山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 46

Column

レナード・コーエン / The Future

レナード・コーエン / The Future

詩人にして小説家、ソング・ライターにしてシンガー、そして……稀代の伊達男。
天賦の才能に恵まれ、数多の賞賛を浴びながら、決して現状に甘んじることなく、生涯現役で自身の内面を深め、新しい音楽性に挑戦し続けたレナード・コーエン。
2016年11月7日、彼を失って2年目の秋。私たちはその詩に、その声に、その世界に、いまも触れることができる。


ごく稀に、天は二物以上のものを与えることがある。圧倒的な文学的、音楽的才能、人のこころを捉えて離さない声、佇まい、伊達男そのものの容姿、エトセトラ。レナード・コーエンは真のアーティスト。好き嫌いはともかくとして。

僕がデビューして間もないころ、彼が初期に書いた歌が特別にこころに入ってきて、一日中陽が当たらない部屋で、モノローグのような歌たちを好んで聞いていた。それは単なる独白ではなく、こころの中に短編映画のような風景を描いた。偉大な詩人としてのレナード・コーエン。英語の美しい響き。こころに風景として言葉を焼きつけていく。

Bird on the wire / 拙訳

Like a bird on the wire
Like a drunk in a midnight choir
I have tried in my way to be free

Like a worm on a hook
Like a knight from some old fashioned book
I have saved all my ribbons for thee

If I, if I have been unkind
I hope that you can just let it go by
If I, if I have been untrue
I hope you know it was never to you

電線に佇む鳥のように
真夜中に酔っぱらった聖歌隊のように
わたしは自由であろうとしてきた

釣り針にひっかけられたミミズのように
古くさい本に出てくる騎士のように
わたしはすべての勲章をとっておいた
あなたのために

もしもわたしに思いやりが足りないのなら
水に流してはくれないだろうか?
もしもわたしが誠実でなかったのなら
それはあなたに対してではなかったのだとわかってはくれないだろうか?

“月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり”

たとえば。芭蕉の言葉は“響き”として僕のこころの深いところに棲んでいる。それが母国語ではない英語でもたらされた初めての経験。

頭のなかで日本語に変換しなくても、光景が浮かんでくる。そして、その光景は日によって、自分のこころもちによって変化していく。

あの歌詞が、物哀しくも美しいメロディーにのって、あの声で歌われるとき。6畳の部屋は国籍不明の異国になる。それはたとえば恋について書かれた歌でも同じで、部屋に美しくも儚い恋の匂いがただよってくる。たとえ彼が特定の恋人について書いていたとしても。

彼はこう語った。「もし、私の作品に何かが表れているとしたら、それは自分の経験を告白しているからだ。詩人というのは大きな葛藤を抱いている存在で、作品を通じて初めてその葛藤を調和させることができる」、と。

多くの場合、詩人として語られるけれど、彼は稀代のメロディー・メイカーでもある。彼が過ごしてきたであろう、モントリオール、NY、LA、路地裏の部屋、ギリシャの島々、ホテルの部屋、エトセトラ。メロディーはそれらの風景を描きながら、歌詞とあいまって人間が本来もっているはずのわずかな「希望」を「喪失感」とともに浮き彫りにする。時に宗教的な響きも帯びて。彼が禅に傾倒していたことからもわかるように、いつだって精神を突き詰めていたのだろう。

数多くのアーティストにカヴァーされた名曲「Hallelujah」。いち早くその曲の素晴らしさを認めたのはディラン。僕はカヴァー・アルバム『I’m Your Fan』でジョン・ケールがカヴァーしたヴァージョンでその存在を知った。

白眉なのはオリジナル・アルバム1枚だけを残してミシシッピに消えた、ジェフ・バックリーがテレキャスター1本で残したヴァージョン。彼もまたジョン・ケイルのヴァージョンに触発されたのだという。90年代の始めのNY、イーストビレッジ。彼は近所の小さなアイリッシュ・パブで歌っていた。僕も同じ空気を吸っていたから、ひときわこのカヴァーは胸に迫ってくる。本質はかくも本物によって受け継がれていく。

個人的にお薦めする作品は1992年にリリースされたアルバム『The Future』。そこに収録されたフレデリック・ナイトのカヴァー「Be For Real」を是非聞いてみてほしい。冒頭で「人のこころを捉えて離さない声」と書いたけれど、デビュー時の声とはもはや別人。老師のように穏やかに、圧倒的な説得力をもって、低く、深く語りかけてくる。彼がどのように生きてきたのかが声に顕著に表れている。

『The Future』を通して描かれた傷だらけの「未来」。彼亡きあと、僕らはその時間を生きている。今一度聞いてみると、彼の歌は怖いくらいに示唆的だ。

感謝を込めて、今を生きる。


レナード・コーエン / Leonard Cohen:1934年9月21日、ケベック州モントリオールに生まれる。9歳のとき父親が他界。母親に勧められて詩を書き始め、13歳でギターを弾き始める。1951年、マギル大学に入学し、詩人としてのキャリアを積む。1961年に詩集『The Spice-Box of Earth』を発表し、1960年代には主に詩人、小説家として活動する。1967年、シンガー・ソングライターとしてのプロ・デビューを目指すためアメリカに拠点を移す。ジュディ・コリンズが歌ったコーエンの曲「Suzanne / スザンヌ」がヒット、注目を集める。1968年に1stアルバム『レナード・コーエンの唄 / Songs Of Leonard Cohen』をリリース。商業的な大ヒットには至らなかったが、シンガー・ソングライターとしてのコーエンの名を広く知らしめた。以後40年以上にわたり、コンスタントに12枚のオリジナル・アルバム(ライヴ盤を含めると18枚)、12冊の本を発表。全世界で2,300万枚以上を売り上げる。カヴァーされた歌は世代、国境を越えて1300にも及ぶ。2006年には「ベスト・ソングライター・オブ・カナダ(Canadian Music Hall of Fame)」に選ばれ、2008年にはロックの殿堂(Rock and Roll Hall of Fame)入りを果たす。2011年6月にはスペインでの最高賞であるアストゥリアス皇太子賞(The Prince of Asturias Awards)の文学部門を受賞。「Q誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第54位。2016年11月7日、82歳で逝去。

ソニー・ミュージック オフィシャルサイト

『哀しみのダンス / Various Positions』

ソニー・ミュージック
SICP-51 ¥1,500(税別)
ジェニファー・ウォーンズとのレコーディングで知られる7thスタジオ・アルバム(1984年発表)。ジプシー音楽を基調に、やるせなく、むせび泣くような憂いを秘めた傑作。セルジュ・ゲインズブールのように歌い、その後も頻繁にライヴで演奏する「哀しみのダンス /Dance Me To The End Of Love」や、詩人コーエンの最高作と言われ、多くのアーティストにもカヴァーされている「ハレルヤ / Hallelujah」のオリジナル・ヴァージョンも収録。

『フューチャー / The Future』

ソニー・ミュージック
SICP-5180 ¥1,500(税別)
1992年発表の9thスタジオ・アルバム。「フューチャー / The Future」「ウェイティング・フォー・ザ・ミラクルズ / Waiting For The Miracle」は映画『ナチュラル・ボーン・キラー』のサウンドトラックに収録されたもの。人生のダークな部分を捉えたブラッディでセクシュアルな詩は、現代に生きる私たちに正義と絶望を語り、響かせる。

ジェフ・バックリィ / Jeff Buckley
『 グレース+EPs / GRACE+EPs【完全生産限定盤】』

ソニー・ミュージック
SICP-2245〜2247 ¥4,476(税別)
天賦の才を持った吟遊詩人が1993年のデビューから1997年、不慮の事故で永遠の眠りにつくまでに発表した唯一の作品。日本独自企画として、2002年11月に発売されたシングル5枚組ボックス『The GRACE EPs』(日本未発売/限定仕様/レア音源集)の楽曲をまとめたCD2枚(DISC2&3)とアルバム『GRACE』発売10周年記念で発売された『GRACE(LEGACY EDITION)』(2004デジタル・リマスタリング)を合わせた3CDの紙ジャケット仕様。

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。東日本大震災後は、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として、福島県相馬市の人たちと希望のヴァイブレーションを起こすイベントを続けている。2018年4月から池畑潤二 (Drums)、細海魚 (Keyboard)と新生HEATWAVEの活動を開始、12月19日大阪を皮切りにいよいよツアーがスタート。2017年12月22日渋谷duo MUSIC EXCHANGEのライヴを収録した『OFFICIAL BOOTLEG #005 171222』、17歳から現在に至るまでの激レア&貴重音源満載の『山口洋の頭の中のスープ』好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

HEATWAVE SESSIONS 2018_III
11月25日(土)吉祥寺STAR PINE’S CAFE
詳細はこちら

HEATWAVE TOUR 2018 “Heavenly”
12月19日(水)大阪 バナナホール
12月20日(木)福岡 Gate’s7
12月22日(土)東京 duo MUSIC EXCHANGE
詳細はこちら

vol.45
vol.46
vol.47