『機動戦士ガンダムNT』公開記念特集  vol. 4

Interview

『機動戦士ガンダムNT』が示す“ニュータイプ神話の行き着く先”とは何か? ガンダム制作の継承者たちが語った苦悩と希望

『機動戦士ガンダムNT』が示す“ニュータイプ神話の行き着く先”とは何か? ガンダム制作の継承者たちが語った苦悩と希望

『機動戦士ガンダム』の宇宙世紀シリーズ最新作にして、『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』の1年後を描く映画『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』。2018年11月30日、ついに全国ロードショーを迎える本作について、今回はサンライズ第1スタジオにて佳境を迎えていた制作現場を徹底取材。「ガンダム」シリーズのプロデュースを手がけるサンライズ・小形尚弘、そして『機動戦士ガンダムNT』でアニメ初監督をつとめる吉沢俊一監督という2名のキーパーソンへのインタビューをお送りする。さらに記事の最後では、サンライズ第1スタジオにおける貴重な現場取材の内容についてフォトレポートという形でもお届けしたい。

取材・文 / 山下達也(ジアスワークス) 撮影・構成 / 柳 雄大

『機動戦士ガンダムNT』は『機動戦士ガンダムUC2』ではない

吉沢俊一監督(左)、小形尚弘プロデューサー(右)

まずは『機動戦士ガンダムNT』の企画が立ち上がった経緯についてお話しください。

小形プロデューサー 2014年に『機動戦士ガンダムUC』を完結させ、その後、テレビシリーズとして再編集した『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』を放送(2016年)、去年はお台場に実物大のユニコーンガンダム立像が建つことになりました。そうした展開がひと段落した後、これほどまでに支持された『機動戦士ガンダムUC』という作品を、今後どうしていくかという話になり、その前後の宇宙世紀のエピソードをやるべきじゃないかということで今企画が立ち上がりました。もちろん、正統な続編についても考えてはいるのですが、それにはもう少し時間がかかるので、まずは『機動戦士ガンダムUC』の1年後の話をやってみようと。それが、本作がスタートした直接のきっかけですね。

ということは、『機動戦士ガンダムNT』は『機動戦士ガンダムUC』の続きという理解で正しいですか?

小形 確かに、モチーフとなっているのは脚本担当の福井晴敏さんが書かれた『機動戦士ガンダムUC』の外伝小説『不死鳥狩り』(小説11巻に収録)なんですが、それを基盤にもう一度再構成して、新しいガンダム、新しい主人公で物語を作ろうということになったのが本作です。時系列としては『機動戦士ガンダムUC』の1年後ですが、僕らとしては、これは全く新しいガンダムだと考えています。ですから、タイトルも『UC2』とか、『UC1.5』ではなく、『機動戦士ガンダムNT』と別のものにしているのです。

そうした多様な物語を束ねていくことが、先日発表された「UC NexT 0100(ユーシー ネクスト ワンハンドレッド)」プロジェクト(今年4月に発表された『機動戦士ガンダムUC』後の新たな100年をアニメやゲーム、コミック、小説などで描いていく次世代プロジェクトのこと)なのですね。

小形 実は、時系列的には『機動戦士ガンダムNT』の企画の方が、「UC NexT 0100」の成立よりも先でした。ですので、結果的には“たまたま”な面もあるのですが、『機動戦士ガンダムNT』は、『機動戦士ガンダムUC』以降の宇宙世紀の起点となる作品で、それまでの宇宙世紀のことを、福井さん的に解釈し、句読点を打った作品になっていると思います。

『機動戦士ガンダムNT』が劇場映画という形になった理由を教えてください。

小形 『機動戦士ガンダムUC』でイベント上映という形を取ったのは、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(1989年~)以降、連綿と続けてきたOVAという文化、ビジネススキームが崩れつつあったからでした。少しでも作品の注目度を高めるために、劇場で観てもらって、気に入ったらその場で買っていただこうと考えたわけです。幸い、そのやり方がご好評をいただいたので、『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』(2016年)や、それ以外の作品でイベント上映というやり方が定着していったのですが、さすがにそろそろやり尽くした感があります。

また今回、宇宙世紀に句読点を打ってリスタートをかけるという意味でも、もう一度、お客さまに『機動戦士ガンダムNT』を起点にして、ここからの物語を見ていただくためにも、日本全国47都道府県の劇場で、「映画」というフォーマットで新しいガンダムを楽しんでいただきたいと考えました。もちろん、将来的には海外の劇場でも上映していきたいと考えています。

吉沢監督の初期絵コンテを見て富野由悠季監督が大激怒!?

本作で吉沢俊一さんを監督に起用された理由を教えてください。

小形 吉沢さんにはこれまでにも『ガンダム Gのレコンギスタ』や『機動戦士ガンダム サンダーボルト』の演出をやっていただいていました。今回、『機動戦士ガンダムNT』で監督をしていただけるよう依頼をしたのは『機動戦士ガンダム サンダーボルト』をやられている最中でしたよね?

吉沢監督 そうですね。その辺りだったと思います。

小形 まず、大前提として、今回は、世代的になるべく若い世代、できれば30代の人に新しい宇宙世紀ガンダムの監督をやっていただきたいなと考えていました。

吉沢 私は今、39歳なのでギリギリですね(笑)。

小形 その上で、吉沢さんは、『ガンダム Gのレコンギスタ』テレビシリーズや、現在制作中の劇場版で、ずっと富野由悠季監督と作業をしていたこと、結果的に“富野光線”をいっぱい浴びている(笑)ことが、今回、本作の監督をお願いした理由です。私はプロデューサーなので、細かい技術的なところは語れないのですが、リズム感、テンポ感に富野さんを意識されているであろう部分があって、それが「ガンダム」に合うのではないかと感じていました。

吉沢 でも、最初にそのお話をいただいた時は頭が真っ白になりました。そもそも監督をやるのが初めてなのに、いきなり劇場映画ですから。ただ、ここで断る理由はありませんよね。富野さんと今後の仕事の話をしていて「仕事を選べるような立場か、お前は」と言われていたこともあり、「来たからにはやってやる!」という気持ちでお引き受けさせていただきました。

監督を引き受けたことについて、富野さんはどのようにおっしゃっていましたか?

吉沢 やっぱり当初は「大丈夫かよ?」って言われてしまいましたね。ただ、何だかんだでアドバイスはしてくれて、背中を押してくれたような気がしています。

小形 その後、富野さんに絵コンテを見せたんですよね?

吉沢 実は僕、他社さんのお仕事でも絵コンテを描いたら、富野さんに見ていただくことがあるのですが、そういう時は、作品の内容には踏み込まず、技術的なアドバイスだけをしてくださいます。「もうちょっとカメラをこうすると(映像が)派手になるぞ」とか、「キャラクターの上下(かみしも)の位置関係と動きをもっと意識しろ」だとか……。それで今回、『機動戦士ガンダムNT』序盤の絵コンテを見せたらどう言ってくださるかなって、意を決して見ていただくことにしました。

……どうなりましたか?

吉沢 絵コンテをお渡ししたら、「うん、わかった」ってカバンの中にしまってお帰りになって、そして次の日スタジオに来ませんでした。そして次の日も来ない。これはもう、絶対にキレてるなって(笑)。後日、お話をお伺いしたら、案の定、最初の数ページを読んだところで頭に来てしまって、全く内容が入ってこなかったそうなんです。なぜかと言うと、『機動戦士ガンダムNT』はコロニー落としのシーンから始まるんですが、それはつまり「僕がやったコロニー落としから、お前ら若者は何も新しいことをやっていない!」ということなんですね。

これを言うと、この企画自体を否定することにもなっちゃうんですが、富野さんがやってきた宇宙世紀から何も次の一歩を感じられないと。「なんで違うことをやっていかないんだ、お前らは!」って怒られました。そして、そこから脚本とその企画を通した人間に対する罵詈雑言が始まって、僕はどんな顔をすればいいんだろうって(笑)。でも、おっしゃることはその通りなんですよね……。

『機動戦士ガンダムNT』絵コンテ

新しいアイデア、新しい才能を入れていかないと「ガンダム」はダメになる?

富野監督から絵コンテにダメ出しされ、その後、どうされたんですか? さすがに見せてしまった以上、そのままというわけにはいきませんよね?

吉沢 話はちょっと脱線するのですが、富野さんって、いつも『機動武闘伝Gガンダム』を監督された今川泰宏さんのことをほめているんです。全然、違う「ガンダム」を作っているじゃないですか? あと、この間、NHKでやった「全ガンダム大投票」がきっかけで『新機動戦記ガンダムW』の第1話を見たそうなんですが、それもすごくほめていました。「お前を殺す」(ジャジャーン!)っていうラストシーンを見て、「あれは新しいセックスの表現だ」って(笑)。富野監督としては、ガンダムという作品で、これまでと全然違うことをやってくれることがすごくうれしいんでしょうね。

「うれしい」んですか?

吉沢 厳しいイメージを持たれてしまいがちな人ですが、実は、けっこういろいろな(他の監督が担当された)ガンダムをほめているんです。「これは新しい」とか「全然違うことをやっている」とか。僕なんかは、何でみんなにそれを言ってあげないのかなって思っちゃうんですけど。

小形 「聞かれないから」って言いますよね。

吉沢 でも、そんな中、自分は「なんで違うことをやっていかないのか」と言われてしまったわけです。それで、だったら、制約はあるにしても何か新しいことをやるべきなんじゃないかって気持ちが湧いてきたんですね。

小形 制約をかけてしまって申し訳ないのですが、具体的にはどういったことをやったのかをお話ししていただけますか?

吉沢 たとえばコロニー落としってあるじゃないですか。いつもだと「コロニーが落ちて、画面が真っ白になって終わり」なんですが。今回は「落ちてどうなったのか」とか、「大地がえぐられて、たくさんの人が死んじゃって」みたいなところを、僕の解釈ではあるのですが、しっかり描くようにしています。本作は大人の都合とか戦争の犠牲になった人たちが主役なので、ムサイがいて、ザクがいて、コロニーが落ちてきて……って描写を一切やらずに、やられた側にしかカメラを置いていないんですよ。

あとはガンダムの表現を少し変えています。ガンダムって『機動戦士Zガンダム』だと、ガンダムMk-IIからZガンダムに、『機動戦士Vガンダム』だと終盤にV2アサルトバスターガンダムが出てきたりと、どんどんパワーアップしていくじゃないですか? でも『機動戦士ガンダムNT』の主役機ナラティブガンダムは、最初に出てくるときが一番派手で、だんだん地味になっていくんです(笑)。普通は逆ですよね? そういうふうに、同じ事をやるにしても、表現の方法をちょっと変えてみるとか、そういうやり方で新しい表現を探っていこうということは意識しました。それを見る側にも意識していただけると、ほんの些細なことかもしれませんが、“何か”を感じてもらえるのかなと思っています。

『機動戦士ガンダムNT』絵コンテ

小形 ちなみに本作では、吉沢監督に限らず、多くの若いクリエイターを起用しています。富野さんも意図的に、タッグを組むクリエイターを若返らせ、自身の作家生命をもたせようとしていた時期があったと思うのですが、「ガンダム」でも同様に、どんどん若いクリエイターに入ってもらって、次の世代に観てもらえる「ガンダム」を作っていける状況を作って行くべきだと考えています。

富野さんもおっしゃっていますが、若いクリエイターには「ガンダム」を利用してどんどん有名になってもらい、それで自分の作りたいものを作っていってほしいです。それを支えられるだけの器を持った作品だと思いますし、いろいろなことに挑戦していかなければならないのが、これからの「ガンダム」なのかなという意識があります。

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