Interview

作家までに異色の経歴を持つ一雫ライオン。売れない俳優が、映画脚本家、人気小説家になるまでの決意とは

作家までに異色の経歴を持つ一雫ライオン。売れない俳優が、映画脚本家、人気小説家になるまでの決意とは

売れない俳優から人気脚本家、そして小説家へ――そんな異色の経歴を持つ一雫ライオンが、昨年上梓した初の小説『ダー・天使』は、号泣、一気読み必至の感動作と話題になった。続く2作目は、前作のファンタジー私小説とは一変、猟奇連続殺人をテーマとした『スノーマン』と、その振り幅の広さは圧巻といってもいいほどだ。ここには作家人生にかける一雫の思いが強く反映されている。エンターテイメントのフィールドでは経験豊富な作者が放つ、この哀しいサスペンスホラーが生み出す、“極上”のエンターテイメントについて、話を訊いた。

取材・文 / 田中久勝

俳優から作家、東野圭吾原作映画『パラレルワールド・ラブストーリー』の脚本に至るまで

ライオンさんは、19歳の時に俳優を目指したそうですね。

ワルが高じて、高校を途中で退学になって定時制の高校に転入しました。中学の時に一度俳優をやってみない?と誘われた事もあって、サラリーマンになるのも嫌だったので、19歳の時に俳優を目指したのですが、その時の僕の俳優のイメージは、こういうろくでもない奴が生きれる場所なんだ!と思い、俳優事務所の門を叩きました。最初はドラマの5番手くらいの役に入れてもらったりしましたが、錚々たる方々の演技を観たり、先輩方の話を聞かせていただいているうちに、俺が思っていた世界と違うと思いました。絶対無理だ、売れないと自分で思いました。でも退学になった高校時代の自分を知っている友達に「やっぱりあいつダメだね」と言われたくない、その意地だけで35歳まで役者をやってしまいました(笑)。
仕事もだんだん決まらなくなった中で、27歳の時には俳優・渡部篤郎さんの付き人になりました。

それで現在の事務所に入ってから、風向きが変わったんですか?

そうなんです。40歳になっても飯が食えないとなると、本当にどうしようもない男になるから、役者はもう辞めなさい、これ以上仕事を入れられないからと肩たたきされて。覚悟はしていましたが、テレビも映画も舞台にも自分は出られないのはわかっている、だったら自分で劇団を作るので、それで一年やって、何も自分でも引っ掛かりがなかったら、そこで考えさせてくださいと、一年だけ猶予をもらって劇団を立ち上げました。それがが演劇ユニット「東京深夜舞台」です。そこで必要に駆られ、初めて脚本というものに取り組みました。でも自分で脚本を書いても、役者を当て込んでいくと、自分の役がない、自分をキャスティングできなかったんです。ここで本当に役者をあきらめ、書く方に専念しようと思いました。

必要に駆られて脚本を書いたとおっしゃっていますが、そんなにいきなり書けるものなんですか?

小学校時代から、読んでもいない本の読書感想文を、原稿用紙10枚以上書いて(笑)、褒められていたので、少しは書くことに向いていたのかもしれません。脚本家としてやっていくと決めると、仕事が入ってきて、映画『前橋ヴィジュアル系』『TAP 完全なる飼育』『ホテルコパン』『サブイボマスク』『イイネ!イイネ!イイネ!』などの、脚本を担当しました。

来年公開予定の、東野圭吾原作の注目の映画『パラレルワールド・ラブストーリー』(監督:森義隆/主演:玉森裕太)の脚本を手掛けられますね。

昨年、ちょうど『スノーマン』書き始めた頃に映画のクランクインが決まって、決定稿の台本をあげなければいけなくなり、僕は器用ではないので、一旦『スノーマン』の執筆を止めて、台本に取り掛かりました。『パラレル~』は、東野圭吾さんというヒット作を書き続けている怪物のような作家さんの若い頃の作品で、エネルギーがたぎっているというか、東野さんの恐ろしさを知りました。今回脚本をやらせていただくことになって、原作を読み返して改めて感じたのが、東野さん、全く筆力が落ちないんですよね。小説家として、恐ろしい体力だと思いました。今思うと、自分も小説家としての体力をつけたいと思っていたタイミングだったので、東野さんの作品に触れることができて、いい時間になりました。

デビュー作『ダー・天使』を書いてから作家として体力をつけようと感じたのでしょうか?

『ダー・天使』は、これからも小説を書き続けたいという思いが、ふつふつと芽生える中で、熱情で一気に書きあげました。でも私小説的な側面もあったので、小説家として生きていくには、自分の“十八番”になりうるものはなんだろうと思って。温かいファンタジーは、舞台の脚本を始めてから得意としていて、一方で、割と暴力的なものと、社会的な弱者を主人公にしたものも好きで書いていて、このどちらかを自分の十八番にしたいと思いました。『ダー・天使』はもちろん処女作として大事な作品だけど、それだけではいけないという欲がでてきました。偶然その作家さんの作品を手に取って、読んで、自分が救われた、そんな作品を書くためには、覚悟を決めなければいけないと思いました。それで、とにかく作家としての“体力”をつけようと。もっと言葉から、表現から逃げないで、ふと思い浮かんだ言葉をつらつらと書くのではなく、言葉を“捕まえよう”と思って、『スノーマン』を書き始めました。
それと、『スノーマン』のような残虐な話も、温かな家庭があるから書けた気がします。幸せだから幸せなものを書きたいんじゃなくて、幸せだからこそ、人間の性質の問題かもしれないですけど、ファミリー層だからこそ、生まれてきてからここまで、そうでありたくはないという非日常的な部分を、より作品に投影できるようになったのかなと思っていて。だからこそより切れ味のいい作品が書けると思う。家族に感謝です。

新作『スノーマン』に込めた想い。被害者が被害者でいられなくなっているのが今の世の中

『スノーマン』は、タイトルとは裏腹に猟奇連続殺人が大きなテーマになっていますがが、社会を恐怖に陥れた座間9人殺人事件など、ああいうショッキングな事件は、この小説に影響を与えているのでしょうか?

物語を書いている時って、不思議と書いている内容のこと、ものに出会ったりすることがあります。あの事件は確かに猟奇的な殺人事件であって、恐ろしいと思いましたが、それ以上に気になったのは、どこかで報道規制がかかったのか、ある時期から色々な事実が一切報じられなくなったこと。そっちの方が怖かったです。殺人って、今までは、その原因、問題がどちらかというと明確なものが多かった気がします。でも最近感じるのは、誰もが狂気に走ってしまう、そういう土壌のようなものが現実的には多少なりともあって、“訳がわからない”という恐ろしさを感じます。

物語の冒頭に登場する、事件現場となった昭和時代に建てられた団地を、すごく印象的に描いていると感じました。

色だと思うんですよね。団地って灰色のコンクリート剥き出しというイメージがあるじゃないですか。それが、長年風雨にさらされて、ひび割れていくって人間そのもののような気がして。マンションとは違って、コンクリート剥き出しって、その年数相応の顔になってくるじゃないですか。そういうところにひかれてしまいます。

色といえば、団地のグレー、スノーマンと呼ばれるくらい肌が白く美しい殺人鬼、殺害された売春婦は赤いワンピースに赤いエナメルのハイヒールを履き、お祭りで買った赤い金魚を持ち、真っ白な雪原に飛び散る真っ赤な血……鮮やか色が、感情に訴えかけてきます。

それと、この物語は人々の悪意の話であって、スノーマンは白いけど悪魔=黒、不正を犯し続ける刑事は黒。でも何となく僕の中で、現代社会って白か黒かはっきりさせなければいけないのが息苦しいというか。右にも左にも属さないで、境界線にいるのが好きな人間からすると、グレーではいけないのかと。今は内部告発される時代です。必要なことだと思う反面、全てが透明でクリーンで、それがいいのかといったら、そんな生きにくい世の中はないはずだと思う。そこは問い詰めて答えを出さなければ、という意味では「色」は大切にしました。

事件報道における、劇場型ワイド―ショーの存在や、SNSで当時者の過去を暴き、世間にさらす心ない人たちが多いことなど、社会の息苦しさを作り出している要因のひとつを、リアルに描いていて、共感できる部分も多いと思います。

この小説の中でも、子供を殺されたシングルマザーが登場します。なぜ自分の子供が殺されなければいけなかったかを考えるよりも、世間のほうが、どうやら片親らしい、貧しかったらしい、母親が目を離していたらしいとか、なぜ母親はシングルマザーになったのかとか、そういうところを頼んでもないのにつついてきます。それはワイドショー然り、SNS然り。僕もそれだけワイドショーを観ているということなのかもしれませんが、やっぱりひとつの事件が起きたときに、被害者が被害者じゃない状況ですよね。加害者はフェイスブックやインスタグラムをやっていなくても、一瞬にして顔写真や家族関係、あながち間違っていないだろうなという情報が出てきて。被害者を同情するというところから、みんな書き込んでいたはずなのに、被害者の顔も載せ、その身内の話にまでつながるという、これが一番恐ろしいなと。被害者が被害者でいられなくなっているのが今の世の中だと思います。

書籍情報

『スノーマン』

著者:一雫ライオン
発売日:2018年9月20日
価格:¥720(本体)+税
仕様:文庫判/376ページ
ISBN:978-4-08-745791-9
発売元:集英社

真実を知ったとき、全ての意味が、裏返る
人々を恐怖と熱狂に陥れる白く美しい連続殺人鬼。哀しげな瞳をした彼をめぐる物語の結末は?
渾身のサスペンス!


『ダー・天使』

著者:一雫ライオン
集英社文庫

妻と幼い娘とともに、慎ましくも幸せに暮らしていた二郎。だが、ある日、通り魔から家族を守ろうとして命を落としてしまう。天国で神と交渉し、「天使」として地上へと戻るが、誰からも姿は見えず、手助けも出来ないまま、ただひたすらに妻子を見守り続ける二郎。小さかった娘は、中学生になり、高校生になり、そして――。すべての人への慈しみがあふれる、心温まる現代のファンタジー。

一雫ライオン

本名:若林謙
生年月日:1973年7月12日
出身地:東京都
サイズ:身長:175cm/B:91cm/W:78cm/H:83cm/F:26.5cm
血液型:AB型
来年公開予定の、東野圭吾原作の注目の映画『パラレルワールド・ラブストーリー』(監督:森義隆/主演:玉森裕太)の脚本に加え、来春配信予定の日中合作ドラマ「料理人ワタナベ」(主演;池内博之)の脚本を担当することが、発表された。