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生駒里奈&矢部昌暉が自らの成長の旅に出る。陳内 将らも出演の舞台『暁のヨナ~緋色の宿命編~』開幕

生駒里奈&矢部昌暉が自らの成長の旅に出る。陳内 将らも出演の舞台『暁のヨナ~緋色の宿命編~』開幕

11月15日(木)よりEXシアター六本木にて、舞台『暁のヨナ~緋色の宿命編~』が上演中だ。原作は、草凪みずほの人気コミック『暁のヨナ』である。謀反により父王を殺された高華王国の王女ヨナは、護衛のハクと共に、流浪の身となりながら、伝説の四龍の戦士たちと出会い、数々の試練を乗り越えるファンタジー。そのゲネプロと囲み取材が初日本番前に行われた。

取材・文・撮影 / 竹下力

内面からほとばしる“母性”という女性の“奇跡”

悪いことをしたから当然かもしれないけれど、子供の頃、よく母親に叱られた。本当に叱られた。叱られる必要がないときにも叱られたことがある(まことに理不尽ではあるが)。父親が忙しかったせいもあって、面倒をみてくれるのはとにかく母親だった。もちろん、とても恵まれていることだと思う。といったって、平手で叩かれたこともあったし、ここでは書けない言葉で怒られたりもした。当然腹が立つこともあるので、それが心地よく感じる人、というわけではない。けれど、自分の人生にとって母親の“魂”のこもった言葉や行動がどれほど滋養になったかは、大人になるにつれてわかるようになった。つくづく男とは弱いものだ、と自虐を述べるわけではないけれど、ピンチのときに母親を前にするとひざまずいて、ただ彼女の言葉を頂戴したいと祈るだけだから、仕方がない。

終演後。そんなことを感じて肩から何かの荷が落ちるほどリラックスした気分になれた。巨大な優しい力に癒されたような気がしたのだ。舞台の魅力は、観客の感じ方によって違いはあるけれど、原作の草凪みずほの筆が描いた明確な思想が上演中から伝わってきたし、そんな雰囲気をカンパニーが一心に体現していた。

つまり、この舞台には、3つのテーゼがあるように感じる。第一に“父殺し”が挙げられるだろう。エディプスを例に出すまでもなく、男子が抱える母への“愛”と父への“嫉妬”という普遍的なコンプレックスを感じた。第二に、16歳の少女ヨナ(生駒里奈)がやがてひとりの女性として成長する過程で、内面からほとばしる“母性”という女性の“奇跡”を感じた。何より女性が強い。この舞台では高華王国の皇女であったヨナと阿波という町の海賊(義賊)のギガン(築山万有美)が主な女性の登場人物だが、ふたりとも元気いっぱいなのだ。まさに男性をリードする存在なのである。この舞台に漂う母性の風は、このふたりが吹かせたと言っていいだろう。そして第三は母性から生まれる慈しみだ。男が抱えたコンプレックスを女性が慰撫してくれる。当然だけれど無条件ではない。蹴飛ばして、平手打ちみたいなきついこともする。悩みや困難を解消するには、そんなに甘っちょろいことではいけないと啖呵を切って叱ってくれているように、女性たちはとにかくかっこいいのだ。

舞台はヨナの16歳の誕生日から始まる。彼女の生誕祭が行われた高華王国の緋龍城でとある重大な事件が起こった。ヨナが密かに恋心を抱いていた幼なじみのスウォン(陳内 将)が、王国の王、すなわちヨナの父であるイルを殺害するのだ。イルの実兄ユホンの息子であるスウォンは、イルに父を殺されたと思い込み復讐を果たそうと謀反を起こしたのだ。ただ、どんな事情かははっきりとは明示されない。舞台のイルは非暴力を標榜する人間に思えた。ひょっとしたらイルとスウォンには言いがたい何かがあるのかもしれない。だからこそ、ここに男性の持つ“父殺し”のテーマが流れていることが炙り出されてはいないだろうか。

しかも、その現場をヨナが見つけてしまう。ヨナは驚嘆し泣き叫ぶ。彼女はまだ、髪の毛が赤いことにコンプレックスを抱き、世間のことなど何も知らないまま育った“お姫様”だった。そしてスウォンがヨナを捕らえようとしたところに、ヨナとスウォンの幼なじみであり、ヨナの護衛官で、10代にして“高華の雷獣”と評判の武人であるハク(矢部昌暉)が助けにくる。

ヨナとハクは命からがら王国から脱走するが、ヨナに想いを抱いているテジュン(釣本 南)の猛追により、“北山の崖”に追い詰められ、誤ってヨナとハクは落下してしまう。絶壁から落ちたふたりだったが奇跡的に助かり、神官イクスと共に暮らすユン(樋口裕太)に傷の手当をしてもらう。そこで、3人はイクスから「伝説の四龍の戦士が力を貸してくれるだろう」といった予言を受け、ヨナは高華王国に伝わる神話の“緋龍王伝説”との因縁を悟り、白・青・緑・黄の“四龍の戦士”を探す旅に出ることを決意する。

白龍の里では、右手に龍の力を宿し、龍の鱗で覆われているキジャ(山本一慶)、青龍の里では、龍の力によって遠視や透視の能力が備わり、ヨナが“月の光”という意味の“シンア”と名前を付けた男(奥谷知弘)を仲間にする。そして、緑龍の里に育ち、右足に龍の力を宿すジェハ(西川俊介)と出会うのだが、彼は、阿波でギガンと行動を共にする義賊であることを理由に仲間になろうとはしなかった。同時にその町は、悪徳の限りを尽くす領主のクムジ(久ヶ沢 徹)による圧政で支配されていた。そこでヨナは、仲間たちとともにクムジの悪行を止めようと決意するのだが……。

舞台装置はとてもシンプルでいて静謐で、いくつかの階段が組み合わさって出来上がっている。それを多くのアンサンブルが階段を動かすことで様々なシーンをつくりだす。階段の段差を生かした派手なアクロバティックなアクションも見どころで、ハクの持つ巨大な鎌のような大刀も、龍の爪で戦うキジャも、ジェハのブレイクダンスのような動きもリアルだった。舞台美術の良し悪しが役者のアクションのリアリティを際立たせるのだとひしひしと感じる。

脚本の早川康介は、原作に忠実でありながら、それぞれのキャラクターの個性を余すことなく描き、舞台用にしっかりとアレンジしていた。だから、原作を知っている観客も、あるいは知らない観客も、そこで何が起こっているのか、どうなっていくのか、彼らがどんな性格なのかを、すぐに理解できるはずだ。ヨナの成長のストーリーを主軸にしながら、男性たちのコンプレックスがヨナの母性によって解消され、彼女と共に成長していく。それでいて、原作から感じる押しつけがましくないフェミニズムが緻密に描かれていたと思う。

劇団スーパー・エキセントリック・シアターの大関 真の演出は、通奏低音に流れる“愛”、“コンプレックス”、“優しさ”、“忠義”、“フェミニズム”といった人間に切っても切れない大切な部分を、照明や装置や音楽を使って巧みに表現し、アクロバティックなアクションを交えながら、決して観客を飽きさせることなく、あくまで誰にでも楽しめるエンターテインメントの舞台として卓抜な手腕を見せてくれた。

ヨナの生駒里奈が全身全霊をかけて“女性”に変わっていく

役者陣も見どころ満載で、ハクは豪放にして磊落で、まさにあり余ったエネルギーが全身にみなぎる“男”で、男性性を感じさせるとてもシンボリックな役。それを演じる矢部昌暉は大刀を振り回した殺陣も見応えがあったし、台詞も大胆な発声で、悩みや葛藤に簡単に振り回されない、まさに“男らしく”存在していた。

キジャの山本一慶は、銀髪で龍の力が体から溢れ出て、身体が人間ではない仰々しさを纏っているのだが、性格は天然、しかも里で可愛がられたせいか、お坊ちゃん気質というなんともやるせない“男子”をコミカルに演じた。それでいてここぞという場面では、生真面目さを前面に出し、対照的な性格をたやすくこなしていて、とてつもないハードな稽古を積んできた印象を受けた。

ジェハの西川俊介は、階段やトランポリンを使いアクロバティックなアクションが見どころだった。ダンスのように流麗で素早い動きに目を奪われる。それでいて、美しいものが好きで、しかも女性にめっぽう弱い、そんな軟派な性格のキャラクターを熱演していた。

シンアは自分の能力がコンプレックスで、隠れるように洞窟に長く住んでいたせいか言葉を失いかけていて、積極的に喋ろうとはしない。奥谷知弘は、台詞の少ない役の長所を見つけ、ヨナを守るためにいつも彼女の側に凛と立っていた。だから立ち姿だけで見入ってしまう。そして、何かとお節介を焼くジェハに戸惑う仕草が可愛らしかった。

ユンの樋口裕太は、ハクとは対照的なフェミニンな男性を演じていた。パワーみなぎる男性陣の中では、特別に派手なアクションをせず、女形という表現に近い役どころだったけれど、照れも恥も感じさせない堂々とした演技だった。2016年の前作から演じている役だけあって、板についていたと思う。

木津つばさが演じたゼノは謎の人物で、ことあるごとに登場してはヨナやハクを手助けしてストーリーを進行させていく。いわば物語の語り部として十分に機能していた。また、テジュンの釣本 南は、ヨナを愛しているがゆえに彼女を傷つけてしまう男性の業の深い演技が見どころだった。

やはり男性の象徴として挙げたいのが、王国に謀反を企てたスウォンの陳内 将だ。どこか影がある男なのに優しさを持ち、ありあまる悲しさも表現していたと思う。ハクのようにヨナに寄り添うこともできない。男性が担っているある種の悲しい性(さが)を闊達に表現していたと思う。同じ男性として身震いするぐらい感情移入できた。それでいて、それを受け入れて生きていくことを決意した超然とした演技が圧巻だった。

また、クムジの久ヶ沢 徹の悪辣ぶりには恐れ入ったし、ギガンの築山万有美のなんだか心にズシリとくる女性として重みのある台詞は、母親に怒られていることを思い出すほど頼もしかった。このふたりが若いキャストを下支えしているからこそ、ヨナたちは舞台で躍動できるのだろう。

ヨナの生駒里奈は、何もできない世間知らずの少女から、徐々に力強い女性になっていくまでを、今の彼女の持てる力を使って限界まで演じ切ったと思う。全身全霊をかけて“女性”に変わっていった。舞台の終盤では“母性”を感じさせるほど、丁寧に、本当に丁寧に演じていた。台詞も淀みなく、乃木坂46で鍛えられただろう“ダンス=舞”も綺麗だった。何より彼女の優れたところは表情の豊かさだと感じさせてくれたし、役どころのポイントも理解していて、今後が楽しみな女優になること間違いなしと太鼓判を押してしまえる。

今作は、とにかく女性が強いし、明るい。そしてそれが清々しい。登場する男性キャストはほとんどが何かしらのコンプレックスを抱えている。もちろん、女性にだってあるけれど、彼女たちは男性たちと違って、そんなものは夜空の彼方に放り投げ“しっかり生きていく”と肩で風を切って進んでいくから力強いのだ。そして男性はそんな彼女たちの母性に包まれ癒されていく。かくも女性とは強いものだ(そんなの有史以前から当たり前ではないか)。たしかに母親にはよく叱られた。けれど、ヨナたちと同様に、“愛”は揺らぐことはなかったのだ。

ヨナ御一行の仲のよさ、ワチャワチャ感を感じていただけたら

このゲネプロの前に囲み取材が行われ、生駒里奈、矢部昌暉(DISH//)、陳内 将、山本一慶、西川俊介、奥谷知弘、樋口裕太、木津つばさが登壇した。

まず見どころを尋ねられ、ヨナを演じる生駒里奈は「今作はヨナの成長物語です。ヨナがどうやってひとりの女性として成長していくのか注目してください」と語り、ハク 役の矢部昌暉は「アクションが多いですね。ハクをはじめ、四龍もそれぞれの能力を使って戦いますので、迫力のあるアクションが魅力だと思います」と述べた。

キジャ 役の山本一慶は「右手が大きくなるという設定なので、それが舞台でどのように演出されるのか注目してください」と熱く語ると、ジェハを演じる西川俊介は「ギガンとジェハの絆も見てください」と述べ、シンア 役の奥谷知弘は「ヨナと出会い、彼女たちと旅に出るお話です。ヨナ御一行の仲のよさ、ワチャワチャ感を感じていただけたら」と抱負を語った。

ゼノ 役の木津つばさは「今作は原作の1巻から7巻までを舞台にしていますが、そこにゼノは登場しません。舞台でヨナたちとどのように絡んでいくのかお楽しみに」と含みを持たせ、2016年の舞台『暁のヨナ』にもユン 役で出演していた樋口裕太は「女装です。以上です!」と会場を笑わせた。スウォンを演じる陳内 将は「個々の関係性を大切にしながら、かぎりなくアナログでいろいろなことを表現します。お客様を物語の世界に連れていけたら」と意気込んだ。

その後、初日を迎えた意気込みを問われ、生駒は「こうやって全員揃って元気に初日を迎えることができて嬉しいです」と笑顔を見せ、矢部は「1ヵ月間みっちり稽古をしてきた成果や、旅の一行の仲のよさをステージ上で表現できれば」と語った。山本は「集中して稽古を積んできて、お互いに意見を言い合って仲を深めたので、しっかり本番に向けて頑張ります」と述べた。西川は「アクションが多いので、ケガに注意して頑張っていきたい」と意気込み、奥谷は「一回一回の公演を大切にして、ヨナたちと刺激し合う仲になれたら」と語った。

木津は「アクションといった見どころがたくさんあるぶん、怪我には気をつけて頑張ります」と語り、樋口は「新生“ヨナ”のカンパニーでは、生駒ちゃんらしいヨナがいますし、個性が溢れていると思います」と述べた。陳内は「各々のシーンはもちろんですが、シーンとシーンの繋ぎ目をアンサンブルの方々が人力で転換してくださる舞台セットが綺麗です。そして細かな表情の変化も見ていただきたいです」と述べた。

最後に生駒は「今日を迎えるまでたくさんのことがありました。初めてお会いする人ばかりだったけれど、今はすごく大好きになりました。そんな人たちとつくるヨナの旅をお客様に楽しんでいただけたら」と意気込み、矢部は「今までやってきたことをすべて出し切って、お客様に満足して帰っていただけるように千秋楽まで突っ走ります」と囲み取材を締め括った。

公演は、11月15日(木)から11月25日(日)までEXシアター六本木にて上演される。

舞台『暁のヨナ~緋色の宿命編~』

2018年11月15日(木)〜11月25日(日)EXシアター六本木

STORY
謀反により父王を殺された高華国の王女ヨナは、専属護衛のハクと共に、流浪の身となる。
旅の途中、神官と共に暮らすユンと出会い、「伝説の四龍の戦士が力を貸してくれる」という神託を告げられる。
高華国に伝わる建国神話「緋龍王伝説」をなぞるように「四龍の戦士」を探す旅に出る──。

原作:草凪みずほ(白泉社「花とゆめ」連載中)
脚本:早川康介
演出:大関真
主催:舞台『暁のヨナ』製作委員会
協力:白泉社

出演:
ヨナ 役:生駒里奈
ハク 役:矢部昌暉(DISH//)
キジャ 役:山本一慶
ジェハ 役:西川俊介
シンア 役:奥谷知弘
ゼノ 役:木津つばさ
ユン 役:樋口裕太
テジュン 役:釣本 南
ギガン 役:築山万有美
クムジ 役:久ヶ沢 徹
スウォン 役:陣内 将 ほか

オフィシャルサイト
公式Twitter(@yona_stage)

©草凪みずほ・白泉社/舞台『暁のヨナ』製作委員会

関連書籍:コミック『暁のヨナ』
著者:草凪みずほ / 出版社:白泉社