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スピッツ『みなと』レビュー。メジャー・デビューからの25年間

スピッツ『みなと』レビュー。メジャー・デビューからの25年間

 ある日、テレビから聴こえてきた歌に、ふと耳が惹きつけられた。素直で伸び伸びしたメロディと、やさしくて凛とした声が、それまでのテレビの雑音から抜け出して聴こえてきた。「あ、スピッツだ!」とCMが終わるころに気付いた。コード進行にスピッツ独特の仕掛けがあると感じた。それが初めて聴いたニュー・シングル「みなと」の サビの部分だった。
スピッツのニューシングル「みなと」は、リリースに先行してCMでサビがオンエアされていた。ようやくフルサイズで聴くことができたとき、僕は安堵と新鮮さを同時に感じた。

イントロは、明るい音色のエレキギターのアルペジオが中心 になっている。「ロビンソン」をはじめとする、スピッツのいつものやり方に安堵する。
歌が始まって、まずはAメロ。これも素直だなあと思っていたら、意外なトリックが潜んでいた。Aメロでは同じメロディが2回繰り返される。それは普通のことなのだが、1回目が7小節、2回目が8小節というズレがあった。通常、聴いていて落ち着くのは4小節や8小節など“4”を単位とした小節数だ。
この1回目の7小節が、新鮮な効果を生む。1小節少ないことで「あれっ?」と思っているうちに、2回目の歌詞が耳に深く刺さってくる。その部分の歌詞は♪遠くに旅立った君♪で、この歌のもう一人 の主人公である「君」が強い印象を持って立ち現れる。
さらに僕がテレビで聴いたサビの部分が面白かった。サビは4小節が4回ある王道の構成なのだが、最初の3回がまったく同じコード進行になっている。メロディは1回目と2回目がほぼ同じなのに、3回目で別のメロディが急に出てきてハッとさせられる。その部分の歌詞は♪君ともう一度会うために作った歌さ♪で、またしても「君」に焦点 が当てられる。
こうした工夫が利いて、“僕”と“君”と“港”というシンプルな構図がとても自然に描かれ、結果、スピッツならではの名曲になった。しかもそれらの工夫には、あざとさや嫌味がまったくない。それもスピッツの大きな特徴なのである。

僕はこの曲に、スピッツのメジャー・デビューからの25年間が込められていると思う。 イントロでアコースティック・ギターを掻き鳴らしているのは、草野マサムネだ。彼がサイド・ギタリストとしてレコーディングの要になってから、スピッツのグルーヴは急速に進化した。
草野のアコギにアルペジオで絡むのが、三輪テツヤのエレキギターだ。彼はギターの音色作りに非凡なセンスがある。
サウンドにロック感を与えているのは、田村明浩のベースだ。メローな曲調に対して、田村のエッジの立ったプレイが適度の緊張感を醸し出す。“油断できないスピッツ”は、ここから生まれる。
ドラムの﨑山龍男は2コーラス目から入ってきて、歌の世界をグッと広げる。くすんだバスドラムとアタックの強いスネアドラムが、草野の歌の背中を押す。
メンバーのこうした特徴的なプレイは、4人が25年かかって手に入れたものだ。だから「みなと」は、アニバーサリーにふさわしい歌として聴こえてくる。
しかし、スピッツ自身はこのシングルを、あえてアニバーサリー作品とは打ち出さない。80年代に始まる今のJ-POP&J-ROCKシー ンにおいて、毎年なんらかのアニバーサリーを迎えるアーティストが数多くいる。中で、マイペースの歩みを続けてきたスピッツは、盛大に祝わない。
デビューから「ロビンソン」でブレイクするまで4年を要した。その一方で、彼らはライブ活動を大切にしてきた。アルバム総売り上げが1000万枚を突破しているバンドにも関わらず、大会場ではライブを行なわず、初めてさいたまスーパーアリーナのステージに立ったのは2009年、武道館単独公演に至って は2014年と、デビューから23年が経っていた。マイペースにもほどがある(笑)と言わなければならないだろう。
それでもメンバー自身がアニバーサリーを忘れることはない。これだけじっくり活動してきたからこそ、過ごした時間を心に刻んでいるはずだ。 しかしアニバーサリーはあくまでバンド内のことであって、大々的に祝うことではないということなのだろう。それもまた、スピッツらしいやり方だと思う。
そんなスピッツは、僕の記憶では、インタビューの際、質問に最も誠実に応えてくれたバンドのひとつであった。こう書くと、生真面目な印象を持つかもしれない。だが、彼らはユーモラスな側面も持っている。
今回、そのユーモアは、「みなと」のカップリング「ガラクタ」に表現されている。「みなと」のやさしく切ないイメージとは打って変わって、 「ガラクタ」はいきなりギターのフィードバック音から騒々しく始まる。マンタから粟(あわ)・稗(ひえ)まで出てくるぶっ飛んだ歌詞は、かなり意味深で大笑いできる。この「ガラクタ」の愉快なサウンドと歌詞も、スピッツの面目躍如で嬉しい限りだ。

「みなと」を男女のラブソングとして捉えてもいいし、友情の歌と取ってもいい。シリアスもユーモアも呑み込むスタンスこそ、スピッツが幅広いリスナーに愛される最大の理由だ。「みなと」は実に心のこもった、スピッツの25年目のシングルなのである。

文 / 平山雄一

リリース情報

spitz_minato
みなと
スピッツ

UPCH-5875 ¥1,000+税

01.みなと(NTT東日本 企業CMソング)
02.ガラクタ