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【ムービーレビュー】フッてフラれて大人になる。『オオカミ少女と黒王子』

【ムービーレビュー】フッてフラれて大人になる。『オオカミ少女と黒王子』

生々しく切り取られる人間と恋物語の手応え

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「成長譚です。他人を初めて知って好きになることが10代のラブストーリーの一番大きいテーマ。フッてフラれて大人になる」
 廣木隆一監督は作品の「肝」をサラリと説明する。人気の少女向け漫画、それもラブコメ原作である。この監督の作風を思えば「えっ!?」と動揺が走る題材なのだが、そこは百戦錬磨の人。素材、ジャンルがどうであれ、人間を見つめる確かな視点は変わらない。単なる原作の焼き直しになどにも当然ならない。

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 恐ろしく「引きの画」が多い。時には主演俳優たちが米粒にしか映らないショットもある。でも、それが表情の寄りの画に勝る内面描写を獲得している不思議。あるいは、場の空気感がいつまでも続く長回し。病気の恭也(山﨑賢人)の看病を終えたエリカ(二階堂ふみ)がマンションを出た後、小沢健二の『今夜はブギー・バック』を延々と歌った。ほかの映画ではまず描かないショット。でも、彼女の切ない感情はその歌いっぷりゆえに浮き彫りになった。廣木映画ではほかの映画での無駄が無駄ではなくなる。タイトル・バック、エリカが恭也をスマホで盗撮する渋谷の場面なども象徴的な長回しだ。恭也の顔を狙おうとするエリカの無茶とドキドキ。短いカットでつなげば事は足りそうだが、廣木演出はそれを許さない。あそこで観客は思い知らされる。この映画は人間が生々しく切り取られるぞ、と。恋物語にもきっと本物の手応えが生まれるぞ、と。

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 そんな廣木演出に応えた二階堂ふみと山﨑賢人が素晴らしい。「ご主人様と犬」の主従関係が嫌みなく映るのは、全く彼らの資質のさわやかさによるもの。廣木から「いかにも」の芝居を封印されても、逆に俳優としての魅力を浮き上がらせるポテンシャルの輝き。改めて、この主演俳優たちが容姿人気だけの役者ではないことがわかるだろう。
 原作ファンは望外ともいうべきキャラクターの肉体化のスリルをそこに発見し、少女漫画に縁のない人は高校生たちのリアルな感情にいつの間にか笑いをもって共感しているはず。軽いコミックものを期待して見てしまうと、ちょっとビックリしちゃうかも。才能あるトリオのこだわりが軽やかに、深く貫かれた逸品。気骨の秀作といってもいい。

文 / 賀来タクト

映画『オオカミ少女と黒王子』

八田鮎子の同名人気コミックを二階堂ふみと山﨑賢人が主演で実写映画化。高校1年の篠原エリカ(二階堂ふみ)は、友だちに話を合わせて彼氏との恋愛話を語っているが、本当は彼氏どころか恋愛経験そのものがゼロの「オオカミ少女」。嘘も限界になってきたとき、街で見かけたイケメンを盗撮して自分の彼氏だと紹介してその場をしのごうとするが、その彼は女子に人気の高い同級生の佐田恭也(山﨑賢人)だった。本人に事情を打ち明けて彼氏のフリをしてもらうことを承諾してもらったが、恭也は優しげな見た目とは正反対の腹黒ドS男子だった――。監督は『ストロボ・エッジ』、『娚の一生』など少女コミックの映画化を数多く手がけている廣木隆一。

映画『オオカミ少女と黒王子』

【スタッフ】
監督 廣木隆一
原作 八田鮎子
脚本 まなべゆきこ

【キャスト】
二階堂ふみ(篠原エリカ)
山﨑賢人(佐田恭也)
鈴木伸之(神谷望)
門脇麦(三田亜由美)
横浜流星(日比谷健)

主題歌:back number 「僕の名前を」 (ユニバーサル シグマ)
配給 ワーナー・ブラザース映画(2016、116分)
http://wwws.warnerbros.co.jp/ookamishojo/
(c)八田鮎子/集英社 (c)2016 映画「オオカミ少女と黒王子」製作委員会