べものと飲みものも提供できるし、いろいろな仕掛けがある。ゲストが来ると受付のスタッフがこっそり手元のスイッチを入れてクルクル回りだすミラーボールがあったり、タロット占いの人がコーナーにいたり(笑)。
PARCOと組むって決めてもう4年。この間、どういう映画館にするか、ずーーーっと考えてきた。それがあとひと月ちょっとでオープン。でも、まだまだ決めることもあるし、クラウドファンディングがどうなるかもわからないし。いやぁ、スリリングです!

「アップリンク吉祥寺パルコ」施設概要

所在地:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5-1 吉祥寺パルコ地下2階
共同事業者:株式会社パルコ、有限会社アップリンク
運営:有限会社アップリンク、株式会社アップリンク・エスコルハ
スクリーン数:5スクリーン
座席数:計300席(最大スクリーン98席、最小スクリーン29席)
オープン予定:2018年12月

「アップリンク吉祥寺パルコ」クラウドファンディング・サイト

2018年10月31日まで受付
詳細はこちら(「PLAN GO」)
http://plango.uplink.co.jp/project/s/project_id/74

浅井隆(あさい・たかし)

アップリンク代表/未来の映画館プロデューサー。
1987年、有限会社アップリンクを設立。デレク・ジャーマン監督作品をはじめ、国内外の多様な価値観を持った映画を多数配給。2005年には渋谷区宇田川町に映画館、ギャラリー、カフェレストランを一か所に集めた総合施設「アップリンク渋谷」をオープン。2011年にデジタルカルチャーマガジン「webDICE」、2016年には動画配信サービス「アップリンク・クラウド」をスタートし、映画を中心とした様々なインディペンデント・カルチャーを発信し続けている。

アップリンクオフィシャルサイト
http://www.uplink.co.jp/