佐野元春 & THE COYOTE BAND『BLOOD MOON』検証  vol. 2

Review

佐野元春 & THE COYOTE BAND『BLOOD MOON』検証 vol.2

佐野元春 & THE COYOTE BAND『BLOOD MOON』検証 vol.2

佐野元春 & THE COYOTE BAND 『BLOOD MOON』全曲解説

Track.1 〜 Track.6 試聴/購入は こちら

01. 境界線 / The Border

何かが始まる予感を抱かずにはいられないピアノのイントロは、オープニング・ナンバーにふさわしい。かつての「Young Bloods」を思い起こさせる軽快なモダン・ソウル・チューンに乗せて、佐野は“境界線を越えて行こう”と歌う。新聞社のドキュメンタリーCMのテーマとして提供されたこの曲は、あらゆる前線に立ち、あらゆる一線を越えて行こうとするすべての若きジャーナリストたちのためのアンセムだ。そして“これ以上、待っていても無駄だろう”というメッセージは、これまで何かを待つことに慣れすぎた僕達に対する痛烈な打撃にほかならない。そこで何を待っているのか。これ以上、待っていても無駄だろう。全てはここから始まるのだ。


02. 紅い月 / Blood Moon

破れたギター、引きずるような重たいビートに乗せて歌われるタイトル・チューン。“時を重ねて私たちはおとなになった”。だが、それは必ずしも幸福な認識ではない。“夢は破れてすべてが壊れてしまった”“君が夢にみていたぬくもりは他の誰かのためのお伽噺だった”。かつて“つまらない大人にはなりたくない”と言い放った僕たちは、その代償を今も払い続けていて、大人になることの意味を考え続けている。空に浮かぶ「紅い月」は僕たちを照らしている。だが、“もう振りむくことはない”。なぜなら“人生は短い”から。困難な地点からスタートしながらも、いや、だからこそ、ここにいること、先に進むことを佐野は求め、肯定するのだ。


03. 本当の彼女 / The Real Her

アコースティック・ギターとマンドリンの音色が印象的なスロー・バラード。「ジャスミン・ガール」や「どこにでもいる娘」、「だいじょうぶ、と彼女は言った」など、都市に暮らす女性の肖像を描いた一連の“彼女もの”の系譜に連なる作品と考えていいかもしれない。忙しく過ぎて行く毎日の中で、ふと見せる、緊張を解いた仕草、笑顔。そんなシーンを佐野はスナップ・ショットのように丁寧に切り取って見せる。“彼女のこと誰も判っちゃいない”。だれもがだれかをわかりたい、だれもがだれかにわかって欲しいと求めながら、なかなかその実像にたどり着くことのできない都市生活について、僕たちもまた毎日のように考え、悩んでいるのだ。


04. バイ・ザ・シー / By The Sea

サビで転調する手法やコーラス・ワーク、歪みのないギター・ソロなど、ウェストコースト・マナーの軽快なAORナンバー。“仕事をさがした一日が終わった” “考えるな、と誰かが言う”。歌われるのは都市生活のハードな現実、そして“そんなスキマにつけこんで”ドアを叩くだれかのこと。だが、“本当に欲しいもの” は “たとえばひとつの美しい経験” “幻を見るような眩しい永遠”。思うに任せない生活の中で、求めるものはむしろ形のない、ひとときのささやかな光。週末に街を離れて海辺のコテージで過ごす二人はかつての「週末の恋人たち」か。「愛のシステム」へのリファーも。“事の善し悪しは別として”僕も君ももう見抜いている。


05. 優しい闇 / Everything Has Changed

先行シングル。2014年の秋のツアーでも既に披露されていた。アグレッシヴなギターのリフから始まるロック・ナンバー。この曲は、恋人たちの間を満たす親密で優しい闇のことを歌っていると同時に、“帰り道をなくしているのも知らずに” “野蛮な闇に満ちてゆく” 僕たちの社会のことを鋭く告発しているプロテスト・ソングでもある。そのように多義的であればあるほど、その抑制された表現はそれに呼応するコードを僕たちの中に見つけて、“意味もなく吠えだす欲張りたち” に対する佐野の静かな怒りの輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。そして、そこで指し示される “傲慢” “残酷” は僕たち自身に内に潜むものでもある。すべての闇はつながっている。


06. 新世界の夜 / Perfect World

フィラデルフィア・ソウルを思わせる流麗なストリングスに導かれたミドル・バラード。象徴的な歌詞を警句のように歌う佐野はまるで預言者のよう。この世界を動かしているのは “悪意” なのか “正義” なのか、あるいはまた “言葉” なのか “暴力” なのか。両義的な世界にあってはそれらはもしかして等価なのか。希望を求めるようにも、現実をシニカルに嘆くようにも聴くことのできるこの曲自体もまた両義的であり、そんな怪しい世界で僕たちもまた試されている。そして「優しい闇」と共通する “欲張りたち” “野蛮なこの世界” がここにも現れる。全ては等価であり相互に呼応している。そんな世界を佐野は “新世界” “完全な世界” と名づけた。


→ 続きは vol.3で! 8/17 更新


佐野元春 & THE COYOTE BAND
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Track List

01. 境界線
02. 紅い月
03. 本当の彼女
04. バイ・ザ・シー
05. 優しい闇
06. 新世界の夜
07. 私の太陽
08. いつかの君
09. 誰かの神
10. キャビアとキャピタリズム
11. 空港待合室
12. 東京スカイライン

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vol.2
vol.3