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80年代のペット・ショップ・ボーイズに心踊らされた世代が聴くべき『スーパー』

80年代のペット・ショップ・ボーイズに心踊らされた世代が聴くべき『スーパー』

ペット・ショップ・ボーイズ 『スーパー』

 ダークな雰囲気のエレクトロ・ポップ・チューン「ウエスト・エンド・ガールズ」は、当時のヒットチャートを追いかけていた音楽ファンには、かなりインパクトのある楽曲だったのではないだろうか。ラップ調のAメロとメロディアスなサビが交差するこの曲が発表されたのは1984年の春だが、実際にブレイクするのはリメイクしたヴァージョンを発表した翌年末のこと。当時は、ハワード・ジョーンズ、ニュー・オーダー、ブロンスキ・ビートといったUK発のエレ・ポップ勢が続々とブレイクしており、打ち込みサウンドやシンセサイザーの音色が世間に幅広く浸透していった時期だ。
そんな中、颯爽と登場したペット・ショップ・ボーイズは、ニール・テナントの独特のハイトーン・ヴォイスと、クリス・ロウによるドリーミーかつディープなプロダクションが組み合わさることによって、他にはない醒めた雰囲気がとても心地よかったことを記憶している人も多いはず。
この感覚は、その後も続くヒット・シングルにも表れており、「サバービア」や「哀しみの天使」といった名曲を次々と繰り出していく。極めつけは、1987年にリリースした「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」と、ヴィレッジ・ピープルをカヴァーした1993年の「ゴー・ウェスト」だろう。今聴くと、ユーロビート風サウンドが時代を感じさせるが、これらの楽曲が持つ多幸感は、彼らの専売特許といってもいい個性だ。
この多幸感の秘密は、サウンドだけではない。もちろん、彼らが紡ぎ出す壮大なオーケストラのようなシンセサイザー音の力は非常に大きいし、ペット・ショップ・ボーイズの音楽に品格と風格を与えている理由でもある。しかし、それと同時にメロディの美しさも特筆すべきだ。例えば、往年の名シンガーであるダスティ・スプリングフィールドを担ぎだしてフィーチャーした「とどかぬ想い」や、ロビー・ウィリアムスとの共作共演で作り上げた「シーズ・マドンナ」といった楽曲を聴けばよく分かる。ニール・テナント以外のシンガーが歌っても、彼ら特有のキラキラとしたイメージはブレることはない。
さて、本題の新作『スーパー』は、3年ぶり通算13作目のオリジナル・アルバムである。80年代以降ご無沙汰してしまっているリスナーにとっては、「今の彼らはどうなの?」と勘ぐってしまうかもしれない。しかし、そんな杞憂はまったくの無用。もう、1曲目の「ハピネス」からアゲアゲなエレクトロ・サウンドが炸裂し、あの独特のヴォーカルが聴こえてくるのだから。その瞬間に「ああ、ペット・ショップ・ボーイズだなあ」と安心させられるだろう。続くリード・シングルとなった「ザ・ポップ・キッズ」も、彼らのイメージをまったく裏切らない。4つ打ちのビートとクールなシンセサイザーがねちっこく絡みあうダンサブルなナンバーで、とにかく下世話なほどわかりやすいリズムと上品なエレクトロ・サウンドを絶妙に融合し、あのヴォーカルでメロディアスな世界を紡ぎ出していくのだ。
かといって、本作が懐古趣味かというと、そういうわけではない。3曲目の「トゥエンティー・サムシング」は、あえてチープなレゲトンのリズムを取り入れたりしている。これは、彼らが南米コロンビアへ行った時に街でよく聴いたことからトライしてみたそうだが、そんな実験もさらりと取り入れながら、あくまでも自分たちの作品へと昇華しているのが見事だ。また、ところどころに今時のEDMを意識したような音像を見い出せるのも本作の特徴だ。「インナー・サンクタム」などは、まさに時代に敏感に対応した楽曲ではないだろうか。こういったバランス感覚も、彼らが長続きしている理由のひとつだといえる。
加えて、前作の『エレクトリック』に続き、マドンナやカイリー・ミノーグなど錚々たるアーティストと仕事しているスチュアート・プライスがプロデュースに関わっているのも大きく、彼のアイデアも大いに反映されているはずだ。もちろん、彼を選んだメンバーのしたたかな戦略も見え隠れする。
彼らは本作『スーパー』のことを、「昔のペット・ショップ・ボーイズを新しいペット・ショップ・ボーイズとミックスしたもの」と語っている。たしかに、80年代から現代までを総括するような内容に仕上がっている。だからこそ、80年代のペット・ショップ・ボーイズに心踊らされた世代に聴いて欲しいと思う。きっと、あの頃と今をきらびやかなシンセ音で繋いでくれることだろう。

文 / 栗本斉

PetShopBoys_Super_s2

スーパー

SICX-41  ¥2,400+税

【収録曲】
01. ハピネス
02. ザ・ポップ・キッズ
03. トゥエンティー・サムシング
04. グルーヴィー
05. ザ・ディクテイター・ディサイズ
06. パッツォ!
07. インナー・サンクタム
08. アンダートウ
09. サッド・ロボット・ワールド
10. セイ・イット・トゥ・ミー
11. バーン
12. イントゥ・シン・エア