小田和正『あの日 あの時』特集  vol. 4

Report

「KAZUMASA ODA TOUR2016 君住む街へ」@静岡エコパアリーナ レポート

「KAZUMASA ODA TOUR2016 君住む街へ」@静岡エコパアリーナ レポート

これからお届けするのは『明治安田生命Presents「KAZUMASA ODA TOUR2016 君住む街へ」』静岡エコパアリーナ公演の二日目(5月1日)の模様である。10月30日まで続く長いツア-の序盤ということで、演奏や演出に関しては、さらに詰めていく部分もあるのかもしれないが、関係各位のご協力のもと、最速でレポ-トさせて頂けることになった。

コンサ-トの当日はよく晴れた、少し風の強い日だった。掛川からタクシ-に乗り、いざ会場へ。ツア-トレ-ラ-が目に入り、車体はベスト・アルバム『あの日 あの時』と同じデザインだ。それを見た瞬間、ワクワクが一気に高まった。今回はベストを引っ提げてのツア-であり、セットリストもそれに準じたものである。でもそれ以外に“やりようがない”明快さこそが特徴ではなかろうか。ただ、ベストといっても50曲もの作品が収録されているわけであり、それらを駆使すれば、セットリストは如何様にでも組んでいけそうだ。まさにこのあたりは長いキャリアの賜物である。

_DSC0054_s

そこには大きくわけて、「オフコ-ス」のレパ-トリ-と「小田和正」のレパ-トリ-がある。普通に考えればソロのほうがよりパ-ソナルな作風と思いきや、そうは言い切れないのが興味深いところだ。
例えば人前で演奏するのは34年ぶりという「心はなれて」は、5人のオフコ-スが終わっていくさなかの個人的な心情を描いたものであり、逆にソロになってからのほうが小林秀雄が言うところの“無私の精神”に則ったとも受け取れる作風が散見する。「たしかなこと」、「ダイジョウブ」、「今日もどこかで」・・・。客席でこれらを聴きながら、そして時には静かに口ずさみつつ、ふとそんなことを思った。
オフコ-スの曲に関しては、冒頭のMCで“たくさん演奏する”ことを宣言。さらに今回のベストが3枚組であり、その具体的な内容にふれ、図らずもDisc-1がバンド時代の作品で占められたことに関しては、「自分のキャリアのちょうど三分の一がオフコ-スということになる・・・」と、総括めいた発言も。

_DSC0085_s

もちろん小田は、この先もオリジナル・アルバムを目指していくと考えるのが普通だろうが(事実、ステ-ジ終盤には「また新しい曲を書いてステ-ジにもどってくる」と話していた)、やはりこれだけのボリュ-ムのベストを出した後となると、そんな心情にもなるのだろう。 バンド時代の作品では、ベスト・アルバムのリリ-ス時にも大きな話題となった「眠れぬ夜」に注目した。「心はなれて」とともに、今回、初めてソロ名義でもレコ-ディングされたのだ。これが過去を否定するわけでもなくオリジナル・ヴァ-ジョンの良さを保ちつつ、それでいて今という空気感も存分に加味された、絶妙なアレンジになっていた。でも「眠れぬ夜」は不思議な歌といえば不思議な歌である。歌詞に登場する恋愛模様は窮状と表現していいものなのに、サビの“♪ねむ~れな~いよぉ~ると~”になると、誰もが胸に心当たりがあるような景色へと変わるのだ。まあ恋愛模様がシビアということなら、「さよなら」もそうなのだけど。

_DSC0091_s

ステ-ジで熱演を繰り広げているのは、ファンにはおなじみのメンバ-達である。キ-ボ-ド(栗尾直樹)・ギタ-(稲葉政裕)・ベ-ス(有賀啓雄)・ドラム(木村万作)のいわゆるフォ-・リズムに、金原千恵子ストリングス(金原千恵子・吉田翔平・徳高真奈美・堀沢雅巳)を加えた編成である。でも小田のライブの特徴として、全員一丸というか、各担当をこなしつつ、積極的にコ-ラスをしたりもするのだ。通常、ツア-前のリハ-サルといえば曲順にまつわる段取りの確認などもポイントだろうが、小田のバンドの場合は、彼の歌にハモる部分など、コ-ラスのリハにも相当の時間が費やされていると聞く。
そんな人気曲の再演も嬉しいことだったが、ベストの最後に収められた新曲2曲というのが、実に実に効いていたので報告したい。「SUBARU」のCMでおなじみの「wonderful life」は、軽快で心に染み込み易く、新曲にありがちなよそよそしさを感じずに楽しめた。一方の「風は止んだ」は、映画『64』という今年の日本映画界を代表する作品の主題歌という重責も担うが、そのこととは別にひとつのポップ・ソングとしてライヴで聴けば、曲のメロディアスな部分がより素直に届いたのだった。

_DSC0121_s

さて再びステ-ジに注目してみよう。バンドの真ん中で歌っていたはずの小田が、そこには居ないのである。彼は下手の前方の花道で、ギタ-を構え直すところだった。そして終われば、さらに別の場所へ・・・。小田のライヴの名物のひとつが花道だが、それはステ-ジから前方への直線ではなく、もし真上から見たらお菓子のプリッツェルのような形状でアリ-ナに設置され、遠いスタンド席の近くにもにも近づいていく努力を惜しまない。
しかも小田のこのやり方には、客席で観ていて目が“慣れない”という効果もありそうだ。ライヴの視覚的な感動の減速は、これに起因するところが大きい。なのでそれぞれ趣向を凝らすのだが、小田は花道に頼らずとも、そもそもパフォ-マンス自体が多彩だ。まさにバンドの一員のようにメイン・ステ-ジでギタ-を持ち歌うし、ピアノの前に座れば孤高のシンガ-・ソング・ライタ-といった風情も醸し出される。もちろんハンド・マイクで花道を疾走することもあり、それだけでなく客席の通路にも突進し、もみくちゃになりながらもライヴを進めていく。この日もそうだったが、みんなが歌詞を覚えているであろう曲に関しては、観客にマイクを向け、歌ってもらうこともある。マイクを差し出されると、実にみなさん積極的に歌う(以前、小田に訊ねたことがあるのだが、“歌いたそうなお客さん”というのは、顔をみればだいたい分かるのだそうだ。なのでそこに向けてマイクを差し出すのだという)。

_DSC0423

これもファンにはお馴染みだが、小田のライヴには“御当地紀行”と題された、ツア-で訪れた土地の名所などを散策し、出会った人達ともふれ合う映像のコ-ナ-がある。そして今回は、その中に新緑の季節を大いに楽しむ姿があった。こんな色彩は今だけなんだと、愛おしそうに木々を眺める小田・・・。でもこの感性があってこそ、あの名曲「たしかなこと」も生まれたのだろう。
今回のツア-・タイトルは「君住む街へ」である。もちろんこの歌も、大切な場面で歌われた。ツア-で全国を回っていくという、それがそのまま“君住む街へ”ということである。そして“ひとりと 思わないで”という、この一言にどれだけの人達が勇気づけられたことだろう。さらにこの歌には“過去はいつでも鮮やかなもの”という印象的な歌詞もあるが、もちろんこれは、過去というものは時間の悪戯もあってつい鮮やかにみえてしまうものだからこそ、勇気をもって「今」に立ち向かえ、というメッセ-ジだと、個人的には考えるようにしている。
約3時間、演奏されたのは30曲だった。行きの電車で見た初日の新聞の記事のように、この日も小田は花道を疾走していた。でもそれより驚異なのは、これだけの曲数を全身全霊でパフォ-マンスできる体力(特に歌い手としての“声帯”の力)と精神力だろう。これには小田よりずっと年下のア-ティストも驚く。彼らが一番、その困難さを分かっているので。

_DSC0430_s

終演後、楽屋を訪ねた。僕が入っていくと、ちょうどアコ-スティック・ギタ-から手を離したところのように察しられた。納得いかないところをおさらいでもしていたのだろう。小田はよく、ツア-中でも楽屋や移動の車中などで楽器に触っていることがあるようだ。次のライブに向けて、さらなにパフォ-マンスを目指し。もしその貴重な時間を奪ってしまっていたなら、申し訳ないことをした。この日のライヴの感想を告げ、早々に退出した。
これからツア-をご覧になる方々にとって、このレポ-トはいわゆるネタバレに相当するものなのかもしれないが、関係各位のご協力のもと、最速でレポ-トを書かせて頂いた。でもおそらくネタバレはしてないんだと思う。昔も今も小田のライヴには、タネも仕掛けもございませんので・・・。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

取材・文 / 小貫信昭

小貫信昭

80年代より、雑誌『ミュ−ジック・マガジン』を皮切りに音楽評論を開始。以後、主に日本のポップス系ア−ティストのインタビュ−、各媒体への執筆などに携わりつつ今日に至る。主な著書には日本の名ソング・ライタ−達の創作の秘密に迫る『うたう槇原敬之』(本人との共著)、小田和正『たしかなこと』『小田和正ドキュメント 1998-2011』(本人との共著)、人気バンドの凝縮された1年間を繙いたMr.Children『es』(本人達との共著)、また評論集としては、ロック・レジェンド達への入門書『6X9の扉』、J-POPの歌詞の世界観を解き明かした『歌のなかの言葉の魔法』、また、ゼロからピアノ習得を目指した『45歳・ピアノ・レッスン!』などなどがある。現在、歌詞のなかの“言葉の魔法”を探るコラムを「歌ネット」にて好評連載中。

All Time Best Album
あの日 あの時

あの日 あの時

FHCL-3005~FHCL-3007
¥3,611+税

【初回仕様限定盤】
・デジパック仕様
・特製ギターピック封入(2種(「あの日あの時ver.」or「君住む街へver.」)から1種ランダム封入)
*本人直筆のタイトル「あの日あの時」or「君住む街へ」がピックに印刷されています。

日本人に長き渡り親しまれ、J-POPシーンのトップとしてそれぞれの時代を駆け抜け数々の記録を打ち立ててきた小田和正。1969年オフコースを結成し、翌70年プロとして音楽活動を開始、「さよなら」「言葉にできない」などのヒット曲を発表、今作にはオフコース時代のセルフカバー作品に手を加え多数収録。89年2月オフコースを解散後、ソロアーティスト活動を再開。1991年270万枚を超える大ヒット作となった「ラブ・ストーリーは突然に」明治安田生命CM曲でのヒット曲「たしかなこと」「今日もどこかで」やSUBARU ブランドCM タイアップソング「wonderful life」や、5月から全国東宝系にてロードショー公開される映画『64-ロクヨン-前編/後編』の主題歌「風は止んだ」も初CD化。まさに43年に渡る小田和正の創作活動の軌跡をたどった、珠玉の50曲を収録。

収録曲

【DISC 1】

  1. 01. 僕の贈りもの
  2. 02. 眠れぬ夜
  3. 03. 秋の気配
  4. 04. 夏の終り
  5. 05. 愛を止めないで
  6. 06. さよなら
  7. 07. 生まれ来る子供たちのために
  8. 08. Yes-No
  9. 09. 時に愛は
  10. 10. 心はなれて
  11. 11. 言葉にできない
  12. 12. I LOVE YOU
  13. 13. YES-YES-YES
  14. 14. 緑の日々
  15. 15. たそがれ
  16. 16. 君住む街へ

【DISC 2】

  1. 01. 哀しみを、そのまゝ
  2. 02. between the word & the heart-言葉と心-
  3. 03. 恋は大騒ぎ
  4. 04. ラブ・ストーリーは突然に
  5. 05. Oh! Yeah!
  6. 06. そのままの 君が好き
  7. 07. いつか どこかで
  8. 08. 風と君を待つだけ
  9. 09. 風の坂道
  10. 10. それとも二人
  11. 11. my home town
  12. 12. 真夏の恋
  13. 13. 伝えたいことがあるんだ
  14. 14. 緑の街
  15. 15. woh woh
  16. 16. the flag
  17. 17. キラキラ

【DISC 3】

  1. 01. たしかなこと
  2. 02. 大好きな君に
  3. 03. 明日
  4. 04. 風のようにうたが流れていた
  5. 05. ダイジョウブ
  6. 06. こころ
  7. 07. 今日も どこかで
  8. 08. さよならは 言わない
  9. 09. グッバイ
  10. 10. やさしい雨
  11. 11. 東京の空
  12. 12. その日が来るまで
  13. 13. 愛になる
  14. 14. そんなことより 幸せになろう
  15. 15. やさしい夜
  16. 16. wonderful life
  17. 17. 風は止んだ

小田和正スペシャルサイト
http://www.kazumasaoda.com/

オフィシャルサイト
https://www.fareastcafe.co.jp/

vol.3
vol.4
vol.5