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音楽ストリーミングを傍らに“聴き読み”すると、楽しさ倍増の“ウラ教科書”

音楽ストリーミングを傍らに“聴き読み”すると、楽しさ倍増の“ウラ教科書”

このところ接した音楽関連の書籍のなかで、実に面白かったのが中村公輔著・『名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書 The Stories behind The Great Recordings』(リットーミュージック)である。“ウラ教科書”と題されているのは、ロック黄金期に名盤を生んだスタジオのエンジニア達の創意を、当時は門外不出だった秘中の秘も含め、紹介しているからだろう。もちろん専門的な話も多いが、思わず引き込まれてしまう名(珍?)エピソードも満載で、音楽制作を志す人だけでなく、一般の音楽ファンにも充分訴えてくる内容である。

革新的なレコーディングといえば、なんといってもビートルズだ。スタジオのエンジニア達の活躍は、まさに感動的なのだ。ドラムのリンゴ・スターに関する、こんな話も紹介されている。彼はズボラ(別の言い方ではおおらか)な性格ゆえ、タバコを別の場所に取りに行くのが億劫だったから、レコーディング中もドラムの上にタバコを置いたままだったりしたそうだ。すると偶然にも、その重みが音をミュートし、適度に抑制されたいい響きになったという。こんな話を読むと、より一層、リンゴという男が愛おしくもなる。

ほかにもジミ・ヘンドリックスやレッド・ツェッペリン、スティーリー・ダンやプリンスなどなど、一世を風靡したロック・スターたちの音作りが、様々に紹介されている。マイクやアンプやエフェクターなど、機材の話も多い。マイク一本の取り扱い次第で、音楽の印象がガラリと変わることを、実例を挙げて解説している。

エリック・クラプトンが在籍していたデレク・アンド・ザ・ドミノスの「いとしのレイラ」は、超有名なのでご存知だろう。僕は前々から、あの曲のクラプトンとデュアン・オールマンのギター・サウンドが、ふわっと広がるけど芯のある印象であることを、とても心地良く感じていた。本書を読むと、それは傾向の違う2本のマイクを用いて、あとでブレンドした音だからだそうだ。なるほどー、と、膝を打った瞬間だった。

海外のロック・レジェンドのみならず、邦楽アーティストも登場する。大瀧詠一がソニーのマイクと出会った経緯も興味深い。はっぴいえんど時代、アメリカのバッファロー・スプリングフィールドやモビー・グレープなどに憧れた彼らは、向こうでも使ってそうな機材で国内レコーディングを試みる。しかしその音にはならず、遂に本場でのレコーディングを決意するのだが、現地で出会ったのは、なんと日本製のマイクだったというのだ。しかし、その後の大瀧は、それをメインのボーカル録りに愛用したという。

ちなみにそのマイクは、演芸ホールで漫才師の人達が普通に使ってた、日本人なら誰でも見たことある形状のものだったとか…。大瀧といえば、歌入れを誰にも立ち会わせなかったという伝説を聞いたことがある。もしかして、漫才師も使っていたマイクを、他人に見られたくなかったからかもしれない。

なお、ジミヘンやツェッペリンなど60~70年代の話はもちろん、打ち込みが全盛となる80年代以降にも話は及んでいる。よく言われる“デジタルはアナログに較べ、音が薄っぺらい”という通説に関しても、筆者の深い見地から、“そうとは限らない”事実が語られている。ここで詳しく書けないが、、そのあたりも、ぜひ本書を読んでみて欲しい。

この本の“利用法”として提案したいのは、知らない曲が出てきても憶することなく、音楽ストリーミングを利用しつつ読んでいくことだろう。本で紹介されてる名盤・名演を、実際に確かめつつページをめくるのだ。そうすれば、興味も倍増する。前はこういうことやろうと思っても、CD揃えるのが大変だったが、音楽ストリーミングを利用すれば簡単なのだ。

実際、僕もやってみた。ジョイ・ディヴィジョンの「シーズ・ロスト・コントロール」という曲では、エンジニアのマーティン・ハネットが“シンバルの代わりにスプレー使って”録音したとある。そんなこと読むと、つい確かめたくなるではないか。で、確かにシュッ、シュッっと、そんな音がする! 革新的なことやったヒトというのは、型破りな場合が多い。無難にやってても、印象的な作品は残せないのだ。もちろん、スプレーだってこの場合は“楽器”だし、リズムの良さが要求されたのだろうが…。

文 / 小貫信昭

名盤レコーディングから読み解くロックのウラ教科書
The Stories behind The Great Recordings

著者:中村 公輔
発売中
価格:本体1,600円+税
仕様:四六判 / 288ページ
ISBN:9784845632305
出版社:リットーミュージック