ZARDデビュー25周年記念特集【THE POP STANDARD】  vol. 6

Interview

2016年型。新たに生まれ変わった坂井泉水のスタンダード

2016年型。新たに生まれ変わった坂井泉水のスタンダード

他のレコーディングの現場とZARDの現場との決定的な違いは何ですか?

徳永 やっぱり、直しが多い(笑)。直しは圧倒的に多いですね。エンジニアの島田さんにも多かっただろうし、作曲家の方にも多かったでしょうし、写真やMVもそうだったのかな。すごいこだわって作られてましたね。

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それって、直していくにつれて時間との戦いになりますよね?

徳永 でも、長戸プロデューサーによく言われたのは、“いつ納品なの?”、“明日の昼です”、“え、時間あるじゃん!”って。夜中の12時であっても、“今から曲書いて歌詞書いて、アレンジするぐらいできるよ”って。ギリギリまで絶対あきらめるなって言われたんです。一音たりとも諦めるな、歌録りでもアレンジでも。その精神が出ているなと思います。僕の財産になってますね。

粘り強いというか、行けるところまで行きたい?

徳永 そうですね。でもそのぐらい命かけて作れよということなんだと僕は思っています。

さっき、“歌いにくい”アレンジの話が出ましたけれど、坂井さんの歌についてはどう評価されています?

徳永 写真みたいに絵を描きすぎない歌ですね。例えばリズムで言うと、シーケンサーやプロトゥールスで作っているから、リズムとかをずらして完全にドラムに合わせられるんです。ピッチもコンピュータで完全なところまで合わせられるんですけれど、坂井さんの歌はリズムがバックビートなんですね。後ろに来る。

今回の「負けないで」(ZARDの楽曲をリアレンジしたトリビュートアルバム『d-project with ZARD』収録)を聴いて特に思ったんですけど、コーラスを入れるのが難しいタイム感というか、タメが効いてますよね?

徳永 そうです。写真みたいな絵を描くならプロトゥールスで動かしてリズムをピタッと合わせられる。でもそうやったら面白くない音楽になってしまうんです。写真みたいな絵なら写真でいいじゃんって。それよりピカソみたいに、その人の持っている個性が一聴して分かるものを作らないといけない。その意味では坂井さんのボーカルトラックはオリジナルすぎて、僕がコーラスを入れても、まずワンテイクで合わないですね。リズムの取り方が特別で、後ろに母音が来る。すごく独特で、興味深いボーカルトラックです。

そういう坂井さんの声の響きとタメ方が曲に合ってる?

徳永 というより、歌詞に合っているんですね。「ふとした瞬間に~」という歌詞がありますけど、あそこはあの歌い方じゃないと感じが違ってしまいますね。音符通りに歌われたら、ふとした瞬間の恥じらいは出ない。それが最初のワンフレーズで出ているのは強烈です。坂井さんとそういう話をしたことはないですけど、主人公のキャラも含めて、歌とすごくリンクしているというか。健気な女性だったり、恥ずかしがり屋だったりという状況で、恥ずかしがり屋っぽいリズムの取り方をしないと響いてこないですから。坂井さんにはそういう魅力があるんじゃないですか。

5月18日にはZARDの楽曲をリアレンジしたトリビュートアルバム『d-project with ZARD』がリリースされます。この中の「負けないで」「DAN DAN 心魅かれてく」を徳永さんが担当されていますけれど。

徳永 長戸プロデューサーからこの2曲をやってくれと言われて。“僕が「負けないで」をやらせていただいていいんですか?メチャメチャ敷居が高いです”っていう感じだったんですけど。国民的なヒット曲ですし。この企画自体も、どこまでリアレンジをするのか試しながらやろうということだったので、この2曲は原曲のイメージを変えたくないなと最初は思いました。

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変えないけれど、やるなら自身のカラーもどこかに入れたい?

徳永 そうなんですよ。でも最初は原曲のイメージをできるだけ変えない形で作って、いったんOKになったんです。5パターン目ぐらいで、これで行きましょうという話をしていたんですけど、新たに大黒摩季さんがコーラスを歌ったという話が来て。“そのコーラストラックをもらえますか”という話をした時に、“もしよかったらそのコーラストラックを使って、また新たなトラックを作ってくれないか”という提案を寺尾ディレクターに言われたんです。それで作ったのが採用されたバージョン。最初から大黒さんのコーラスが入っていますけれど、あの曲だけ素材をもらって後から僕がコードを付けたんです。だから大黒さんは完成形のオケではなく、その前に作った原曲に近いイメージのオケで歌ったんですよ。リミックスに近いですね。それを聴いてプロデューサーから、これで行ってみたいという話があって。そこから2~3回直して決まりました。

あえて心がけた点というと?

徳永 印象的なところを逆に外してくれという指示があったんです。イントロのメロディの部分、キメの部分はできるだけ使わないでと。要は真逆ですね。原曲のイメージを受け継ぐんじゃない方向、そこが一番苦労したというか。変えていけないコードは変えてませんけれど。一番思ったのは、普通に街を歩いている方がパッと聴いて、“ああ、「負けないで」だ”と思えないと嫌なんです。“誰かがリミックスしているバージョンがあるよね”、みたいにはしたくなくて。“普通に「負けないで」なんだけど、よく聴くとイントロとか違う”みたいなことですね。やり過ぎたくなかったんです。音数を多くしたり、キメを入れすぎたりしたくなくて、このアレンジになりました。

むしろ、風通しが良くなった感じです。

徳永 できるだけ歌が生きるようにしました。

「DAN DAN 心魅かれてく」も、そうですか?

徳永 これも似たような感じでした。ただ、ギタリストがゲストで弾いてくれたので、その色が出ています。それに、この曲はFIELD OF VIEWが歌っていて、坂井さんが歌詞を提供したものなんですね。男の主人公の言葉で出来上がっているので、ZARDの曲の中では特殊な位置づけというか。異性の歌詞を歌っている坂井さんのボーカルを生かさないといけないので、音色選びは気を使いました。例えばガーリーな音だとおかしく聴こえるし、かといってあまり勇ましすぎてヘヴィロックになってもやり過ぎだし、中間的なところを取らないと。そのバランスはむちゃくちゃ考えました。

 

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