山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 44

Column

Nobody Loves You / ジョン・レノン

Nobody Loves You / ジョン・レノン

ロックの歴史、いや音楽の歴史に、その名を永遠に刻むジョン・レノン。
宗教、国籍、思想、民族、信条、人種、性別……すべての違いを超えて一つになることを願った「イマジン」をはじめ不朽の名曲を数々生み出しながら、一貫して彼の核にあったものとは……?
癒えることのない痛み、逆境から音楽が生まれる過程を、山口洋がリスペクトを込めて書き下ろす。


ジョン・レノンのことを書いて欲しいと編集部よりリクエスト。名盤『イマジン』(1971年)がどのようにして創られたのか。リミックスやリマスター、未発表音源などを収めた『イマジン:アルティメイト・コレクション』が発売されることに合わせて。

Photo by Nic Knowland Photomontage by Sinisa Savic © Yoko Ono

彼が凶弾に倒れたのはもう38年も前のこと。僕は田舎の高校生。目指していた自由の羽根をもぎとられて、とつぜん暗闇の中に放り込まれたような気持ちになったことをはっきりと覚えている。

若い世代に彼をどう伝えたらいいのか。存在があまりに大きすぎて、書こうとすら思ったことがないのだけれど。水や空気と同じように、これまで生きてきた日々の中で、親のように影響を受けてきたのだと思う。でも、世界じゅうの聴き手の数だけ、ジョンがこころの中に存在するのなら、超私的に書いてみればいいか、と。プライベートの向こう側にあるパブリックを目指して。

ソングライターは因果な商売。

人並みに自らの幸福を願ってはみるのだけれど、誤解を恐れず書くなら、幸福を感じているときは、歌う理由が見つからない。残念ながら、苦しいときほど美しい曲が生まれてくる。無意識のうちに、敢えて逆境を作り出そうとしている自分に気づいてぞっとすることもある。

僕が一番好きなジョンの作品は最愛のヨーコと別居していた時期(失われた週末)に創られたアルバムたち。『Walls And Bridges(タイトルからして秀逸)』、そしてハリー・ニルソンとアルコールにまみれて創った迷盤『Pussy Cats (なんというタイトル!)』。

この時期のジョンの歌がひどく胸にこたえる。34歳の深い失望、哀しみ、色褪せた夢、やるせなさ、焦り、怒り、自暴自棄、自己矛盾、自己憐憫、エトセトラ、エトセトラ。そして、それらを補ってあまりある美しいメロディー、グルーヴ、サウンドのスケール。若すぎた僕は訳も分からず聴いていたけれど、そこに一筋縄ではいかない、複雑極まりない感情のカオスがあるからこそ、僕のこころを揺さぶることだけはなんとなくわかった。

いちばん揺さぶられたのは「Nobody Loves You」(邦題は”愛の不毛”)。

Nobody Loves You / 誰も君を愛さない(拙訳)

落ち込んでいるとき 誰も君を愛さない
うまくいっているとき 誰も君を気にかけない
誰もが小銭稼ぎに夢中で
僕が君の背中をひっかいたなら
君も僕の背中をひっかくだろう

反対側へもずいぶん行ったさ
僕はすべてを君に見せてきたから
隠し事なんてありやしないのに

君は「愛してるの? ねぇ、どうして? どうして?」って僕に訊くばかり
だから僕はこう応える
「すべてはショー・ビジネスさ」って

荒んだ歌詞と美しいメロディー。この組み合わせがいったいどれだけの人のこころを揺さぶったのだろう?

34歳のジョンと54歳の僕。永遠の偉大な魂は僕より遥かに年下という現実。

とある、とんでもない存在の母上を持つ友人と海を見ながら飲んでいたときのこと。彼は僕にこう言った「僕ら、おふくろにただ、ぎゅーってされたかっただけですよね?」。僕は彼が言っていることの意味を120%理解できた。山中で迷子になった幼児を発見したあのスーパー・ボランティアのおじいさんも同じことを言ったんだってね?

ジョンの歌にも勝手ながら、一貫してその感情を感じている。Nobody Loves You(誰も君を愛さない)ではなく、底なしに愛を求めるジョンの姿。幼少期に注がれなかったものは永遠に満たされることがないのに。でもその喪失感が僕らにあれだけの音楽を与えてくれたのだとしたら……。偉大なるマザー・コンプレックス。そして密かなスパイスのように効いてくる、ひねくれたアイリッシュネス。それが僕にとっての人間、ジョン・レノン。

ジョンよりも遥かに年上になって。もう一度自分の深層にあるその感情とも向き合ってみたいと思う。

感謝を込めて、今を生きる。


Photo by Iain Macmillan © Yoko Ono

ジョン・レノン / 本名:ジョン・ウィンストン・オノ・レノン(John Winston Ono Lennon):1940年10月9日英国リヴァプールで、商船の乗組員だったアイルランド系の父、アルフレッド・レノンと母ジュリアの元に生まれる。誕生時、父は航海中、母は別の男性と同棲していたため、伯母夫妻に育てられる。帰国した父に一時引き取られるが、母に連れ戻され、再び伯母夫妻の元で成長。父はその後蒸発。母は1958年、自動車事故で死亡。クオリーメンはじめいくつかのバンドを経て1960年にザ・ビートルズ結成。ブライアン・エプスタインと出会い、1962年ザ・ビートルズとしてデビュー。1966年、ロンドンのギャラリーでオノ・ヨーコと出会い、1968年、前妻シンシアとの離婚が成立、1969年に結婚。新婚旅行先のアムステルダムとモントリオールで平和を訴える「ベッドイン」というパフォーマンスを行う。その後、ベトナム反戦・平和活動に参加。1970年にザ・ビートルズ解散後はアメリカを主な活動拠点としてソロ活動、平和運動を行う。息子・ショーンの誕生を機に1975年から育児に専念。1980年に活動再開。ジョン・レノン&ヨーコ・オノ名義で『ダブル・ファンタジー』を発表するが、12月8日、NYの自宅アパートの前でファンを名乗る男性に射殺された。享年40歳。
『ローリング・ストーン』誌の選ぶ「歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第5位。同誌の「歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第38位、「歴史上最も偉大な100人のソングライター」において第3位、「歴史上最も偉大な100人のギタリスト」において第55位、『Q誌』の選ぶ「歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第5位。

オフィシャルサイト

『心の壁、愛の橋 / Walls And Bridges』
Limited Edition, SACD(紙ジャケット仕様)
ユニバーサル・ミュージック

ソロで活躍した時代の最後のオリジナル・アルバム。1年以上続いたヨーコとの別居期間(失われた週末)の間に制作した2枚のアルバムのうちのひとつ(1974年発表)。寂しさや、やるせなさを歌った曲が多く、ジョンにとってヨーコがいかに大きな存在だったかが痛切に伝わる。ビルボード1位を記録したエルトン・ジョンとの共作「真夜中を突っ走れ / Whatever Gets You Thru The Night」ほか、「夢の夢 / #9 Dream」「愛の不毛 / Nobody Loves You」など全12曲を収録。

『イマジン:アルティメイト・コレクション』
ユニバーサル・ミュージック

実質的なスタジオ・ソロ・アルバムとしては『ジョンの魂 / John Lennon / Plastic Ono Band』に続く、1971年発表の2作目。「イマジン / Imagine」や「ジェラス・ガイ / Jealous Guy」をはじめ聴きやすい曲が並ぶ一方で、ポール・マッカートニーを揶揄したと云われた「ハウ・ドゥ・ユー・スリープ(眠れるかい?)/ How Do You Sleep?」、ロック色の強い「イッツ・ソー・ハード / It’s So Hard」など、繊細かつ過激なジョンの二面性が盛り込まれた『ジョンの魂』と並ぶ代表作。日本、オーストラリア、オランダ、ノルウェイ、イギリス、アメリカでチャートの1位を獲得。
1970年のシングル「インスタント・カーマ / Instant Karma!」やザ・ビートルズのラスト・アルバム『レット・イット・ビー / Let It Be』のプロデュースを手がけたフィル・スペクターをアスコットの自宅スタジオに招き、レコーディングは8トラックの機材を使ってわずか9日間で行われた。ストリングスやホーンやパーカッションを多用、スペクターらしい厚みのある音作りになっている。制作に際してヨーコは「オリジナルに忠実で、オリジナル音源に敬意を表したものであること」「全体的にクリアな音にすること」「ジョンのヴォーカルをより明瞭に聴かせること」の3点を実現することを願ったという。実際のリミックス作業は、アビイ・ロード・スタジオのエンジニア、ポール・ヒックスが手がけた。
『イマジン:アルティメイト・コレクション』は、140曲にも及ぶリミックス、リマスター、ライヴ、アウトテイク等を収録した4CD+2ブルーレイ入りボックス・セットのスーパー・デラックス・エディションほかで発売。

①スーパー・デラックス・エディション〈4CD+2ブルーレイ(音源のみ)収録、豪華本付ボックス・セット輸入国内盤仕様/完全生産盤〉
UICY-78855 ¥12,000(税別)
〈CD1〉アルバム – アルティメイト・ミックス ディスク1
〈CD2〉アルティメイト・ミックス ディスク2
〈CD3〉ロウ・スタジオ・ミックス
〈CD4〉エヴォリューション・ドキュメンタリー
〈ブルーレイ1〉イマジン:アルティメイト・ミックス
〈ブルーレイ2〉イン・ザ・スタジオ・アンド・ディーパー・リスニング
日本盤のみ/SHM-CD仕様/英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

②2CDデラックス・エディション
UICY-15758/9 ¥3,600(税別)
〈CD1〉リミックス・アルバム+シングルズ&エクストラズ
〈CD2〉エレメンツ・ミックス+アウトテイク
日本盤のみ/SHM-CD仕様/英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

③1CD
UICY-15760 ¥2,500(税別)
〈CD1〉リミックス・アルバム+シングルズ&エクストラズ
日本盤のみ/SHM-CD仕様/英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

④2LP〈輸入国内盤仕様/完全生産盤〉
UIJY-75091/2 ¥5,500(税別)
〈LP1〉リミックス・アルバム
〈LP2〉アウトテイク
日本盤のみ/英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

⑤2LPクリア・ヴィニール〈UNIVERSAL MUSIC STORE限定/輸入国内盤仕様/完全生産盤〉
PDJT-1015/6 ¥6,000(税別)
〈LP1〉リミックス・アルバム
〈LP2〉アウトテイク
日本盤のみ/英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。東日本大震災後は、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として、福島県相馬市の人たちと希望のヴァイブレーションを起こすイベントを続けている。2018年4月から池畑潤二 (Drums)、細海魚 (Keyboard)と新生HEATWAVEの活動を開始、12月19日大阪を皮切りにいよいよツアーがスタートする。リスナーからのリクエストで構成されるソロ・アコースティック・ツアー“YOUR SONGS 2018”も10月から後半戦に突入。2017年12月22日渋谷duo MUSIC EXCHANGEのライヴを収録した『OFFICIAL BOOTLEG #005 171222』、17歳から現在に至るまでの激レア&貴重音源満載の『山口洋の頭の中のスープ』好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

山口洋 solo tour“YOUR SONGS 2018”
10月26日(金)長崎ベイサイドレストラン&バーR-10special room Precious
10月28日(日)小倉GALLERY SOAP
11月3日(土・祝)岡山 Blue Blues(ブルーブルース)
11月6日(火)出雲 London Pub LIBERATE
11月8日(木)高松 Music&Live RUFFHOUSE
11月10日(土)高知 シャララ opening act 中塚詩音
ブログのコメント欄にて、リクエスト受付中

HEATWAVE SESSIONS 2018_III
11月25日(土)吉祥寺STAR PINE’S CAFE
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BIG BEAT CARNIVAL IN 磔磔
10月21日(日)京都 磔磔
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HEATWAVE TOUR 2018 “Heavenly”
12月19日(水)大阪 バナナホール
12月20日(木)福岡 Gate’s7
12月22日(土)東京 duo MUSIC EXCHANGE
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