佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 65

Column

すでにある劇場と文化施設を十二分に活用した都市型音楽フェスティバルの可能性

すでにある劇場と文化施設を十二分に活用した都市型音楽フェスティバルの可能性

実にさまざまなアートやカルチャーを生み出してきた新宿の街を「屋根のない博物館」ととらえることで、アートや演劇、伝統芸能など200以上のイベントからなる文化事業「新宿フィールドミュージアム」の一環として、10月6日(土)に新宿文化センターにて『-shin-音祭』が開催された。

幸いにも天気に恵まれて当日は真夏を思わせる快晴になり、35年前に自分がプロデュースした新宿での野外イベント「THE BIG GIG」を、久しぶりに思い出すことになった。

『-shin-音祭』のコンセプトは「文化的な混沌」と「今日的な洗練」というものだという。
そのメインとなる企画を主催する新宿フィールドミュージアム協議会事務局の関係者から相談された時、すぐに思いついたのは新しい才能に出会える場所を用意することで、若い観客や出演者に気軽に参加してもらえるようにしたい、ということだった。

チケットは4800円と可能な限り低価格に抑えてもらったが、この料金で総勢16組ものアクトを観られるのは「非常に良心的だ」と、情報サイトには好意的に紹介された。

そしてイベントが無事に終了すると、その直後から翌日にかけて観客や出演者から、さまざまな感想がSNSで寄せられた。

新宿には1960年代にオープンして以来、今でも続くジャズの老舗のピットインや、ロックを打ち出した新宿LOFTを筆頭に、特徴あるライブハウスが数多く存在している。
1976年にオープンした新宿LOFTはオープニング・セレモニーで、若いアーティストたちによるロックとニュー・ミュージックを中心にしたスケジュールを組んだ。

10月1日から10日間にわたって行われたイベントに出演したのは以下の顔ぶれだったが、大貫妙子のバックでキーボードを弾いていたのは坂本龍一、吉田美奈子のバンドのリーダーは山下達郎であった。

1日=ソーバッド・レビュー/金子マリ&バックスバニー
2日=加川良/大塚まさじ/西岡恭蔵/金森幸介/中川イサト
3日=鈴木慶一&ムーンライダース/南佳孝&ハーバーライツ/桑名正博&ゴーストタウンピープル
4日=サディスティックス(高中正義、今井裕、後藤次利、高橋幸宏)
5日=吉田美奈子/矢野顕子
6日=斉藤哲夫/遠藤賢司/大貫妙子
7日=りりィ with バイバイセッションバンド(坂本龍一、伊藤銀次)
8日=山崎ハコ
9日=センチメンタル・シティ・ロマンス/めんたんぴん
10日=長谷川きよしサンデーサンバセッション

今でこそ、ものすごい豪華なメンバーだったと思えるだろうが、「私は泣いています」というヒット曲があったりりィと、「別れのサンバ」や「灰色の瞳」で有名だった長谷川きよしを除けば、ほとんどのアーティストが当時は知る人ぞ知るという存在で、ライブハウスを主な活動場所にしていた。

そうした歴史を踏まえて、音楽イベントとしての『-shin-音祭』はライブハウスでの活動で注目を集めていて、今後さらに大きく才能を伸ばしていく若手アーティストを中心に、ジャンルを問わず様々な音楽をゆったりと体験できるものにしたいと思った。

そこで企画面での協力をお願いしたのは、「fashion & music」をコンセプトにしたヴィンテージ・ショップを立ちあげて、多くのミュージシャンやDJから支持を得て活躍している奥冨直人さんだ。
そして奥富さんの意見を尊重して、都市型のホールにおけるフェスティバルにふさわしい全体像を考え、具体的に出演者やDJを固めていった。

そうした方向性が観客にも伝わっていたことは、以下の反応からもうかがえると思う。

観客の暖かな視線と厳しい批評眼は、まだ無名のアーティストにも向けられていた。

「アーロン・チューライ&Daichi Y amamotoとMani Maniも見てました。Daichiくんは桑原あいちゃんの最新アルバムに参加しているラッパーfrom京都。初新宿ライブしかも着席ということでちょっと戸惑い?後ろで熊さんみたいなアーロン・チューライがDaichi くんと一緒に口づさんでいたのがなんかえがった」
「にしてもオウガとか、OVALLをあんなにゆったりしたスペースで見られるとは思ってなかったよ。大ホール出演者の殆どがホールで着席ライブの経験がないらしく、みる方もやる方もちょっと探り探り感があったな」

それらの声を総括するかのように、「気になっていたバンドをイッキ見してきた。古くて新しい都市型フェス”shin音祭”」というブログには、最後にこんなまとめが書いてあった。

まとめ:来年も行きたいと思った魅力

価格がリーズナブル

観たいアーティストが複数いるなら4800円(税込)は安い。最近はストリーミング文化の影響でチケット価格が高騰してますし、よくある「入場の際に1ドリンク代別途いただきます」とかもないです。

フェスなのに疲れない

涼しい会場で着席してゆったり観れる。会場の内外にちょっとしたフードとドリンクもあるし、出入りも自由なので近くのコンビニや公園に行ったりできます。

アーティストのラインアップがいい

イベントのコンセプトは、歴史的に常に“先進的”で“前衛的”な様々なカルチャーを生んできた街=新宿の「文化的な多様性」と「最先端の文化」の融合、だそうです。(公式サイトより) 洗練されているようで下世話な街、新宿(愛を込めて)。わかる人にはぶっ刺さる、そんなセレクトを来年も期待しています。

出演者からも感想や言葉が寄せられたが、イベントならではの思わぬ効果があったこともわかった。

この他にも子供から年配の方まで楽しめるワークショップやミニ・ライブが同時に開催されていたが、小鼓、薩摩琵琶、そしてバリ島のガムラン体験なども、それぞれに盛況だったという。

すべてが初物尽くしの中で、関係者がお互いに協力し合うことでスムーズに成立した『-shin-音祭』だったが、すでにある劇場と文化施設を十二分に活用しさえすれば、都市型音楽フェスティバルは可能だということを証明できたと思っている。

アイキャッチ写真 撮影 / 井出情児

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

ウェルカム!ビートルズ 1966年の武道館公演を実現させたビジネスマンたち

著者:佐藤剛
ボイジャー

ビートルズ来日をめぐる人間ドラマを丹念に描く感動のノンフィクション。

1966年のビートルズ来日公演、それは今になってみれば、奇跡的といえるものだった。いったい誰が、どのようにしてビートルズを日本に呼ぶ計画を立てて、それを極秘裏に進めて成功に導いたのだろうか? これは日本の経済復興の象徴だったリーディング・カンパニーの東芝電気と、その小さな子会社として生まれた東芝レコードにまつわる、歌と音楽とビジネスをめぐる物語である。

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