Interview

10年越しの“夢”をかなえた山下敦弘監督&荒川良々。 異色作『ハード・コア』の実写化に挑んだ日々を明かす

10年越しの“夢”をかなえた山下敦弘監督&荒川良々。 異色作『ハード・コア』の実写化に挑んだ日々を明かす

『オールド・ボーイ』や『湯けむりスナイパー』など、数々の名作コミックの原作を手がけた狩撫麻礼。2018年1月に惜しまれながら世を去った名原作者が残した作品の中でも、ひときわ熱狂的な支持を受けているのが、『ハード・コア』だ。『デメキング』のいましろたかしによる味のある作画も相まって、映画界でもファンを公言する作り手や俳優も多い。その筆頭である山田孝之と山下敦弘監督、荒川良々が組んで実写化した映画版の公開が間近に迫った。そこで、10年ほど前から映画化の夢を語り合っていた山下監督と荒川の対談取材を敢行。原作への愛や撮影時のエピソードなどを、ハードに語り合ってもらった。

取材・文 / 平田真人 撮影 / 荻原大志


山田孝之との出会いによって、下北沢の飲み屋で熱く語った映画化の夢が実現した。

お二方が最初に『ハード・コア』の原作に対する愛を語り合ったのは、かれこれ10年ほど前までさかのぼるそうですね。

荒川 そうなんです、下北沢で飲んでいる時、お互いに『ハード・コア』が好きだっていう話になって。そのころ、山下監督は深夜ドラマ『週刊真木よう子』に関わっていて、いましろたかしさんの原作を監督されたんでしたっけ?

山下 そうです。いましろさんの原作を赤堀(雅秋)さんが脚色して、大根(仁)さんがプロデュースして、僕が監督、という座組で。そういった関係で、いましろさんの作品の話をする中で、「俺が映画化したいのは『ハード・コア』以外に考えられないっ」みたいな話をして。すでに『デメキング』(08)も映画化されていて…しかも監督が寺内(康太郎)くんという同期だったんですよ。それが悔しくて(笑)、『ハード・コア』は自分がやるんだ、って勝手に誓ったという。結果、実現はしましたけど…時間がかかっちゃいましたね。

荒川さんはどういった経緯で『ハード・コア』の原作と出合ったんでしょう?

荒川 入口は、『ハーツ&マインズ』だったのかな…。誰かから教えてもらったか聞いたかして、狩撫麻礼さんといましろさんの作品を読みあさっていくようになって。その流れで『ハード・コア』に出合ったという感じです。東京に出てきたものの、役者をやりながら工事現場のバイトに行ったりしていて、いろいろ鬱憤がたまっていたんですよ。そういった自分の状況と、いましろ作品がリンクしたところがあって。物事を一番ナナメに見ていたころだったから、自分の気分とすごく合っていたし、感情移入したんだと思います。

その下北での飲み会で、『ハード・コア』を実写化するなら「牛山は荒川さんしかいない」、みたいな話になったんでしょうか?

荒川 僕がやれそうな役として、「牛山だね」みたいな話になって。

山下 「もし映画にする時は荒川さんに牛山を頼むから」「もちろん!」みたいな感じで、その場は盛り上がって。…(荒川に)その話をしたのって、1回だけでしたっけ?

荒川 そうですね。その後、飲み屋で…『深夜食堂』のころでしたかね、山下さんと会っているんですけど、全然そういう話にはならなくて。というか、僕、山下さんの作品にいつ呼んでもらえるんだろうと思っていたんですよ。僕の周りの人はだいたい呼ばれていたんですけど、僕だけなかなか呼ばれなくて(笑)。『ハード・コア』が決まって、やっとご一緒できたんです。

満を持して、『ハード・コア』で組んだというわけですね。

山下 そうです(笑)!

荒川 とっておきの(笑)。

山下 でも、山田(孝之)くんも「牛山さんは荒川さん以外に考えられないので」って言っていて。荒川さんは、舞台が終わってすぐというスケジュールだったんですけど、絶対に出てもらおうという意気込みでオファーをかけました。荒川さんからすると、しんどかったと思いますけど…。

ちなみに、下北での雑談レベルの段階で、右近と左近(※映画では佐藤 健が演じている)の兄弟も山田さんと誰か、と考えていたんでしょうか?

山下 いえ、その時はまだ全然。山田くんとも出会ってなかったですし。実は一度、とある兄弟を右近と左近で想定して、企画を出したことがあるんですけど、残念ながら通らなくて。その時は山田くんとすでに知り合っていて、確か『ハード・コア』が好きで映画にしたいって言っていたな…と思い出して、変な話、ちょっとホッとしたんですよね。映画にするなら山田くんと、と心のどこかで引っかかっていたからなんですけど。なので、それから数年して本当に山田くんと企画を動かせることになって、一度頓挫したのには意味があったんだなと思ったりもしました。でも、もし仮に最初の段階で企画が通っていたとしても、牛山は荒川さんだったと思います(笑)。

荒川 誰だろう、中川家さんかな?

山下 まあ、そこはちょっといろいろありましてね…(笑)。でも、自分で言っちゃいますけど、今回のキャスティングはベストだと思います。このところ、僕自身も純粋な劇映画を撮っていなかったこともあって、ようやくストレートに演出できるぞ、と。

荒川 山田くんとの深夜テレビの企画(『山田孝之の東京都北区赤羽』と『山田孝之のカンヌ映画祭』)ばかりでしたっけ?

山下 それもありますけど、映画でも『山田孝之3D』というのに絡んでいて。それも、ほぼドキュメンタリーなんですけど。

荒川 じゃ、本当に久しぶりだったんですねぇ。

山下 それまでは、だいたい山田くんの隣に演者…というのが適切かわからないですけど、演出に専念するのが久しぶりだったから、なんか慣れなくて(笑)。なので、最初は監督と役者という立ち位置での距離感が、なかなかつかめなかったんですよね。山田くんも、右近がいろいろと抱えている人だということもあって、悩みながら演じていましたけど…。

荒川さんとの関係性や距離感については?

山下 まず、牛山というキャラのイメージを共有するところから始まって。あとは、撮りながら肉づけしていきましょう、と。

荒川 最初、『ハード・コア』の前の舞台で班長さん(=山本浩司)と一緒だったので、「今度、山下組に出るんですけど、僕、大丈夫ですか? 山下さん、怖くないですか?」って探りを入れたりして。飲み屋とかでは人当たりがいいんですけど、現場では別人のようだったらどうしよう、とか思って(笑)。怒られるのとか得意じゃないので、怒鳴られたらどうしようかなぁ、なんて心配してたんですよ。でも、班長さんが「いやぁ、全然大丈夫っすよ。あのままです」って言ってくれて。で、現場に入ったら、本当に僕の知ってる山下さんのまんまだったので、何をビビっていたんだろうって、心配して損したなんて思ったりもして。でも、現場はそれこそハードで、特にスタッフさんは洞窟とか廃工場のロケセットを整えるの、絶対に大変だったと思うんですよ。それなのに、役者からすると、すごく居心地がいいっていう…暗いシーンが多かったから、照明部の準備が大変だったんですけど、本当に気持ちよくいさせてもらって。考えてみたら、僕も映画の現場にガッツリ入るのが久しぶりだったんですけど、スタッフの方々も『ハード・コア』愛が強くて、みんながちゃんと一緒の方向を向いていたんですよね。それもあって、居心地よく現場で過ごさせてもらいました。

山下 現場全体のクランクアップ自体が、荒川さんのシーンでしたよね。

荒川 そうです。地獄みたいに霧が濃くて、前が全然見えないんですよ。

山下 そうでした!

荒川 まぁ、それも逆にいいんじゃない、とか言って(笑)。

山下 撮影の最後は右近の幻想のシーンだったっていう(笑)。

『ハード・コア』のキモとなるシーンで、右近と左近が居酒屋でお互いの本音をぶつけ合うくだりがありますけど、山下監督の作品では飲み屋で諍いが起こることが多いんですよね。『苦役列車』(12)にしても『オーバー・フェンス』(16)にしても。

山下 あぁ~、言われるまで気づかなかったです(笑)。確かに、僕の撮る映画は飲み屋でひと悶着がありますね。『苦役列車』は原作どおりですけど。

荒川 あの赤軍の映画も飲み屋で揉めるシーンがなかったでしたっけ?

山下 あ、『マイ・バック・ページ』(11)もありますね。古舘寛治さんと中野英樹さんが不穏な雰囲気になるっていう。何でしょうね、僕が飲み屋でそういう修羅場によく出くわすのかな(笑)。…というわけでもないんですけど、飲み屋のシーンが多いですね、スナックとかも含めて。何でだろう? たぶん、自分が好きなわい雑な感じを描きたくなっちゃうのかもしれません。

荒川 そうですよ、男同士が飲み屋で集まるってなると、何かこう…ふとしたことがきっかけで、「ちぇっ、コノヤロウ」みたいな感じになるじゃないですか。僕も多々経験ありますけどね(笑)。

山下 そう、何かよくわからないスイッチがありますよね。

荒川 どこにそんなスイッチがあるのか、自分ではよくわからないんですけど。

山下 あと、なぜか酔っ払っている方がケンカを止めることができたりしません? ふだん素面だったら、「なんだよ、面倒くさいな」と思ってスルーしちゃうんですけど、こっちも酔ってると「何やってんだよ、やめろよ!」って、ドラマみたいなことを言ったりしちゃうんですよね。これも、ほぼ男同士の世界ですけど(笑)。

荒川 女の子同士で揉めてるのなんて、ほとんど見たことないですよ。

山下 ね。で、話を『ハード・コア』に戻すと…いましろさんの作品はどれも好きなんですけど、いくつか兄弟を題材にした短編があるんですよ。そういう雰囲気も出したかったんですよね。ただ、右近と左近の兄弟がお互いの気持ちを吐き出して、関係性が色濃く浮き彫りになるのが、あの居酒屋のシーンしかなかったもので、撮る時はちょっと緊張しました。あそこで山田くん演じる右近が「俺はちゃんと生きたいんだ!」と叫ぶんですけど、台本だと「俺はちゃんと生きたいだけなんだ!」だったんですよ。それをテイク1で「生きたいんだ!」って言っちゃったので、何回かリテイクをお願いしたんですね。でも、山田くんがどうもしっくり来ていなくて、結果的には最初のテイク1を編集でも使ったんですけど、いま考えると現場で僕も冷静じゃなかったですね。なんであんなに言い直させたんだろうって。たぶんですけど、原作をしっかり映画にしないと──っていう変なプレッシャーがあったのだろうと思います。

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