LIVE SHUTTLE  vol. 306

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KIRINJIが20周年アニバーサリー・ライブで魅せた“アーリー・キリンジ”からの軌跡

KIRINJIが20周年アニバーサリー・ライブで魅せた“アーリー・キリンジ”からの軌跡

KIRINJI 20th Anniversary Live『19982018』
2018年11月16日 @チームスマイル・豊洲PIT

メジャーデビュー20周年を迎えたキリンジ/ KIRINJIが、20周年を記念したライブイベント「KIRINJI 20th Anniversary Live『19982018』」を3夜限定で開催した。KIRINJI、堀込泰行(元キリンジ)のライブに加え、5年ぶりとなる“アーリーキリンジ”によるパフォーマンスもあるとアナウンスされていただけあって、11月9日の大阪・Zepp Osaka Bayside、11月15日/16日の東京・チームスマイル・豊洲PITはソールドアウト! 20年来のファンにとっては、2013年4月12日の「キリンジTOUR2013 」のNHKホール最終日以来となる堀込高樹・泰行兄弟の二人が揃って同じステージに立つことは嬉しいサプライズだったには違いない。ここでは11月16日の豊洲PIT最終日の模様をお届けする。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 立脇 卓

ACT1. KIRINJIメンバーを迎え、堀込泰行からスタートした20周年ライブ

椅子席が用意された会場の豊洲PITは、後ろの立ち見席までぎっしり満員。20周年スペシャルがどのような形式で行われるのか、ファンの間でも注目集めていたが、先ずステージに登場したのは堀込泰行。2014年以降はソロ・アーティストとして活動をスタートした彼だが、キリンジ時代にソロ・プロジェクト“馬の骨”名義で2009年に発表した『River』収録の「To Be Continued」をSEにオン・ステージ。バックを務めるのは、松江潤(G)、伊藤隆博(Key)、真城めぐみ(Cho)という最近の泰行バンドのメンバーと、KIRINJIから千ヶ崎学(B)と楠均(Dr)という布陣。キリンジ時代から何度も共にプレイしていた間柄ゆえのダブル起用ということだろう。

満を持して発表された1stソロ・アルバム『One』(2016年)からの洒脱なナンバー「New Day」を歌い、「今日はたっぷり曲を用意していますので、ゆっくりと楽しんでいってください」と挨拶。ブルーのカーディガン姿の彼に特に緊張の色はなく、得意とする王道感のあるポップチューン「さよならテディベア」、コラボレーションEP『GOOD VIBRATIONS』ではシャムキャッツと共演したR&Rナンバー「Beautiful Dreamer」を軽やかに歌う。レゲエ・ベースの「Chewing Gum On The Street」、ミステリアスな展開の「クモと蝶」、「エイリアンズ」を彷彿とさせるメロウな名曲「燃え殻」と、意外にも“馬の骨”時代のナンバーが続いたが、堀込泰行ソロの原点でもあり、彼特有の少し斜に構えたロマンチシズムがたっぷり詰め込まれた“馬の骨”をあらためて見直した次第。蔦谷好位置をプロデュースに迎え、コンテンポラリーなシティ・ポップに進化した最新アルバムのリード曲「WHAT A BEAUTIFUL NIGHT」でACT1は終了した。

ACT2.堀込高樹が「進水式」を高らかに歌い上げたKIRINJI Part1

ACT2のKIRINJIは「心晴れ晴れ」でステージに登場。5人のメンバーに伊藤隆博(Key)と矢野博康(Perc)を加えた7人体制で「進水式」を演奏。2013年夏にバンド編成による新生KIRINJI が発表され、その年の12月に東京・Bunkamuraオーチャードホールで初めて聴いた「進水式」は忘れられない。自らの新しい門出をおおらかに歌う堀込高樹の姿に新生KIRINJIの志を確認した記憶が鮮明に蘇る。

と、ここで、高樹のMCが入り「今日は泰行バンドやって、KIRINJIやって、アーリー・キリンジやって、またKIRINJIやります」。長丁場になりそうな予感はしていたものの、この貴重な20周年ライブを固唾を飲んで(?)見守っていた観客もひと心地。泰行の“馬の骨”に刺激されたのか、堀込高樹も2005年のソロアルバム『Home Ground』から「冬来たりなば」を披露。しっとりとした大人のナンバーを弓木英梨乃(G, Vo)とのデュエットで、聴かせてくれた。キリンジからKIRINJIになり、新しいポップの冒険に挑んだ「雲呑ガール」では席を立つ観客も少なからず。キリンジ後期にも「都市鉱山」などで斬新なサウンドに意欲的に取り組んでいた高樹だったが、それがKIRINJIでいよいよ拍車がかかると思わせた曲だ。弓木英梨乃の切れ味抜群のギター・ソロも今や彼らのライブには欠かせない熱い場面になっていた。

ACT3. 5年ぶりに堀込高樹、泰行兄弟がステージ立った“アーリー・キリンジ”

15分の転換の時間にはスクリーンにデビューから現在に至るキリンジ〜KIRINJIの映像が映し出された。堀込高樹と堀込泰行の兄弟2人により結成され、1998年にメジャーデビューを果たし、抜群のメロディーと都市生活者の揺らぎを歌詞にしたため、独自のポップ・ミュージックをつくりあげてきた彼ら。スクリーンには20周年ロゴと“アーリー・キリンジ”というタイトル。ご丁寧にもデビュー時から99年頃までCDや宣材などに使用されていたロゴがあしらわれ、ファン心理を巧みに突いてくる。現KIRINJIのメンバーに真城めぐみ、伊藤隆博、矢野博康、さらにキリンジのプロデュースを手がけてきた冨田恵一が参加! 後に数多くのプロデュースや「冨田ラボ」としても活躍する彼の名が注目を集めたのは、間違いなくインディーズ時代からの付き合いであるキリンジである。この豪華バンドを従え、アコースティックギターを抱えた堀込兄弟が並ぶと歓声が沸き上がる。

1曲目は冨田プロデュースの1stアルバム『ペイパードライヴァーズミュージック』から「ニュータウン」。デビュー当時からその洗練されたサウンドが取り沙汰されたキリンジだが、その立役者が自らキーボードに加わるという贅沢さ! 「昔は一緒にツアーも周りましたね」と思い出話を少しして、「スペシャルゲスト、堀込泰行さん」と高樹が紹介。「KIRINJI、メジャーデビュー20周年おめでとうございます」と、人ごとのように受けて答える泰行が面白かった。1stからは「雨を見くびるな」も披露され、美しい旋律にも関わらず、〈カエルの面にシャンパン〉という言葉を並べる堀込高樹の異才を思い知る。対する堀込泰行のナンバーは、〈永遠と刹那のカフェ・オ・レ〉が突き刺さる「アルカディア」。後半の激しく狂おしい泰行のギター・ソロもぐっときた。そして、今なおCMやTVで流れ名曲「エイリアンズ」へ。〈公団〉があり、〈バイパス〉が通る日本のどこにでもある郊外の町を舞台に、こんな胸を締めつけられるようなラブソングを生んでしまう。その鮮烈な叙情性がキリンジの新しさでもあった。高樹作の「Drifter」もそうだ。憂鬱のタネが転がる日常の中で、何とか正気を保ち、夜中に冷蔵庫を開けて水を飲む男。そんな情景と心模様を描き、音を紡いできた彼ら。最後はメジャーデビューシングル「双子座グラフィティ」で締めくくり、総勢10人による演奏で、あらためて“アーリー・キリンジ”の唯一無二の魅力を堪能した。

ACT4. “上質なポップ”をポップ/ダンスに更新したKIRINJI Part2

“アーリー・キリンジ”の余韻に浸る間もなく、「ペーパープレーン」をSEに再びKIRINJIが登場。Part1はコトリンゴ在籍時のナンバーを中心にしていたが、ここからは黒いシャツに着替えた男性メンバー+矢野をサポートに迎えた現在の体制でPart2がスタート。ワンピース姿の弓木英梨がボーカルの「Mr. BOOGIEMAN」で華やかに、楽しく盛り上げてゆく。ハンドマイクでステージを歩き回りながら歌う彼女のキュートな存在感は、紅一点となった今、ますます重要不可欠になってきている。ステージ中央の高樹の前にはキーボードも置かれ、「非ゼロ和ゲーム」ではギターを置いてキーボードに専念。前作『ネオ』からコンテンポラリーなポップ/ダンスに接近、最新作『愛をあるだけ、すべて』ではそれをさらに進化させ、いわゆる“上質なポップ”のイメージを更新。ライブではバンド一丸となってグルーヴ感たっぷりに聴かせるところも今のKIRINJIの真骨頂と言える。

アンビエントな音像と後半の弓木嬢の達者なジャズ・ギターが光る「新緑の巨人」から、キリンジ2008年のアルバム『7-seven-』収録の「タンデム・ラナウェイ- tandem runaways」へ繋げるワザありの選曲も唸らせる。メランコリックな男の歌を今、作者の高樹自身が歌う味わい深さも格別だ。KIRINJIとして5年が経過し、高樹のボーカルも脂が乗ってきたと感じた「明日こそは/It’s not over yet」では田村玄一(Pedal Steel, Steel Pan, Vo)がスティールパンを鳴らし、バンドのダイナミズムを体現。2003年当時はアレンジが大胆に思えた「嫉妬」(『For Beautiful Human Life』収録)も、今なら難なくフィットしてしまうのだ。

RHYMESTERとのコラボが話題を呼んだ「The Great Journey」では、今宵はメンバー最年長の田村玄一がラッパーになりきり、「Jump! Jump!」と煽る。

「Aiの逃避行」では弓木嬢がギターを刻みながら、Charisma.comのラップ・パートを担当と、どんな変化球でも打ち返すKIRINJIのメンバーの対応力、恐るべし! 観客もほとんどが席を立ち、体を揺らす。こんな光景は20年前には想像できなかった! ペダルスチールを配しながらモダンなポップに仕立てた「時間がない」、弓木嬢を当て書きした(?)ような「After the Party」へと続き、『愛をあるだけ、すべて』のラストナンバーでもある「silver girl」へ。オートチューンのかかった高樹の歌とスティールパンの音色でチルアウト……という締めくくり方も2018年のKIRINJIらしかった。

3時間を超える20周年アニバーサリーライブの最後は、出演者全員が再びステージに登場し、とびきり笑顔で観客に感謝に意を伝えた。堀込泰行、“アーリー・キリンジ”、KIRINJIで魅せた20年目の瑞々しい軌跡に、惜しみない拍手を贈りたい。

KIRINJI 20th Anniversary Live『19982018』
2018年11月16日 @チームスマイル・豊洲PIT
SET LIST

ACT1. 堀込泰行
SE. To Be Continued
M01. New Day
M02. さよならテディベア
M03. Beautiful Dreamer
M04. Chewing Gum On The Street
M05. クモと蝶
M06. 燃え殻
M07. WHAT A BEAUTIFUL NIGHT

ACR2. KIRINJI Part1
SE. 心晴れ晴れ
N01. 進水式
M02. 冬来たりなば
M03. 雲呑ガール

ACT3. アーリー・キリンジ
SE. P.D.M.
M01. ニュータウン
M02. 雨を見くびるな
M03. アルカディア
M04. エイリアンズ
M05. Drifter
M06. 双子座グラフィティ

ACT4. KIRINJI Part2
SE. ペーパープレーン
M01. Mr. BOOGIEMAN
M02. 非ゼロ和ゲーム
M03. 新緑の巨人
M04. タンデム・ラナウェイ
M05. 明日こそは/It’s not over yet
M06. 嫉妬
M07. The Great Journey
M08. Aiの逃避行
M09. 時間がない
M10. After the Party
M11. silver girl

KIRINJI

1996年10月、実兄弟である堀込高樹、堀込泰行の二人でキリンジを結成。97年にCDデビュー。98年にメジャーデビュー。オリジナル・アルバム10枚を発表後、2013年に堀込泰行が脱退。以後、堀込高樹がバンド名義を継承し、同年夏、バンド編成のKIRINJIとして再始動。2014年に新体制初のアルバム『11』をリリース。2015年には『11』を再構築したスペシャル・アルバム『EXTRA 11』、2016年には初の試みとなる外部アーティストとのコラボレーション・ナンバー『The Great Journey feat. RHYMESTER』を含む『ネオ』を発表。2017年12月「KIRINJI LIVE 2017」をもってキーボードのコトリンゴが脱退。バンドとして新たな一歩を踏み出し、今年6月には『愛をあるだけ、すべて』をリリース。堀込泰行は、2014年以降はソロアーティストとして活動を開始。2016年に1stソロアルバム『One』、2017年には初のコラボレーションEP『GOOD VIBRATIONS』、今年10月には最新作『What A Wonderful World』をリリース。

オフィシャルサイト
https://natural-llc.com/kirinji/
https://natural-llc.com/yasuyuki_horigome/

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