浜村通信が語る【ゲームは“売れる”から“集める”の時代へ】  vol. 4

Interview

浜村通信が語る 「ゲームは“売れる”から“集める”の時代の真相」

浜村通信が語る 「ゲームは“売れる”から“集める”の時代の真相」

ファミ通グループ代表・浜村通信こと浜村弘一氏へインタビューを行い、ゲーム業界の現在と未来を読み解く全4回記事は、今回で最終回となる。2018年10月19日(金)に開催されたGzブレイン主催のクローズドセミナーで、「“売れる”から“集める”へ」とのテーマを強調していた浜村氏。第4回は、いよいよこのテーマの核心に迫るべく、産業全体がシフトしつつある新たな技術の応用や、サービスのメインストリームなどをさらに深掘りし、ゲーム業界が向かう“これから”のビジョンを、浜村氏と、そして読者の皆さんとともに描いていこうと思う。

取材・文 / wodnet
エンタメステーション編集部

浜村弘一(浜村通信)

日本を代表するゲーム総合誌“週刊ファミ通”(旧・ファミコン通信)の創刊時に編集者として携わり、編集長も務める。浜村通信はペンネーム。現在は、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)副会長、カドカワ株式会社 デジタルエンタテインメント担当 シニアアドバイザー、ファミ通グループ代表。長年に渡ってゲーム業界・産業に寄り添い、知識だけでなく人脈も豊富で、さまざまな角度からゲーム業界に精通し分析を重ねている。


プラットフォームはゲームハードからIDの時代へ

2018年10月8日に、マイクロソフトが“Project xCloud”を発表したのは記憶に新しい。“ゲームの未来とは、好きなゲームを、好きな人々と、好きなデバイスで、いつどこにいてもプレイできる世界”として、映画や音楽のようにエンターテインメントはどの画面からでもオンデマンドで楽しめるべきだ、というビジョンを提案するマイクロソフトが、それを最先端のストリーミング技術によって実現させようというプロジェクトだ。セミナーでもこの“クラウドゲーミングサービス”について触れていた浜村氏に、改めてこのサービスの広がりを尋ねた。

好調なNitendo Switchは、ハイエンドコンテンツへの対応というところで、新しい試みがなされているとセミナーでうかがいました。

浜村弘一氏(以下、浜村)  クラウドゲーミングですね。PlayStationの場合は旧作を遊べるというところでクラウドを活用してきていますけど、Nintendo Switchは現行の家庭用ゲーム機でハイエンドコンテンツを遊ぶための術として、クラウドを使おうとしています。クラウドゲーミングというのはネットワークにあるサーバー上でゲームの処理を行ってしまう技術ですから、言ってしまえば、手元にあるゲーム機の性能はあまり関係なくなってくる、ということですよね。マイクロソフトもすでにハイエンドコンテンツをスマホで遊べるような取り組みを行っていますから、Nintendo Switchが挑戦していることは、むずかしいことではないと思っています。

これまでは、特定のハードでしか遊べないタイトルがあるといったような、ある意味コンテンツを囲い込む動きがありましたが、クラウドが当たり前になってくると、そうした家庭用ゲーム機のハードの垣根は取り払われていきますね。

浜村 そうですね。ハードがプラットフォームだった時代から、“ID”を持っている人、“ID”がプラットフォームになる時代にシフトしてきているんでしょうね。

それが先日のセミナーのテーマにもなっていた“売れる”から“集める”へのパラダイム・シフトの一側面でしょうか?

浜村 はい。どのタイトルが何本売れたかではなくて、どのタイトルにIDがどれくらい集まっているか。IDとはユーザーひとりひとりですから、IDが多ければ多いほどビジネスになる。ゲームを単体で高い価格で売って終わりというより、たくさん人が集まる場所で、安い価格に設定して定期的に収入を得る形にしたほうが利益につながるという。ゲーム業界全体が、そういう動き(後述のサブスクリプションサービス)に今後変わっていく可能性はあると感じています。

モーションデータが文化遺産になる!?

ゲーム業界を取り巻く新技術はクラウドゲーミングに留まらない。セミナーで紹介された革新的な技術には、浜村氏自身、驚きを隠せなかった表現技術もあったようだ。詳しくうかがってみる。

ゲーム業界の新たな試みや新技術にもセミナーでは目を奪われました。火炎放射器から放たれた炎が、水溜まりやビルのガラスにリアルタイムで映るほかにも、本物と見紛うばかりのデジタルヒューマン“Siren(サイレン)”など、リアルタイムで表現できることの幅がグッと広がってきている印象です。

浜村 セミナーではスクリーンに投影していましたけど、ちゃんとした画面で見るとサイレンはもっとすごいですよ――(インタビュー出席者全員で、浜村氏のiPadに流れるSiren REAL-TIME Performance in Unreal Engine 4 (以下の動画)をチェック。よく目を凝らさなければコンピューターグラフィックスだとわからないほどのクオリティで人物が表現されている。細かな表情にも注目。2つ目の動画は、そのメイキング映像。リアルタイムでモーションを取り込んでいるのがわかる)――パッと見、本物の人と変わらないですよね。このグラフィックが当たり前のように次世代のゲーム機で表現できるようになったら、どんな有名人の方でも、ゲームのなかでほとんど本人同様に表現できるようになりますよね。

有名人のモデルやデータを事前に取り込んで、声も収録しておけば、いつでもどこでもゲームに出演してもらえますか?

浜村 さすがにドラマを作るとなったら、芝居もありますから毎回収録する必要はあると思うので、制作の工数が減ることはないかもしれませんね。どちらかというと、“アニメーションの作りかた”に似てくるのではないかな、とは思います。

モーションキャプチャーを活用したフルCGのアニメーションですね。

浜村 そうです。いまはモーションを取ったあとに、別途セリフを収録して、声に合わせてあとからモーションを調整したりもしていると思いますけど、もしSirenのようなデジタルヒューマンの技術がゲームの制作に使えるとなったら、先に動きや映像をすぐ用意できて、そこに声を当てることができるようになりますよね。

アテレコですね。

浜村 一度スキャンされた自分の姿を映像で見ながらご本人は声を収録するわけですから、自分の動作にアテレコするという経験は、すごく不思議な気分になるでしょうね。もしも映画のゲーム化をするという場合には、映画とは別の展開や選択肢をデジタルヒューマンの技術を用いて作れそうですよね。ゲームの作りかたが変わってくる可能性を秘めているとも感じます。

そのうちユーザーの好きな有名人を自由にユーザーの分身・アバターとして、ゲーム中で使えるようになったりするかもしれませんね。

浜村 昔、ゲームクリエイターの鈴木裕さんがおもしろいことをおっしゃっていました。歌舞伎、能楽の世界でけっこうなお年を召されている名人の方がいらして、そういう方たちのモーションをキャプチャーしておきたいと。それができれば、伝統芸能の世界に名を残すだけでなく、数多くの名人が画面のなかにいつまでもいてくださることになる。しかも、アングルの固定されたカメラを通した映像という残しかただけではなくて、3Dの立体的なモデルとして、動きそのものを保存できる。細かな所作や動き、表情までをすべて知ることができる。これはもうゲームの範疇を超えて、“モーションを文化遺産としてアーカイブする”ってこと。それができたらいいなぁと鈴木さんがかつておっしゃっていた、まさにそれがいま実現できる時代になってきているってことですよね。

現実には体験できないことを体験できるのがゲームの魅力のひとつですが、ここへきて現実をそのまま残す、別の誰かと同じことを追体験できるのも、魅力のひとつになっていく気がします。

浜村 体験といえば、AR(Augmented Reality;拡張現実)、VR(Virtual Reality;仮想現実)、MR(Mixed Reality;複合現実)の進歩も見逃せませんよ。“AIアシスタント”なんか本当にすごい。あんな存在が目の前にいつでも現れてくれたら、もうお友だちはいらなくなっちゃうかもしれない(笑)

Magic Leapが開発しているAIアシスタントのMICA(マイカ)ですね。動画を拝見しましたが、実在しない人間とは思えない完成度でした。まるで『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』の世界です。本物の人間と見分けがつかないほど表情豊かで、あいさつや問いかけにも即座に応じられるような存在が、VRゴーグルをつければ目の前に現れるという。そんな“居る”という気配すら生み出せるAIアシスタントが突然ふっと現れたら、若干怖いなという感触もありました……(笑)

浜村 それはスイッチを入れなければ怖くないですよ(笑)。まぁでも犬や猫など、ペットを飼っているのと近い感覚で、この部屋にいる存在としてAIアシスタントの気配を感じることは、もうできる時代に突入しているとは思います。

AIアシスタントがいつもそばにいることが当たり前になっていくと。

浜村 たとえば彼女を家に招待したとして、自分と彼女とは別に、AIアシスタントもこの家にはいて。僕がAIアシスタントと話しているのを、彼女は何の違和感もなく聞いていられるようになるし、彼女には彼女のAIアシスタントがいて、実際には2人しかいないけど、AIアシスタントも入れて4人いるような環境が当たり前になっていく可能性はありますよね。

AR、VR、MRは、これまでは個人的なモノ、自分にしか見えない、他人がアクセスできないという部分がありましたが、これからはAIアシスタントのような存在を誰かと共有することもできそうですし、そのAIアシスタント自体をさきほどの有名人のアバターにするようなこともできてしまいそうですね。

浜村 技術的にはできてしまうでしょうね。

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