Interview

連続ドラマW「パンドラⅣ AI戦争」の“生みの親” 青木泰憲プロデューサーが制作秘話を明かす

連続ドラマW「パンドラⅣ AI戦争」の“生みの親” 青木泰憲プロデューサーが制作秘話を明かす

WOWOWの「連続ドラマW」の原点として、高い評価を受け続けている「パンドラ」シリーズ。ガンの特効薬、遺伝子組み換え食品、自殺防止治療法、クローン人間と、時代ごとに意欲的なテーマに挑んできた同シリーズが、スタートから10年という節目にスポットを当てる“パンドラの箱”は、「AI=人工知能」。将棋やチェスなど、高度に知性を駆使するゲームでも人間を凌駕するようになったAIを医療に導入した世界で、人間はどのような未来を歩むのかを描いていく。題して「パンドラⅣ AI戦争」。シリーズ生みの親にして、WOWOWドラマの黎明期から制作に携わり、今なお意欲作を世に送り出している青木泰憲プロデューサーに、作品に込めた思いなどを聞いた。

取材・文 / 平田真人 撮影 / エンタメステーション編集部

AIをロボットのように描くのではなく、社会的な側面から考えてみたかった

「連続ドラマW」の記念すべき第1作である「パンドラ」シリーズも、10周年を迎えました。毎回、題材選びが難しいのではと思いますが、今シリーズで「人工知能=AI」を持ってきたのは、どういった意図があったのでしょうか?

これまでのシリーズで取りあげてきた題材は、どれもがまさしく世の中にないモノ──文字通り「パンドラの箱」で、未知のものでした。が、今回のAIはすでに世の中に実在しているので、未知のモノに触れるというよりも、パンドラの箱が開いているというところに、大きな違いがあります。そういった点から、以前よりも監修の方々にしっかりと…医療と法律とAI、3つの部門の専門家に関わっていただき、リアリティーを追求しながら制作しているところに、今作の違いが色濃く表れていると思います。過去のシリーズを振り返ってみて…個人的には最初のシリーズが見やすかったように感じているんですよ。世の中に万能な特効薬はないんですけど、どこか身近に感じられるものがあった。シーズン2で取りあげた食料危機は、世界的に見れば確かに由々しき問題なんですけど、日本の豊かさを考えると、まだそこまで身近なテーマではなかった感もあったんです。シリーズが始まって10年という節目でもありますし、振り返ってみた時に、やはり最初のシリーズは見やすかったなというところで、今回はAIを題材に選んだというわけです。実際、今シリーズの第1話を観た印象は最初のシリーズの1話のそれと近いものがありました。いずれもリアルタイムからちょっとだけ近未来の話であること、医療や命にまつわるテーマはどなたも興味があるという点で、間口が広がったのではないかな、と。

青木泰憲プロデューサー

確かに…近未来の話でありながらも、どことなく現実味を感じます。

たとえば、大きな倉庫の品物を管理する人たちの労働力がロボットによって減る、という話は、もうすでに現実社会で起こっていることなんですよね。でも、もしかしたらこれからは医者や弁護士といった国家資格を有する人たちの仕事もAIに奪われるかもしれません。となると、受け止め方がまったく変わってくる。その資格を取るために必死になって勉強して、死にものぐるいで試験をパスして、ようやくなれる職業でさえ、機械にとって変わられるというのは、極めて大きな事件だと思うんです。そうなった時に社会はどのようになっていくのかということに、みなさん少なからず興味があるのではないでしょうか。

いわゆる“ホワイトカラー”の領域でも、ドラスティックな変化が起こりうると。

我々の仕事にも言えると思います。もしかすると、番組編成などはAIに膨大な過去の視聴傾向データを読み込ませて、「どういうふうに編成すれば、視聴者に届くか」を割り出した方が、ベストな編成を組めるかもしれない。こういうことを話していると社内で嫌われそうなんですけど(笑)。いずれは、脚本もAIが書く時代が来るかもしれないし、プロデュース業だってどうなっていくか、わかったものではないですよね。

WOWOW『連続ドラマW パンドラⅣ AI戦争』より

「パンドラⅣ」では、AIにミカエルという名前がつけられてはいますが、あくまで実務的なものとして描かれていますね。

これまで、AIというと「ロボットが喋る」みたいな描かれ方が多かったんですよね。人間のような容姿の人工知能が言葉を話して、恋もする…といった話もいいんですけど、それはファンタジーなので、「パンドラⅣ」では単純にAIという存在を社会的に見るとどうなるかという描写にしました。どうしても、AIを題材に楽しませよう、驚かせようとすると、人間に近い存在として描かざるを得なくなってしまう。そうではなく、社会的な側面からAIを考えてみる、というサジェスチョンがしたかったんです。

社会派たる「連続ドラマW」の真骨頂といったところでしょうか。ドラマでは、医療における新規参入に対する風当たりの強さ=閉鎖的な面も浮き彫りにされています。

実は紆余曲折ありまして、最初に企画の話をした時点からドラマとして着地したものを比較すると、ほとんど変わっているんです。そもそも、AI医療を描くということからしてサンプルがなかったので、手探りの状態から始めていったというのが、正直なところでして。そうやって暗中模索する中で、描きたいこと、あるいは描けることが少しずつハッキリしてきたという感じだったので、これはこちらがよく知っている出演者をキャスティングしないと、齟齬が生じるかもしれないと同時に思ったんです。井上由美子さんの脚本が素晴らしいので、最終的に面白いドラマになると信頼はしているんですけど、やはりその過程に難しさがある。何より、井上さんご自身がアテ書きをなさるので、信頼してお任せできるキャストでなければ制作を勧められない、という危惧があった。今作では執筆において、かなり悩まれていらっしゃいましたね。

WOWOW『連続ドラマW パンドラⅣ AI戦争』より

しかも、AI医療の話に絡めて新規参入を拒む医療業界の閉鎖的な体質、また政界との癒着であったり、法整備と裁判といった要素も加わってきて、らせんのように絡み合って話が進んでいくので、シナリオづくりでかなり呻吟されたのだろうと想像します。

井上さんからしても、「昼顔」のようなラブストーリーとはまったく違ったアプローチで、綿密に調べた上で取り組まないと書き上げられない題材だったと思うんです。何度も言うように、そこが作っていく上で大変でした。ただ、出来上がったドラマは非常に見やすくなっているところが、“井上×河毛(俊作監督)コンビ”の妙だなと思いました。
特に今回は、美術にものすごく凝っていまして、隠れた主役と言ってもいいくらい力が入っています。前半の導入で世界観がきっちり出来上がっているのは、美術部の素晴らしい仕事によるところでしょうね。

ドラマづくりを学んだとも言える「パンドラ」シリーズは、自分にとっては常に“挑戦”なんです。

青木さん、井上さんをはじめとする制作陣がよく知るキャスト陣は、非常に豪華な顔ぶれですが、配役の妙も光っているように感じます。

「パンドラⅣ」のキャストは、過去に何かしらのカタチで関わっている役者さんばかりですね。それくらい、今回のドラマがお互いの信頼感が大事だと思ったんです。実は当初、渡部篤郎さんを院長にキャスティングしようかと考えていたんですが、途中で医療界に参入してくるIT企業のオーナーの方がいい、というふうに、いろいろと変えていっているので。でも、そこをシフトしたことで、蒲生俊平という野心家を井上さんが渡部さんにピッタリの役柄として書き上げてくださったので、やはり気心知れた俳優さんたちにして奏功したなと感じています。蒲生のセリフの一つ一つが本当に渡部さんらしくて、現場で見ていても渡部篤郎と蒲生俊平の境目はどこだろうと思ったほどでした。

主人公の鈴木哲郎も、向井理さんにピタリとはまった役柄ですよね。

向井さんはご本人も知的な方なので、感情をわかりやすくむき出しにするよりも、鈴木のように淡々としつつ内に秘めているというキャラクターの方が合っていると、僕は思っていたんです。井上さんもキャスト陣すべてにピッタリな役柄をアテ書きしているので、画面を見ていて違和感がないんですよね。そこは自信をもって言えるところです。

WOWOW『連続ドラマW パンドラⅣ AI戦争』より

また、今シリーズでも山本耕史さん演じる「パンドラ」の語り部たる新聞記者・太刀川春夫の存在が際立っています。

「パンドラ」で描く題材というのは、どうしても説明を加えないとわかりづらくなってしまうところがあるんです。でも、それをあからさまに説明ゼリフや描写で聞かされたり見せられると、視聴者も興ざめしてしまう。そこを、太刀川という新聞記者の目線で解説的にしていく手法は絶妙だなと思いますし、山本さんの演技に説得力があるからこそ成立するのだろうな、と思います。

WOWOW『連続ドラマW パンドラⅣ AI戦争』より

監督も第1シリーズから撮っていらっしゃる河毛俊作さんということで、安心してお任せできたのではないでしょうか。

一つの世界観をギュッと映像に落とし込める力をお持ちの監督さんであることを、今回のシリーズであらためて実感しました。先ほどもお話したように、特に今作は美術が非常に重要な役割を担っているので、そのあたりの特色がすごくよく出ていると思います。ただ…ちょっと自分の話になりますが、今回の「パンドラⅣ」のような題材の描き方は、本来あまり得意な方じゃなかったりもするんですよね。あくまで個人的な実感として、「沈まぬ太陽」や「空飛ぶタイヤ」といった社会派の原作を映像化することを得手としている自覚があるので、「パンドラ」の時は常に挑戦する心持ちで作品に臨んでいて。しかも、ゼロからつくるオリジナル作品ですし、題材選びも毎回意欲的なので、井上由美子さんと河毛俊作さんという重鎮たるお二方に学びながら、僕もプロデュースとは何か、その都度見つめ直しているんです。実際、10年前の「パンドラ」(第1シリーズ)で初めて連続ドラマを手がけた際、「オリジナルのドラマをつくるというのは、こういうことなのか」と、お二方から学ぶところが非常に多かったんですよ。その経験があったからこそ、現在まで連続ドラマWの流れがあると思っていますし…そういった意味でも、「パンドラ」という作品は自分にとっても“挑戦”的なシリーズであるんです。

WOWOW『連続ドラマW パンドラⅣ AI戦争』より

10年が経ってもなお、その挑戦は続いているというわけですね。

はい、元々のキャリアが井上さんと河毛さんとは違うわけですから、僕が10年分経験値を身につけても、お2人もまた同じように経験を上積みして、先へ先へと進まれていくという──(笑)。ただ、ドラマのプロデュースを手がけるようになった10年ぐらい前ですと、僕もまだ30代で…当時好きだったものが今も好きかというと、必ずしもそうだというわけでもないんですね。今は視聴者に年齢的にも近いので、自分がパッと「このテーマはいける」と思ったり感じたりしたものは、たいてい数字に結びつくんですよ。あとは、これだけマーケティングがなされていて、資料も豊富であれば、だいたい見通しも立ってくる。でも、10年ぐらい前だと何をすればいいかわからなかったというのが、正直なところありました。どうすれば受け入れてもらえるのだろう、と。
そこで、当時WOWOWでも多くの契約者が視聴されていた海外ドラマを、まず徹底的に研究したんです。なぜストーリーが面白いのか、どういう場面転換をしているのか、メインの登場人物は何人ぐらいがいいのか…といったところを学んだ上で、自分たちの作品に向き合っていったという──。それに当時は、まだ実績のない中でキャスティングは難しいと思ったので、まずは群像劇にしてみようと。もっとも、海外ドラマも群像劇が多いんですけどね(笑)。だいたいメインが8人ぐらいで、そのうちの2人ぐらいが女性で、4ヶ所ぐらいの場面転換がメインの話を…というように、意識的に海外ドラマに寄せたつくりにしていたんです。でも、今ではまったくそういうこともしなくなりました。単純に、海外ドラマよりも我々のつくるドラマの方が数字を取るようになったからで、寄せる必要がなくなったからです。

なるほど。それと、WOWOWの意欲的なドラマづくりが浸透するにつれ、名のある俳優さんたちが出演を希望するようになったというのも、流れとしては大きかったのではないでしょうか?

確かに、地上波では難しい表現もWOWOWでは可能だったりするので、そういったところに魅力を感じて出演してくださる俳優さんが増えたのは確かです。ただ、表現云々で言いますと、配信系の方がもっと踏み込んだことをやっているんですよ。その点、WOWOWは民放連に加入している放送局の一つで、一定の考査基準の元に放送する免許事業を展開しているわけです。ですから、地上波との違いを簡潔に言うと、CMがあるかないかということになってくるんです。
たとえば、河毛俊作さんが作っている地上波のドラマなどはやはりスポンサーへの配慮からいろいろと修正せざるを得なくなるわけで。明確に言えるのはそこなんですけど、バイオレンスの描写がリアルだから俳優さんたちが出てくださるかというと、必ずしもそういうわけでもないですし、僕自身もそういった描写を増やしたいとは思わない。なぜなら、視聴者はそんなどギツい描写を見たくないと思うからです。
そんなことよりも、せっかくスポンサーの制約を受けることがないのだから、それこそ「沈まぬ太陽」や「空飛ぶタイヤ」といった、地上波ではまずつくれない作品をドラマにしようという方に考えが向くんですよね。「下町ロケット」は地上波でドラマ化できるけど、「空飛ぶタイヤ」はおそらくできない。「沈まぬ太陽」も同様に難しい。そういったところを考えると、「沈まぬ~」と「空飛ぶ~」はWOWOWならではの企画であり、脚本もすごくよくできている。そういった意味でも、その2作は特別な位置づけなんです。

そういったところを踏まえて、この先組んでみたい作り手、もしくはキャストの名を挙げていただいてもよろしいでしょうか。

原田眞人監督です。実は、過去に一度単発ドラマの「自由戀愛」でご一緒しているんですけど、強烈な印象が残っていまして。でも、せっかく原田さんと組めるのであれば、どうせならドラマじゃなくて映画を1本、まるまるやってみたいですね(笑)。

『連続ドラマW パンドラⅣ AI戦争』

WOWOWプライムにて放送中
毎週日曜よる10時~(全6話)

脚本:井上由美子(「パンドラ」シリーズ、「白い巨塔」、『昼顔(2017)』)
監督:河毛俊作(「パンドラ」シリーズ)、村上正典(「連続ドラマW 真犯人」)
音楽:佐藤直紀(「パンドラ」シリーズ、『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』)
出演:向井 理 黒木 瞳 美村里江 三浦貴大 山本耕史 原田泰造 渡部篤郎 ほか

特設サイト
http://www.wowow.co.jp/dramaw/pandora4/

青木泰憲(あおき・やすのり)

1969年生まれ、神奈川県出身
制作局ドラマ制作部でプロデュース業務を担当。主な作品は、山崎豊子原作『沈まぬ太陽』、池井戸潤原作『空飛ぶタイヤ』『アキラとあきら』、井上由美子脚本の『パンドラ』シリーズ、髙村薫原作『マークスの山』『レディ・ジョーカー』など。最新作はAIを題材にした『パンドラⅣ~AI戦争』(11月放送)、『孤高のメス』(2019年1月放送)。