奥田民生 ライブの流儀  vol. 1

Review

【前編】ライブで聴く奥田民生 「秋コレ~MTR&Y Tour 2015~」

【前編】ライブで聴く奥田民生 「秋コレ~MTR&Y Tour 2015~」

昨年、メジャーレーベルを離れ、新たに「ラーメンカレーミュージックレコード」を設立した奥田民生。
5月11日に、奥田民生としての第1弾として、ライブアルバムとライブ映像を同時リリースする。
まずは、昨年行われたMTR&Yとしてのバンドツアー「秋コレ」を収めたライブアルバムを、長年奥田のライブを観続けている音楽評論家・平山雄一氏の全曲解説と共に紹介する。

文 / 平山雄一 撮影 / 山本倫子


このアルバムの曲順は、実際のライブのセットリストと同じになっている。僕は2015年11月10日のBunkamuraオーチャードホールで観たが、オペラも上演できるオシャレなホールが民生のアーシーなロックで染め上げられるのが快感だった。このアルバムにはツアー全会場のテイクが収められていて、誰もが思い出に浸れるし、行けなかった人は各会場の様子に触れることができるというわけだ。
“秋コレ”というツアータイトルに即して、MTR&Yの小原礼(ベース、64歳)、斎藤有太(キーボード、48歳)、湊雅史(ドラム、50歳)と奥田民生(間もなく51歳)の4人が、ステージ上に設けられたランウェイにひとりずつポーズを決めて登場するところからスタートする。ユーモアとスリル、もちろん実力派の演奏が楽しめるライブとなった。
僕は昨年、このライブについて、以下のように書いた。
「40、50、60代で構成されるMTR&Yの4人は、年齢の違いを取り払って純粋に一つになる。それぞれのグルーヴをねじり合わせて、一本の強力なワイアーになるダイナミズムとでも 言おうか。その太さ、強さ、しなやかさは、現J-ROCKシーンの最高峰と言えるものだった」。このメンバーになって10年以上が経過したが、その年月にふさわしい充実したプレイが聴けるライブアルバムになっている。
さらに特筆すべきは、マスタリングをユニコーンのABEDONが行っていること。 間もなく50歳の誕生日を迎えるABEDONは 進化を止めず、自分のアルバムのトラックはもちろん、ついにマスタリングまでマスターしてしまった。民生の盟友であり、よきライバルである男の素晴らしい耳が、このライブアルバムに最終的な仕上げを施した。特にギターの音に注目して聴いて欲しい。
初回盤には初のバンド演奏となった「フリー」と「息するように」、それに最近の重要ナンバー「最強のこれから」の大宮ソニックシティ大ホールでのライブ映像が収録されている。
これは間違いなくMTR&Yの自信作だ。

全曲解説

DISC1

1 「解体ショー」
公衆の面前で、たった一人で全楽器と歌をレコーディングするという前代未聞のツアー“ひとりカンタビレ”から生まれたアルバム『OTRL』からのナンバー。それを最強のメンバー4人で演奏する醍醐味を、いちばん感じているのはOT自身だろう。快心のオープニング曲だ。

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2 「フリー」
2013年のアルバム『O.T. Come Home』からのナンバー。これも奥田一人で録音されたアルバムなので、バンド演奏バージョンはこのツアーが初披露と なった。妙に音がいいオーチャードホールで、これまで聴いた中でいちばんのワイルドなバンドサウンドが爆発するのが快感だ。

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3 「ライオンはトラより美しい」
MTR&Yの“M”こと、ドラムの湊雅史のために書かれたような曲。ドカドカと無遠慮な湊のプレイのせいで、ミディアム・テンポのロックの大迫力が堪能できる。それに応えるようにうねる民生のギターが、この上なくスリリングに響きわたるのだった。

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4 「E」
サイケデリックな曲調に潜むメロディの美しさを彫り出す奥田の歌が素晴らしい。OTやJTなどアルファベットで遊びまくる歌詞のセンスも奥田らしく、そうしたユーモアをトレモロのかかったギターの音色がやさしく包んでくれる。叙情的なOTロックの本質がここにある。

5 「チューイチューイトレイン」
ここまでじっくり攻めてきた奥田のギターが、ついに炸裂。ドライブの効いたロックンロールが楽しめる。この曲の後のMCは「今日のギターは全部、ギブソンです。このギターは吉井和哉から買いました。言ってみれば吉井の“元カノ”です(笑)」。 なかなかの名言であった。

6 「スモーキン’ブギ」
ダウンタウンブギウギバンドの74年の大ヒットのカバー。斎藤有太のブギウギ・ピアノが冴える。この曲では奥田のライブの定番になっている特殊効果が使われる。タバコの丸い煙を連発できる装置で、スイッチは民生の足元 にあり、好きなときに発射できて笑いを誘っていたのだった。

7 「まんをじして」
前の曲でも奥田が使ったスライドギターの妙技が、さらに楽しめる。初期の名曲「息子」ではワディ・ワクテルの素晴らしいスライドギター・ ソロが聴けたが、研究熱心な奥田はこのところめきめきスライドの技に磨きをかけている。ブルースの基本に徹した硬派な音色に、奥田のミュージシャン魂を感じる。

8 「いつもそう」
「音のない音」との日替わりメニュー曲。民生がオリジナルなコード進行の探究の中で発見した音楽的な流れが見事だ。さらにそれを完全に理解して表現する小原礼のベースラインが美しい。ゆったりとスローテンポで進む、“民生の歌モノ”の最高峰の一つ。

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9 「音のない音」

“ひとりカンタビレ”ツアーのパルコ劇場で見たこの曲のレコーディング・シーンは忘れられない。手際よくギターをダビングしたところで見えた美しい曲の全貌は感動的だった。そのときの“一人録音”をしのぐ小原と湊のグルーブ、斎藤のコーラスワークが聴きどころだ。

10「海の中へ」
シンセのイントロがダークなロック風味を醸し出す。こうした単調なコード展開の曲では、自由なソロ演奏が魅力。斎藤のシンセ・ソロはアメリカのフリーキーなバンド“ザ・バーズ”を思わせる攻撃的なもので、4人のメンバーが互いに高め合っていく絡みがライブ感たっぷりだ。

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11「フリーザー」
「次は新曲です」と奥田が紹介して始まったこの曲は、文字通りフレッシュな演奏が楽しめる。“愛の証拠”を冷凍保存しようというロマンティックな歌詞が印象に残る。2分ちょっとの短い曲ながら、全体的にヘビーなライブの流れの中でいいアクセントになっている。

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12「息するように」
この曲もまた軽さの中に切なさを含む。エレキギターの弾き語りで始まり、奥田のフォーキーな魅力が味わえる。斎藤のハモンドオルガンのソロがしみじみとしていて良い。最後のギターの♪ジャラ~ン♪という音が消えていく瞬間の倍音が、なんとも気持ちイイ。

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DISC2

1 「ヘヘヘイ」
僕が観た11月10日のライブのベストトラックの一つ。イントロで湊はタバコを吸いながらシェイカーを振り、斎藤はカウベルを叩き、小原はマラカスを鳴らす。そこにエレキを掻き鳴らしながら奥田の歌が入ってくる。この力強さは、MTR&Yでなければ表現できない。

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2 「ギブミークッキー」
「ヘヘヘイ」から間髪入れずに始まるこの曲は、ライブのまんまの危険なムードが保存されている。ギターを低いポジションに構え、腰を左右に振りながら弾き歌う民生は、ロックスターそのものだ。湊のバスドラムワークが凄いことになっている。

3 「イナビカリ」
アルバム『FantasticOT9』の完成試聴会でこの曲を最初に聴いたときの衝撃を忘れられない。♪ギャーン♪と斬り込んでくるギターの音の鋭さに驚いたものだ。何とその音が再現されている。それはマスタリングを担当したABEDONのファインプレーと言わなければならない。グッジョブ! ABEDON!!

4 「手紙」
奥田の♪あーっ♪という最初の一声のインパクトが凄い。それ以上にギターソロが凄い。僕が見た日、奥田は舞台に設置されたランウェイの上で、熱く長いソロを聴かせてくれた。その日の演奏がこうしてもう一度聴けるとは! 生きててよかったぁ。

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5 「鈴の雨」
日替わり曲。この曲の奥田のギターソロもヘビーだ。僕は今回のツアーでこの曲を聴けなかったが、こうして収められているのは有り難い。民生はギタリストとして指折りの存在になったが、それを裏付けるギターソロがこのアルバムの重要なポイントになっている。

6 「無限の風」
イントロは民生の得意技の一つであるギターのアルペジオから始まる。それを後ろで支える湊のスネアドラムがいいグルーブを出している。重すぎず、かといって軽薄にならないビート感は、このドラマーならではのもの。くすんだバスドラムと民生の歌のマッチングも最高だ。

7 「フロンティアのパイオニア」
一転して爽やかな風が吹く。民生の、いわゆる“旅モノ”の歌は、ツアーの日々とも取れるが、日々の暮らしを旅にたとえているとも言える。 クリアーなトーンのギターの音色に合わせるような、小原のハーモニーボーカルが素敵だ。

8 「最強のこれから」
マツダスタジアムのアンコールでも歌われた“50歳の民生”の重要曲。バンド・ バージョンはレッド・ツェッペリンと見まがうほどのハードナンバーになっている。ギターソロ前の民生の雄叫びが、鬼気迫る。“ひとりカンタビレ”の曲ながら、完全にMTR&Yのライブ代表曲になっている。

9 「風は西から」
本編を締めるこの曲は、民生の広島愛にあふれていて、最近の彼のテーマソングの一つになっている。民生の雄叫びに応えて、オーディエンスが一緒に歌う。その自然な一体感に花を添えるように、ライブでは銀テープが客席に向けて発射されたのだった。

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10「わかります」
「疲れてんの、わかる?」と言いながらアンコールに現われた民生は、ダジャレのように「わかります」を歌う。途中で短いギターソロを弾くのだが、リズムギターのようなグルービーなフレージングが最近のお気に入りのようだ。簡単なようでいて手の混んだ民生マジックの一つ。

11「御免ライダー」
小原の野蛮な音色のベースで始まる人気曲。民生にしては珍しい4つ打ちのリズムが会場を踊らせて大騒ぎ。バンドがMRT&Yになる以前のナンバーながら、小原は完全に自分のテイストで若くパワフルなべースソロを決める。そしてエンディングで、民生は誇らしげに小原を紹介するのだった。

12「イージュー★ライダー」
「さすらい」と日替わりでダブルアンコールで歌われた。これもMRT&Y以前の曲だが、湊が我が物顔で気持ち良さそうに叩いているのが微笑ましい。オリジナルとはまったく別モノの魅力あふれるジェネレーション・ソングになった。まさに「ゲー(5)ジュー ★ライダー」だ。

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13「さすらい」
「イージュー★ライダー」と甲乙つけがたい傑作。ライブの最後に演奏されるのに、一糸乱れぬアンサンブルが聴ける。曲の後半で♪どうなった♪と尋ねるオーディエンスに、♪さすらおう♪と呼びかける民生のロングトーンの声が感動的。早くも次のツアーが楽しみになる傑作ライブアルバムのラストだ。

リリース情報

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秋コレ ~MTR&Y Tour 2015~

初回盤(CD2枚組+DVD)
RCMR-9001-3 / 4,167円+税
通常盤(CD2枚組)
RCMR-0002-3 / 3,704円+税

[収録曲]

―DISC1(CD)―
1.解体ショー
(2015年11月10日@Bunkamuraオーチャードホール)
2.フリー
(2015年11月10日@Bunkamuraオーチャードホール)
3.ライオンはトラより美しい
(2015年11月18日@仙台サンプラザホール)
4.E
(2015年11月13日@オリックス劇場)
5.チューイチューイトレイン
(2015年11月6日@わくわくホリデーホール)
6.スモーキン’ブギ
(2015年10月23日@市原市市民会館)
7.まんをじして
(2015年11月3日@市川市文化会館 大ホール)
8.いつもそう
(2015年10月27日@文化パルク城陽 プラムホール)
9.音のない音
(2015年10月28日@神戸国際会館 こくさいホール)
10.海の中へ
(2015年10月28日@神戸国際会館 こくさいホール)
11.フリーザー
(2015年11月10日@Bunkamuraオーチャードホール)
12.息するように
(2015年11月9日@Bunkamuraオーチャードホール)―DISC2(CD)―
1.ヘヘヘイ
(2015年11月9日@Bunkamuraオーチャードホール)
2.ギブミークッキー
(2015年10月31日@福岡サンパレス)
3.イナビカリ
(2015年11月3日@市川市文化会館 大ホール)
4.手紙
(2015年11月10日@Bunkamuraオーチャードホール)
5.鈴の雨
(2015年11月9日@Bunkamuraオーチャードホール)
6.無限の風
(2015年10月25日@アイプラザ豊橋 講堂)
7.フロンティアのパイオニア
(2015年10月30日@倉敷市民会館)
8.最強のこれから
(2015年10月31日@福岡サンパレス)
9.風は西から
(2015年10月31日@福岡サンパレス)
10.わかります
(2015年10月31日@福岡サンパレス)
11.御免ライダー
(2015年11月9日@Bunkamuraオーチャードホール)
12.イージュー★ライダー
(2015年10月27日@文化パルク城陽 プラムホール)
13.さすらい
(2015年11月21日@本多の森ホール)―DISC3(DVD)―
1.フリー
(2015年11月15日@大宮ソニックシティ 大ホール)
2.息するように
(2015年11月15日@大宮ソニックシティ 大ホール)
3.最強のこれから
(2015年11月15日@大宮ソニックシティ 大ホール)

[初回盤のみ]
DISC3のDVD付属


奥田民生

1965年広島生まれ。1987年、ユニコーンのボーカリストとしてデビュー。1993年の解散を経て、1994年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタート。「イージュー★ライダー」「さすらい」などヒットを飛ばし、井上陽水とのコラボレーションや、プロデューサーとしてもPUFFY、木村カエラを手掛けるなど、その才能をいかんなく発揮。弾き語りスタイルの“ひとり股旅”、ひとりレコーディングライヴ“ひとりカンタビレ”など活動形態は様々。2009年にはユニコーンの活動を再開し、ソロと並行して行う一方、世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらとのThe Verbs、近年は岸田繁(くるり)、伊藤大地と結成したスリーピースバンド、サンフジンズとしても活動している。昨年50歳を迎え、新たにレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を立ち上げ、アニバーサリーライブも数々行った。

オフィシャルサイト:http://okudatamio.jp/

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