佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 69

Column

ザ・スパイシー ~「もう彼らはそこらのお兄ちゃんじゃない!」

ザ・スパイシー ~「もう彼らはそこらのお兄ちゃんじゃない!」

5人組エンターテイメント・ロックバンドのスパイシーコウヤドウフが、「ザ・スパイシー」と改名して初のワンマンライブを東京・渋谷のクアトロで開催した。
ストレートな正統派ロックサウンドを目指す方向性が打ち出されたことから、まだ発展途上ではあるといえ、ロックバンドとしての急速な進化がはっきりとわかるライブになった。

観客にもそうした変化が十分に伝わったのか、かなり好評だったようである。

そして何よりも印象的だったのは、ステージ上のメンバーの表情だった。
全員がプロの顔つきになって、引き締まってきたのだ。

ぼくは初めてライブを観た昨年秋の段階で、楽曲に密度が足りないせいか「意あって力足らず」と、感じたことを当コラムで正直に書いた。
しかしそれからわずか1年で、ザ・スパイシーは著しい成長を遂げていた。

熱心なファンはそのあたりのことも、十分に感じ取っていたようだった。
ライブ終了後のツイッター上では、文末に「!」ついた書き込みが目立った。

彼らが躍進するきっかけとなったのは昨年秋に新メンバーとして、スパイシー・コウバヤシが加入したことだ。
そのタイミングでバンドとしての方向性を先鋭化させたことから、心機一転して“ここでバンド名を変えてみよう”ということにもなったという。

ナカーノ キーボードが入るとバンドのアンサンブルも変わってくるし、彼はギターもパーカッションもできる。色んな部分が厚くなることで、曲自体の可能性も広がるんですよ。そういう面では変化のキーになったと思いますね。

コウバヤシ 自分が参加した頃から曲の雰囲気やニュアンスだったり、色々と変わりつつあって。バンド全体として“新しく前に進んでいこう”という段階だったので、バンド名を変えようという話になったんです。

キーボードとパーカッション、ギターが弾けるコウバヤシが加入したことで、音楽性に幅と奥行が増してサウンドが多彩になっていった。
そしてアレンジだけでなく、歌詞やメロディにも手が加えられたことによって、楽曲のクオリティが高くなったのだ。

そのおかげでナカーノがもともと持っていたソングライターとしての能力と、ヴォーカリストとしての表現力が活かせるようになり、パフォーマーとしての類まれなる力を発揮できたのだろう。
日本語の発音の仕方やマイクへの声の乗せ方まで、短期間でこれだけの進歩を遂げたのは驚異的だ。

「ボーカルのイケメン、スパイシーナカーノの色気も増してとても良かった!」という女性の声にも、素直に頷けるものがあった。

ところでバンド名から消えてしまった“コウヤドウフ”についてだが、ナカーノは愛着とこだわりをこんなふうに語っている。

元々“和洋折衷”的な部分が、このバンドにはあって。日本語ロックというもの自体も和洋折衷ですし、歌謡曲的な要素もあったり、みんなのルーツも色んなものが混ざっていたりする。“スパイシーコウヤドウフ”という名前には、“ミクスチャー”的なニュアンスも込められていたので、そこは今後も大事にしていきたいなと思っています。

このライブに合わせて発売された7曲入りのアルバム『FEEL The Spicy』は、基本一発録り、ボーカルのピッチ修正は一切無し、全ての録音を計5日間で終えたという。
まだライブの会場における直接販売でしか手に入れられないが、早く多くの人に聴いてほしい作品だ。

撮影 / 唐牛峰作 © 2018 Hosaku Karouji

ザ・スパイシー(旧:スパイシーコウヤドウフ)の楽曲はこちら

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
「マイ・ラスト・ソング」では構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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