Interview

瑛太 『殿、利息でござる!』に見る役者としての存在感

瑛太 『殿、利息でござる!』に見る役者としての存在感

俳優としての瑛太の存在感を、どう表現したらいいだろう。役者の中には、そのルックスに縛られ、それを超えられない人も多いが、瑛太は別だ。主演、助演、どちら側にいても、その作品にある種のギフトを与える存在、と言えばいいだろうか。
そのギフトとは、水晶のようなものだ。
強い自己主張をせず、でも、本質的な清らかさでその場を浄化する存在。 中村義洋監督の新作『殿、利息でござる!』でもその存在感が際立つ。250年前、重税に喘ぐ貧しい宿場町を逆転の発想としぶとい連帯、熱い志で救った男たちの奇跡の実話。阿部サダヲ、妻夫木聡、山崎努、きたろう、寺脇康文、千葉雄大、松田龍平・・・といった色の濃い男優陣の中にあって、物語の進行役をつとめ、見事なクライマックスへと導いていく。
映画でも共演している阿部サダヲと共に2ヶ月以上に及ぶNODA MAPの舞台『逆鱗』を終えたばかり。才気あふれるクリエイターとの注目作が相次ぐ瑛太に聞いた。

取材・文 / 村崎文香 撮影 / ミズカイケイコ


これまでの役の中で一番きつかった。監督が鬼に見えました(笑)

ほぼ全編、東北でのロケですね。

山もあるし、海もあるし、食べものは美味しいし、凄くいい環境でした。毎晩、阿部さんや妻夫木くん、皆さんとずーっと同じもの食べて、同じホテルで過ごして。
撮影していると、クワガタやカブトムシが照明に集まってくるんです。それがもの凄くちゃんとしたカブトムシ(笑)。顔にもバンバン当たってくる。カナブンなんて何万匹いたんだろう(笑)。
山に走りに行ったり。ひとりでサーフィンやってみようと海に行くと、全然波立ってなくて(笑)。知らないおじさんに、「スラックライン」という綱渡りみたいなのを教えてもらって、二人で過ごしたり。

中村監督作品には『アヒルと鴨のコインロッカー』以来、9年ぶりの出演です。

『アヒルと鴨』のときは凄く優しい監督だったんですが、今回の映画に対しては熱量が大きいというか、想いが強いというか・・・凄く怖い監督でした。人ってこんなに変わるものか、と。笑顔は変わらないのに、目の奥が全然違う。鬼のようだったんです(笑)。自分の撮りたい映像がとれるまで粘る人なんで、朝までやるときもありました。

(c)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

(c)2016「殿、利息でござる!」製作委員会

中村監督は、磯田道史さんの原作(『無私の日本人』所収の「穀田屋十三郎」[文春文庫刊])を読んで「泣いた」と仰っています。「町を救うために破産するほど私財を投げ打ち、『人に話すな』と遺言をのこした。そんな男たちがいたことを、どうしても伝えたい」と脚本を書き、「ここぞという時には必ず呼ぼうと決めていた俳優陣に声をかけた」。瑛太さんは、殿様に千両(3億円)を貸し付けて、利息で村の窮状を救おうという奇想天外なプロジェクトの発案者、茶師の菅原屋篤平治の役。期待も大きかったのでは。

そうですね。まず、自分が脚本を読んで感じた篤平治というものがあって、イメージを膨らませていったんですが、監督とズレがあったんです。そこから役作りを試行錯誤していったんだけど、なかなかうまくいかない。そのうち、監督が『瑛太でやってくれ!』と。これほど難しい演出はありませんでした(笑)。監督が想像している篤平治を表現するのが大変で。これまでの役の中で一番きつかった。
瑛太ってどういう人なのか? 監督から見た瑛太って? もの凄く考えました。
衝動的になりすぎても篤平治らしくない。「そんなに熱くならないでほしい」とか「そんなに冷めてほしくない」とか。監督との擦り合わせが本当に難しかった。
そのうち、作品を改めて眺めたときに、ふっと自分自身に近いなと思えたんです。どんどん周りに流されていく姿が。そんなに強い意志を持って生きているわけじゃない。ああ、瑛太って、こういう人だったんだと。やっと思えたとき、篤平治が見えた気がしました。
この仕事続けていくと、だんだん演出されなくなっていくんですね。でも、今回は厳しい演出を受けて原点回帰できる部分があった。そして、何よりこのお話自体が持っている力、貧しい村で、純粋に人と人が一つのことを起こしていくドラマというかストーリーに強く惹かれました。しかも、そんなに大変な思いをして成し遂げたことを「人に話すな」と。そんな男たちが実際にいた。凄いと思いました。
risoku_4100

人が同じ方向を向いて、一つのことを成し遂げようとするエネルギーって凄い

瑛太さん扮する菅原屋篤平治が、吉岡宿含めその一帯をとりまとめる大肝煎・千坂仲内(千葉雄大)に物申すシーンはとくに印象的です。男たちの計画にいたく感動して、仙台藩の役人・萱場杢(松田龍平)に申し出たものの、あえなく却下され、諦めようとする仲内に向かって投げつける台詞。この映画の、まさに「肝」だと思いました。

監督はこの台詞を本当に大事にしていると仰っていました。この映画で、この役を僕が演じるうえで、あそこが大事なんだと。実は監督の演出があったのですが、うーん・・・ちょっと取材では言えない(笑)。それぐらい大事な台詞だった。
篤平治という男は、冒頭から自分は「知恵者」だと名乗っている。要するに、「口八丁」の男なんです。それが、周りの人間がどんどん動いていくことによって、一緒に成長していく。とくに、夜逃げが続く村の窮状について「訴状」を出そうとするほど思いつめている造り酒屋の穀田屋十三郎(阿部サダヲ)。訴状を出したら「即打ち首」が普通の時代。その「想い」みたいなものを感じて、どんどん変わっていく。
そこは計算してやっていくというよりは、実際、真夏にみんなでカツラ着けて、着物着て、そういうところで生まれてくる結束力というか。これだけ男同士で一緒にいると、人足チームも含めて、本当に村の人みたいになっていったんですよね。どんどんみんなのこと好きになるし。人が同じ方向を向いて一つのことを成し遂げようとするエネルギーって凄い。役を超えて、結束力というか信頼関係が生み出されて、それが作品にも生きていたと思います。

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

©2016「殿、利息でござる!」製作委員会

中村監督初の時代劇ですが、瑛太さんはとても自然に見えました。とくに意識したことはありますか。

最初、馬を引いてくるシーンから始まったんですが、僕、馬に乗ったことも触ったこともなかったんです。しかも山本舞香ちゃん(新妻・なつを演じる)を乗せて、しかも道が斜め(笑)。何度も馬に足を踏まれて、実は病院にも行ったんです。やっと台詞がこの感じかなとうまくいったら馬が歩かなかったり(笑)。
あとは僕だけ惣髪で、地毛でやると言ったものの、実際は凄く大変で。髪は肩ぐらいまであったので、大丈夫かと思っていたんですが、実際の惣髪はもっと長いので、髪を全部まとめた後に付け毛が必要。だから、僕だけみんなより早く行かなくちゃいけなくて。今後の勉強になりました(笑)。でも、仕上がりを観たらやっぱりよかったのかな、と。自然で。

risoku_4085

演者として、いつも監督の要望に限りなく応えられることが使命

映画のフライヤーはとても「ベタ」です。メインビジュアルは阿部サダヲさんのギラギラした顔アップ、しかもマゲは寛永通宝、コミカルなエンターテインメント時代劇でありながらも、ガーンと胸底に突きつけられる強いメッセージがある。
原作者の磯田道史さんは完成した映画を観て「鳥肌が立った」そうですが、自分ではこの物語をどんなふうに捉えていますか。

正直、演じるうえでは、それが作られたものであっても実話でも、変わりません。殺人鬼の役でも、僕は俳優として、やはり演じるだけなんですよね。監督に、この作品にはこういうテーマをもっと強く押し出していったほうがいいんじゃないか、と言ったりするタイプではない。演者として、いつも監督の要望に限りなく応えられることが使命だと思っています。
でも、観たお客さんが、本当にこんな人がいたんだ!と、何度も照らし合わせながら観られるというのは実話の楽しみなんじゃないかなと思います。実はまだ、この映画を大きく捉えて、解釈をするまでいっていないんです。お客さんに委ねたいと思います。

『逆鱗』の舞台も終えられたばかりですが、野田秀樹さんも、中村義洋監督も、この時代を生きる責任というか、次世代へつながるいのちへの想いを作品に込めていらっしゃると思います。瑛太さんご自身は、次世代に残していきたいもの、役者として大切にしているものは、ありますか。

後世に伝えていきたいことはもちろんあります。戦争はもう二度と、この地球上のどんな国でも起きてほしくないと思っているし。戦後生きてきた、いま僕らのお祖父ちゃんお祖母ちゃん世代の方々が、あと何十年かしたらみんないなくなってしまうということ。実際、僕たちが生で聞いてきた話を聞けなくなる。そういうところはちゃんと伝えなければ、と思う。
何を大切に・・・うーん、でか過ぎて、僕には発言できないというか。どっちかというと、ずっと受身な人間で。発信するということがないんですよね。でも、そういう人間でも生きていけるよってことは伝えられる気がします。そんなにガツガツしていなくても、俳優になれるよ、とか。すみません、答えになってなくて。
とにかく、この作品をたくさんの方に観てほしいです。もし、3億円もらったら、全部チケットに換えて、みなさんに配りたいくらいなんです(笑)。

瑛太 

1982年12月13日生まれ。東京都出身。
01年にフジテレビ系ドラマ「さよなら、小津先生」でドラマデビュー。02年には『青い春』で映画デビュー。09年『ディア・ドクター』で第33回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。近年の主な映画出演作に『余命一ヶ月の花嫁』(09)、『のだめカンタービレ最終章(前編・後編)』(09、10)、『一命』(11)、『まほろ駅前』シリーズ(11、14)、『僕達急行 A列車で行こう』(12)などがある。中村監督とは『アヒルと鴨のコインロッカー』(07)に続き2本目。16年1月から4月までNODA・MAP『逆鱗』に出演。映画、テレビドラマ、舞台と幅広く活躍。最新作に『64ーロクヨンー前編/後編』(5月、6月公開)がある。

1 2 >