Interview

吉岡聖恵 初のソロ作品。カヴァーアルバム『うたいろ』が“放牧中”の彼女にもたらした歌いたいという衝動と興味。その経緯を訊く

吉岡聖恵 初のソロ作品。カヴァーアルバム『うたいろ』が“放牧中”の彼女にもたらした歌いたいという衝動と興味。その経緯を訊く

いきものがかりのヴォーカル・吉岡聖恵が、ソロとしては初となるフルアルバム『うたいろ』をリリースする。いきものがかりのヴォーカルとして歌い続けてきた彼女が、“放牧中”にひとりのヴォーカリストとして様々な年代の様々な名曲たちを通して“歌”と向き合った今作には、彼女が今歌いたかった曲、歌ってみたかった曲が収録されている。吉岡聖恵がどれだけ素晴らしい歌声を持っているヴォーカリストなのかということを再認識すると同時に、今回の経験が彼女のこれからも続く歌手人生、そして、放牧後のいきものがかりにどのような影響を与えてくれるのかとても楽しみになる作品だ。

取材・文 / 松浦靖恵

放牧中の最初の変化。私の中でキラ~ン!って何かが光った

いきものがかりは2018年1月より“放牧中”ですが、吉岡聖恵にとって初めてのソロアルバムとなった今回のカヴァーアルバム『うたいろ』に至るまでの経緯を教えてください。

放牧して半年くらいは、それこそ友達とカラオケに行くくらいで、ほとんど歌っていなかったんです。放牧中にあえて歌から離れてみようと意識していたわけではなかったんですけど、旅行に行ったり、なかなか会えなかった友達に会ったり、リフレッシュしていたので、ふと気づいたら、あれ? そういえば“歌う”ってことをしていなかったなって感じでしたね(笑)。放牧中も何か面白いことがあったらやりたいなとは思っていたけれど、その時点ではその“何か“っていったいなんなんだろうと思っていたし。スタッフさんから何気なく「そろそろ歌ってみない?」と言われたこともあったんですけど、その時点では「何を歌えばいいんだろう?」っていう感じが自分の中にあったんですよね。それで、たしか、いきものがかりの『レコー丼』のカッティング作業をしていた時期だったと思うんですけど、大瀧詠一さんの「夢で逢えたら」をカヴァーさせていただくお話をいただいて。「夢で逢えたら」は好きな曲でしたし、直感的に「やりたい!」「私も歌いたい!」という衝動がビビビって(笑)。

吉岡さんが歌った「夢で逢えたら」のカヴァーは、これまで古今東西の歌手がカヴァーした「夢で逢えたら」がすべて収録されたコンピレーションアルバム『EIICHI OHTAKI Song Book Ⅲ 大瀧詠一作品集Vol.3「夢で逢えたら」(1976 ~2018)』に収録されました。この作品に参加したことが、“歌う”ことから少し離れていた吉岡さんが、また歌いたいと思うきっかけになったということですか?

それが放牧中の最初の変化だったと思います。言葉ではなかなかうまく説明できないんですけど、私の中でキラ~ン!って何かが光ったんですよね。このお話を聞いたとき、自分が歌えるかどうかを考え出す前に「やりたいです!」って即答していた自分に自分が驚いてました(笑)。そのあと少し間を置いて「糸」(中島みゆき)のカヴァーのお話をいただいて。

吉岡さんがカヴァーした「糸」は、吉田 羊さん、松岡茉優さんが出演されているCM(トヨタホームのTV-CM)で流れていますね。

はい。そのCMソングのお話をいただいたときに、自分が大好きな曲、憧れている曲を連続してカヴァーさせていただけることに、とても運命的なものを感じたんです。それまでは自分がソロで歌うということをリアルに考えたことがなかったけれど、この2曲のお話をいただいて、「自分が歌ったらどうなるんだろう?」「私はこの曲をどう歌うんだろう?」っていう興味に勝てない部分が自分の中にあることに気づいたんだと思います。ただ、この2曲をカヴァーするお話をいただいた時点では、カヴァーアルバムを作りましょうっていう話が決まっていたわけではないんです。

「夢で逢えたら」「糸」で完全に“歌うスイッチ”が入った

とはいえ、この2曲をカヴァーしたことで、ヴォーカリスト・吉岡聖恵の中で“いろんな曲を歌ってみたいモード”みたいなものがどんどん膨らんでいったのでは?

振り返ってみると、きっとそういうことだったんだなって思います。放牧してからしばらくはかなりリラックスモードだったので、体がなまっちゃうなと思ってジムに通ったり、歌の練習を始めたりはしていたんですけど、この2曲で完全に“歌うスイッチ”が入ったというか。あと、「夢で逢えたら」や「糸」をカヴァーさせていただいたときに自分の中でいくつもの発見があったことも、今回のカヴァーアルバムへと繋がる最初のきっかけになったと思っています。

例えば、どんな発見があったんですか?

例えば、私はこれまで「夢で逢えたら」という曲に “夢でもいいから逢いたい”っていう儚げなイメージを持っていたんですけど、この曲をカヴァーする際に自分がオリジナルのキーで歌ってみると、明るいイメージが歌い出しから見えてきて、歌の中の主人公の思いも、“夢で逢えるんだ!”っていうポジティブな印象になっていたんです。カヴァー曲の中に自分の色を出すというよりは、曲がもともと持っているいい色をどう自分が出していくのかっていうことをやってみたら、自分で言うのもおこがましいんですけど、自分が歌うことで自分の色も混ざった新鮮な色が見えた。それが自分にとってとても新鮮でした。自分が歌うことで新しい感触が生まれそうな曲、曲が持っている色を自分なりに表現できたらいいなっていう思いが、今回のアルバムに収録した楽曲の基準にもなりましたし、このアルバムに『うたいろ』というタイトルを付けようと思った理由でもあるんです。

歌いたいという衝動と、私が英語詞を歌ったらどうなるんだろうという興味

レコーディング時のエピソードを教えてください。

「ヘイヘイブギー」が発表されたのは昭和23年で、戦争が終わってまだ数年しか経っていない時期だったのに、笠置シヅ子さんのパンチが効いた歌声と明るい曲調に、世の中を明るくしようという強い意志が感じられて。あと、この時代の曲にコール&レスポンスが入っているってすごいな、楽しいなと思ってカヴァーをさせていただきました。この曲のカヴァーでは、私のヴォーカルに対してギターでレスポンスが返ってくるっていうのがポイントです。レコーディング時はみんなでワイワイ盛り上がってしまって、最終的に合いの手のギターが10本も重なって、どんどん派手になっていきました(笑)。私も楽しさを止められない感じで歌っています。今の時代とあの時代とは違うけれど、この曲がもともと持っているパワーと明るさ、突き抜けているはっちゃけた感じが出せたらいいなと思ったので。いつかライヴでこの曲を歌うことがあったら、お客さんとコール&レスポンスしたいです。

“ラグビーワールドカップ2019”のオフィシャルソング「World In Union」は全編英語詞です。いきものがかりではやったことがなかった海外楽曲の英語詞に挑戦していますね。

最初にスタッフさんからお話を聞いたときは、自分が歌えるかどうか、できるかできないかは別として、今までいきものがかりでずっと日本語詞を歌ってきた自分が英語詞をどう歌うのかというところに興味が沸きました。あと、パッと聴いた方がこれを誰が歌っているのかわからないかもしれないな、いきものがかりのヴォーカルの吉岡聖恵が英語詞を歌ってるの!?ってところを面白がってくれるんじゃないかって思えたんですよね。「これはすごく面白い!」って、いい意味で客観的に思えた自分がいた。そこから英語詞を歌う大変さに巻き込まれていったんですけど(苦笑)。とにかく、歌いたいという衝動と、私が英語詞を歌ったらどうなるんだろうという興味のほうが先に立っていました。この曲は英語の発音の難しさもありましたけど、歌詞とメロディが生み出す世界のスケールがとても大きいので、自分の中に持っているものよりも、心も体も大きく広げて歌いました。間違いなく、自分がこれまでの人生の中で歌ってきた曲の中で、一番スケールが大きい曲です。

「少年」は、今の自分のポジティブなモードとぴったり重なった

アレンジャーにはいきものがかりのレコーディングでもお馴染みの本間昭光さんと島田昌典さんが参加されています。

いきものがかりのレコーディングでは、メンバー3人とディレクター、メンバー3人とアレンジャーというところで、3対1でやりとりをしてきたけれど、今回はソロなので1対1で向き合う場面が多かったです。アレンジャーの本間さんや島田さんから「聖恵ちゃんはどうしたい?」と聞かれて自分で判断することも多かったですし。ミュージシャンの方とも1対1の距離感で制作している感じがあって、とても新鮮でした。あと、みなさんがスタジオでニコニコしている姿が印象深かったです。無邪気に楽しみながら音楽に携わっている姿や自分にいろいろと楽器のことを教えてくださる姿に触れて、なんだか自分が軽音部に入部した新入部員みたいな気分になっていました(笑)。

いきものがかりは路上時代から“ゆず”の楽曲をカヴァーしていましたが、ソロで彼らの曲をカヴァーしたことで新たな発見もあったのでは?

ゆずさんの曲は路上ライヴで何曲も歌わせていただいていましたし、「ファンです!」と公言してきたので、“ゆず育ち”の私としては超リスペクトの気持ちでカヴァーさせていただきました。ゆずさんの曲には大好きな曲がたくさんあるけれど、「少年」はこのカヴァーアルバムを作っているときの私の気持ちにぴったり重なったんです。最初のうちは“ソロ”というフィールドに恐る恐る足を踏み入れていたけれど、ここで飛び込まないでどうするって前向きな気持ちで飛び込んでみた今の自分のポジティブなモードと明るい曲調がすごくマッチしていたんです。「少年」の歌詞にある“今、自分のできることをひたすらに流されずにやってみよう”という言葉に鼓舞されたので、これからも今のこの気持ちを忘れないでいようという気持ちにもなりましたし、心がパカーンと開く感じがすごくありました。

やっぱり私は歌が好きなんだなって思いました

吉岡聖恵にとって初めてのソロカヴァーアルバム『うたいろ』が、これからたくさんの方たちの元に届きます。今、どんな気持ちですか?

放牧した初めの時期だったかな……「自分にとって歌ってなんなんだろう?」と、ふと考えることがあったんです。そのとき「私は歌が好きなのかなぁ?」ってつぶやいたら、そこにいる全員に「100パーセント好きでしょ!」って言われて。なんだ、みんなにバレてるんだって(苦笑)。『うたいろ』を作っているときも、やっぱり私は歌が好きなんだなって思いましたし、そこにようやく納得できた自分がいるんですよね。あと、アルバムのマスタリング作業が済んだときに、これまでの自分の中にはあまりなかった感覚があって。レコーディング中は、かわいいなって一曲一曲を目一杯愛でていたのに、マスタリングが終わったら、まるで成人した子供を送り出すみたいな気持ちになって、曲たちとちょっと距離を置きたくなった自分がいたんです。さぁ、独り立ちするのよ、ここからは私の手を離れるけどたくさんの人に愛してもらうのよ、みんなの元に届け~!っていう気持ちになっている自分が、今すごく面白いです。

吉岡聖恵(よしおか・きよえ)

1984年2月29日生まれ、神奈川県出身。“いきものがかり”のヴォーカリストとして2006年にシングル「SAKURA」でデビュー。2017年1月に“放牧宣言”を発表した後、メンバー個々の活動をスタート。2018年より本格的にソロヴォーカリストとして3月に『EIICHI OHTAKI Song Book Ⅲ 大瀧詠一作品集Vol.3「夢で逢えたら」(1976~2018)』に参加、4月に中島みゆきの「糸」(トヨタホームのTV-CMソング)をカバーして配信リリースを行う。

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