山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 47

Column

バンドとソロ / それぞれの自由と宇宙

バンドとソロ / それぞれの自由と宇宙

6月から始まったアコースティック・ソロ・ツアー〈Your Songs 2018〉が終了したばかり。
11月25日には〈HEATWAVE sessionsⅢ〉、12月には〈HEATWAVE TOUR 2018“Heavenly”〉がスタートする山口洋が書き下ろす、バンドとソロ、それぞれの音、そしてそれぞれの自由と宇宙について。


もともと歌いたかったのではない。結成したときからHEATWAVEにはヴォーカリストが居て、僕は曲を書き、ただギターを弾いているだけだった。でも20歳になったある日。ライヴの前日にヴォーカリストが突如脱退。こんな時に限って、チケットは完売。OMG ! 音楽を続けるためには僕が歌うしかなかった。それが理由。

忘れられない記憶。客席から飛んできた「金返せ!」という罵声。たしかに、歌とは言えない類のものだったと思う。そして、返す金も持ちあわせていない。ただ、幸運なことに、当時の福岡には若い音楽家を育てるだけの力が街に備わっていた。それこそが文化だと、今も感謝を込めて思う。

ハコのオーナー(故人)に、その夜こう言われた。オーナーは敬愛するDr.Johnが生ピアノでなければ演奏しないことを知って、ハコの入り口を破壊してまでピアノを搬入するような人だった。

曰く。「おまえの歌はまるで未知数。でも、ギターはいつかワールドクラスになれる。だからぜったいに諦めるな」。言葉は今でも僕を奮い立たせる。歌うことに必死なあまり、その日から僕はギターを弾くことを手放した。そこからギターの評判はうなぎのぼり。わからないものだ。考えていないから作為ではない。それが人のこころを動かすことだけはわかった。でも、どうやって歌ったらいいものか、皆目わからない。とにもかくにも。音楽の大河に流されないように、しがみつく藁だけはオーナーに作ってもらった。

閑話休題。

シンガーには2種類いる。スポットライトを常に浴びていたい人と、まったくそうではない人と。ほとんどが前者で、僕は後者。そんなこと言うなら歌うな、と叱られそうだけれど、今でもスポットは浴びたくない。いつだってバンドの一員で居たい。

そんなタイプだから、ソロで弾き語りをするつもりなんてまるでなかった。でも、デビューして数年経つと、バンドの知名度ではどうしても行くことができない小さな街がたくさんあることを知る。少なからず、そこでファンが待ってくれていることも。

いつかバンドで訪れるために、僕がタネを蒔いてみるか。そんな動機でソロの活動を始めた。1991年ごろの話。

弾き語り。はじめはパンツを穿いてないみたいで、こころがスースーして、立ち位置も、居場所も定まらない。でも、失敗を重ねるうちに、ソロの特権、広大なまでの自由が見えてくる。これは面白いかもしれん、と。

まず。曲順が自由。ライヴの流れはどのようにも臨機応変に。セットリストには「今日の気分な曲」がたくさん書いてあって、ライヴを進行しながら次の曲を決めていく。

キーも、テンポも、コード進行も、アレンジも。何もかもが自由。その日の気分でどうにだってできる。いつの日か「同じ曲」を「違う場所」で演奏したものをまとめて公開しようと企んでいるが、我ながらここまで違うかと驚くくらい、会場のさまざまな事象に引っ張られているのが笑える。

僕にとっては、これがソロのライヴの醍醐味。前もって決めたことをリハーサルを重ねて、完璧にショーとしてやり抜くのもひとつの方法論。でもほころびも含め、その日にしかあり得ないものを創りだすことに、僕はステージに立つ意味を感じる。深く。強く。オーディエンスも「完璧な日々」になんて、誰ひとり生きていないのだから。その穏やかな、ときに穏やかならざる日々の中に奇蹟を生みだすこと。それがたぶん、僕の役目。

バンドとソロのいちばんの違い。それは責任の所在。うまくいったこともそうでもないことも。ソロだと、すべての責任が自分にあることが清々しい。

それがわかってくると、ソロの宇宙感をバンドにフィードできるようになる。一人でリズム、メロディー、言葉、ダイナミクスのコントロールを無意識にやっているわけだから、バンドでそれを生かすと、単なるメンバー間の掛け算の領域を超え、宇宙レベルでやり取りができるようになる。空間にテレパシーが飛び交うように可能性は無限大。もちろん、それに呼応してくれるメンバーとでなければ無理だけれど。

その両方を見事に行き来する先達をふたり。海外ならニール・ヤング。ソロの情感とバンドでの溢れるグルーヴとパッション。日本語を話すアーティストなら圧倒的にCHABOさん。バンドにおけるグルーヴのオリジナルや、情景の原型がソロの演奏の中に確実にある。どっちがいいって話じゃなくて、どちらも素晴らしくて、両者に一本筋が通ってる。ぜひ、その両方を体験されたし。

ソロは自分が内包している宇宙。バンドは外に拡がるほんものの宇宙に仲間と漕ぎ出す感じ、かな? 通底するのは「フリーダム」と云う名のグルーヴ。自分と仲間とオーディエンスをリリースするために。

ソロは表現の本質を見いだしやすい。一切のごまかしと、まやかしが通用しない恐ろしい世界でもあるけれど。演奏や歌のスキルだけでもない。これまでどう生きてきたのか? 何をその目に映してきたのか? 総合的人間力が奏でる音楽だと思う。

それは人を鍛え、目的をはっきりさせる。だから好きなのかな。一人で歌うことが。あ、もちろんバンドも好きですよ。12月にはツアーがあります。是非、来てください。(宣伝!)

感謝を込めて、今を生きる。


仲井戸“CHABO”麗市
『CHABO』

Mastard Records LNCM-1121~2
デビュー45周年、『TIME』以来13年ぶりとなるオリジナル・ソロ・アルバム。様々なアーティストとのコラボレーションや自在なライヴ活動から生まれた作品を網羅し、“CHABO”の集大成ともいえる多彩なナンバーを収録。日常から宇宙へとダイナミックにトリップする歌詞も秀逸。(2015年発表)

ニール・ヤング
『ON THE BEACH / 渚にて』

ワーナーミュージック WPCR-75090(デジタルリマスター)
『AFTER THE GOLD RUSH / アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』(1970)、『HARVEST / ハーヴェスト』(1972)の成功のあとに発表されたスタジオ作品。「風に向かって放尿する」ようにロック・スターとしての地位を拒絶し、陰鬱ささえしのばせた辛辣な歌詞、人間としての深さが溢れる弾き語りは唯一無二。ゲスト・ミュージシャンに、リヴォン・ヘルム&リック・ダンコ(ザ・バンド)、ラスティ・カーショウを迎えた傑作。(1974年発表)

ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース
『ZUMA』

ワーナーミュージック
WPCR-75092
ドラッグで亡くなったダニー・ウィットンに替わり、ギターにフランク・サンペドロを加えたクレイジー・ホース、クロスビー・スティルス&ナッシュと共に創り上げた作品。クレイジー・ホースの重く荒々しいビートに乗って、気持ちよくR&Rしながら、長くダルなギターも聴かせる。“ズマ”は、アステカ最後の皇帝モンテズマのこと。(1975年発表)

著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。1990年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』には阪神・淡路大震災後に作られた「満月の夕」が収録され、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。東日本大震災後は、仲井戸“CHABO”麗市、矢井田瞳らと“MY LIFE IS MY MESSAGE”として、福島県相馬市の人たちと希望のヴァイブレーションを起こすイベントを続けている。2018年4月から池畑潤二(Drums)、細海魚(Keyboard)と新生HEATWAVEの活動を開始、11月25日には今年3回目となる〈HEATWAVE sessions〉を吉祥寺STAR PINE’Sで行う。12月19日からは大阪を皮切りにいよいよツアーがスタート。2017年12月22日渋谷duo MUSIC EXCHANGEのライヴを収録した『OFFICIAL BOOTLEG #005 171222』、17歳から現在に至るまでの激レア&貴重音源満載の『山口洋の頭の中のスープ』好評発売中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

HEATWAVE SESSIONS 2018 III
11月25日(土)吉祥寺STAR PINE’S CAFE
詳細はこちら

HEATWAVE TOUR 2018 “Heavenly”
12月19日(水)大阪 バナナホール
12月20日(木)福岡 Gate’s7
12月22日(土)東京 duo MUSIC EXCHANGE
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