LIVE SHUTTLE  vol. 298

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奥田民生 満員のファンの期待を、一身に背負って披露した弾き語りライブ。爆笑もあればクスクスもある音楽の面白さとは?

奥田民生 満員のファンの期待を、一身に背負って披露した弾き語りライブ。爆笑もあればクスクスもある音楽の面白さとは?

奥田民生「ひとり股旅スペシャル@日本武道館」
2018年10月14日 日本武道館

武道館には前夜の熱気がまだ残っている。前日はバンド“MTR&Y”でのワンマン・ライブを行ない、この日は弾き語りの“ひとり股旅”での公演だ。異なるスタイルでの武道館2DAYSは、おそらく史上初。奥田民生の旺盛なチャレンジ・スピリットには、つくづく脱帽する。

スタジアムなど大会場で弾き語る“ひとり股旅スペシャル”をはじめ、公開レコーディングをツアーにしてしまった“ひとりカンタビレ”、つい最近では平成30年7月豪雨被害支援のために急きょ開催された“カンタンヒキガタビレ”に奥田の弾き語り仲間が集結して、前代未聞のアコースティック・イベントとなった。ライブ以外でも、宅録の様子を配信するセルフカバー企画“カンタンカンタビレ”など、奥田は常識をくつがえしながら、親しみやすい音楽の発表スタイルを次々と開発してきた。

バンド“MTR&Y”でのライブの翌日に、同じ場所で弾き語る。昨日の舞台の左右をカットした“おひとり様”用ステージがセットされ、開放されたステージ背後のスタンドにもオーディエンスが詰めかけている。奥田の挑戦を楽しみにやって来た満員のファンの期待を、一身に背負って奥田が階段を上って登場すると、大歓声が武道館を包んだのだった。

奥田は定位置に着くと、いつものテーマSEのスイッチを自ら入れる。準備ができると、自分の手でテーマ曲をフェイドアウト。するとオーディエンスから軽く笑いが起こり、ライブ開始の雰囲気が整う。このあたりの呼吸が抜群にいい。みんなでライブを楽しもうという、奥田の姿勢がなせるワザだ。

奥田がギターを抱え、真剣な表情になると、場内がシーンと静まり返る。1曲目は「花になる」だった。奥田は一番を歌い終えると、「おーっ!」と一声吠える。会場が一気にリラックスして、奥田の歌に集中していく。続けて「CUSTOM」。前日は終盤に歌われ、ベストの盛り上がりを見せた曲だ。♪伝えたい事が そりゃ僕にだってあるんだ♪と歌い出すこの曲が、この夜のライブのわかりやすい入口となった。

「こんにちは、奥田民生です。昨日、バンドでコンサートをやりまして、けっこううまくいきました。その喜びをメンバーと分かち合って、今日来たら、5人用の楽屋にひとり。昨日と今日の順番が逆でしたね」とボヤく。

次の「ワインのばか」を始めようとした途端、ステージが回り出し、それまで正面の南向きに歌っていたのが、南東向きになった。さらに次の「ミュージアム」の前にステージが再び回り出し、今度は南西に向かって歌う。ひとり股旅ならではのユーモラスな演出に、会場は大喜びだ。

「昨日、来た人がほとんどですか? 今日だけの人は? 手を上げてもらっても、暗くてよく見えません。では、昨日の様子をダイジェストで」と言って、昨日のセットリストどおりにオープニングの「ギブミークッキー」~「快楽ギター」~「イージュー★ライダー」をギター1本で再現したので、会場から笑いと拍手が巻き起こる。のんびりしてそうでいて仕掛けの多い運びに、弾き語りとは思えない盛り上がりになったのだった。

「昨日のライブの様子が、だいたいわかった?(笑)。湊(雅史)のドラムのスタイルが武道館に合うと思ってやったんだけど、いいライブでした」と、軽く前夜を振り返る。それにしても、バンドのライブのダイジェストを弾き語るとは、掟破りもはなはだしい。しかし、この常識外れが奥田のライブの楽しさの元になっている。そんなことを考えていたら、「サケとブルース」、「スカイウォーカー」、「エンジン」とトントン進んで、「では、いつものように15分、休憩です。おしっこしに行ってください」と言って、アッという間に第1部が終了したのだった。

前日の爆音サウンドとは打って変わって、アコースティックギターで聴く第1部の奥田の歌声はかえって力強く、「エンジン」は前夜とは違うテイストながらベストの出来映えだった。

インターバルが終わってステージに戻ってきた奥田は、「久しぶりっ!」と挨拶して第2部を開始。休憩をはさんだせいもあってか、声のコントロールがより完璧になっている。スタート曲「The STANDARD」では非常にリアルな歌声で、味わい深い歌詞を届けてくれた。

さてここでシタール音が流れ、「はい、カンタンカンタビレの時間です。今日は機材を使って、超カンタンカンタビレをやってみたいと思います」と奥田。オリジナル・カラーで発売された宅録機器“8トラックポータブルMTR『DP-008-OT』”を使い、ユニコーンのスマッシュ・ヒット「働く男」に、オーディエンスの目の前で歌とギターをダビングしてみせる。

途中の♪ウッ ハッ♪のパートをオーディエンスに歌ってもらったものの、うまく録れていなかったようで、会場から残念笑いが起こる。それでも奥田は、できるだけ多くの人に「音楽を作る面白さ」を真っ直ぐに伝えようとする。どんな作業の結果、楽しい音楽が生まれるのか。この日は♪ウッ ハッ♪がうまく録れなかったけれど、そうした失敗をカバーする過程で、さらに楽しい音楽が生まれる可能性がある。奥田はユニコーンでのレコーディング経験や、ソロ活動で何度もそんな“奇跡”を体験してきた。作る過程での面白さが、楽しい音楽に直結するケースは多い。

奥田はこの“超カンタンカンタビレ”を、「そういうコーナーでした」とさっぱりと締めくくったが、その後も「イナビカリ」などのアコギ・バージョンをダイジェストで披露してオーディエンスのクスクス笑いを誘う。爆笑もあればクスクスもある音楽の面白さを、奥田はファンたちとこれからも分け合っていくのだろう。

ひとり股旅ならではのリズムボックスを使った弾き語りで、アルバム『サボテンミュージアム』から「白から黒」を歌う。アバンギャルドなコード進行のロックな曲を、奥田はアコギ1本とリズムボックスで思い切りグルーヴしてみせる。このあたりからライブは佳境に入っていく。

「段取りなしにやってるもんで」とつぶやきながら、今度はユニコーンの「エコー」。「白から黒」の対極にある、シンプルな美しさをたたえた曲だ。それを奥田は、何の装飾もなくストレートにギターを弾きながら歌った。何の装飾もなく歌って、武道館を楽しませる。これが正真正銘の弾き語りだ。改めてこの2DAYSの真価をひしひしと感じる。

「最近、気に入ってる曲をやります。ユニコーンでやっても、ソロでやってもよかった曲。皆さんにも歌ってほしい。」と、ユニコーンの「私はオジさんになった」を歌う。確かに奥田ソロでやってもおかしくない曲だ。妙に前向きな言葉をボソボソと歌った後、♪なわきゃない するわきゃない♪とチャラにする。名人の落語を聞いているような気分だ。と、奥田が「ご一緒に」と言ったから、会場が歌い出す。♪すーるーわきゃなーい♪とシンガロングする武道館は、脱力の極みだ。

そんな脱力集団が、本編ラストの「風は西から」では、力を合わせて一体になる。奥田のギターの刻みに応えるオーディエンスのハンドクラップが、曲が進むごとに大きくなっていく。それは「風は西から」の含む♪明日はきっといいぜ♪というメッセージとピタリと重なる光景だった。第2部は、これにて終了。

アンコールの最初のひと言がよかった。「楽屋に帰ってったら、『まだ早いです』って。そんな言い方、ある?」と奥田。本編がちょっと短いかなと思っていたオーディエンスたちは、図星を指されたのか、爆笑が起こる。「昨日と今日、違うけど楽しい。両方できて幸せだと思います」。会場はこのチャレンジの成功を祝うように、大きな拍手を奥田に贈る。

ギアを一段上げた奥田が、イントロ代わりにアコギをパワフルに刻み出すと、オーディエンスは次の曲を察して歓声を上げる。「マシマロ」だ。

奥田はまるでライブハウスでやっているように、コアな演奏と歌を繰り広げる。オーディエンスのクラップにリズムを任せて、ギター・ソロに突入。左手がギターのネックの最上部に這い登り、高い音でのソロになると、観客が「オーッ!」と叫ぶ。終わって、「♪関係ない♪とか♪ああー♪って歌ってるだけで、こんだけ盛り上がるのは、俺だけ!」と奥田が言うと、会場から賛同の歓声が上がったのだった。

奥田のギターをカラオケにして、オーディエンスが「イージュー★ライダー」のほとんどを歌い、アンコールが終わった。

奥田が去った後、テーマ曲が引き続き流れている。それに合わせて、観客の拍手が続く。その音に乗って再びステージに現われた奥田は、左手でギターを高々と掲げて、360度に向かって感謝の意を表わした。

「またお願いします」と会釈して、ラストチューン「さすらい」のギターを弾き始める。奥田が歌い出すと、またしてもオーディエンスはハンドクラップとシンガロングで応える。サビからAメロに入るところで、観客のリズムが少し乱れたが、奥田はまったく動じない。そのままマイペースで歌う。すると、いつの間にかクラップも合唱も消えて、全員がシーンとなって歌に耳を傾け始めた。

僕はたくさんのライブを見て来たが、こんな光景は見たことがない。奥田が無理に黙らせたのではない。2DAYSのラストを飾る歌に思いを込める奥田のパフォーマンスが、自然とそうさせたのだ。あるいは、真摯な奥田の思いを感じ取ったオーディエンスが、自然と静かになったのである。最後の♪どうなった♪の追っかけコーラスで場内の照明が全部つくと、ようやく観客が歌い出した。実に素晴らしい音楽的コミュニケーションで、感動的なダブルアンコールになった。

奥田は深々と頭を下げて、軽く足でステップを踏みながら、ダブルピースでステージを降りた。音楽で遊ぶのが得意な奥田と、彼のファンにしかできない2DAYSだった。奥田はまたしても新しい“音楽の遊び”を提示することに成功した。

今、バンドでも弾き語りでもやれるアーティストが増えている。彼らにとって、この2DAYSスタイルはとても魅力的に映るだろう。もしかしたら同じやり方に挑戦するアーティストが、今後出てくるかもしれないと、ふと思った。つくづく“ライブ・スタイルのオリジネーター”奥田民生を堪能したライブだった。

文 / 平山雄一

奥田民生「ひとり股旅スペシャル@日本武道館」
2018年10月14日 日本武道館

セットリスト
◆第一部
1.花になる
2.CUSTOM
3.ワインのばか
4.ミュージアム
5.ギブミークッキー~快楽ギター~イージュー★ライダー  ※ダイジェスト
6.サケとブルース
7.スカイウォーカー
8.エンジン
―休憩―
◆第二部
9.The STANDARD
10.働く男(UNICORN曲)  ※超カンタンカンタビレ:MTR “DP-008-OT”収録曲より
11.愛のボート
12.イナビカリ~快楽ギター~KYAISUIYOKUMASTER  ※ダイジェスト
13.白から黒
14.エコー(UNICORN曲)
15.私はオジさんになった(UNICORN曲)
16.風は西から
【アンコール】
17.マシマロ
18.イージュー★ライダー
【Wアンコール】
19.さすらい

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奥田民生

1965年広島生まれ。1987年に、ユニコーンでメジャーデビュー。
1994年にシングル『愛のために』でソロ活動を本格的にスタート。『イージュー★ライダー』『さすらい』などヒットを飛ばし、井上陽水とのコラボレーションや、プロデューサーとしてもPUFFY、木村カエラを手掛けるなど、その才能をいかんなく発揮。弾き語りスタイルの「ひとり股旅」、ひとりレコーディングライヴ「ひとりカンタビレ」など活動形態は様々。世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらとの「The Verbs」、近年は岸田繁(くるり)、伊藤大地と結成したスリーピースバンド「サンフジンズ」としても活動している。
2015年にレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を立ち上げ、2017年にディズニー/ピクサー映画『カーズ/クロスロード』の日本版エンドソング「エンジン」も収録された4年ぶりのオリジナルアルバム「サボテンミュージアム」を遂にリリースした。
現在は宅録スタイルのDIYレコーディングの模様を映像で公開し、出来上がった音源を即配信するプロジェクト”カンタンカンタビレ”を実行中。

オフィシャルサイト
http://okudatamio.jp

ラーメンカレーミュージックレコード
http://rcmr.jp

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