LIVE SHUTTLE  vol. 308

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椎名林檎の20年間の多彩さを凝縮した一夜。宮本浩次ほかゲストが多数登場した、豪華なステージを振り返る。

椎名林檎の20年間の多彩さを凝縮した一夜。宮本浩次ほかゲストが多数登場した、豪華なステージを振り返る。

デビュー20周年記念アリーナツアー
「椎名林檎 (生)林檎博’18 -不惑の余裕-」
2018年11月24日 さいたまスーパーアリーナ

20周年を迎えた椎名林檎が、全国4ヶ所8公演のアリーナ・ツアーを敢行。その6本目にあたる、さいたまスーパーアリーナでのライブを観た。

駅から会場に歩いていく途中、10年前に観た10周年記念ライブがフラッシュ・バックする。あの時も、さいたまスーパーアリーナ3Daysだった。真っ白なステージ、オーケストラピットを埋める壮大なストリングスとブラスの群、スクリーンに映し出される莫大な情報を含む映像、洗練されたライティング、圧倒的な椎名のボーカル、エッジーな楽曲などの記憶が鮮烈に蘇る。あれから10年が経った。さて、今回はどんなライブになるのだろう。

まずオーケストラピットを埋めた管と弦のチューニングの音からスタート。The Mighty Galactic Empire(銀河帝国軍楽団)の指揮を取るのは、10年前と同じ、斎藤ネコだ。そのまま1曲目「sound & vivision」に突入する。ステージ背後にセットされた6面の巨大なスクリーンには宇宙船をイメージさせる映像が映し出され、レーザーと相まって会場を異空間に変える。スクリーンの端には「SAX」や「VIOLA」など、今、演奏している楽器の名前が映し出される。これから演奏するメンバーの紹介を、“音色”によって表示するという粋な演出で、まるでプロコフィエフの「ピーターと狼」の序章のようだ。

みどりん(dr)、鳥越啓介(b)、ヒイズミマサユ機(key)、名越由貴夫(g)、ダンサーのBANBIとAIが強烈な明かりに照らし出される。今回も音楽と並行して映像や文字などの視覚情報が飛び交う、刺激に満ちたライブになるのだろう・・・と身構えていたら、いきなりMummy-Dが登場。モノクロでスクリーンに映し出され、クールなラップが聴こえてきた。

今年5月にリリースされた『アダムとイヴの林檎』収録のRHYMESTERがカバーしたバージョンの「本能」だ。サンプリングされたリフを歌う椎名の声が聴こえてくる。だが、姿は見えない。彼女を探していたら、いつの間にかステージ後方にあったガラスケースの中から突然、本人がイリュージョンのように現われ手でガラスを叩き割ってステージに登場したのだ(!)続く「流行」ですかさずMummy-Dが「さいたま~、始まっちゃったぜ! Let’s go!!」と煽ると、大歓声が上がる。アグレッシヴなギター・ソロを称えてMummy-Dが「なごしゆきお~」と声を上げ、会場はますますヒートアップする。

「雨傘」では路面を打つ雨粒がスクリーンに躍動し、「日和姫」では弦楽がダイナミックにうねる。6曲目「APPLE」でようやくこのライブのタイトルが映し出され、続いてミュージシャン、ダンサーのクレジットが怒濤のようにテキストで紹介される。トロンボーンの村田陽一など、10年前にも参加したメンバーも多い。それは、切磋琢磨しながらトップ・ミュージシャンであり続けた証であり、椎名のミュージシャン選択眼の確かさでもあった。終わると、椎名は「いらっしゃいませ、ようこそ不惑の余裕へ」と、ひと言だけ、しかし心を込めて挨拶したのだった。

五感のすべてを休みなく楽しませるパフォーマンスが次々に繰り出される。フレンチポップス風の「マ・シェリ」では、椎名の優雅な歌声に、鳥越がワイルドな音色のベースで応じる。ハードなブギーにアレンジされたフィンガー5のカバー「個人授業」で、名越が火の出るようなギター・ソロを弾くと、スクリーンにはおびただしい数の「754」(なごし)という数字が流れる。あっという間に11曲が過ぎて、椎名は“化粧直し”にステージを去った。

その間、5才になる椎名の娘さん=“黒猫屋の若女将”のナレーションが流れる。10年前は“黒猫屋の若旦那”を名乗る息子さんがナレーションをしていた。「これからもよろしくお願い申し上げます」という舌足らずながら丁寧な言葉遣いに、会場はおおいに和む。

大きく開いた胸元のラインが美しいピンクのロングドレスをまとった椎名が、再びステージに現われ、朝川朋之の弾くハープのみをバックに、名曲「カーネーション」を歌い出す。今年、この朝ドラが再放送された際も、オープニングに流れるこの歌の美しさが際立っていた。アールヌーヴォーの世界から抜け出してきたような椎名の姿と、ハープの音色、とある惑星の地表面の映像、そこに重なる斎藤ネコの指揮する様子は、この日、最も美しいシーンのひとつだった。

ライブは佳境に入っていく。お祭り騒ぎのように盛り上がったのはセカンド・シングル「歌舞伎町の女王」だった。実際にある歌舞伎町一番街のアーチをモチーフにした映像が楽しい。「不惑・余裕」の文字が描かれたアーチの奥にひしめく店の看板をよく見ると、椎名がこれまで発表してきた作品の数々のタイトルがはめ込まれている。シングル曲「至上の人生」、ミュージック・クリップ集「性的ヒーリング」などに混じって、「カリソメ寿司」の看板を見つけて、思わず笑ってしまった。オーディエンスもツアー・グッズの手旗を振って大喜びだ。

20年を振り返る部分と、メッセージと、エンターテイメント性のバランスが非常に優れている。最もそれを感じたのは、ピチカート・ファイヴのカバー「東京は夜の七時」だった。リオ・パラリンピックの閉会式でこの曲を、椎名はかなりの覚悟を持って演出したはずだ。歌詞も椎名が新たに書き下ろした。地球の裏側に向かって東京の存在をアピールする楽曲は、バブルの名残りの時代に作られ、東京の持つ豊かさと貧しさの両方を含んでいる。その時と同じ東京事変の浮雲が歌唱を担当して、ゴージャスなシーンを演出する。ゴージャスだからこそ危険な香りがするというパラドックスが、林檎の掌の上で見事に提示される。20周年という場のセットリストにこの曲を選んだ椎名の、アーティストとしての意志がひしひしと伝わってきたのだった。

浮雲は、次の「長く短い祭」でも椎名とデュエットする。ヘッドセットのマイクで歌う椎名は、ワンショルダーのセクシーなマイクロミニドレスをまとって、ダンサーとしても大活躍。かと思えば、「恋の呪文はスキトキメキトキス」では、肩や袖にフリルがあしらわれたアップルグリーンのコートで、往年のアイドルのように振る舞う。変幻自在とは、このことだろう。

最終盤の「目抜き通り」では、コラボ相手のトータス松本が映し出されたビジョンがステージに現れ、煌びやかな銀座のイルミネーションをバックに“デュエット”し、会場を沸かせる。

続く「獣ゆく細道」のイントロで妖しい人影が動くと、アリーナは騒然となる。宮本浩次の登場だ。ガチンコのデュエットに、オーディエンスは大騒ぎ。さらには宮本が4人のダンサーに、激しいボディアクションで応じると、大歓声が上がる。曲の終わりで椎名と宮本は、背中合わせにポーズを取る。宮本はピースサイン、椎名はニッコリ。リスペクトするアーティストとコラボする椎名は本当に楽しそうで、10年前にはなかった笑顔が見えたような気がした。僕の後ろのオーディエンスが「めっちゃ、よかった!」と叫ぶ。本編は「ジユーダム」で幕を閉じた。

アンコールではバンド・メンバーに続いて、椎名が鮮烈な赤の色無地着物にペイズリーの柄の織り出された黒羽織で登場。

「20年経ったということで、その間、お客さまを選ばせていただいたつもりです。ここにいらっしゃるのは、私の選んだ皆さんなんだろうなと思うと、感極まっております」。大きな拍手が巻き起こる。「今日は特別に尊敬する先輩を、いま一度お呼びしたいと思います」と、宮本を再びステージに招く。

「シブい曲を選びましたね。斎藤ネコさんにアレンジして頂いた曲です」と宮本が言って始まったのは、エレファントカシマシの9枚目のアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』収録の「昔の侍」だった。文語的なアプローチの歌詞といい、潔さを大切にするメッセージといい、椎名がこの曲を選んだ意図を宮本はよく理解して嬉しそうだ。さらには大先輩の斎藤ネコとの繋がりに対する、椎名の配慮がいい。椎名は宮本の歌に見事なハーモニーを付け、終わると宮本は「20周年、おめでとう!」と言って去っていった。

「一緒に楽しんでいただいて、ありがとうございます。今日はもう一丁、行ってみようかな」と椎名が言うと、スクリーンにはゲームのボーナスステージの映像が現れる。するとポップアップでステージ中央に、レキシがいきなり現われたから会場が狂喜する。レキシが「さいたま~!」と叫んで、「きらきら武士」に突入。オーディエンスは手旗を振り回し、レキシはステージを縦横無尽に暴れ回る。ランウエイのセンターで椎名とすれ違うとき、レキシが「またお会いしましたね」と声掛けしたのも愉快だった。ラストは2人のハモで締めた。

「20年、やってると、ホントにいいことあるもんですね」と椎名。

「宮本さんの後は、荷が重すぎましたよ(苦笑)。ありがた迷惑です!」とレキシ。

最後は東京事変のバラード「夢のあと」をじっくりと歌い込み、椎名林檎の20年間の多彩さを、おおいに感じさせるエンディングとなった。

文 / 平山雄一 撮影 / 太田好治

デビュー20周年記念アリーナツアー
「椎名林檎 (生)林檎博’18 -不惑の余裕-」
2018年11月24日 さいたまスーパーアリーナ

セットリスト
1. sound&vivision
2. 本能(★Mummy-D)
3. 流行 (★Mummy-D)
4. 雨傘
5. 日和姫
6. APPLE
7. マ・シェリ
8. 積木遊び
9. 個人授業
10. どん底まで
11. 神様、仏様
12. 化粧直し
13. カーネーション
14. ありきたりな女
15. いろはにほへと
16. 歌舞伎町の女王
17. 人生は夢だらけ
18. 東京は夜の七時(★浮雲)
19. 長く短い祭(★浮雲)
20. 旬
21. 恋の呪文はスキトキメキトキス
22. ちちんぷいぷい
23. 目抜き通り
24. 獣ゆく細道(★宮本浩次)
25. ジユーダム
アンコール
E1. 昔の侍(★宮本浩次)
E2. 五右衛門
E3. きらきら武士(★レキシ)
E4. 夢のあと
★=客演

椎名林檎

演出/音楽家。
1998年デビュー 1stアルバム『無罪モラトリアム』、2ndアルバム『勝訴ストリップ』が共にミリオンセラーを記録。2004年~東京事変の活動を開始、2012年に惜しまれつつ解散。
自作自演と並行して他の歌い手や、映画・舞台・TV・CMなどへの楽曲提供も精力的に行う。NHKサッカーテーマソング「NIPPON」、GINZA SIXオープニングテーマソング「目抜き通り」、ドラマ『カルテット』主題歌「おとなの掟」などが記憶に新しい。今年は日本テレビ系『news zero』テーマ曲「獣ゆく細道」を手がけ宮本浩次との共演が話題となった。
第31回 日本アカデミー賞 優秀音楽賞、 平成二十年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
2016年にはリオオリンピック・パラリンピック閉会式のフラッグ・ハンド・オーバーセレモニーに於いて演出/音楽監督を務め、国内外から高い評価を得た。
TOKYO2020オリンピック・パラリンピック会閉会式に於ける東京2020総合チームのクリエイティブ・ディレクターに就任。

オフィシャルサイト
https://www.kronekodow.com
https://www.universal-music.co.jp/sheena-ringo/

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