Interview

吉田山田 10周年イヤーに突入した二人から届いたアルバムは、“人間”吉田山田を形にした作品。その意図を訊く。

吉田山田 10周年イヤーに突入した二人から届いたアルバムは、“人間”吉田山田を形にした作品。その意図を訊く。

“欲望”という言葉からイメージするのは、例えばミルクをもらえるまで泣き続ける赤ちゃんなど、人の三大欲(食欲・性欲・睡眠欲)につながるようなこと。そのため乱暴に言うと、理性的ではないことと捉えられがちな気もする。加えて人間は実に欲深い生きもので、三大欲のような本能的な欲求だけでなく金銭欲、支配欲、顕示欲、物欲……といった、あまり公言したくないような欲求も数限りなくある。けれどもだからこそ、その欲望の動機や理由を掘り下げていくと、その人にとって欠かせない何かが見えてきたりもする。ちょっと恥ずかしい、ちょっとダサい、ちょっとばつが悪い、綺麗事からは見えてこない、その人ならではの何かが表れてくる。
吉田山田の6枚目のアルバム『欲望』は、そういうところにまで踏み込む覚悟を感じる作品だ。2018年10月にデビュー10周年イヤーに突入した吉田山田が歌う、“人間”吉田山田の歌である。

取材・文 / 前原雅子 撮影 / 荻原大志

“人間”吉田山田を形にしたかったいう思いがすごく強かったですね(山田)

10周年イヤーという節目の年にリリースするアルバムは、いつもとはちょっと気分が違うものですか。

吉田 「僕らとしては去年の『変身』、今回の『欲望』、そして次のアルバムを勝手に三部作と思っていて。その意味でこの『欲望』は未完成の集大成という感じなんですよね」

未完成だけど集大成?

吉田 「今、完成したものを作ろうとすると守りに入っちゃうので。たとえあとで“もうちょっとこうしたかったな”と思うようなことになっても、次に出すアルバムで何か答えが出せればいいかなと」

ということは『変身』を作る前からいろいろ考えていた?

吉田 「意識しはじめたのはデビュー8年目に入った頃で。そのとき、作って楽しいっていうのをゴールにしない、と思ったんです。で、初めて、こういうミュージシャンになりたいっていう先のことを目標に掲げて『変身』を作って。あれはいい悪いじゃなく本当に爆発したかったアルバムだったと思うんですけど、今回はそれより少し冷静で、少し温度が高いイメージというか」

『変身』を作ったときに『欲望』の方向性やビジョンみたいなものはあったのですか。

吉田 「ちょっとだけ。『変身』はバンドサウンドや打ち込みみたいなサウンドで。だけど次はちょっとナチュラルな、元来の吉田山田のスタイルのアコースティックに戻りたくなったねっていう話を、『変身』を発売した頃からしてましたね」

希望や願望みたいなものを削ぎ落として削ぎ落として磨いていったら、すごく純粋に残ったのが欲望っていう気持ちだったんですよね(吉田)

その頃には『欲望』というタイトルは出ていたのですか。

吉田 「いや、全然。タイトルは完成間近に思い浮かんだ言葉なんです。今までは希望とか願望とか、わりとキラキラしたものを掲げて歌ってきたんですけど。なんかそれでは辿り着けない場所というか、見えない自分の心があって。それで希望や願望みたいなものを削ぎ落として削ぎ落として磨いていったら、すごく純粋に残ったのが欲望っていう気持ちだったんですよね」

そういう意味合いで“欲望”が使われることはあまりないですよね。色欲とか食欲とか、もうちょっと世俗のほうに。

吉田 「そうですね。三大欲だけありゃ生物としては生きていけるけど、それ以外に本当に自分がしたい欲望を自覚するっていうのはなかなか難しくて。また自覚したらしたで生々しいし、目を背けたい部分だったりするんですけど、それを歌わなかったら後悔するなと思ったんです。すごく個人的なことも全部入れたいっていうのが今回の大きなテーマでしたね」

山田 「僕も後悔したくないっていう思いがすごく強くって。10周年にどこまでできるか、なんかちょっと勝負のような気持ちというか、本気で命を削ってやったらどんなステージに立てるんだろっていう思いがあって。そういう気持ちにシフトしたからだと思うんですけど、出てくる言葉もメロディーも変わったなっていう自覚があるんです。だから大袈裟に言うと遺書じゃないですけど、本当に自分自身のことを書いてんのか?って思いながら曲を書いてたような気がします。なんでしょ、“人間”吉田山田を形にしたかったいう思いがすごく強かったですね。そう思うと今回は他の人のための歌っていうよりも、本当に自分自身の歌のような気がします」

吉田 「だから制作するなかで“作為”って言葉が今回はすごい飛び交ってて。ものすごく細かい一言一言にも、作為をほんっとに削いだっていう。こっちの方が気持ちいいけど、“こういうのが気持ちいいんでしょう?っていう感じがしてヤだ”っていう(笑)」

とはいえ作為を削ぐのは簡単じゃないですよね。いいものにしたいと思う、その気持ちのどこかに作為もあるわけで。

山田 「だから完全に作為をそぎ落とせることはないんですよ。でもそこを目指して頑張ったという。そういったことも含めて、まぁよく2人で話してましたね」

今回はそういうモードだったのですか。

吉田 「というか『変身』を作る半年前くらいから、またよく話すようになりましたね。まず2人で話すことが必要だなって思ったんです。10周年のときに、あそこで話してればって思うようになったらすごく嫌なので。でも35歳の大人が顔を突き合わせて真面目な話をする、しかもビジネスの話じゃないことを話すって、なかなか日常にはないことで(笑)。気持ちの話をするわけですからね」

自分で考えて自分で責任をとる、そこにやっと気づいたっていうか(吉田)

言葉足らずで食い違いが生じたこと、今までにあったりしました?

吉田 「ありました、ありました。今思うと20代の頃は、お互いにプライドもあったし、言わなくてもわかるでしょっていうとこに頼りすぎてて、いろんな物事を多数決で決めちゃってたんですよね。でも10周年が目の前に迫ってきて、周りにもリアルに音楽を辞めていく人がいて。自分自身も音楽を辞めることになるかもしれないっていうのが視野に入ってきたとき、絶対に後悔したくないって思ったんです。あのとき俺はイヤだったんだよね、とか。俺が思った通りにしてたら違ったのかな、とか。そうじゃなくて、どういう結果になったとしても、自分たちで決めたことなら納得できるので。それは音楽を続けようと辞めようと、自分の糧になることで。自分で考えて自分で責任をとる、そこにやっと気づいたっていうか」

そこまで考えるって、そうそうできることじゃないですよね。

吉田 「もちろん、どうなるかはわからないですよ。運もあるし。でも少なくとも僕ら2人のなかでちゃんと決めて、納得できるようにしておきたかったんですよね」

そもそも出会った頃の10代の2人は、よく喋っていたと聞いた記憶が。

吉田 「はいはいはいはい」

時が巡って、またその頃みたいな2人になったという。

山田 「そうですね、確かに。うん。毎日のように、よっちゃんの家に行って」

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