松本孝弘、入魂のソロアルバム『enigma』  vol. 3

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【ライブレポート】楽器が歌う、それこそが松本孝弘のライブの真骨頂だった

【ライブレポート】楽器が歌う、それこそが松本孝弘のライブの真骨頂だった
松本孝弘の最新ツアー、それは、ソロ音楽活動の集大成のように見えて、実は“Oriental Progressive Rock”の始点となった。
Tak Matsumoto Tour 2016 -The Voyage-にて、八雲の如く漂うばかりに折り重なる、圧巻のTAK TONEを聴いた。

取材・文 / 佐伯明


4月24日、長方形と楕円形が合わさったような大阪城ホールの1階スタンド席に腰を下ろすと、繰り返される潮騒の音が、PAアウトしている。
何やら、個人的には、かつてLIVE-GYMで訪れたカナダのヴァンクーバーやUSのサンディエゴの海辺が、脳内の紗幕に映し出されるようだ。

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ステージ背面中央には円形のLEDが据えられている。そのLEDのベゼル=額縁の部分にはスターライトが埋め込まれており、ほぼ180度近い可動域を持つ。

この視覚的にも非常にスタイリッシュな映像&照明システムは、かつてピンク・フロイド(UKのバンド)がワールド・ツアーで使用していたものに近い。もちろん、松本孝弘の今回のシステムは、円形のLEDの周囲にもステージ背面を埋め尽くすようなそれがセットされているため、言わば進化版と言えるだろう。

円形LEDには羅針盤映像が投影され、北を指す針が、微妙に動き続けている。そこにカモメの啼き声や船の警笛も流れてくると、羅針盤がタコメーターへと変わり、エグゾースト・ノートから始まる「Dream Drive」の音源=シーケンスが流れ、バンドメンバーに続いて松本さんがステージに登場。
2コーラス目の、バンド全員で炸裂するセクションからライブはスタートした。

“Unknown Handmade Futura Style”と名付けられたギターを手にした松本さんは、運指に緩急をつけながら、The Voyage of Instrumentsをスタートさせたのだった。

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「Dream Drive」が、ある種“狼煙を上げる”効果を持つオープニングだとしたら、「enigma」からは、本格的なThe Voyage=航海となる。
未知という精神の不安定さを呼び込むようなギター・リフを冒頭部に持つ「enigma」は、セクション的に“ありきたりではない”楽曲のピース=断片を内包しながら、1曲として成立している不思議な楽曲であり、それが、展開の解らないThe Voyage=人生ということになろうかと思う。
続く「Vermillion Palace」は、松本さん言うところの「変拍子なのに、すぐにはそうとわからない曲」だが、つまり、聴く者は技巧的なフックに気づかずに、そのまま例えば「いい曲だなぁ」と、うっとり聴き終えても全く差し支えないナンバーなのである。
いやむしろ、そうした聴き方を「Vermillion Palace」は望んでいるのかもしれないし、いちいち「変拍子だ、何だ」と僕のようにあげつらうのは、無粋なばかりか、本当の聴き方を知らないのかもしれない。

そして、LEDには“Welcome to The Vermillion Palace”と映し出され、半ば固唾を飲んで聴き入っていた全観客は、ここで一息つくかのように歓声を上げるのだった。
「今日は、楽器が歌うコンサートを楽しんでいただければと思います」と松本さんのMC。確かに、彼が改良と熟成を繰り返してきた、いわゆる“TAK TONE(僕の言葉で言えば、松本さんの存在音)”は、一度耳にしたら耳孔の奥に居続ける、言わばThe Sound With Your Lifeなのである。

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「恋歌」と「華」は、そのTAK TONEがまさに花開いた時代を代表する2大楽曲と言っていい。松本さんがB’zのLIVE-GYMでも、ソロコーナーとして「恋歌」をプレイしたのは、僕の記憶が正しければ2002年であり、その頃、オリエンタル・メロディを創出する能力と、ワウ・ペダルを自在に操るスキルが、過不足なく合体したと、僕は思っている。

松本さんは、90年代の初めまで“ロックマン”というエフェクターを使っていた。B’zのファンならば同名の楽曲があるゆえ、既知のことだと思うが、エフェクターとしてのロックマンとは、BOSTON(USのバンド)の中心人物であるトム・ショルツ氏が開発した、コンプレッサーとノイズゲートが絶妙にブレンドできる、音響効果を作り出すツールのこと。
ちなみに、ショルツ氏は名門のマサチューセッツ工科大学を卒業したあと、ポラロイドの研究室に勤め、さらに自宅録音を経て、バンドを組織したという変わり種である。
言わば“楽器研究員=ほぼオタク”だったショルツ氏のエフェクターは、本当によくできていた。拙い技術しかない僕でさえも“それなりの気分”になれる魔法の何たるものを持っていたのだろう。
僕は、曖昧なご満悦的気分に浸っていたがしかし、松本さんは、ロックマンというエフェクターの使用を、自ら拒む。ギターとアンプの間に挟む装置は、なくなった。
ギターテックと共に、「何をどうしたら、自分の音ができるのか?」を探していたはずだ。

TONEに影響するものは、ギターの演奏技術なのか? アンプやシールドといった周辺機器なのか? あるいは、どれほどまでにギターを理解しているのか? という精神領域にすらギター音は依拠するものなのか?
松本さんの90年代には、暴走しながら瞑想するが如き、さまざまなトライがなされたと思う。

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「Theme from Fist of the North Star ~The Road of Lords~」から「THE WINGS」までの4曲は、松本さんの“ヒーロー像”だとか“美学”を感じさせるパートだった。花々を筆頭に、散りゆくものの照度は、歴然として高いのだ。

さて、ここから先は、5月7日の日本武道館でのライブも加味したルポルタージュにさせていただこう。

「99」と「Wanna Go Home」は、90年代初期の映像がシンクロしたこともあり、目頭が熱くなるギター音だった。そこには“正しく追い求めた”足跡と、ある意味で特殊な時代と、何よりも、音楽とギターが生活の中心だった(経年変化をすればセピア色になるが)、その当時は原色だった生活とギター、そしてうっとりするほどのロック幻想が生きていた。

では、松本さんと僕のロック幻想は今は色褪せ、死に体同然なのか?
そうとも言えるし、そうでないとも言えるだろう。

「Hopes」からの都合7曲の、すべて『enigma』からの楽曲演奏は、巡る季節と思いを楽器(ギター)に、時にねじ込ませ、時に語りかけた、“集積半分・今ここ半分”であるところの重層空間だったのである。
特に「The Voyage」にて、Gibson SGにてスライド・ギターを松本さんが展開した際には、音が鳴っている時にだけ訪れる多幸感のさらに上を行く重幸感に満たされたのであった。

「enigma ~epilogue~」で本編を締めたあとに、松本さんは「長い旅を続けていきましょう」とMCした。そして、客電が点灯したままアンコールへ。
「RED SUN~SACRED FIELD」からの“Tak Matsumotoと言えば”…という速弾きとビブラート奏法とワウ・ペダルの複合技の凝縮したナンバー3曲で、ライブは終わりを迎えた。

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終演後ゲストルームにて、松本さんと少しの間、話をした。
「シーケンスが出るきっかけが、ぜんぜんわからなかったのですが、どうなっているんですか?」と僕が訊くと、松本さんは「教えないよ」と言って笑った。

ドラムスのJason Sutter氏からカウントが出たのは(つまり、そこが解りやすい、シーケンスの入るところだ)、アンコール・ラストの「#1090 ~Million Dreams~」の前だけだった。
「そんなことが何なんだ?」と憤慨する読者諸氏もいようかと思うが、きっかけが出ずに=ドラマーからのカウントが出ずにシーケンスと同期しながら演奏が始まるということは、シームレスに・繋ぎ目がなく楽曲がステージ上から放たれることと同義だ。
つまり、拍動(心臓の鼓動)が止まることなく、分断されずに続行する僕らそれぞれの生活や人生を、繋ぎ目がない演奏を提示することで、松本さんは表そうとしたのかもしれない。
言い換えれば、“楽器が歌うコンサート”で、僕らが感じてしまうのは〜生きた時間の長短ではなく〜おのおのの始点からの流れであるだろうと思う。

僕が「松本さんが、今回、まったくMCをしないのではないか? と思い、ドキドキしましたよ」と言うと、彼は「実はあまりMCはしたくないんだけどね」と返答して苦笑した。
MCが入れば、幾ばくかの(気分)転換になるのかもしれぬが、それがまた「お元気ですか?」と直接問いかけるような“伺いモード”になってしまう。
人前で演るライブは、その点から離れられない、のかもしれない。
しかし、オーディエンスの頭上を貫いて、日本武道館に掲揚されている日の丸の少し上に、誰もが感じ・考えることを“楽器が歌うこと”のみで解らしめようとしている松本さんは、楽器の音が人の感情に働きかけるとてつもなく大きな影響と波動を心底、信じているのだと思うのである。

Tak Matsumoto Tour 2016 -The Voyage-は、ギターと音楽の旅の終わりの部分であるかもしれないと同時に、ザッピングもクリッピングも寄せ付けない“人生という音楽、音楽という人生”の始点にもなり得るだろう。

Life means Slidin’…願わくば、読者諸氏も、共に行けるところまで…。

取材・文 / 佐伯明

Tak Matsumoto Tour 2016 -The Voyage-

01.Dream Drive
02.enigma
03.Vermillion Palace
04.Step to Heaven
05.恋歌
06.華
07.Theme from Fist of the North Star 〜The Road of Lords〜
08.Theme from ULTRAMAN
09.THE THEME OF B.J.
10.THE WINGS
11.99
12.Wanna Go Home
13.Hopes
14.Under The Sun
15.Drifting
16.The Voyage
17.Mystic Journey
18.Ups and Downs
19.enigma 〜epilogue〜
20.RED SUN 〜 SACRED FIELD
21.GO FURTHER
22.#1090 〜Million Dreams〜

リリース情報

enigma

『enigma』

2016年4月6日発売

【通常盤】
No:BMCS-8008 Price:¥2,800 (tax in)
【初回限定盤 CD+DVD】
No:BMCS-8006 Price:¥5,000 (tax in)
【初回限定盤 CD+Blu-ray】
No:BMCS-8007 Price:¥5,000 (tax in)

【収録曲】

01. enigma
02. Vermillion Palace
( TBS系テレビ「世界遺産」メインテーマ )
03. Step to Heaven
04. Ups and Downs
(「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」イメージソング )
05. Rock The Rock
06. Drifting
07. The Voyage
08. Hopes
09. Under The Sun
10. Dream Drive
11. The Rock Show
12. Roppongi Noise
13. Mystic Journey
( TBS系テレビ「世界遺産」エンディングテーマ )
14. enigma ~epilogue~
<Bonus Track>
#1090 ~Million Dreams~
( テレビ朝日系「ミュージックステーション」テーマソング )

【特典DISC内容(DVD or Blu-ray)】
2014年に開催されたツアー『Tak Matsumoto LIVE 2014 -New Horizon-』からブルーノート東京での最終公演全15曲を初映像化でフル収録!

01. New Horizon
02. Take 5
03. BLUE
04. 華
05. Tokyo Night
06. Shattered Glass
07. 学生街の喫茶店
08. Island of peace
09. That’s Cool
10. 月のあかり
11. Reason to be…
12. GO FURTHER
13. #1090
14. The Moment
15. Rodeo Blues

vol.2
vol.3

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