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Mr.Children 26年間送り出してきたすべての楽曲の歌詞。発売された全曲詩集『Your Song』に込められた思いとは?

Mr.Children 26年間送り出してきたすべての楽曲の歌詞。発売された全曲詩集『Your Song』に込められた思いとは?

Mr.Childrenの全曲詩集『Your Song』が、10月3日に発売された。デビュー・アルバム『EVERYTHING』から、同日にリリースされた最新アルバム『重力と呼吸』まで、全ての楽曲の歌詞を網羅した内容である。

装丁は、出版予告で知っていた。でも、実際に手にしてみると、ナルホドと思うことがあった。ファクトリー・シールに包まれた状態では、ぶ厚く、ズッシリした手応えの固い立方体だが、いったんシールを剥がすと、表紙が実に柔らかな、ソフト・カバーの製本なのだ。どのペ−ジ(どの歌)も開きやすい。実際に歌詞を確かめるために使う時などには、重要なことだ(もしストリート・ミュージシャンがMr.Childrenを歌おうとして譜面台に乗っけても、使い勝手が良さそうである)。

世の中にある音楽アーティストの歌詞集には、まるで歌詞をブンガクに格上げするかのような、リッパなハード・カバーのものもある。いや、必ずしもアーティストがそういう意識でハード・カバーにするわけじゃないのだろうけど、この全曲詩集の場合、まさに使い勝手ということにもこだわったのではと想像した。

本の冒頭に、桜井がエッセイを寄せている。そのなかで彼は、“僕が歌詞を書くのは、誰かにとっての「歌」になりたいから”と書いている。この場合の“「歌」になりたい”は、「歌って欲しい」ということだろう。

そもそも『Your Song』という全曲詩集のタイトルは、そこから来ているのだろうし、だからこそこの歌詞集の使い勝手というのは、大切なポイントなのだと思うのだ。

デビューの頃から順番に眺めていくと、もちろんそこには変遷を感じる。“ボーイ・ミーツ・ガール”的な甘酸っぱいラブ・ソングや、世の中に対する想いのぶちまけ方が尖ってた頃の作品が、やがてもっと、俯瞰的な目線となり、ラブだけじゃなくライフも歌のテーマに据えるようにもなっていく。

改めて気づいたのは、桜井の場合、このスタイルはやり尽くしたから次はこれで、みたいなことが、まったく感じられないことだ。彼が想う、生きる上での「大義」のようなものは、ずっと変わらず歌の根底に流れているけれど、どの時代をとっても、“歌とはこういうもの”みたいな、窮屈な雰囲気であったためしがない。

[意識←→無意識]を往復しつつ、様々なレベル設定のなかで、歌を生み出してきたのが分る。なので、「よくぞこんなフレーズを編み出したなぁ」と思うこともある一方で、「どこでこんなフレーズを拾ってきたんだ」と思うこともあるのだ。

でも、編み出すばかりじゃ息が詰まるだろうし、拾ってくるばかりじゃ無責任だ。このあたりのバランスというか、本人は多分、バランスなんて考えてないのに、自然とそれが取れてしまうのかもしれない。その証拠がこの全曲詩集なのだろう。

「ロードムービー」という歌の“街灯が2秒後の未来を照らし”というのは、個人的に大好きなフレーズだが、最新アルバム『重力と呼吸』のラストに収められた「皮膚呼吸」の、“顳顬の奧から声がして”というのも大好きだ。

彼は言葉を使って歌詞を書いているが、正確には、私達の心のなかに表われては消える、まだ名前のない感情に、言葉を与えてくれているのだと思う。なので、そこに宿るオリジナリティは盤石なのだ。

文 / 小貫信昭

書籍情報

『Your Song』特設ページ
https://books.bunshun.jp/sp/yoursong

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