Interview

映画 『海よりもまだ深く』 樹木希林 、是枝裕和監督インタビュー

映画 『海よりもまだ深く』 樹木希林 、是枝裕和監督インタビュー

本作『海よりもまだ深く』で主演の阿部寛さんが演じるのは、作家としては全然芽が出ず、離婚した元妻にも未練タラタラのくせに、息子にだけは父親らしいところを見せようとするダメ男・篠田良多。さらに樹木希林さんが演じる、清瀬の団地に一人住まいをしている良多の母親・淑子の存在が、重要な役割としてストーリーを豊かにしています。
是枝監督の描く“母親”とは、そして”家族”とはどういうものなのか、淑子を演じた、是枝作品の常連・樹木希林さんと是枝裕和監督のお二人にお話をうかがいました。

取材・文 / チバヒデトシ


あれは孫のいる女優じゃなきゃ(樹木)

樹木さん演じる淑子がとってもリアルでした。是枝監督のお母さまと似ている部分があったりするのでしょうか。

是枝 似ている部分もあります。ただ「歩いても 歩いても」(2008年)の時もそうでしたが、樹木さんに僕の母親を演じてください、というお願いをしたわけではなくて、まずは樹木さんがキャラクターとして作られた母親像があって、その中に僕の母親のいろんな部分、例えば、すごく世俗的な部分とか、すごく毒のある部分とか、そういう要素を加えていただきました。

天袋にお金を隠すとか、そのお金をストッキングに入れておくとか?

是枝 ええ、あれはやってました。あそこはそのままなんです(笑)

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樹木さんは監督の描く母親像をどのように感じましたか?

樹木 この淑子という母親をどう思うかというより、母親だったら誰もが持っているような一面をよく描いているなあと思いましたね。女性が持っている可愛らしさも、嫌なところも、ちょっとした意地の悪さも、全部母親は持ち合わせていますからね。

淑子のセリフに「いまのひとは我慢できないから」というものがありますが、離婚してしまうことについて、樹木さんご自身はどのようにお考えですか?

樹木 女の人の生活力が上がるのは素晴らしいこと。その分だけ自由になりますから。ただ、食べていけないから辛抱しよう、とかいうことの良さを捨てているなとも思います。本来、女の人が持っている忍耐強さが磨かれないまま、終わっちゃうのかなと。そう考えると、どっちこっちだなって。良くもあり、損もあると思います。

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監督はいまの女性像というものを淑子の目を通して描きたかった部分はあるのでしょうか?

是枝 それが正しいとか、間違っているとかジャッジしたかったわけではなく、ああいう育ち方をして、結婚をした母親は、おそらくこういう視点でいまの子たちを見るだろうな、と。

このセリフは樹木さんに言って欲しかった、というセリフはありましたか?

是枝 セリフが先にあるわけではないので、これを言わせたいというのはないです。ただ、淑子が息子に向かっていいことを言った後に「いま、私いいこと言ったでしょ」というセリフがありますが、そこはそうやって崩さないととは思いました。自分で崩すというのは、ある種の品なんですよね。

樹木 話がそれますけど、「寺内貫太郎一家」(樹木さんが若くして演じた老女役がいまも語り草のテレビドラマ)の時に、私が演じた婆さんがきったないわけ。それで、劇中で西城秀樹さん演じる孫が「ばあちゃんきたねぇな」というんですが、それを言わないと、今度は作品が汚いものになっちゃうの。そういうバランスってあるわよね。

是枝 孫の真悟が祖母の淑子に向かって「宝くじが当たったら、またみんなで暮らせるかな」というセリフがあるんです。このセリフを書いた時はサラッとしたシーンとして書いていたのに、樹木さんに実際に演じてもらったら、自分が書いたセリフに“うっ”と感情がこみ上げてきた。祖母と孫の演技が加わると、セリフが際立つんだなぁと。そして、その台詞を聞いている祖母は、また一緒に住むようなことはきっとない、と知りつつその台詞を聞いているんです。

樹木 あれは孫のいる女優じゃなきゃダメよね(笑)

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阿部さんも僕もこどもができたから(是枝)

今回の良多は息子であり父でもある。監督ご自身の家族感に変化があったのでしょうか?

是枝 本作の企画を作りはじめたのは「歩いても 歩いても」の直後なんです。書き出した時から阿部さんと樹木さんでとは考えていたんですが、その間に、僕にも阿部さんにも子どもができまして。父親の視点を加えたのは僕が父親になったからだと思います。 「海街diary」(2015年)をつくりながらこちらの脚本も書いていたのですが、向こうは原作があり、こちらはオリジナル脚本だったので、それとどう向き合おうかなと。それで「海街?」では背筋を伸ばして前向きに生きようとしている人たちを描き、こっちでは背が丸くなった人を描こうかな、って。

樹木 あっちは憧れの美人女優がいっぱいの夢の映画つくり。こっちは“うう?”という(笑) ともかく、私としては団地はもう御免被りたいです。次はエレベーターのあるところでお願いします(笑)

阿部さん演じる良多は、息子のスパイクを買う際にこっそり傷をつけて値切ったりと、なかなかあそこまでのダメ男はいないと思うのですが。

是枝 ギリギリまで攻めてみようかな、と。背中を丸めながらも不遇を時代のせいにしてね。良多という男は“悪い”のではなくて“小さい”んです。阿部さんはそのあたりの表現の仕方がとても上手い。例えば真木よう子さん演じる元妻の響子とのシーンで、良多が響子の足首を掴むシーンがあったんですが、阿部さんは「足首かぁ」とずーっと悩んでいて、結局、膝のあたりをすーっと触ったんです。阿部さんみたいに大きな男性が女性の足首を掴むのと、膝をそーっと触ろうとするのでは、全く見え方が違う。阿部さんは、自分の大きさとか、おかしさとかを理解した上で、絶妙に演じてくださいました。

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この作品を通じて、樹木さんは監督の変化を感じられましたか?

樹木 監督はどんどん人を見る目が成熟してきているなぁと感じています。上から目線ではなくて、みんなと一緒に作っているという感じがしてね。

演者に優しくなったとか?

樹木 是枝さんは以前から誰に対しても平等で優しいの。これは人間としての基本ですけど、そうじゃない人もいるからね。むしろもっとズバッと言ってくれてもいいなと思います。遠慮しているようですが、この顔立ちですからもっと言っても大丈夫。もっと大胆になって、(今後も作品を)作っていってくれたらいいな、と思います。

監督は樹木さんのアドバイスをお聞きになっていかがですか?

是枝 希林さんこそ、人との接し方がカッコいい。希林さんこそカッコいい大人です。

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インタビュー中、樹木さんは終始、取材スタッフを気遣われ、気さくに接してくださり、是枝監督の言う、 “樹木さんのカッコよさ”を肌で感じることができました。

 

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