モリコメンド 一本釣り  vol. 88

Column

jizue 歌とか歌詞だけに捉われない音楽のいろいろな楽しみ方ができる、4ピースのインストバンド

jizue 歌とか歌詞だけに捉われない音楽のいろいろな楽しみ方ができる、4ピースのインストバンド

ここ数年、いわゆるインスト音楽を聴く機会がかなり増えた。きっかけはやはり、ロバート・グラスパー。ジャズ、R&B、ヒップホップを融合させた革新的なサウンド・スケープを提示した「ブラック・ラジオ」(2012年)で長らく停滞していたジャズの歴史を一気に進めたグラスパーは、ここ日本でも精力的にライブ活動を展開。さらにカマシ・ワシントン、クリスチャン・スコット、マーク・ジュリアナといった才能が次々と登場、天才的な演奏能力、オーセンティックなジャズに根差しつつ、ダンスミュージック、オルタナR&Bなどにも接近した刺激的なアンサンブルによって、音楽ファンの耳を楽しませてきた。コアなジャズファンだけではなく、幅広い音楽ファンにアピールしたことも、これらのミュージシャンの功績だろう。個人的なことを言わせてもらうと、最新鋭のジャズに触れることで、インストの音楽への理解(特にリズムに対するリテラシー)が一気に高まった感覚がある。めちゃくちゃ簡単にいうと、歌とか歌詞だけに捉われない音楽のいろいろな楽しみ方ができるようなった、というわけだ。

国内でも菊地成孔率いるdcprg、三浦大知、などとのコラボレーションでも注目されているSOIL&“PIMP”SESSIONS、各地のフェスで存在感を発揮しているSPECIAL OTHERS、各メンバーのソロ活動も順調なOvall、ドラマなどの楽曲を手がけることも多いfox capture planなどキャリアと実力をのあるインスト系バンドが活躍している。そして、今回紹介するjizueもそのひとつ。“ポスト・ジャズ・ロック・バンド”を掲げる4ピースのインストバンドだ。
2006年に井上典政(ギター)、山田剛(ベース)、粉川心(ドラム)を中心に結成。翌年に片木希依(ピアノ)が加入、地元・京都を中心に活動をスタートさせたjizueは、「Bookshelf」「novel」「journal」「shiori」「story」と順調にリリースを続けてきた。当初はロック色が強い作風だったが、作品を重ねるごとにジャズ、ラテン、ブラックミュージックなどの要素を取り込み、アンサンブルのふり幅を拡大。FUJI ROCK FESTIVAL、GREEN ROOM FESTIVAL、朝霧JAMなどの大型フェスに出演したことをきっかけに、オーディエンスを熱狂させるダンサブルな楽曲も増えてきた。また、カナダ、インドネシア、中国、台湾などでも積極的にライブ活動を展開。言葉を必要としないインスト音楽の特性を活かし、海外の音楽ユーザーにもしっかりとアピールを続けてきた。前述した5作のアルバムがロングセールスを続けていることも、4人の音楽が少しずつ、確実に浸透している証拠だろう。

そして2017年10月、jizueはミニアルバム『grassroots』で満を持してメジャーデビュー。今年7月には約2年ぶりとなるフルアルバム『ROOM』を発表した。ハードコア、ジャズ、ラテン、ダンスミュージックを融合した音楽性、緻密に構築されたアレンジメントと高度な演奏テクニックに支えられたアンサンブル、そして、意外性に溢れたカバーナンバーや女性シンガーとのコラボレーション。10年を超えるキャリアを総括しつつ、新たなトライアルも取り入れた本作には、このバンドの魅力が余すことなく表現されている。

エレクトロ系の音響の「to enter」、そして、ハードコア的な音圧を感じさせるギターを軸にした「elephant in the room」から始まる本作(最初の2曲を聴くだけで、このバンドの音楽的なふり幅が実感できるはず)。まず印象に残るのは、ドラマティックな旋律が印象的な「grass」。解放的で明るいピアノのメロディ、キラキラした光を反射するようなギター、自然と身体を揺らしたくなるリズムがひとつになったこの曲は、jizueのなかに内包されていたポップネスが、メジャー進出のタイミングで前景化したナンバーと言えるだろう。対照的に「trip」は、プログレッシブ・ロックのもつながる、緻密に練り込まれたアレンジが堪能できる楽曲。4人の個性的なフレーズが有機的に絡み合い、それぞれのプライヤビリティがぶつかり合うことで生まれる高揚感は、まさにこのバンドの真骨頂だ。

元ちとせをフィーチャーした「Sing-la(森羅)feat.元ちとせ」も本作のポイントのひとつ。オリエンタルな叙情性をたっぷりと感じさせるボーカル、オーガニックな雰囲気のバンドグルーヴがひとつになったこの曲は、今年のFUJI ROCK FESTIVALでも披露され、大きな反響を集めた。元ちとせはオフィシャルサイトで「私にとって新しい曲でリズムがとても難しく感じて苦戦しましたが、言葉と音の世界観が私を引っ張ってくれました」とコメントしていたが、両者にとって刺激的なトライになったようだ。

もう1曲、「Englishman in New York」(スティング)のカバーにも触れておきたい。いまやスタンダートとなったこの曲にポリリズム(異なる拍子のリズムを同時に演奏する手法)を取り入れ、原曲のメロディ感を残したまま、まったく新しい手触りを引き出すことに成功している。ロバート・グラスパー以降の現代的なジャズと普遍的な名曲が重なり合う、じつに魅力的なカバーだ。

“インストには馴染みがない”という音楽リスナーも多いと思うが、そういう人にこそ、ぜひjizueの楽曲をチェックしてほしい。親しみやすいポップネスと独創的なサウンド、高い演奏センスがひとつになった彼らの音楽は間違いなく、すべてのリスナーの心を捉えるはずだ。

文 / 森朋之

その他のjizueの作品はこちらへ

オフィシャルサイト
https://www.jizue.com

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