モリコメンド 一本釣り  vol. 91

Column

折坂悠太 研ぎ澄まされた現代詩のような言葉、豊かさをたたえた歌。“懐かしくて、新しい”音楽とは?

折坂悠太 研ぎ澄まされた現代詩のような言葉、豊かさをたたえた歌。“懐かしくて、新しい”音楽とは?

ちょっと前の話で恐縮だが、今年の夏のサマーソニックで観たチャンス・ザ・ラッパーのステージは本当に感動的だった。インディペンデントであることにこだわり“レーベルと契約しないで世界的なスターになり、グラミー賞を獲得”という現象ばかりに焦点を当てられてきたチャンスだが、そのライブはまさに圧巻。トラップ以降のヒップホップを予見するようなトラックも刺激的だったが、筆者がもっともグッと来たのは、彼の出身地であるシカゴのソウルミュージック、ゴスペル、ブルースの要素をたっぷりと含んだボーカルだった。身体のなかに流れている土くさい歌が、最新鋭のサウンドと結合することで何倍にも増幅される——それこそがチャンスの最大の魅力なのだと、ライブを観て初めて気付いたのだった。

ルーツミュージックをしっかりと血肉化し、様々なジャンルを融合させることで、普遍性と新しさを同時に感じさせる、さらに言えば、時代を的確に捉えながら、ずっと先の未来まで照らし出すような歌へと結びつける。チャンスが体現したスタイルはそのまま、シンガーソングライター・折坂悠太(おりさか・ゆうた)にもつながっているように感じる。

平成元年、鳥取生まれのシンガーソングライター・折坂悠太。幼少期をロシア、イランで過ごし、帰国後は千葉県に移った彼は、2013年からギター弾き語りでライブ活動をスタートさせた。2014年に自主製作ミニアルバム『あけぼの』、2016年には自主1stアルバム『たむけ』をリリース。その後、バンド編成でのライブも行い、今年1月にはバンドとともにレコーディングした初のEP「ざわめき」をリリースした。さらに全国23箇所で弾き語り投げ銭ツアーを開催、FUJI ROCK FESTIVAL 2018、 RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018 in EZO、New Acoustic Campなどの大型フェスに出演したことでも注目を集め、宇多田ヒカル、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、小山田壮平(AL、ex:andymori)などに激賞されるなど、急激に知名度を上げている。

折坂の音楽的な特徴を端的に言えば、ルーツミュージックを色濃く感じさせる独特の歌唱、そして、現代的なトラックメイクを存分に活かしたサウンドということになるだろうか。ブルース、ジャズ、フォーク、中東〜アジア〜南米の民族音楽などを自然に内包したボーカリゼーション、多彩な音楽要素をバランスよく配置し、ヒップホップ的なメソッドを活かしたアレンジメントが彼の独創性を担保しているというわけだ。“懐かしくて、新しい”としか言いようがない折坂の音楽、その最初の集大成であると同時に新たな可能性を切り開いた作品が、10月に発表された最新作『平成』だ。

ゲストミュージシャンとして、ライブのサポートメンバーでもあるyoji & his ghost bandの寺田燿児(Ba./Cho.)、青野慧志郎 (Eg./Cl./Banjo/Mandolin/Cho.)、田中久仁彦(Dr.)さらに飯島はるか(に角すい)などが参加した本作には、これまでに培ってきた彼のオリジナリティが生き生きと鳴らされている。まず紹介したいのは、今年のフジロックフェスティバルでも披露された「さびしさ」。アコースティックギター、マンドリンを軸にしたオーガニックなバンドサウンド、フォーク、カントリーなどのエッセンスをたっぷりと塗したメロディライン、そして、切なさ、懐かしさを交えた別れの風景を描き出す歌詞。ファルセット、シャウトを駆使しながら、しなやかなグルーヴとともに物語を紡ぎ出していく歌の表現力も本気で素晴らしい。

空港を舞台にしたMVも話題を集めているタイトルトラック「平成」もいい。歌い出しは“平成、疲れてた それはとても”。この一節だけで我々は平成という時代——それは折坂が生まれ育った時代でもある——の果てしない闇のようなものを感じることになる。素朴で分かりやすく、しかし、しっかりと研ぎ澄まされた現代詩のような言葉の連なりによって、“平成”を浮き彫りにするこの曲は、時代性を的確に捉えながら、まるで寓話のような雰囲気のポップソングへと導く、彼のソングライティング・センスを堪能できる楽曲と言えるだろう。そう、折坂の音楽は決して難解ではなく、耳にした瞬間に聴き手の身体に馴染む心地よさを備えているのだ。これほどまでにナチュラルなポップネスを含んだ音楽に出会ったのは、本当に久しぶりだ。

たとえば小袋成彬同様、歌というフォーマットにおける日本語の新しい可能性をはっきり感じられるのも本作の聴きどころ。欧米のマネではない、マーティティングにも左右されない、本当の豊かさをたたえた歌をゆっくりと堪能してほしいと思う。

文 / 森朋之

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オフィシャルサイト
http://orisakayuta.jp

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