Interview

BAN’S ENCOUNTER 長崎発、潔い言葉と音で聴く者を揺さぶる3ピースバンドの新作はなぜいっそう強く響くのか?

BAN’S ENCOUNTER 長崎発、潔い言葉と音で聴く者を揺さぶる3ピースバンドの新作はなぜいっそう強く響くのか?

長崎から登場した3人組である。必要最小限の編成から繰り出されるその音楽は、必要十分な言葉と音だけで構成されていて、つまりは余分なものが何もない。そうした潔い楽曲が強い説得力を持って響くのは、その潔さが彼ら自身の有り様の反映であると感じられるからであり、同時にその潔さとは真反対の、抑えようとしても抑えきれないで溢れ出てくる伝える意志の濃さのせいだろう。1月にリリースされたバンド初の全国流通盤『YOU’s』に続く新作『おはよう、おやすみ。』では、その楽曲と真っ直ぐなボーカルの魅力がいっそう際立っている。
ここでは、バンド結成のいきさつから始めて、彼らが伝えようとしている思いがどんなふうに焦点化され、新作に昇華されていったのかを3人に語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史

唯一の友達と何かをやりたいと思ってて、それがバンドだったっていう。

まず、このバンドが生まれたいきさつから聞かせてください。

松尾 元々は、僕が(田原)誠也くんと地元がいっしょで、BAN’S ENCOUNTERのきっかけになるバンドを中高とやってて、でも高校卒業でみんな進路がバラバラになるなかで「音楽をまだやりてぇな」と言ってたのが僕と誠也くんで、「じゃあ、そのままバンドやりましょうよ」という話になって、始めたのがこのバンドですね。

高校を卒業した後もバンドを続けることにした時点で、例えば本気度が高まったり、音楽の内容が変わったり、といったことはあったんですか。

松尾 どうなんですかね。変わってないんじゃないかなあ(笑)。

田原 高校を卒業してもやるって話になって、もう一人と3人でやり始めたのはいいんですけど、僕ともう一人は長崎で進学したのに、コイツ(松尾)だけ福岡の専門学校に行っちゃって、そこに行ってる間の2年間は“遠距離バンド”というか…。

松尾 そうなんですよ。その2年間はライブの前の日に帰ってスタジオに缶詰状態で練習して、それでライブやって、というのを2年間続けてたんです。そういうところから始まってるんで、いま振り返ると“むちゃくちゃバンドがやりたかったんだろうな”って思うんですよね。

松尾洋平(Vo、Gt)

直感的に思うのは、“そうまでして長崎に戻ってやらなくても、バンドをやる仲間は福岡でもみつかっただろうに”ということなんですが、松尾さんのなかでは田原さんたちとやるということが大事だったんでしょうか。

松尾 そうですね。誠也くんと、もう一人と、その3人でやりたいという気持ちが強かったし、それに福岡のほうが長崎よりバンドをやる人間はもっと多いだろうということもわかってなかったというか…。友達を作るのがヘタなんで(笑)。唯一の友達と何かをやりたいと思ってて、それがバンドだったっていう。

つまり、松尾さんにとって「バンドをやる」ということは、「生まれ育った長崎で仲間2人と濃い時間を過ごすこと」というような意味だったわけですね。

松尾 すごく憶えてることがあって、高校を出てもバンドをやるとなった時に、誠也くんが「松尾とだったらいい曲が作れそうというか、いいバンドがやれそう」と言ってくれたことがあって、そういう言葉の一つひとつがうれしかったし、そういうことを“そうだ”と信じられるヤツらとやっていくのがバンドっていう。多分、そういう気持ちしかなかったんじゃないかなあという気がします。

田原さんは、「オマエとならいいバンドやれそう」発言は憶えてますか。

田原 憶えてます、憶えてます。それまで松尾に対して“コイツはすごいな”と思うことはなかったんですけど…。

松尾 なかったんかい。

田原 全然なかったよ。チャリンコの立ち漕ぎもでけへんし(笑)。でも、いっしょに遊んでて、音楽にのめり込んでいくなかでコイツが歌ったときに、“ああ、ヤバイな。コイツとやりたいな”と思いました。

田原誠也(Dr、Cho)

ズーさんは、入る以前にBAN’S ENCOUNTERの音源を聴いたり、ライブを見たりしてたんですか。

ズー はい。僕もバンドをやってたんで対バンしたりしてたんですけど、単純に僕はBAN’S が好きなバンドだったんです。

どういうところが良いと思って好きになったんですか。

ズー 例えば『YOU’s』に「夜」という曲があるんですけど、その曲は前のバンドをやめるかやめないかということを考えてた時期の自分にもすごく重なるものがあって、そういうふうに人にそのまま重なる歌というか。それに、聴いてると気持ちを奮い立たせてくれるみたいな感じもあって、それは松尾さんという人間がそのまま曲になってる、みたいな気がするというか、そういう歌なんですよね。

それで、自分からアプローチしたんですか。

ズー 僕がやってたバンドが解散した時にちょうどベースを募集してて、やりたいなあって思って。それでライブを見に行ったときに、「バンドができなくなっちゃいました」という話をしたら、松尾さんが「ベースやってみる?」って。僕は前のバンドではギターをやってたんで、冗談半分だったんだとは思うんですけど、僕は「ぜひやらせてください!」って。

ズー(Ba、Cho)

「やってみる?」と言ったのは、松尾さんのなかで何かピンと来るものがあったんですか。

松尾 本当に何もなくて(笑)。むしろ、いままではあったんですよ。歴代のベーシストは“なんか、面白いな”とか“この人、かっこいいな”というのがあったんですけど、ズーに関しては「ベース募集してるよ」と言ったのは本当に冗談半分だったんです。ただ、そのときはけっこう大々的にSNSで募集したんですけど、広がり方とは裏腹に反応はあまりなくて、そんななかズーが誰よりも先に連絡くれたので…。でも、その連絡くれた瞬間にも僕は何もピンと来てなくて(笑)、それでも誠也くんが「僕らにはベースが必要だし、やりたいと言うんだから1回入ってみようよ」と言って、スタジオに入ったんです。

田原 “やってみてから考えよう”精神だって言ったんですけど…。

松尾 ギターをガンガンに弾いてたんで、ベースも少しはかじったことがあるやろと思ってたんですけど、アンプで音を出したこともなかったんですよ。震えながら、来ましたからね。

田原 (笑)、スタジオに来た時、震えてたんですよ。

松尾 だから、音の作り方もわからない状態でスタジオに来たんです。

そこで、ドラマなら、ずっとピンと来なかったけど、スタジオに入って音を出した瞬間にピンと来た、という展開なるわけですが、そういうことはなかったですか。

松尾 なかったです(笑)。でも、コイツにはいままでのベースと違う部分がしっかりあって、というか人間的に僕らにないものがちゃんとある人間で、覚悟がある人間というか。やっていくなかで、“コイツ、マジでバンドやりたいんだな”みたいな。バンドが好きという気持ちで来てくれたというコイツに対して、僕らもそういう人間を拒む理由はないし。むしろ、そういう人間とやりたくてバンドを始めたから、やっぱりそこが決め手になりましたね。

とすると、このメンバーになって、だんだんバンドになっていった感じなんですね。

松尾 そうかもしれないですね。いまだに、その延長線上かもしれないです。

今回の曲作りは、自分の温度感みたいなものが出る方向に自然と進んでいった気がします。

さて、新作についてです。今回の制作は、どういうふうに進んだんですか。

松尾 1月に『YOU’s』というアルバムを出して、その後のツアー中だったかな。次の作品を今年中に出したいということと、レコーディングの日取りはこのへんでという話はもらってたんです。わりと余裕を持ってもらって、そこからツアーをやるなかで作っていきましょうという気持ちで僕たちもいたんですけど、僕がまあ、何も書けなくて…。僕、ひとつのことしかできないんですよ。で、ツアーが終わっても書けなくて…。それでどうしたんだっけなあ…。あっ、そうだ。その時期に西日本豪雨があって、それでその時期に決まってたライブがキャンセルになって。僕ら、バンドをやってきて、そんなことは初めてだったから、なんとも言えない気持ちになったんですよ。天災でいろいろなことがありましたけど、僕ら自身の身に降りかかってきたときの感じ方はやっぱり全然違ってて。それが何か僕のなかで歌うベクトルを示したというか、今回のアルバムに関係してると思うんです。誰かを想ったりすることとか、そういう気持ちって本当にかけがえがないなあと思って。そこからだんだん曲が出来始めた感じだったと思います。

あらかじめ新作レコーディングのスケジュールが知らされていて、それまでに新曲を作っておくという、ある種の宿題が課されていたのに、松尾さんはそれがクリアできていなかったわけですよね。そこに、天災による突然のライブ・キャンセルで時間ができたわけですが、“ラッキー!”という感じにはならなかったわけですね。

松尾 ならなかったですね。むしろ、その時間を歯がゆく思ったというか、“何してんだろう…”という感じだったんです。そこで“何かしたい!”、“何ができるんだろう?”という気持ちになったときに、“そうか、この今感じてることを曲にしたい”と思ったんです。それでまず「明日を」という曲と「想うこと」という曲と、その2曲ができました。その2曲はセットみたいな感じなんですけど、特に「想うこと」はその時期に感じたことを赤裸々に書いた曲ですね。今回のアルバムの原点は、そういうけっこう劇的な出来事から始まったんで、“こんなに自分の内側に潜り込んだ曲作りってもしかしたら久々だったかもしれないなあ”と思うくらい、自分の温度感みたいなものが出る方向に自然と進んでいった気がします。

ちなみに、普段はどういう場面で曲が生まれるんですか。

松尾 前は漠然といい感じのメロディを作って、なんとなく思ってることを歌って作ってると思ってたんですけど、ここ最近確信的に感じるのは、何かテーマを持って僕は曲を書いてるんだなということですね。今回も曲ごとにその時々の何かシチュエーションとか感情がまずあって、それがそのまま歌になるっていう。だから、自分のなかにはっきりテーマがないと曲は書けないなあということは最近思いますね。

田原さんから見て、どういうことが松尾さんのなかで曲になるんだと感じていますか。

田原 松尾は自分のなかで日々の暮らしのいろんなことを感じながら生きてるんだろうなと思ってるんで、だから特に今作に関してはアルバム1枚がちゃんと物語になってるというか、朝起きて夜寝るまでの普通の人の1日というか…。松尾の1日かもしれないですけど、そのなかで夢があったり誰かのことを想ったりっていう。すごく短い曲もありますけど、それがちゃんと次の曲を生かすようになってて、“よう書いてきたな”と思いましたね。

今回は、自分がずっと思ってたことに対して、離れたところから見られた感じがします。

「自分のなかにはっきりテーマがないと曲は書けないなあ」と感じているという話がありましたが、今作ではそのテーマに対する焦点の絞り方がよりタイトになったというか、自分が何を描こうとしているかということをより明快に意識して書いている印象があるんですが、いかがですか。

松尾 多分、歌っていることは昔の自分から今日の自分に至るまであまり変わっていない気がしてるんですけど、でも誰かを想うこと…、例えばあの頃仲良かったアイツがもう夢を諦めて普通の社会人になるらしいとか、そういうめちゃくちゃ身近な出来事に対してこれまでは歌ってたのが、焦点を絞り込むというよりは逆にもっと大きくでっかいところで想うことを歌ったというか…。だから、夢なら夢というテーマは昔からずっとあって、それを歌ってきたんだけど、今回ようやくその夢というテーマ全体というか、そのテーマをちゃんと歌えたということかもしれないですね。視野が広がったということなのかもしれないけど、自分がずっと思ってたことに対して、離れたところから見られた感じがします。

それは、例えば自分がよく知っている山のことをずっと歌ってきて、ただこれまでは自分の足元から頂上までの道筋のことだけを歌っていたのが、その山の高さや裾野の広がりまで歌えるようになった、みたいな感じですか。

松尾 その例えはすごくいいなと思います。ただ、曲によっては相変わらず自分の周り半径1メートルくらいの範囲のことを歌ってるなと思うし、むしろそこから始まっていないと嘘っぽい気がするんですよ。だから、前よりも広く見渡してるとは思うんですけど、例えば“君”に歌う場合に、前はその人しか見てなかったのが、今回はその周りいる人や風景も見渡した上で“君”に歌ってるっていう。そういう感じかもしれないですね。

自分にとってメロディというのは「こっちだよ」という感じで手招きしてくれる存在のような気がするんです。

田原さんは、今回の作品のなかでいちばん印象深い曲、それはいちばん苦労したとかいちばん好きとか、印象深い理由は何でもいいんですが、1曲選ぶとすればどれになりますか。

田原 「星に願いを」ですね。松尾は、サビがふと瞬間的に湧き上がってくるイメージがあるんですよ。言葉もいっしょに。この曲もそうで、いきなり出てきたサビを聴いて、「この曲を絶対作りたい」と言いました。みんなに聴いてもらいたい、と思ったし。

松尾 あのサビは、このメロディでしかないし、この言葉でしかない、というサビが出てきたのに、他の部分が全然できなかったんで、むちゃくちゃ苦しかったんですよ。

そういう場合、あの曲だったら♪もしも僕が君の夢の一つになれたなら/あの日見つめていた空の星のように見えるか♪という言葉から逆算していくような感じで作っていったんですか。

松尾 そうですね。そういうことって前にもあって、そういうときは“僕がどう歌いたいか?”じゃないんです。“この歌は何を歌いたいんだろう?”っていう。“この曲は何を伝えたいんだろう?”ということを考えるんですよね。自分にとってメロディというのは「こっちだよ」という感じで手招きしてくれる存在のような気がするんですね。「こっちに入り口があるよ」とか「こっちに行ったら出口だよ」とか。でも、この「星に願いを」に関してはゴールだけが用意されていて、「入り口はどこでしょ?」と突きつけられて、それで「用意、スタート!」と始まった感じだったんで…。

田原 そのゴールを見つけちゃったもんねえ。

松尾 オケだけ先にできてて、でも歌ができなくて、それで一度くじけちゃって「もう1回、録り直さない? これ、違うかもしれない」と言ったら、誠也くんが「いや、俺は気持ち良くできたんだけど」って。それで、「生意気言って、すみませんでした」って言って(笑)、もう1回がんばってみたら、自分でもすごく思い入れのある、いい曲になりました。

ズーさんは1曲選ぶとすれば、どれになりますか。

ズー 僕は「ありふれたひと」という曲が好きです。僕はいまだに1リスナーとして聴いてるところがあって、BAN’Sの曲には歌詞が自分に刺さるというか、考えさせられる歌詞があって、それもすごく好きなところなんですけど、この曲には♪同じような一日繰り返してるようでさ♪みたいに、そういうフレーズがたくさんあるんですよね。

松尾さんはどの曲ですか。

松尾 二人が言ってくれた2曲はどちらもすごく苦労したし、だから思い入れも強いんですけど、逆にすごく楽しく作れたという意味で印象に残ってるのが「無才能平凡人」という曲で、ただあれはむちゃくちゃはっきりしたテーマがあったんです。というのが、ズーは元々、北九州の人間なんですけど、ついに長崎に引っ越してきたんですね。そのときに、本当に何も考えてなくて、ベースだけ担いで越してきたんですよ。だから、生活用品は一切無い状態で暮らしが始まって、「電子レンジも無いの?」「来月、買います」「いますぐ買えよ。オマエの生活が心配だよ」みたいな日々が続いてた時期があって、ちょうど曲が書けてなかったから、ズーのことを書いてみようと思って。それで作って、スタジオに持って行ったら不評の嵐で、誠也くんが「電子レンジじゃねぇよ」とか言って…。

田原 (笑)。

松尾 でも、「いやいや、これがいいんだよ」って、レコーディングしたら、みんな「めちゃくちゃ、いいやん」って。大逆転勝利でしたね(笑)。

(笑)、そうやっていいアルバムができたわけですが、今後の野望も聞かせてください。これから、BAN’S ENCOUNTERをどういうバンドにしていきたいですか。

松尾 野望ですか? ずっと変わらないんですけど、僕は売れる/売れないみたい価値観が著しく欠けている人間で、でもできるだけたくさんの人に知ってもらいたいっていう、その気持ちだけはめちゃくちゃあるんです。ただ、ライブをたくさんやって、ちゃんと人の顔を見て歌うようになって、いろんな憧れは持つようにはなりました。単純に、人がいっぱい入ってるライブハウスで歌いたいとか。でも、最近すごく思うのは、ちゃんと人に届く音楽をやれるバンドでありたいということなんです。例えば激アツのライブハウスで、コブシが上がりまくるライブをやることより、どんな場所でも、どんな時でも、自分たちの歌が届くバンドになりたいっていう、自分たちに対する欲求のほうがいまは強いですね。

BAN’S ENCOUNTER

松尾洋平(Vo、Gt)、ズー(Ba、Cho)、田原誠也(Dr、Cho)。
長崎県長崎市発、スリーピースロックバンド。2012年3月、活動開始。2017年10月、THE NINTH APOLLO 所属。翌11月に、サポート・メンバーだった島津一槻(ズー)が正式加入。2018年1月、バンド初の全国流通盤となる1stミニアルバム『YOU’s』を発売した。

オフィシャルサイト
http://bansencountermail.wixsite.com/bansencounter

フォトギャラリー