Interview

首都東京に核直撃…こうして生き延びろ! 今そこに迫る危機を描く衝撃のサバイバルコミック『東京核撃』

首都東京に核直撃…こうして生き延びろ! 今そこに迫る危機を描く衝撃のサバイバルコミック『東京核撃』

『東京核撃』というコミックがある。集英社の漫画誌「グランドジャンプ」にて今年4月から7回連載され、大きな反響があった作品だ。

もしも東京に核攻撃があったら、私たちはどうなるのか。ありそうでなかったテーマと向き合い、リアルに、そして切実に“起こりうる現実”を描き切った本作は、正直怖い。しかし、いわゆる平和ボケした頭に喝を入れてもくれる。なにしろ核保有国がいくつも存在する現在、日本が核の脅威にさらされる確率は、決してゼロではないのだ。

著者である細野史羽とは、実は気鋭の漫画家4人による共同名義。今回はそのうちのお二人にインタビューを受けていただいた。便宜上「細野A」「細野B」と表記しているが、それぞれがまったく異なるベクトルを持った個性的な漫画家である。そんな面々が共同作業をしてまで描きたかった真実とはいったい何だったのか、尽きない興味をまっすぐにぶつけてみた。

取材・文 / 斉藤ユカ

伝えたかったのは、「大都市が核攻撃を受けたとしても、すべてが終わりじゃなくて、対処の方法はある」ということ

©『東京核撃』細野史羽/集英社

昨今は一般レベルにおいても、地震や水害に対しての防災意識は相当に高まっています。でも、核攻撃に備えている人は、おそらくほとんどいないでしょうね。

細野A そうですね。日本が核攻撃を受けるなんて絶対にない、だからそれに対する知識や情報なんていらない、興味もないと、思っていらっしゃいますか? という風に逆にお聞きしたいです。

興味がないわけじゃないんです。ただ、その知識が必要かどうか、それすら私たちは考えていなかったように思います。

細野A そうなんです。ほとんど考えないようになっているんですよね。でも私自身、核攻撃なんて、まずないだろうと思っていながらも、もし、万が一それが起こったときに適切な防御方法があるのだとすれば、それを純粋に知りたいと思ったんです。それがこの企画を漫画にしようと思ったいちばん大きな理由ですね。

率直に申しますと、かなり衝撃的な内容でした。

細野A そうかもしれません。私たちも、この決して軽々しく描いてはいけないテーマで本当に漫画を描いていいものかと悩みましたから。ただ、とにかく伝えたかった、描きたかったのは、「大都市が核攻撃を受けたとしても、すべてが終わりじゃなくて、対処の方法はある」ということなんです。もちろん爆弾の規模や状況にもよりますが、一瞬にしてすべてが失われることばかりではないはずですから、そういうことを知って欲しかった、考えて欲しかったんですね。

細野B 実は、企画自体の大元が持ち上がったのは4年ほど前で、その頃はまだ世界情勢が今ほど逼迫してはいなかったんですけど、それがだんだん状況が変わってきてしまって。

細野A 世の中の流れが次第に、今こそ、この企画に取り組むべきなのではないかと、そんな風に変わってきたんですよね。でも本音を言うと、一方で、あまり気は進まなかったんですよ。

それはどうしてですか?

細野A 怖かったんです。万一のために、最低限の防災知識を語らなくてはいけないと思いながらも、どのような形であれ核を語ることは、非常にデリケートな問題をはらんでますから。私たちはあくまでも、ミサイルの実験報道などをシンプルに恐ろしいと感じ、万一の事態に対してどのように行動すれば良いかの手がかりが欲しいと思った、ただの一般人にすぎませんから。必要だとは感じながらも、こんな大きなテーマに取り組むのはすごく怖かったんですよ。

©『東京核撃』細野史羽/集英社

©『東京核撃』細野史羽/集英社

©『東京核撃』細野史羽/集英社

©『東京核撃』細野史羽/集英社

あえて普通の女性を主人公に。情報をどれだけ詰め込んでも読んでもらえなければ意味がない

制作の手順としては、まずは取材からですか?

細野A 取材というか、調べ物ですね。書籍を集めて読んで、インターネットで検索して……。私ともう一人、細野Cがストーリー構成を担当したんですが、分岐する展開をいっぱい作ったんです。例えば、核爆撃があったときの風向きは東西南北のどれか、電車は動くのか、雨が降るのか灰が降るのか。最初の設定の段階でも、空中爆発なのか地表爆発なのか、あとは爆発の規模についてもいろいろ考えましたね。今回描いているのは爆発威力20キロトンなんですが、これは大きさとしてはすごく小さいんです。

細野B かつて広島や長崎に落とされたものよりわずかに大きい程度です。ただ、70年前と現在では開発技術に大きな差がありますから、そういう意味では威力は大きいんです。

細野A インターネット上だと情報は日々変化していきますが、連載を開始した今年(2018年)の4月時点で調べられる限りの、おそらく正しいであろう核攻撃の対処法を自分なりにまとめました。それをもとに、被核攻撃マニュアルを漫画のストーリーに乗せていくという形でシナリオとネームを準備し、それを作画していくという作業になりましたね。

ストーリーがすべて出来上がった段階で、連載7回分に分けたんですか?

細野A そうです。まとめるのが本当に大変でした。本当は3巻分ぐらいのボリュームがあれば、もっとストーリーを盛り込めたんでしょうけど、当初の、そして一番の目的であるマニュアルという形にふさわしいのは、単行本1冊にまとまるぐらいの文量がベストなのかな、と。

とはいえ、そのコンパクトにまとめられた1巻の中でも、やはり漫画としてのプライドを感じられるんですよね。ストーリーはもちろんですが、登場人物のキャラクター設定にもエンタテインメント性がある。主人公の女性のいわゆる“ダイハード感”も面白いです。

細野A 私はいち漫画家ですから、やはり主人公の女性のドラマがまず決まったんです。それを1巻分にまとめることは無理だと思っていたんですが、3話目で主人公が立ち上がるシーンがあるんですが、そのシーンが見えて「これでできた!」と思ったんです。あとは余白に、重要な情報を落とし込んでいく作業でした。

本当はもっと漫画本来の面白さを追求したかい気持ちもあったんですけど、このシリアスでデリケートなテーマでそれをどう表現すればいいのか、本当に悩みました。情報をどれだけ詰め込んでも読んでもらえなければ意味がないので、エンタテインメントの体裁を最低限、守りたいと思いました。だからあえて普通の女性を主人公に据えて、普段漫画をあまり読まないような女性の読者の方にも読んでもらえるようなストーリーを考えたんです。

主人公が、地下鉄のトンネルの中で旦那さんの幻影を見るんですよね。そのシーンのファンタジックな感じは、女性らしいなと思いました。

細野A そうですね。そこは想像ですけど、極限状態に陥ったら幻覚って見えるんじゃないかなって。いちばん頼りにしたい人の幻影が見えてもおかしくない。こういうシーンを積み重ねていくことで、すべてがうまくハマる瞬間がありました。そうなったら、あとは作画担当の細野Bに渡してお任せしました。

細野B 私は私で「ここは辻褄が合わないのでは!?」「これでは面白くないのでは!?」などと内容にツッコミも入れました。そうやって徹底的に話し合い、分からないなりに試行錯誤しながら作っていった作品ですね。

これはすべて理論上の話なんです、現代の大都市における核爆発を誰も経験したことがないわけですから。

爆発の瞬間には有害な光を遮るために目を覆い、鼓膜を守るために耳を塞いで口を開け、地面を伝わる衝撃から内臓を守るために床に伏せないという描写がありますが、どれもはじめて知りました。

細野A それも実は諸説あって、今回描いているのは政府発表されているものなんです。監修してもらった高田純先生は漫画で描かれたような空中炸裂の場合は、本当は床に伏せたほうが良いとおっしゃっていて。ただ、これはすべて理論上の話なんです、現代の大都市における核爆発を誰も経験したことがないわけですから。

細野B 地表爆発だと強い振動があるけれど、空中爆発だと振動は来ないので、床に伏せても内臓をやられないのでいいということなんですよね。現代の大都市に対して核ミサイルを使うのであればおそらく被害がいちばん大きくなる空中爆発を選ぶだろうから、その際はお腹をつけて体勢を低くした方がいい、と。

どれも仮説の域を出ないのが、ちょっともどかしくもありますね。

細野B いまだに、私たち一般人が知り得る情報は本当に少ないと思いました。まとまったものは、やはり高田先生の研究ぐらいしかない。頼りにできるものがそれしかなかったんです。様々な情報も集約していくと、大元がすごく少ないというか、結局高田先生の研究に行き着いたりしますから。他にも何人かの専門家にお会いしましたが、ほとんどの方が高田先生の研究には少なからず触れていました。

細野A そういう情報の収集や精査から描写に至るまで、ものすごく気を遣いながら描いた作品でもありますね。

私たち読者の想像以上に労力を要した作品だったんでしょうね。

細野A 疲れました。でもいちばん疲れたのは作画担当ですから。

細野B 大変でしたが核被害や街の破壊の凄惨さ、深刻さは、なるべくリアルに、写実的に描かなければと思いました。 ただ、あまりに時間がなかったので、苦しかったことも多かったですが。

©『東京核撃』細野史羽/集英社

細野A 破壊された街のシーンに関しては、監修の高田先生による作画のチェックも細かったです。「これは壊しすぎだよ」みたいな。

ああ、この威力だとこんな壊れ方はしない、とか。

細野B そうです。第2話の終わりに、破壊された街の中で主人公が呆然と立ち尽くすシーンがあって、絵的にはインパクトがあるので個人的にはしっかり描けたと思ったんですけど、高田先生に「これはさすがに壊れすぎだね」と言われて、手直しした原稿を連載時には載せたんです。でも、単行本ではなぜか修正前のデータで入稿してしまって、第3話の冒頭の同シーンとは壊れ方が違うという(笑)。※(注)

※グランドジャンプ編集部注:同ページの、人物作画のみを修正したデータというのを別途、細野Dから受け取り、そちらで校了してしまうという混乱がありました。

本当だ! 2ページ先だとビルが建ってる(笑)。ただ、誰も見たことがない景色にもかかわらず、可能な限りリアルに描こうとしていたわけですね。

細野B とはいえどそれも理論上の話なので、実際は雰囲気を捉えて描くしかない状況ではありました。ただ、脱出していく中で、破壊された場所からどんどん壊れていない街へと移動するというのを、わかってもらえるような描き方をしましたね。

決して核被害の恐怖をいたずらに煽っているわけではない。“恐怖”と“対処法の知識”は両方あるべきだと思うんです。

確かに、このテーマで作品を描くと、フィクションとノンフィクションの境目がわかりにくいかもしれないですね。

細野A その点で言うと、ありがたいことに、読者の方からたくさんリアルなご指摘をいただいたんですよ。主人公の家がある高島平は「隣の駅と取り違えているのではないか」とか。実際に取材に行ったのは確かに隣の駅の倉庫だったりするので、鋭い方がいるなと。あと、主人公が上野の勤務先から脱出して、真っ赤に燃え上がる都心のビル街を高台から見下ろすシーンがあるんですけど、「上野にこんな高台あったっけ?」なども。

そこはもう、エンタテインメント作品として許して! と。

細野A そうなんです、もちろんマニュアルとして実用的でなければいけないのが大前提ですが、あくまで読み物としてのストーリーと演出に必要な誇張や表現は、あえて盛り込みました。それと、高田先生の要求として「大火災と、それを目の当たりにして恐怖する主人公をしっかりと描いてください」と言われまして。それは必ず起こりうるものだから、と。

細野B でもその時、まさに悩んだのが、あの地域って、いちばん高いのが上野公園なんです。高台どころか、あってもなだらかな丘ぐらいの場所。しかもあのあたりは爆心地から遠すぎて、壊れた街はさほど見えないのではないか、と。そのあたりは締切に追われながらも、話し合いに話し合いを重ねて妥協点を探りました。結果として多少のフィクションを描くことになりましたけど、それはあくまで物語として捉えていただければ、と。核攻撃に対処することに関して影響の少ない範囲での脚色なので。

巻末には“保存版”として「核被害対策マニュアル」が掲載されています。これを読んでいるのといないのとでは、いざというときの生存率に違いが出てくるかもしれませんね。

細野B そうですね。私たちは決して、この本で核被害の恐怖をいたずらに煽っているわけではないですけど、とはいえ多少は煽ってもいいんじゃないかなとも思います。“恐怖”と“対処法の知識”は両方あるべきだと思うんです。ある程度の恐怖がなければ、まじめに対処しようとは思わないでしょうから。

細野A とはいえ、この本の情報も全く完全ではないんです。多くの学者さんが調べて、ようやく本当のところがわかってくると思うので、研究がさらに進むことにも期待したいです。ただ、本当におっしゃる通り、これを読んでいるのと読んでいないとでは、いざというときにかなりの差が出るんじゃないかとは思っています。自分以外に守るべき命がある人には特に、読んでいただきたいなと思いますね。

書籍情報

『東京核撃』

細野史羽(著)
グランドジャンプ
集英社

列島震わす一撃、着弾。平穏な日常を突如切り裂いたJアラートの警報音。永田町上空で炸裂した20キロトンの核弾頭。壊滅的打撃をうけた東京の人々に、生き残る術は……? 激動の時代に問う、核災害サバイバルコミック!! 退避から除染方法まで網羅する、保存版・核災害対策マニュアル付き!!

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