Interview

大島優子が目指す聖母マリアのような“慈愛”に溢れる女性とは? 舞台『罪と罰』の娼婦役で女優として開花する新たな一面

大島優子が目指す聖母マリアのような“慈愛”に溢れる女性とは? 舞台『罪と罰』の娼婦役で女優として開花する新たな一面

ロシア文学の巨匠、ドストエフスキーの名作『罪と罰』が、三浦春馬、大島優子らを迎えBunkamuraシアターコクーンにて2019年1月9日(水)より上演される。演出は、『地獄のオルフェウス』(15)、『欲望という名の電車』(17)での演出を高く評価されたフィリップ・ブリーンが担当。社会に対する反動、哲学的な思索、それらを当時のロシアの民衆の生活状況に照らして「正義のためなら人を殺す権利がある」と信じるラスコリニコフという殺人者の心理を緻密に描いた作品だ。
今作で、娼婦・ソーニャを演じる大島優子にインタビュー。3度目の舞台となる本作で、女優として「新境地を見せる」と意気込む大島のマニフェストを聞いて欲しい。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望

ソーニャはどんなつらいことも受け止めようとする広い心を持った女性

原作の『罪と罰』はロシア文学者のドストエフスキーの傑作で、このたび、いよいよ日本で舞台化されますが、脚本を読まれた感想を聞かせてください。

最初に読んだときは、“ストーン!”ととてつもない“重り”が心に乗ったような気持ちになって(笑)。ただ、読むたびに違う感情を抱くんです。それはきっと、それぞれのキャラクターにフォーカスしていくと、彼らのバックボーンや様々な心情が浮かび上がってくるからですね。彼らはとても人間らしくて共感できる部分がたくさんありましたし、あの時代の状況や、ひとりひとりに渦巻く家庭環境や精神状態を読み解くのが楽しかったです。

脚本を読んで気になったシーンはありましたか。

私の演じるソーニャは、父親と母親が短期間のうちに亡くなる、とても衝撃的な経験をします。両親がほぼ同時期にいなくなってしまうシーンを想像するだけでつらいですね。私の両親は健在ですから、まだ、どんな気持ちで臨めばいいのか整理がついていないですけど、手探りをしながら稽古で役どころを見つけていきたいです。

大島さんがおっしゃったように、両親を失ったソーニャは、家族を養うために“娼婦”になりながらも、最後には三浦春馬さんが演じるラスコリニコフの苦悩を救う役柄です。

信仰に深くて、何事も許し、どんなつらいことも受け止めようとする広い心を持った女性です。それこそ聖母マリア様みたいな“慈愛”に満ちていて。きっと両親に“愛情”を持って育てられたから “愛情”の本当の意味を知っているんだと思います。彼女は、マルメラードフ家の長女で、両親の恩寵を一身に受けていたんです。だからこそ人を慈しむ“慈愛”に溢れているし、彼女は三人姉妹ですが、妹たちだけでなく、罪を冒したラスコリニコフさえ包み込む存在になる。深読みすれば、この作品では“慈愛”が彼女の人生を犠牲にしてしまうんです。

たしかに、慈愛を持ってしまったがゆえに、タイトルにある“罰”を受けてしまったような悲しい女性にも見えます。

おっしゃる部分もあると思いますが、どんな境遇にも諦めずに力強く生きていますし、いろいろな困難を受け入れる“心”の寛容さを持ち合わせています。いきなり両親を失って妹たちを養うために“娼婦”になるのは、波乱の人生ですよね。でも、そんな人生をすべて“あるがまま”に受け入れるからこそ、ラスコリニコフの罪まで受け入れることができたのだと思います。脚本ではソーニャの心のあり様は詳しくは書かれていないので、どうしてラスコリニコフと彼女の心が急接近してしまうのか、言葉になっていないぶん、稽古で三浦さんと心で会話をしながら、どんな共同体をつくるのか紐解いていきたいですね。ソーニャの陥った状況に合わせた気持ちと台詞を丁寧に照らし合わせながら役づくりをしたいです。

やはり原作は誰もが知るところですから、それぞれが抱くソーニャ像がありそうです。

私はいつもお客様が率直に感じたものが私たちの届けたいものだと思って演じているので、私の演じるソーニャから“慈愛”という優しい心のオアシスのようなものを想像していただけたら嬉しいです。

フィリップ・ブリーンは“芝居愛”のハンパない人

三浦春馬さんはインタビューで、以前フィリップ・ブリーンさんに演出を受けたことがとても刺激になったとおっしゃっていました。大島さんはフィリップさんとのワークショップをご経験されていかがですか。

『罪と罰』のお話はいっさいせずに、シェイクスピアを題材にしたメソッド(演技方法)を説明していただきましたね。ですので、この経験で得たものを『罪と罰』のお芝居にどうやって結び付けられるのかが大切になってきます。今作なりのメソッドがあると思うので、早く稽古で教えてもらいたいですね。フィリップの演技指導は、最初はとても自由に「この台詞で、この役でやってみよう。さあ、どうぞ」とフランクにおっしゃってくださいます。そこからフィリップが演技を付けていくので、一緒に作品をつくっていく高揚感があって勉強になりました。

フィリップさんの印象はいかがですか。

“芝居愛”のハンパない人で、ワークショップでは指導に熱が入りすぎて我を忘れるほどです。稽古に入って、10時間も稽古をしたらどうしよう(笑)。

(笑)。三浦さんも同じようなことをおっしゃっていました。

何より、フィリップは自分の予想していない出来事を楽しめる方なんです。彼がワークショップで演技をしている役者を楽しそうに見ているのが印象深かったですね。そこから新しい演技を付け加えて、それに反応して芝居が変わるのも楽しんでいらっしゃる。変化させることを厭わず、いろいろな角度から芝居を追求していく面白さを知っている人だと思います。

ワークショップで得た経験をどのように今作に活かしたいですか。

ワークショップでは、勝村政信さんや尊敬する多くの先輩と一緒にいたのですが、フィリップの熱気に当てられて、私たちの熱もどんどん上がっていくのを体感しました。稽古が始まっても、フィリップの熱さを感じながらお芝居をすると思います。つまり、フィリップがそんなに熱くなるほど『罪と罰』の世界観は独特なんだと思います。私たちの知らない歴史の背景があって、それぞれの家庭環境があって、宗教さえ絡み合うわけですから、確実にできるかどうかは別として、明確なビジョンを持ってお芝居をする必要がありますね。

どんな人に対しても、しっかりと正面から向き合っていたい

今作は、“正義”がテーマでもあるような気がしますが、大島さんにとっての正義とは。

自分に対しても、他人に対しても、それこそ“モノ”に対しても、つねに誠実でいることですね。人ってそのときの環境によって対応が変わってしまう生き物ですよね。ラクな環境もあれば、つらいときもあって、それに従って、モチベーションも変化して、精神的にアップもダウンもして態度が変わったりする。けれど、心がけたいのは、どんな人に対しても雑にならないようにしっかりと正面から向き合いたいんです。それが私にとっての正義だと思います。

今ほど、モチベーションの話が出ましたが、今作の公演期間は東京で約1ヵ月以上ありますし、大阪公演もありますから、どのような精神状態で公演を乗り切りたいですか。

今作が舞台3作目ですが、モチベーションの維持には毎回悩んでいますね。初舞台の『No.9-不滅の旋律-』(15)のときに演出の白井 晃さんから、モチベーションをアップさせるために「もう少し遊んでみるといい」と言われたのですが、どうやって遊んでいいのかわからなくて(笑)。2作目の『美幸-アンコンディショナルラブ-』(16)は、鈴木浩介さんとの二人芝居だったので、モチベーションどころではなくて、必死に集中して演技をしているだけだった。なので今回は、もう少し遊ぶことを気楽に捉えられればモチベーションを維持できるような気がします。

三浦春馬は役のために生きている人

それでは、実際に体づくりはしているんですか。

まずは、ビジュアル撮影の段階でも壮絶な役づくりをされていた三浦さんを見習いたいです。この1ヵ月ぐらいは、筋トレをしていますね。実際に筋肉も付いてきているので、食事の管理も徹底しようと思っています。

三浦さんは今作にかける相当な覚悟があるんですね。

そうだと思います。ビジュアル撮影のときから身体を絞っていたので、役のために生きているような役者ですね。ラスコリニコフのように力強く狂っていくお芝居をされるだろうな。三浦さんは座長ですので、足を引っ張らないようにしたいと思います。

今作はかなりの大所帯ですし、どのようにカンパニーを支えていこうと思いますか。

座長の三浦さんの役が本当に大変だと思うので、少しでも安らぎを与えられる存在になりたいです。ソーニャ同様に大島優子としても、一息つけるような役割になれたら嬉しいですね。

1 2 >