佐野元春 & THE COYOTE BAND『BLOOD MOON』検証  vol. 3

Review

佐野元春 & THE COYOTE BAND『BLOOD MOON』検証 vol.3

佐野元春 & THE COYOTE BAND『BLOOD MOON』検証 vol.3

佐野元春 & THE COYOTE BAND
『BLOOD MOON』全曲解説
Track.7 〜 Track.12
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07. 私の太陽 / Mon Soleil

アナログ盤ではB面のオープニングを飾る曲。英字タイトルの「Mon Soleil」はフランス語で「私の太陽」の意味。佐野の曲で言えば「99ブルース」を思い起こさせるジャングル・ビートまたはセカンド・ラインのファンク・ナンバー。渡辺シュンスケのスポンテイニアスなピアノがすばらしい。“壊れたビートで転がってゆくだけさ” と繰り返すシンプルな歌詞は、まずは、ダンス・オリエンテッドなビートを導くためのガイド役に徹している。そしてそのビートの隙間から “不公平な世界“ ”儚い未来” といったキーワードがふと立ち上がる瞬間、僕たちはビートと言葉のマジックに囚われる。“不公平” もまたこのアルバムの重要なモメントか。“Gee Bopa Doo” がカッコよすぎる。


08. いつかの君 / Hard Times

キックが四分音符を、ベースが八分音符を刻む、ギター・ドリヴンのビート・ナンバー。アルバム『COYOTE』に収められている「呼吸」が、もしかしたらメンタルを病んだ誰かへのメッセージではないかと気づいたのはごく最近だが、この曲もそんな誰かに対する佐野からの切実な声なのかもしれない。英字タイトルは「Hard Times」。苦しい時期をくぐり抜けてきただれかに対して “急ぐ ことはない“ ”悩むことはない“ ”楽になって” と繰り返す佐野は、息苦しく窮屈な時代に生きることの困難さを僕たちに訴えかけているかのようだ。曲調は激しいが、“もういちど家に帰ろう” と静かに促す歌詞は赦しと慈しみに満ちている。都市生活のブルースだ。


09. 誰かの神 / The Actor

エレクトリック・ピアノの音色が特徴的な、ハネたリズムのモダン・ソウル。“街角から街角に神がいる” (「誰かが君のドアを叩いている」)、“すべての尊師” (「十代の潜水生活」)などと言及してきた “紛いものの神” について、佐野はここでは直接的に異議を申し立てる。“迷った人をたぶらかしてみせかけの心が綺麗だ” と明確に告発される “神” は、あるいはインチキな新興宗教の教祖かもしれず、あるいは原理主義過激派のリーダーかもしれず、あるいはまた弱みにつけこもうとする身近な誰かかもしれないが、それが具体的にだれを指しているのかを取り沙汰する必要はないだろう。“神” についての議論はそれだけで刺激的なのだから。


10. キャビアとキャピタリズム / Caviar and Capitalism

かつての「GO4」にも通じる速いファンクであり、速射砲のようなヴォーカルはラップの影響も感じさせる。2012年3月、佐野が吉本隆明の訃報に際してFacebookに掲載した同名の詩に手を入れ、曲をつけたもの。“キャビア” と “キャピタリズム” は単なる頭韻以上の暗示。“それが市場原理主義” なんて歌詞は佐野にしか書けないが、もちろんそれは単純なグローバリズム批判ではなく、否応なくグローバリズムの只中で生きるしかない僕たち自身への問いかけでもあるのは間違いない。なぜならそれは “誰かの都合のせい” であると同時に “僕たちの都合のせい” でもあるのだから。コヨーテ・バンドがツイン・ギターでなければならない理由がよくわかる。


11. 空港待合室 / The Passengers

スローな導入から一転、激しいブギー調のクラシカルなギター・ロックに。ソウルフルなオルガンが曲をグイグイと引っ張って行く。人生を旅に例える歌は数多いが、佐野もまた、空港の待合室を人生の幕間に見立てている。時が経ち、景色は変わって行くが、自分は自分自身から逃れることはできず、さまざまな経験を積み重ねながら少しずつ先に進んで行かざるを得ない。だが、そのよすがとなる “忘れられない歌” は誰にもあるだろう。歌詞は象徴的で、佐野の個人的な経験のようにも、普遍的なアフォリズムのようにも思われるが、僕たちはおそらくそこから喚起される自分自身の “搭乗” や “乗継” 、“離陸” や “着陸” について思いを馳せればいい。


12. 東京スカイライン / Tokyo Skyline

シンプルなスロー・バラード。“青いセロファンの海” “橋から見下ろす街” という歌詞からは、レインボー・ブリッジあたりの風景を思い起こす。大サビはなく、淡々と繰り返される “この街の夏が過ぎてゆく” という歌詞が、万感をそこに閉じこめ、とどまるものとてない無常感を静かに訴えかける。そこに描かれるのは “崩れてゆく文明” であり “嘘のような真実” 。今まで交わしたいくつもの約束も “今はもう思い出せない” 。これは間違いなく、足場を少しずつ切り詰め、いつの間にか不自由な場所に自らを追いこんだ僕たちのことだ。佐野は何も指弾しない。何も指弾しないからこそこの曲は僕たちに重い問いを突きつける。今年も夏が来て、過ぎる。


佐野元春 & THE COYOTE BAND
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Track List

01. 境界線
02. 紅い月
03. 本当の彼女
04. バイ・ザ・シー
05. 優しい闇
06. 新世界の夜
07. 私の太陽
08. いつかの君
09. 誰かの神
10. キャビアとキャピタリズム
11. 空港待合室
12. 東京スカイライン

vol.2
vol.3